英雄のいない世界で

赤坂皐月

文字の大きさ
124 / 149
BACK TO THE OCEAN Chapter2

第19章 鞭と飴の演説【3】

しおりを挟む
 まずは先にいるマジスターが改札を終え、そしてついに僕の番となる。

 今まで前の人達がやっているのを見て、学習した通り、僕はまず手前の溝に切符を入れる。

 すると切符は溝の中へと吸い込まれていき、その時僕は、早く通過しないと金属の棒が回せなくなってしまうのではないかという、勝手な思い込みをしてしまい、すぐさま棒をガチャガチャガチャという音をたてて回し、そこで一応、改札を通り抜けることには成功した。

 その時僕は、無事改札を通れたことに安堵しきってしまっていたのだが、しかしそれがいけなかった。

 気が緩んだまま、僕はマジスターの元へと向かおうとしたその時、改札機から突然ピンポンピンポンという警告音のようなものが鳴り、僕の背筋は一気に凍りついてしまった。

「えっ? なに? なに?」

 パニックになった僕は、その場で慌てふためいていたのだが、そんな僕の代わりに、その警告の原因を見つけてくれたのはマジスターだった。

「おいコヨミ、切符を取り忘れとるぞ!」

 そう、僕は金属の棒を回すことに必死になり、つい切られた切符を取るのを忘れていたのだ。

「あっ、そうか!」

 僕は小走りで改札機に戻り、溝から出ていた切られた切符を取ると、その警告音はすぐさま鳴り止んだ。

「ふう……はっ……!」

 警告音が止んで安心しきっていたのだが、しかしそこで僕は気づいてしまった。

 周りには行列になるほどの人が並んでおり、あんな警告音が鳴れば誰だって僕に注目は集まる。

 そう、女装している僕の姿に、人の目線が一気に集まった。

 そのことに気づいた瞬間、僕は一気に恥ずかしくなり、赤面になりながらそそくさと走って、マジスターの大きな背中の後ろに逃げ込んだ。

「頼むマジスター、匿ってくれ!」

「んん? カッカッカッカッ!」

 そんな僕の姿を見て、マジスターは大勢の人の前でいつもの癖のある豪快な笑いを高らかにあげてみせる。

 それにより、更に周りの視線はこちら側に集中しているのを感じ、僕は更に焦る。

「おいマジスター! 笑ったら余計目立つじゃないか!」

「おっ……と、そうだそうだ。スマンな」

「まったく……」

 そんなことを偉そうに言っているが、そもそも僕が切符を取り忘れて、警告音なんざ鳴らさなければこんなことにはならなかったのだが……そこはまあ、自分のことは棚に上げるっていうことでね?

「もう、二人とも何やってんのよ!」

「この恥晒しめ!」

 そうやって僕とマジスターのお騒がせコンビを非難しながら、普通に改札を通って来たルーナとライフ・ゼロ。

「いや、スマンな……つい笑ってしまって……」

「マジスターさんはいつものことだからいいのよ」

「いつもの……」

 なんだかその言葉が、マジスターの中では妙に引っかかったらしく、彼はポツリと繰り返していたが、しかしルーナは「それよりも!」と言って、マジスターの正面から背中の方へとわざわざ回り込み、そしてそこに隠れている僕に向かって、人差し指を真っ直ぐ突きつけてきた。

「アンタよアンタっ! せっかく人がばれないように、ここまで完璧に擬装させたのに、なんで目立つようなことしちゃうかな~っ!」

「い……いやその……すいませんでしたあああああああああああっ!!」

「だぁーもうっ! 深々とお辞儀をしない! パンツが見えるでしょうが!」

「えっ……あっ、ゴメン……!」

 自分の非を認めて謝罪をしたつもりだったが、それがかえって痛恨のミスだったようで、ルーナに更に怒られてしまう始末。

 マジスターに責任転嫁しようとしたツケが、今僕に返ってきたような、そんな気がした。

 やっぱり自分のことを、他人のせいにしようとするのは良くないことだね……。

「まったく……改札を通るだけでこんな大騒ぎになると思わなかったわ……ほら、こんなところに突っ立ってないで、ちゃっちゃとホームに向かうわよ」

「うむ……」

「はい……」

 キリキリと先を歩くルーナの後を、僕とマジスターは肩をがっくりと落としながら、とぼとぼと歩いていく。

 ちなみにライフ・ゼロは最後尾を歩いており、そんな僕達の姿を見て、終始ニヤニヤと笑っていやがった。

 他人の不幸は蜜の味ってか……。

 改札の先にはすぐに広々とした下り階段があり、どうやらここから地上から地下へと向かうようだ。

 しかしその広いはずの階段も、今は大勢の人で埋め尽くされており、とにかく足を踏み外さないよう、細心の注意を払いながら下って行くと、ついにサブウェイが往来するホームへと到着したのだった。

