英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter4

第13章 荒野の決戦【10】

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「ふう……」

 僕は縮こめていた足を広げ、ようやく地面に足を着く。

 刃が折れないというのには多少の自信があったものの、まさかここまでガッツリと地面に突き刺さってしまうとは思わなかった。

 もしなんの抵抗も無くガードの部分まで刃が突き刺さっていたら、およそ四メートルの高さから落下した力プラス、成人男性一人分の体重の力とプラスアルファが掛かったものを、僕は剣を握っている両手で受けることになったのだ。

 そんなことになってしまっては、骨折はおろか、もしかしたら肩の部分から両腕の骨が飛び出て来ていたかもしれない……そう考えると本当に、我ながら安易に滅茶苦茶な賭けに出たものだ。

 何だか最近、自分の命の使い方を疎かにしているような気がして、そんな自分が怖い……もっと命を大事に、優しく扱わないと。

『そんなうぬの戯言はどうでもよい。それよりはよ剣を抜き出せ』

 ご機嫌斜めなライフ・ゼロの声が聞こえてくる。

(おっとスマンスマン……やっぱり地面に埋もれるのは嫌なのか?)

『気持ちの良いものではない。剣の外が多少見える分、まるで生き埋めにあってるような錯覚を覚えるからな』

(ああ……そりゃあ気持ち良いものじゃないな……)

 今回ばかりはライフ・ゼロに同情し、僕はさっさと剣を抜く作業に取り掛かる。

 グリップを両手で握り、まるで畑の作物を引き抜くように、地面に埋もれた剣を引き抜こうとする。

「ぬわっ!?」

 すると剣の切れ味が良過ぎるせいか、剣はすぐに地面から抜け、過剰な力を入れ過ぎた僕は抜けた直後、勢い余って後ろ側に倒れ、尻もちを思いっきりついてしまった。

「いたたた……くそっ……落ちた時は無傷だったのに、これじゃあ意味がねぇや」

『キッキッキッキッキッ! うぬの抜け作加減は筋金入りのようだな!!』

 僕のそんな姿を剣の中から見たのか、いつもよりも愉快に、嘲笑うというよりも、大爆笑といった感じでライフ・ゼロは笑っていた。

(…………うっせ)

 僕は腰を上げ、剣を鞘に収めた後、尻に着いた土を手で払って落とした。

 まったく……こういう時、全てを格好良く決めれない自分が嫌になるよなぁ。

「おーいコヨミっ!」

 呼び声のした方を振り向くと、マジスターとルーナがバイクに乗って僕の元へと向かって来ていた。

 まあ兎にも角にも……これで本当に無事、帰還したといった感じなのかな。

「コヨミ大丈夫か!?」

 バイクから降り、まず最初に僕の元に駆け付けたのはマジスターだった。

「ああ、なんとか大丈夫だ」

「そうか……カッカッカッ! いやしかしよくやった! ブラースティをたった三人で倒したなど、快挙だぞ!」

「そうなんだ」

「ああ! 大体の人間はこんなデカい魔物を、まともに相手しようとは思わんからなぁ……しかもそれがパワーアップしておったのだから、尚更な」

「僕だって事情が事情じゃなかったら相手にしなかっただろうさ」

「それはそうだな! カッカッカッ!!」

 相変わらずでっかい声で、元気溌剌と笑ってみせるマジスター。

 この笑い声を聞いただけで、帰るべき場所に帰って来れたような、そんな感じがする。

「…………」

 そしてそんな明るいマジスターの背後からのしのしと、暗いオーラをまとってルーナがずかずかと僕のところに歩いて来た。

 うわ……顔が怒ってる……もしかして僕だけバイクから飛び降りてブラースティを倒しちゃったから、手柄を奪われたとか言われるんじゃ……。

「うおっ!!?」

 だがそんな僕の予想は、大きく裏切られた。

 ルーナは両手をがばっと広げ、そしてその広げた腕で僕の体を包んできたのだ。

 もっと簡単に言えば、僕は唐突にルーナに抱かれたのだ。

「ちょ……ルーナ!? なにをイキナリ……」

「ゴメン……わたしが距離を見誤ったせいであんな危険な目に合わせて……」

「えっ……あっ……ああ……」

 確かにバイクで空中に飛ぶ直前、最高速度まで加速したことにより、バイクは予想以上の距離を飛行してしまったし、それについて咎めるようなことを、僕もポツリと言っちゃったけれど。

「まあほら……結果的には倒せたし、僕も生きてここに居るわけだし……結果オーライってことで……ね?」

 どうしたらいいものかと困惑しながら、僕はルーナを慰める意味でそっと両手をルーナの体に回そうとしたその時。

「そう……そう言ってくれると気が楽になったわ……」

 そう言って、ルーナは両腕を僕の体から解き放してしまった。

「あっ……」

「ん? なに?」

「いや……なんでもないっ!」

「?」

 僕は空振った両腕をそのまま自分の元へと持っていき、腕組みをし、そんな僕の姿を見て、ルーナは首を傾げていた。

『キッキッキッ! もう少しだったのになっ!』

 そんな僕の純情に対して茶々を入れるように、ライフ・ゼロの声が聞こえてきた。 

(チッ……人の気持ちをわざわざ嘲笑いに来るなんて、陰気臭い魔王様だな)

『あの場面で女一人上手く抱けぬ、ヘタレなうぬに言われてもヘでも無いわ!』

(ぐ……ぐううううううううううううううううっっ!!)

 その一言は、今までライフ・ゼロが僕に吐いてきた暴言の中で、最も僕の心に突き刺さる一言だった。

 僕がもしネガティブな奴だったら、多分部屋の隅で一週間程はうずくまっていただろう。

 まあ……今の僕には、そんなうずくまるような余暇も無いのだけれど。

『それよりもうぬ、さっさと我を召喚せよ。最大の貢献者を、誰からも称賛されぬこの狭い剣の中に閉じ込めておくでない』

(えっ? ああ……分かったよ)

 僕は腰に下がっている、鞘に刺さったままの太陽の剣を両手で握り、地面に向けてその剣先を突き刺す。

 すると剣先から淡い紫色の光が輝き出し、そしてそこからまた、およそ十歳ほどの少年にも見え、少女にも見える、数百年前の魔王様が姿を現した。

「キッキッキッ……やはり外は良いものだな。空気が違うわ」 

 そんなことを言って笑いながら、背伸びをし、外の空気を惜しみなく吸うライフ・ゼロ。

 この剣の中って、そんなに環境が悪いのか? どんな感じか見てみたい……とは、決して思わないけれど。

「おおライフ・ゼロ! お前もよくやってくれたな!」

 そう言ってマジスターがライフ・ゼロの元へと歩み寄る。

「キッキッ、まあな! 我にかかればあの程度の魔物のエネルギーを吸うことなど、片手間にもならんわ!」

 褒められて意気揚々、上機嫌に高笑いしてみせるライフ・ゼロ。

 ホント、誰かに褒められるのが好きなんだなコイツ……これじゃあ本当に見た目通り、子供じゃないか。
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