英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter3

第9章 火種【4】

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「まあ……そうね」

「なんだよ気に食わないような顔をして? そんなに僕が言ったことが嫌なのかルーナ?」

「いや、むしろその逆。良過ぎちゃって、何でさっきまで逃げることを考えていた奴からそんな言葉が出てくるのか疑問に思ってたのよ」

「なんだよそれ……良いなら素直に良いって言えよな……」

「うっさいわね! グッドグッドベリーグッド! さすがねぇコヨミはっ! ……これでいいでしょ?」

「はぁ……君にお世辞を求めた僕が悪かった」

「なんでわたしが呆れられなきゃいけないのよっ!!」

 彼女が素直に人を褒めるような奴じゃないってことは、いくら鈍感な僕でも理解していたのだが……これはヒドイ。

 お世辞もまともに言えないようじゃ、この先世間を渡っていくのは困難だと思うが……まあ、そもそもその世間をこれから敵に回す時点で、そういうことに関しては論外か。

「カッカッカッ! 自分達だけの意思で、自分達の道を進む……あながち開拓者と言ったところだな」

 そんなことをマジスターは言ってみせたが、僕は首を横に振って否定した。

「開拓者と呼ばれるほど、僕達は世間に好かれるような存在にはなれないよ。世間からは、秩序を乱す邪悪な存在。だけど仲間と共に歩み、他の何にも靡かない、自分達の本当の意思を持った集団。僕達は……狼だ」

「嫌われ者の狼……ヘイトウルフだな」

「そうだ! 僕達のチーム名はヘイトウルフだ!」

「ヘイトウルフ……うむ! 確かにわしらにピッタリな名だな!」

 僕とマジスターの何気ない流れの会話で、僕達のチーム名が決まってしまった。

 アーミーでもなく、抵抗者でもない。この世界から疎外されながらも、自分の意思だけは貫き通す気高き集団。それが『ヘイトウルフ』だ。

「ちょっとちょっと! なに二人だけでチーム名を勝手に決めてるのよっ!」

 そんな僕とマジスターが同調し、満足気になっているなか、完全に会話に置いてけぼりにされていたルーナが間を割って入ってきた。

「ん? じゃあルーナは他に、何か良い案があるの?」

「えっ!? ええっと……」

 僕が尋ねると、ルーナは眉間にしわを寄せ、う~んと唸り始める。

 やはりいつも通り、あれこれ構わずに噛み付いてきただけだったか……しかしそれが分かっていて、尚且つ他の案を考えさせる僕もかなり意地が悪いよな。

「ふっ……カッカッ! すまんかったなルーナ、わしら二人だけで盛り上がってしまって。しかしどうだルーナ、ひとまずこの名で活動してみるのは? わしらにとって、名前なぞ有って無いようなもの。あくまで世の人間に認知、判別してもらうための物に過ぎん。わしらは一つの名だけでは収まらないような、そんなグローバルなチームになる必要があるのだからな」

「グローバル……か……フフ……そうね。ヘイトウルフ、いいんじゃないの?」

「よし、満場一致ということで、わしらは今日からヘイトウルフという名の下で活動を開始する!」

 マジスターが話を上手くまとめ上げ、僕達は本日この時間から『ヘイトウルフ』として活動することが決まった。

 まだまだメンバーも三人しかいないうえに、主な活動内容すらも決まっていない真っ白な集団だが、こういうのは恰好から入るべきだろう。

 この名前こそが、今後の僕達の活動の火種となるはずだから。

「み……皆さん大変ですっ!!」

 すると突如、宿泊している旅人達の元へ向かっていたゾフィさんが、扉を吹き飛ばしてしまうような勢いで食堂に入って来た。

「どうしたのゾフィ!」

「お嬢様! 北東の方角から連続して大きな爆裂音がっ!」

「爆裂音!? やはりレジスタンスの奴ら、我慢できずに応戦したかっ!」

 どうやら僕達が新たなチームとして結束している間に、既存のチーム同士が衝突をし、潰し合い始めたみたいだな。

 新たなモノが誕生する反面で、既存のモノが失われる。まるで自然の摂理のようだ。

「コヨミ、さっきの話通り……」

「ああ、奴らの戦況を見極める。そのために、僕達もこれから戦場に向かう」

「ヘイトウルフとしての、初めてのミッションということだな」

「そうなるな……」

 どちらかの滅びを見届ける、それが僕達の最初のミッション。

 一体最後はいつになることやら。

「ゾフィ……わたし達は戦場に向かうから、あなたはここの旅人達の避難を」

「お……お嬢様が戦場にっ! そんなっ!」

「大丈夫、わたしにはレイヴンの血が流れてる……戦い方は、この血が教えてくれるから。もうわたしは逃げるだけのお姫様じゃない……自分の意思を持って戦える、一人のソルジャーだから」

「お嬢様……そうですね、レイヴンの一族は戦場で最も輝く……でしたね。分かりました! お気をつけて!」

「ええ、そっちもね」

 ルーナとゾフィさんは固い握手を交わし、ゾフィさんは再び宿泊中の旅人達の元へ向かうため、食堂を後にした。

「さて……二人とも、向かうわよ戦場に」

「ルーナ一応念のために確認しておくが、わしらは戦いに行くのではないからな」

「分かってる、情報収集でしょ? それでも戦場に行くんだから、これくらいの覚悟は必要でしょ?」

「フッ……まあそうだな! 戦場での情報収集は命がけだ、全員心してかかるように!」

「うん!」

「ええ!」

「よし! では行くぞ!」

 マジスターの意気込みの言葉に、僕とルーナは頷いて答え、それから僕達は食堂から、バイクの止めてある外へと駆け出した。

 今度は今までのように逃げるのではなく、立ち向かい、情報を手にするために戦場を駆けなければならない。

 兵士時代、魔物狩りなんかには何度か出たことはあったが、しかし僕は落ちぶれていたこともあって、一度も国どうしがぶつかり合う戦場に赴いたことは無かった。

 つまりこれが僕にとって、初めて現代兵器の入り乱れる戦場ということになる。

 考えれば考えるほど、恐れや不安はまるで底なし沼のように尽きないので、だから僕はとりあえず、たった一つのことだけを考えることにした。

 生きてまた、ここで美味しいご飯を腹一杯になるまで食べる。たったこれだけを……。
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