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BACK TO THE OCEAN Chapter3
第22章 決断の時【3】
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「……ん?」
僕もみんなと同じように、大きい椅子に寝転がって眠っていたのだが、急に目を覚ました。
「トイレ……」
尿意をもよおし、体を起こして片目を擦ると、店内は薄暗くなっており、起きている時には照明が点いて明るかったから、おそらくロベルトが調整してくれたんだろう……そのロベルトも、今や長椅子に大きな体をどっかりと倒して、静かに眠っていた。
僕は椅子から立ち上がり、視界が悪い中、手を前に出してフラフラとトイレを目指して歩いて行く。
「あいっ!! つうううううう……!」
その途中、右の脇腹をテーブルに打ち付けてしまい、声を上げそうになってしまうが、みんなの睡眠を阻害したくない一心でどうにか堪えてみせた。
「クソ……」
しかしこの程度の痛みでは尿意が収まることは無く、右手で脇腹を押さえながら、淡い光だけを頼りに、リスタートする。
歩いている内に段々と目がこの薄暗さに慣れ始め、先程のテーブルに脇腹をぶつけた以外には何のトラブルも起きず、僕は難無く客席が並ぶゾーンを越え、カウンター横にあるトイレへとどうにか辿り着き、扉を開いて中へと入って行く。
個室トイレの外には小便器が並んでいるので、僕はそこで用を足すのだが、しかしそこでやっと僕は、今自分がどんな格好をしているのかを思い出した。
「あっ……」
いつもの習慣で、ズボンのファスナーを下ろそうとしたのだが、しかし手に着いたのはフワフワとした布の生地だった。
そう、今僕は女装をしていたのだ。スカートには、俗に言う、社会の窓と呼ばれる物は存在しない。
「どうしよう……こうするしかないか……」
僕が困った上で考え付いたのは、先にパンツを下ろし、片手でスカートを捲っている内に、用を足してしまうという方法だった。
その方法は成功には成功したのだが、しかしなんだろう……小用を足しているだけなのに、この罪悪感は。
やってはならないことを、今僕は堂々とやってしまっているという、罪の意識が芽生えてしまう。
これから本当の罪を犯そうとしてる人間が何を言うか……という野暮なツッコミは無しとして。
まあ兎にも角にも、出すものを出してスッキリした僕はトイレを後にし、再び今晩の寝床である長椅子に戻ろうかと思ったのだが……。
「…………」
走行性という、虫が光のある場所に集まってくる習性があるように、僕もその時、何も深く考えることは無く、外の人工の光に吸い込まれるように、足が自然と外へと向かったのだ。
店の扉を開け、外に出ると、テールタウンは比較的アクトポートの外側……まあ言ってしまうと、田舎側にあたるので、大通りに街灯があるくらいで、周囲の建物には明かりは点いていなかった。
「おお……」
だが、僕が見て感動したのはその先にある光。
おそらくその光が見える場所は、アクトポートの心臓部、アクトポートスクエアだろう。
眠らない繁華街……あれを見ていると、マグナブラの市街地を思い出す。
夢を諦め、酒を飲みに飲み続け、千鳥足になりながらも歩いたあの街の風景を。
ネオンと蛍光灯が輝くあの街並みを思い出す……。
あの時は本当に辛かったな……でも、今はどうなんだろう? 国を追い出され、変装をしないと街をまともに歩けない今は、僕にとって幸せなのだろうか?
