英雄のいない世界で

赤坂皐月

文字の大きさ
38 / 149
THE GROUND ZERO Chapter2

第8章 血を喰らう怪物【2】

しおりを挟む
 すると突如、さっきまで大人しかった吸血コウモリ達が一斉にギャーギャーという耳障りな鳴き声と共に羽ばたき始め、そして僕達が今まで進んで来た通路を逆走するように飛び去って行く。

 吸血コウモリ達はまるで、何かに怯え、その何かから逃げ出すような、そんな風に僕には見えたのだが、次の瞬間、穴の奥から何かがうごめくような音がし、それは段々と僕達に近づいて来ていた。

「どうやら洞窟の主のお出ましのようだ……」

「おいおいマジスター! お出ましとか悠長に言ってるけど、僕達まともな装備を持ってないんだぞ? 僕は短剣だし、あんたに至っては丸腰じゃないか!」

「うむ……しかしコヨミ、ここを突破できなければわしらはどちらとて死ぬ運命。もうわしらに、引き返す道など無い」

「くっ……ホント、ついてないよな僕達……」

「まったくだ……」

 まさか武器を奪われたことが、ここで大きく響いてくるとは……一体誰が考え出したんだ、こんな理不尽なシナリオ。

 そんなに僕達を、殺してしまいたいのか。僕達が何をやったというんだ。

 この世界は、僕をどこまで追い詰めれば気が済むんだ。

「ふっふーん……なに二人とも弱腰になってるのよ!」

 そんな僕とマジスターがメランコリーな気分に落ちている中、ルーナは威勢良く言い放ち、ホルスターの拳銃を取り出し、構える。

「わたしだって一人前の戦士よ! こうなったら魔物をさくっと倒して、さっさと洞窟を抜け出しましょ!」

「でもルーナ、お前の持ってるそれ、普通のリボルバーじゃないか! 魔物相手に拳銃だけじゃ物足りないような……」

「フン、コヨミこのハーミットはただのリボルバーじゃないわよ。この子の力、見せてあげるわ!」

「ルーナ! コヨミ! 来るぞ!」

 マジスターの声と共に、暗闇の奥で蠢いていた魔物ブラースティが、ついに僕達の目の前に現れたのだ。

 大きさは多分、四メートル程といったところか。その体表面の上部はこげ茶色の毛で覆われ、下部は白い皮膚を剥き出しにしており、そしてその皮膚部分は、まるでカタツムリのような吸盤状となっており地面にしっかりと吸着している。

 足は無いようだが、両手が存在しており、その手には、おそらくこの大穴はその爪で掘られたのだろうと、そう彷彿させるような巨大で、強靭な爪が存在していた。

 そして頭部にはコウモリのような耳があるのだが、それよりも特徴的なのがこの魔物、顔全体が全て口になっているのだ。

「ギュルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!」

 ブラースティの咆哮と共に口の中が露わとなり、口には幾千……いや、幾万ほどの牙が生えている。そしてお食事の最中だったのか、所々に血肉がこべりついていた。

 もしここで僕達がブラースティに殺されたのなら、多分あの口の周りに着いている血塊と同じようになるのだなと、そう考えただけで背筋がぞっとしてしまう。

 これはもしかしたら、過去最高にマズイものと出くわしてしまったのではないのだろうか。

「カッカッ……食事そっちのけでわしらを迎えにわざわざ出てきたというわけか。実に好戦的だな」

「わ……笑えねぇ……」

 さっき羽ばたいて行ってしまった吸血コウモリのように、僕もこの場から逃げ去ってしまいたいような気分だが、しかしそうもいかないだろう。

 僕は短剣を抜き取り、構える。

 剣ほどのリーチがあれば、僕だって自信を持って戦えるのだが、よりにもよって短剣。刃先は十七センチほど。これほど短いリーチだと、近距離戦闘どころか、近接格闘で魔物と立ち向かわなければならない。

 頼りになるのはマテリアルガントレット……しかし魔物には、魔力への耐性を持ったものが多く、相手の弱点に合わせた魔法を使わなければ大したダメージは与えることができない。

 それを見極めるのも困難だが、それ以上に僕の持っている三つの魔石の欠片の中に、奴の弱点属性の欠片が存在しているかが心配だ。

 とにもかくにも、勝ち筋のまったく見えない勝負。しかし勝たなければならない勝負。

 デッドオアアライブ。生きるためには、目の前の化物を死ぬ気で倒すしかない。

「ギュルオオオオオオッ!」

 ブラースティは両腕を挙げ、その鋭い爪を僕達に向けて振り下ろしてくる。

「コヨミ、掴まって!」

「えっ……! おうっ!」

 右手には短剣を握っているので、僕は左腕をルーナの腰に回し、しっかりと固定する。

「アクセルぜんかあああああああいっ!!」

「どわああああああああっっ!!」

 バイクのエンジン音が唸り、このままだとブラースティに急接近してしまうが、とにかくやつの一撃を避けるためにバイクは前進する。

 次の瞬間、ブラースティの両腕は振り下ろされ、僕達が先程まで佇んでいた地面は、奴の強靭な爪によって、まるでケーキをフォークで切り崩すかの如く、スッパリと切り裂かれてしまっていた。

 もしあの場にいたらと思うと、それだけで背筋がゾッとするね。

 爪の攻撃を避けることはできたのだが、しかしこのまま直進してしまうとブラースティに急接近してしまい、最悪の場合捕食されかねない。

 どうするつもりだ、ルーナは……!

「ルーナ! こっちだ!」

 瞬間、聞こえてきたのはマジスターの声だった。

 声のした方を振り向くと、マジスターはブラースティの丁度側部に向かってバイクで突っ走っていた。

 なるほど、通常時だとブラースティの両腕によって側部は守られており、通り抜けることはできないのだが、しかし僕達を攻撃しようとしたために、今ブラースティの両腕は前方に伸びており、側方には空間がある。

 そこを一気に走り抜けて、逃げ切るということか……勝機の見えない戦いなど、端っから挑まないと。

 しかしそれが正しい。

 僕達の装備状態もままならない。そして主戦場となるこの洞窟はブラースティの巣穴だけあって、相手にとって全ての有利な条件が整っている場所……どれをとっても、僕達が不利な戦況に立たされているのは明々白々である。   

 そんな状態で正面切って戦うなんて、まさに愚の骨頂。命を投げ出す行為。

 そういえばマジスターは引き返すことはできないとは言っていたが、逃げないとは言ってなかったからな。

 突破とはすなわち、ブラースティに挑むのではなく、ブラースティの隙を見て突っ切るということだったんだな……そこに気づけないなんて、僕もまだまだ未熟だな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...