英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter3

第9章 火種【2】

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 僕はゾフィさんの作ってくれたハンバーグをフォークに刺し、口にする。

 冷えているのに、まるでそれを感じさせない程に美味い。僕のような安っぽい食べ物ばかり口にして人間にとっては、勿体無いくらいだ。

 さすがは元王宮で働いていただけはあるな……旅人達がマグナブラの宿に泊まらず、ここにやってくる意味も分かる。

「しかしお前の予想は半分当たっている。大臣の人事だったのだが……セブルスが国防大臣に昇格した」

「セブルスが……ということはやっぱり」

「グリードとセブルスは繋がっているということだ」

「じゃああの国はもう、グリードの持ち物であると同時に、セブルスの持ち物でもあるということだな」

「そういうことになるな」

「ふん……着々とあいつは、自分の進むべき道を辿っているというわけか」

 悔しいが……セブルスは自分の志した道を迷うことなく、何の躊躇もせずに進んでいる。その手を汚して、覇王の道を。

 一方の僕は迷い、立ち止まり、行ったり来たりを永遠に繰り返して道が定まらず、自分の手を汚すような覚悟も無い……奴は僕なんかよりも確実に勝っている。

 それは……認めなければならない現実だ。今の僕と奴の立場が、それを物語っているのだから。

「そしてそのセブルスが今、またこの国に火種を撒こうとしている」

「火種? 一体何を?」

「兵団の小規模部隊を出動させたらしい。しかも行き先は……エトワール・ロック」

「エトワール・ロック……ということは、兵団はレジスタンスのアジトを見つけ出したってことか!? でもどうやって……」

「タイミングから考えて、恐らくわしらが原因だろう。諜報班が探し当てるにしては、都合があまりに良すぎる。恐らく発信機か何かを着けられ、ここ最近開発されたレーダー車両で電波を追ってきたんだろう」

「なるほど……だから僕達が逃げる時、兵士が手薄だったというわけか」

「そういうことだな……」

 上手く逃げれたと思っていたのだが、そうでは無かった。僕達は、セブルスに上手く逃がされたのだ。

 まさか、本人も知らず知らずの内に運び屋にされてしまっていたとは……こうやって考えてみると、エインが僕達を疑ったのはごく普通の、当たり前のことだったんだな。

 国から追放し、敵の居場所を特定させ、あわよくばその痕跡を、敵によって消してもらう、使い捨てのスパイ。

 セブルスめ……奴はどこまで人間を道具としか見ていないんだ。いつかグリードとかいうやつも、奴に利用されるに違いない。

 奴の闇は、あまりに深すぎる。純粋な闇……ディープホールだ。

「ということはマジスターさん、もしかしたらその部隊とレジスタンスが衝突するってことが……」

 僕の隣に居たルーナが今までの沈黙を破り、前のめりになってマジスターに問いかける。

「十分にあるやもしれん……しかしもし、この部隊派遣がレジスタンスの討伐を目的にしているのなら、小規模なのは何故なのか……」

「……マジスターさん、もしかしたらその部隊、おとりなのかもしれない」

「囮?」

「うん……小規模部隊を敵地の前に、まるで威圧するように配置して敵の攻撃を誘う。そしてその襲撃を大義名分とし、更なる大規模襲撃を謀る……とか」

「そうかっ! それで小規模部隊を……火種を撒いた後に、更にその火に油をくべるつもりか! でもルーナ、何故そんなことを?」

「わたしの国も……そうやって暁の火に落とされたって聞いたから……」

「なっ!? ……グヌヌ……すまんルーナ。悪いことを……」

「いいのマジスターさん……もう、終わったことだから……」

「お嬢様……」

 ルーナは顔を伏し、ゾフィさんが彼女を支えるように近づく。

 彼女の故郷、ノースハーウェンは暁の火の同盟軍に滅ぼされた。

 何百ヶ国と結束した強大な力によって、小さな一国が攻め落とされる……数万もの兵、数万もの兵器を武装した一国に、わずか数百人程の一団体が報復を受ける。

 規模は違えど、状況は同じということか……。 

「エインの奴ではこの圧力、とても堪えることはできないだろう……必ず戦闘は起きる。しかしエトワール・ロックで戦闘が起きるとすると、ここにも影響が出るやもしれん……ゾフィさん、宿泊している旅人には念のため、緊急時の避難経路を教えておいた方がいいかもしれん」

「わ、分かりました……お嬢様……」

「行って……わたしはもう大丈夫だから」

「はい……では……」

 ゾフィさんはマジスターの指示通り、宿泊中の旅人へ緊急時の対応を伝えるため、ルーナの元を離れ、食堂を後にした。

「僕達はどうするんだ?僕達はどちらからも狙われてる身だろ。また逃げるのか?」

「う~む……しかしむやみに動くのは、返って敵に自分達の存在を知らせることになるからな……事態が起こってから動き出す方が、わしは利口だと思うが」

「そっか、なら僕は食事の続きを……」

「待ちなさい二人共」

 僕が添え物のニンジンをフォークで差して、口に運ぼうとしたところを、ルーナが僕の腕を握って阻止してきた。

「戦うのよ、わたし達も」

「な……なにを言っとるんだルーナ!?」

「わたしは本気よマジスターさん」

 ルーナとマジスターは睨み合う。

 何だこの二人の間の空気……一気に嫌な雰囲気が増したんだけど。

「あの……僕ニンジン食べたいんだけど……」

「もしわしらが戦闘に参加したら、それこそややこしい事態を引き起こしかねんのだぞ!」

「だからこそよっ! 兵団とレジスタンスの戦争を激化させれば、必ずどちらとも消耗する! これは奴らの火種じゃない、わたし達の火種にするのよ!」

「甘いっ! そんな簡単に事が上手く運ぶわけないだろっ!!」

「やってみないと分からないでしょっ!?」

「あの……ニンジン……」

「アンタは黙っていなさいっ!!」

「コヨミ、口を挟むなっ!!」

「…………はい」

 なんでニンジンが食べたいだけなのに、こんなに僕は怒られないといけないんだ?

 多分、今まで生きてきた中で、今この瞬間が最もへこんだ瞬間だったような気がする……。
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