どちらが幸せか……その答えは、今の僕には分からないけれど、しかしこれだけは言える。
今の方が、生きている実感がする。
あの時は生きる目的を失い、廃人のように、ただその命が終わる日が来るのを待つだけの、そんな生活をしていたのだが、しかし今は、いつ命を狙われてもおかしくないという、あの時よりも危険な立場に立たされているというのに……死が間際にあるというのに……生きているという実感が持てる。
何故なら、今の僕には目的があるからだ。生きるための、命を張る資格のある目的が。
人生論を語るわけじゃないが、僕は長々と何もせず生きるよりも、短くてもいいから、何かをこの世に作り上げる……後世まで何かを残せれるような、そんな人生を歩みたいと思っている。
だから、今が一番楽しい。世界と戦っている今が……。
「寝れないの?」
そんな物思いに更けながら、遥か遠くの夜景を見ていると、不意に背後から声が聞こえ、振り返るとそこにはルーナが立っていた。
「いや……寝てたけど小便がしたくなって起きた」
「なによそれ。寝る前にトイレは済ませなさいよ」
「そう言われてもなぁ……そんな間も無く寝ちゃったからな」
「まあ、漏らさなかっただけマシか」
「そんな小さい子供じゃあるまいし……」
「それで? 出すもの出してスッキリしたから、夜景でも見てたって感じ?」
「まあ……そんなもんかな」
「ふうん……」
特に話題が膨らむ事も無く、僕達は二人揃って、遠くの夜景を眺める。
「……アンタ、一人で兵団の留置場に潜入するんでしょ?」
「ああ……うん……そうなるだろうね」
「怖くないの?」
「いや……怖くないかどうかって言われたら、そりゃあ怖いよ。敵地に単騎で潜るんだから。だけど……」
「だけど?」
「そうは言ってられない。この最後のチャンスを掴まないと、僕達はマグナブラ大陸からも出られずに、何も爪跡を残せずに終わってしまう……」
「それは仲間のため? それとも、自分のため?」
「う~ん……」
ルーナの際どい質問に、僕は少しの間頭を悩ませたが……。
「どちらでもある……けど、どっちが強いかって言われたら、自分のためなのかな?」
「へえ~……アンタのことだから、仲間のためってすんなり言うと思ったのに」
「だって仲間のためだとか言ったら、自己犠牲みたいになるじゃない? そういうのって、恩着せがましくて好きじゃないんだよなぁ~僕」
「アンタそれ、大抵の英雄を否定してるわよ?」
「いいんだよ、これはあくまで僕の主観なんだし、ヒーローなんて所詮、作り物なんだからさ。それに……本当に悔しかったんだよ、テティさんのあの言葉が……」
「あの言葉って?」
「何かを動かしたいなら、自分の手を汚す覚悟を持てっていう、あの言葉だよ。僕は暁の火と戦う覚悟をしていたつもりだったのに、でもそれは自分でやった気になっただけで、見える形にして示したことは一度も無かった。だからそう断定されてしまって、僕もそれに反論ができなくて……悔しかった」
「そうだったんだ……」
「だからその覚悟を形にするために、僕はレイカーさんを連れ出す……例えどんな手を使ってでも……」
「……でも一人でやる必要はないんじゃない?」
ルーナはムッとした表情で、首を傾げる。
もしかして、僕が頑なに一人でやると言い張ったことを根に持っているのだろうか……。
「いや……だって複数人で行ったら、それだけ見つかるリスクを背負うことになるわけだし、それだったら単独の方が良いかなって……それにほら……やっぱりルーナを、そんな危険な目に合わせたくは無いし……」
さすがに恥ずかしくなり、僕はルーナから目を逸らすと、彼女は吹きだすようにして笑い始めた。
「うふふ……はははははっ!! そんな恥ずかしがることも無いじゃない!」
「えっ? いやだって……恥ずかしいだろ?」
「ふふふ……でも良かった、そう言ってもらえて。わたしはてっきり、邪魔者扱いされてたと思ってたのよ? 本当にショックだったんだから」
