スーサイドアップガール

釧路太郎

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小林陽子編

ギャルが夏休みに体験してしまったこと 第1話(全7話)

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「三組の田村さんはまだ連絡がつかないみたいなので、何か心当たりのある生徒は3組の芳野先生までお願いします。」

僕は三組の授業を受け持っていないので田村さんがどのような生徒かは詳しく知らないのだけれど、うちのクラスの小林さんとはそこそこ仲が良かったみたいである。

小林さんはどちらかと言えばギャル寄りの生徒だと思われるのだけれども、他の生徒と比べても授業態度は真面目だし成績も決して悪い方ではない。

一学期の成績も悪いところは無かったので補修や追試といったものとは無縁の学生生活だろう。

二学期が始まってからは仲良しグループのメンバーと一緒に行動している姿を見ていないような気がしていたので、もしかしたら何かあったのかもしれない。

三組の芳野先生は田村さんと仲の良い生徒たちに何度か話を聞いて回っているみたいなので、小林さんもその事で何度か芳野先生に話しかけられていたのかもしれない。

明日は休みだし、今夜は久しぶりに飲みに出かけてみようかと思いながら職員室に戻ろうとすると、小林さんが僕の前に立っていた。

「先生、あの、あたし、ちょっとこの前軽く言ってた相談したいことがあるんだよね」

先日は鈴木さんの相談に乗ってみたものの、答えを出すことも出来ず不完全燃焼に終わったので、リベンジではないが小林さんの相談にのろう。

「先生でよかったら相談に乗るよ。職員室でいいかな?」

「あ、出来れば他の先生がいない場所がいいです」

「それなら、生徒指導室か視聴覚準備室になるかな」

「あたし、視聴覚準備室って入ったこと無いんでそこがいいです。生徒指導室だと昨日一時間くらいヨシノン先生に捕まってたからあんまり行きたくないです」

今日はソフィアさんも鈴木さんも真っすぐ帰るようなので、小林さんの相談に真摯に向き合えるような気がする。

「あれ、ヨーコはマサ君先生に何か相談するの?私も協力しようか?」

僕と小林さんのやり取りをすべて見ていたわけではないだろうが、ソフィアさんは二人の会話に割り込んできた。

「ソッフおっつ。ありがと、あたしはちょっと先生に相談したいことあってさ。でも、ソッフなら何かわかるかもしれないし、先生と一緒に相談に乗ってよ」

ソフィアさんは夏休み中に、情けは人の為ならずという言葉を覚えたらしく、それを実践するために困っていそうな人たちを助ける週間に入っていると言っていた。

今日で今週も終わりなのでどれだけの人たちを助けてきたのか気になってはいたが、答えは聞かない方がよさそうだ。

「じゃあ、先生はいったん職員室に戻って視聴覚準備室の鍵を持っていくので二人は視聴覚準備室の前で待っていてください」

「ねえ、マサ君先生。私はとってものどが渇いているのです。きっとヨーコものどがカラカラだと思います。どうしたらのどの渇きを潤すことが出来るのですか?」

「その答えは先生には見つけられないです。それに、先生の飲み物がお菓子に変わるマジックを体験してから飲み物を買うのを控えることにしました」

「あ、ソッフののどが渇いてるんならあたしが飲み物買ってくるよ。ただで相談に乗ってもらうのも悪いし、それくらい出させてもらうとあたしも気が楽かも」

小林さんがそう言うとソフィアさんは両手を握ってそれに答えた。

「ヨーコ。マサ君先生のお金で買ったお菓子はとっても美味しいんだよ。だから、ヨーコもそれを体験しなくちゃだめなんだよ」

よくわからない展開になりそうだったので、僕は二人を置いたまま職員室に向かうことにした。

気付かれないようにそっと移動していると、再び小林さんが僕の目の前に立っていた。

「先生は飲み物何がいいですか?購買か自販機に売っているものだと助かります。でも、部活棟にしか売ってないやつだと買いに行くのが面倒なので困ります」

「ああ、先生は視聴覚準備室にあるお茶で大丈夫だから気にしないでいいよ。小林さんはお茶が苦手だったりするかな?」

「あたしは家でばあちゃんとお茶飲むこと多いから苦手じゃないですよ。それならお茶うけに何か買ってきますね。今日はよろしくお願いします」

そう言うと小林さんは何かを言おうとしてるソフィアさんの腕を引いて教室を出ていった。

小林さんは見た目こそギャルっぽい若者ではあるが、同年代の他の生徒よりも視野が広いのか気配り目配りが上手なタイプだと思う。

学校生活についてだけの感想なので、普段はどんな感じなのかわからないけれども、きっといい子なのだと確信するだけの根拠があった。
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