英雄のいない世界で

赤坂皐月

文字の大きさ
74 / 149
THE GROUND ZERO Chapter4

第13章 荒野の決戦【2】

しおりを挟む
 レジスタンスとマグナブラ兵団が直接衝突した、エトワール・ロックから数キロ離れた荒野の地。

 四日前まではその戦争の爪痕として、爆弾の焦げた跡や銃弾の食い込んだ岩々、そして数多の討ち死にした遺体が転がっていた。

 しかし四日経った今日、ここに来るまでにバイクに乗ってあの戦場を見たのだが、元素爆弾の凄まじい爆風によって全てが吹き飛ばされ、所々に崩れた岩が転がる更地と化していた。

 おそらくジョンの遺体ももう、あの場には無いんだろうな……あの時は埋葬する余裕も無かったからな。

 それだけが後悔でならない。

「でもあの場所なら広いし、岩もそこまで多く落ちてなかったし……戦うにはいいかもしれないな」

「うむ、ではバイクに乗って走りながら、コイツに遠距離から射撃を加え、あの場所まで引きつけるとするか」

 バイクで逃走してやっと逃げ切れた相手に、足で走って逃げることなど不可能だからな。

 またあの地獄のカーチェイス……いや、バイクだからバイクチェイスか。それが始まるのか……。

 前回はブラースティの口元にまで近づき、あと数センチのところで食われそうになるほどスリリングな経験をしてしまったので、安全志向の僕としてはもうあんな目に遭いたくないのだけれど……。

「よしルーナ、バイクを持って来るぞ」

「ええ」

 二人は颯爽と走ってバイクの元へと向かう。

 そしてバイクの運転ができない僕とライフ・ゼロは、二人揃ってブラースティの前に取り残された。

「なあ」

「気安く呼ぶでないわ」

「……あのさ、かつての魔物の王としては、魔物を討伐するのってどんな感じなの?」

「どんな感じ? というのは?」

「いや……魔物として、同類を狩るわけでしょ? だからその、複雑な気持ちにならないのかなってさ」

「ああ、そういうことか。別に何も思わん」

「えっ、そうなの?」

 僕はライフ・ゼロの方を振り向く。

 ライフ・ゼロはまるで当然のことを言うように、笑うことも無く、苦い表情をすることも無く、至って普通の表情で続けた。

「うむ。魔物といっても、あやつとは種族が異なるし、第一魔物は常に弱肉強食の世界で生きておる。命を狙われることなんざ日常茶飯事だ」

「へえ……そっか」

「命を大事にとか、他の命を奪うなとか、そんなヤワなことを言っているのはうぬら人間だけだ」

「…………」

「そのくせ自分達の理に反するものなら、同じ人間という種族であっても徹底的に殺し合うではないか。我が世界を破壊する活動を行う以前も、人間は人間同士で国土を奪い合う戦争をしていたぞ?」

「そうなんだ……今とそう変わらないな」

「人間は偽善を吐いて生きている、最も滑稽な生き物。我はそう思っておるがな」

「フッ……」

 僕は苦々しい笑みを口元に浮かべるだけで、肯定も、あるいは反論もしなかった。

 人間がいかに自分に都合の良い生き物かは、身をもって知っているし、僕自身もそうだから、否定もしない。

 だけどそれを真正面から肯定できないのは、多分僕が人間だからなのだろう。

 人間としての意地というやつだ……くだらない意地だとは思うがね。

「おっ、迎えがきたようだぞ?」

 背後を振り返ると、マジスターとルーナがバイクに乗ってこちらに向かって来ていた。

「ギュルオオオオオオオオオンッオオオオオオオッ!!」

 するとバイクのエンジン音を聞きつけたのか、ブラースティが反応を示し、その両腕の爪をスキーのストックのように地面に突き刺しながら前へ前へと、こちらに徐々に迫って来ていた。

 もしかしたら以前、僕達が逃走した際のバイクの音をブラースティは憶えているのかもしれない……前回は逃したが、今度こそ食ってやるぞという気迫をヤツから感じる。

「ライフ・ゼロはわしのバイクに乗れ! コヨミはルーナの方だ」

 ルーナとマジスターは僕達の前にバイクを停車させ、マジスターが迅速に指示を飛ばす。

「キッキッ、馬に乗ったことはあるがこのような物に乗るのは初めてだ」

「カッカッ、馬よりも俄然こっちの方が速いから振り落とされんようにな。ほれヘルメットだ」

 マジスターはメットインからサブのヘルメットを出し、ライフ・ゼロに手渡す。

「なんだこれは? 防具を着けねばこれには乗れんのか?」

「ああ、安全のためにな」

「それほどの暴れ馬とは……キッキッ! どのような物か楽しみだ!」

 ライフ・ゼロは素直にヘルメットを装着し、そしてバイクの後部座席に腰を下ろした。

「なにぼさっとしてるのよ! ほら!」

「あいたっ!」

 ライフ・ゼロの様子を見ていたら、ルーナからヘルメットで僕の頭を小突かれてしまった。

「アンタはもう説明しなくても乗れるでしょ?」

「ああ……二回目だからね」

「何でそんな嫌そうな顏してるのよ」

「一回目であんな恐怖を刷り込まれたら、そりゃあ嫌になるよ……」

 初バイクで車体をジャンプさせたり、怪物の口の中にダイブしかけたりと……普通の人間ならトラウマになってもおかしくないようなことを、一度で経験させられたからな。

 僕の場合トラウマにまでは発展しなかったけど、でも抵抗感はどうしてもでてしまう。

「そんな文句言うなら乗せないわよ!」

「乗らなかったら無条件で食われちゃうじゃないか!」

「こらっお前ら! こんな時に喧嘩してないで、はよせんかっ!」

 ルーナと言い争いをしていると、バイクに乗って出発準備を完了させたマジスターが横から怒鳴ってきた。

 また怒られちゃったよ……今日はよく怒られる日だな……。

 僕はルーナからヘルメットを受け取り、装着すると、後部座席へと腰を下ろした。

「なるべく安全に頼む」

「ふんっ! わたしだって好き好んでこんな危ないことしたくないわよ!」

 ルーナはエンジンをふかせ、バイクを発進させる。

 僕はまた何かがあって振り落とされないよう、ルーナの腰周りを手でしっかり抱えるようにして、ホールドする。

 最初の時は女の子の腰に手を回すのに、抵抗感があったというか、踏み込んではいけない領域なのではないのかという、言ってしまえばよこしまな思いに駆られてしまったのだが、今となってはもうそれが普通となってしまい、兎にも角にも命を大事にという思いで、何の躊躇も無くルーナの腰に手を回している僕だった。

 横にはマジスターとライフ・ゼロのペアが並走して走っており、ライフ・ゼロもマジスターから二人乗りの指導を受けたのか、子供の手ながらもしっかりと彼の腰を掴んで乗りこなしていた。
 
「キッキッ! 確かに馬よりも数段速いなこのバイクという物は! 人間の技術というものも、なかなかどうして、あなどれんものがある!」

 などと言いながら、すぐ真後ろから化物が追いかけてきているというのに、人間の技術力に感心しながら、大はしゃぎしているかつての大魔王様。

 ああ見る分には、本当に子供にしか見えないなアイツ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...