「そんなつもりは……」
「だってわたしが着いて行くってごねた時、アンタすごい剣幕だったのよ? さすがにわたしもあんな顔をされたら身を引いちゃうわよ……」
「あっ……ああ……そんな顔をしてたんだ僕……ごめん……」
自然と、ルーナを危険な目に合わせたくないという気持ちが、僕の中で高ぶってしまい、そんな威圧的な表情をしてしまったのだろう。
悪気があったわけじゃないが、しかし彼女の不安を煽ってしまったのは確かだ……だから僕は、彼女に謝ってみせた。
「ふ……ふふふふっ! はははっ!!」
謝ったのだが、しかしルーナはまたさっきのように、笑い始めてしまった。
僕もみんなと同じように、大きい椅子に寝転がって眠っていたのだが、急に目を覚ました。
「トイレ……」
尿意をもよおし、体を起こして片目を擦ると、店内は薄暗くなっており、起きている時には照明が点いて明るかったから、おそらくロベルトが調整してくれたんだろう……そのロベルトも、今や長椅子に大きな体をどっかりと倒して、静かに眠っていた。
僕は椅子から立ち上がり、視界が悪い中、手を前に出してフラフラとトイレを目指して歩いて行く。
「あいっ!! つうううううう……!」
その途中、右の脇腹をテーブルに打ち付けてしまい、声を上げそうになってしまうが、みんなの睡眠を阻害したくない一心でどうにか堪えてみせた。
「クソ……」
しかしこの程度の痛みでは尿意が収まることは無く、右手で脇腹を押さえながら、淡い光だけを頼りに、リスタートする。
歩いている内に段々と目がこの薄暗さに慣れ始め、先程のテーブルに脇腹をぶつけた以外には何のトラブルも起きず、僕は難無く客席が並ぶゾーンを越え、カウンター横にあるトイレへとどうにか辿り着き、扉を開いて中へと入って行く。
個室トイレの外には小便器が並んでいるので、僕はそこで用を足すのだが、しかしそこでやっと僕は、今自分がどんな格好をしているのかを思い出した。
「あっ……」
いつもの習慣で、ズボンのファスナーを下ろそうとしたのだが、しかし手に着いたのはフワフワとした布の生地だった。
そう、今僕は女装をしていたのだ。スカートには、俗に言う、社会の窓と呼ばれる物は存在しない。
「どうしよう……こうするしかないか……」
僕が困った上で考え付いたのは、先にパンツを下ろし、片手でスカートを捲っている内に、用を足してしまうという方法だった。
その方法は成功には成功したのだが、しかしなんだろう……小用を足しているだけなのに、この罪悪感は。
やってはならないことを、今僕は堂々とやってしまっているという、罪の意識が芽生えてしまう。
これから本当の罪を犯そうとしてる人間が何を言うか……という野暮なツッコミは無しとして。
まあ兎にも角にも、出すものを出してスッキリした僕はトイレを後にし、再び今晩の寝床である長椅子に戻ろうかと思ったのだが……。
「…………」
走行性という、虫が光のある場所に集まってくる習性があるように、僕もその時、何も深く考えることは無く、外の人工の光に吸い込まれるように、足が自然と外へと向かったのだ。
店の扉を開け、外に出ると、テールタウンは比較的アクトポートの外側……まあ言ってしまうと、田舎側にあたるので、大通りに街灯があるくらいで、周囲の建物には明かりは点いていなかった。
「おお……」
だが、僕が見て感動したのはその先にある光。
おそらくその光が見える場所は、アクトポートの心臓部、アクトポートスクエアだろう。
眠らない繁華街……あれを見ていると、マグナブラの市街地を思い出す。
夢を諦め、酒を飲みに飲み続け、千鳥足になりながらも歩いたあの街の風景を。
ネオンと蛍光灯が輝くあの街並みを思い出す……。
あの時は本当に辛かったな……でも、今はどうなんだろう? 国を追い出され、変装をしないと街をまともに歩けない今は、僕にとって幸せなのだろうか?