「おおすげぇ……ホントに地下で列車が走ってる」

 丁度セントラルタウンへ向かう方向とは反対の列車が出発をしており、その車体は地下を走るからなのか、地上を走る列車の車体よりも少しコンパクトになっているように見えた。

 あとの違いは素人目からは判別できず、それでもこうやって、列車が地下空間を走っているという風景を見ただけで、どこか感動するものがあった。

 やはり僕は今まで、世界を知らな過ぎた……世界は本当に、果てしなく広いな。

 それを知っただけでも、こうやって旅に出て、心の底から良かったと思うよ。

『二番乗り場に各駅停車、セントラルタウン経由、トップハーバー行きの列車が到着します』

「おっ、来たみたいだぞ」

 駅のアナウンスが聞こえ、マジスターがそう言うと、先程の列車があった反対側の乗り場から、どうやらセントラルタウンへ向かう列車がホームへ入ってきたようだが、しかし僕の身長が低いのと、周りの人ごみによって、列車が入ってくる様子をこの目で見ることはできなかった。

 しばらくして、列車がホームへ完全に停車すると、扉が開き、人の出入りが行われる。

 人に埋もれそうになりながらも、なんとか列車の中に入ろうと前に進んだのだが、しかしあまりの人の流れに戸惑ってしまい、そちらに気を回している内に、僕はみんなとはぐれてしまったのだ。 

 だが、はぐれたからといって、この状況で立ち止まって探すことなど到底できず、とりあえず行き先は同じなのだからと、早急にそういう雑念は捨てて、僕は車内に向かって突き進むことだけを考える。

 その結果、なんとか車内には入れたものの、しかし扉が目と鼻の先にある、ギリギリの位置に立たされることになった。

 ベルのような音が鳴り、列車の扉が閉まる。車内は乗車率百パーセント……いや、二百パーセントのすし詰め状態になっており、右を見ても左を見ても、人、人、人といった状態になっていた。

「うえ……苦しい……」

 間もなく列車は動き出し、その揺れで周囲の人間に強烈に圧迫されてしまう。

 いつかの満員バスよりも、こいつはヒドイ……。

「うっ……イカンイカン……集中集中……」

 僕はライフ・ゼロに教えられた通り、周囲の人間の存在を感知しないよう、精神を集中させる。

 すると意識の内側から、聞き慣れた声が聞こえてきた。

『ぐるじぃ……』

(えっ?)

 そう、意識の内から聞こえてきたのはライフ・ゼロの声だったのだが、しかしその声はいつもの小生意気な声ではなく、まるで首を絞められてるような、絶体絶命であるかのような、そんな精一杯の声のように僕には聞こえた。

『うぬ……すまぬが助けてくれ……』

(……分かった、どこにいるんだ?)
 
 ライフ・ゼロが僕に助けを乞うなんて、滅多なことじゃないからな。ここは素直に、助けてあげよう。

『分からん……人間どもの胴体に覆われて、顏すら確認できず、もう何が何だか……』

(そうか……ちっこいからなお前……そうだ、僕の背負っているギターケースはどうだ?)

『ケース……う……む、見えたかもしれん』

(それじゃあそれを目印に、人をどうにかどかしながら向かって来い。僕もまったくここから動けそうにないから、迎えには行けない)

『む……致し方ない』

 そこで会話を終え、僕がしばらく待っていると、後ろの人達がもぞもぞと動いているような感覚が伝わってき、僕の足に手のようなものが触れた気がしたので、今できる精一杯の範囲で振り返ってみると、そこにはいつもの小癪な表情をしているライフ・ゼロではなく、ゲッソリと疲れ切っているヤツの姿があった。

「大丈夫かお前?」

「頼む……ここにいるくらいなら剣の中の方がまだマシだ……我を封印してくれ……」

「封印されることをせがむって……それに今は無理だ。剣はケースの中にあるし、この状況だからな。我慢しろ」

「うぐううう……」

 何か言いたげにはしているが、しかし弱っているせいなのか、嫌味一つ言い返してこないライフ・ゼロ。
 
 ……張り合いが無いから、何か物足りなく感じてしまう。

「おい、ライフ・ゼロ」

「む……」

「僕の前に来い。そしたら人に圧迫されずには済むから」

「う……む……」

 なんとか気力を振り絞り、僕の背後から前へと移動してくるライフ・ゼロ。

 ここの位置からだとライフ・ゼロの表情をハッキリ確認でき、やっぱりヤツの顏は、いつもより青ざめていた。

 さっきまでは、僕が人が多い場所が苦手なのをバカにしていたくせに、結局コイツも苦手なんじゃないか。

 まったく……世話のかかる魔王様だぜ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...