どちらが幸せか……その答えは、今の僕には分からないけれど、しかしこれだけは言える。
今の方が、生きている実感がする。
あの時は生きる目的を失い、廃人のように、ただその命が終わる日が来るのを待つだけの、そんな生活をしていたのだが、しかし今は、いつ命を狙われてもおかしくないという、あの時よりも危険な立場に立たされているというのに……死が間際にあるというのに……生きているという実感が持てる。
何故なら、今の僕には目的があるからだ。生きるための、命を張る資格のある目的が。
人生論を語るわけじゃないが、僕は長々と何もせず生きるよりも、短くてもいいから、何かをこの世に作り上げる……後世まで何かを残せれるような、そんな人生を歩みたいと思っている。
だから、今が一番楽しい。世界と戦っている今が……。
「寝れないの?」
そんな物思いに更けながら、遥か遠くの夜景を見ていると、不意に背後から声が聞こえ、振り返るとそこにはルーナが立っていた。
「いや……寝てたけど小便がしたくなって起きた」
「なによそれ。寝る前にトイレは済ませなさいよ」
「そう言われてもなぁ……そんな間も無く寝ちゃったからな」
「まあ、漏らさなかっただけマシか」
「そんな小さい子供じゃあるまいし……」
「それで? 出すもの出してスッキリしたから、夜景でも見てたって感じ?」
「まあ……そんなもんかな」
「ふうん……」
特に話題が膨らむ事も無く、僕達は二人揃って、遠くの夜景を眺める。
「……アンタ、一人で兵団の留置場に潜入するんでしょ?」
「ああ……うん……そうなるだろうね」
「怖くないの?」
「いや……怖くないかどうかって言われたら、そりゃあ怖いよ。敵地に単騎で潜るんだから。だけど……」
「だけど?」
「そうは言ってられない。この最後のチャンスを掴まないと、僕達はマグナブラ大陸からも出られずに、何も爪跡を残せずに終わってしまう……」
「それは仲間のため? それとも、自分のため?」
「う~ん……」
ルーナの際どい質問に、僕は少しの間頭を悩ませたが……。
「どちらでもある……けど、どっちが強いかって言われたら、自分のためなのかな?」
「へえ~……アンタのことだから、仲間のためってすんなり言うと思ったのに」
「だって仲間のためだとか言ったら、自己犠牲みたいになるじゃない? そういうのって、恩着せがましくて好きじゃないんだよなぁ~僕」
「アンタそれ、大抵の英雄を否定してるわよ?」
「いいんだよ、これはあくまで僕の主観なんだし、ヒーローなんて所詮、作り物なんだからさ。それに……本当に悔しかったんだよ、テティさんのあの言葉が……」
「あの言葉って?」
「何かを動かしたいなら、自分の手を汚す覚悟を持てっていう、あの言葉だよ。僕は暁の火と戦う覚悟をしていたつもりだったのに、でもそれは自分でやった気になっただけで、見える形にして示したことは一度も無かった。だからそう断定されてしまって、僕もそれに反論ができなくて……悔しかった」
「そうだったんだ……」
「だからその覚悟を形にするために、僕はレイカーさんを連れ出す……例えどんな手を使ってでも……」
「……でも一人でやる必要はないんじゃない?」
ルーナはムッとした表情で、首を傾げる。
もしかして、僕が頑なに一人でやると言い張ったことを根に持っているのだろうか……。
「いや……だって複数人で行ったら、それだけ見つかるリスクを背負うことになるわけだし、それだったら単独の方が良いかなって……それにほら……やっぱりルーナを、そんな危険な目に合わせたくは無いし……」
さすがに恥ずかしくなり、僕はルーナから目を逸らすと、彼女は吹きだすようにして笑い始めた。
「うふふ……はははははっ!! そんな恥ずかしがることも無いじゃない!」
「えっ? いやだって……恥ずかしいだろ?」
「ふふふ……でも良かった、そう言ってもらえて。わたしはてっきり、邪魔者扱いされてたと思ってたのよ? 本当にショックだったんだから」
「そんなつもりは……」
「だってわたしが着いて行くってごねた時、アンタすごい剣幕だったのよ? さすがにわたしもあんな顔をされたら身を引いちゃうわよ……」
「あっ……ああ……そんな顔をしてたんだ僕……ごめん……」
自然と、ルーナを危険な目に合わせたくないという気持ちが、僕の中で高ぶってしまい、そんな威圧的な表情をしてしまったのだろう。
悪気があったわけじゃないが、しかし彼女の不安を煽ってしまったのは確かだ……だから僕は、彼女に謝ってみせた。
「ふ……ふふふふっ! はははっ!!」
謝ったのだが、しかしルーナはまたさっきのように、笑い始めてしまった。
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