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BACK TO THE OCEAN Chapter2
第19章 鞭と飴の演説【4】
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「ここでよいのか?」
僕と目の前にある扉の僅かな空間に入り込み、ライフ・ゼロは僕のお腹の部分くらいから、顔を見上げて確認してくる。
「ああ。ただ扉の真ん前だから、開閉した時に挟まれないようにしろよ」
「うむ……心得た」
らしくないほどにすんなりと答えると、ライフ・ゼロは苦々しい表情をしたまま、その場でぐったりとしていた。
どうやら相当参っちゃってるようだな……まあよくよく考えてみれば、一人で狭い空間に閉じ込められるのと、大勢の人ごみの中に閉じ込められるのとでは、同じ窮屈でも、わけが違うからな。
人ごみの中では窮屈以外にも、人が動くことによって自分に外圧が加えられたり、体温や吐く息でむんむんしたり、仕舞いには大勢が呼吸をするから酸素が薄くなったりと、圧倒的に一人で狭い空間に閉じ込められるよりかは、実害が多い。
そこに何年いたとか、そういうのは関係無く、そもそも比べる土俵が違ったということだな。
「……うぬ、ちょっと体を貸せ」
「えっ?」
するとライフ・ゼロは僕の方に体を倒し、顏だけを横に向けて、寄り掛かってきたのだ。
おも……くは無いのだが、しかし至る所から押されている中、この正面部分だけは楽をしていたのに、ライフ・ゼロが寄り掛かってきたことにより、僕は三百六十度、どこからも圧力を受けることとなってしまった。
しかし僕に寄りかかったライフ・ゼロは、先程までの苦い表情はしておらず、まるで子供が昼寝をしている時のような、そんな安らかな表情をしていたのだ。
その顔を見て僕は、口元まで出かけていた文句をぐっと呑み込んだ。
僕には兄弟はいないのだが、しかし今のライフ・ゼロの姿はまるで、普段はクソ生意気だが、疲れ切ってしまうと、こうやって兄に甘えてくる妹のような、そんな姿に見えたのだ。
「……たわけが」
するとぐったりと僕に体を寄せたまま、ライフ・ゼロがいつもの小生意気な口調で、それでも弱々しく、反抗してきた。
「我の方がうぬより年上だ……妹ではない……むしろ姉だ」
「……そうかい」
どれだけくたびれていても、自分を優先順位に置こうとすることだけはこだわってくるライフ・ゼロ。
しかし僕はそれに、あえて多くは突っ込まなかった。
姉だろうが妹だろうが、どっちだっていい。ライフ・ゼロが僕のことを、兄弟のように慕ってくれているということが分かっただけでも、十分な収穫だった。
それから六駅ほど通過しただろうか、それでもその間に列車から降りる人間は、僕が見ただけでも僅か十人を超えるか超えないかくらいの人数しか下車することが無く、一向に車内のすし詰め状態は解消されないまま、その窮屈さに耐えていると、やっと待ちに待った車内アナウンスが聞こえてきた。
『本日はアクトポートサブウェイをご利用いただき真にありがとうございます。次はセントラルタウン、セントラルタウン、アクトポートスクエア前です』
「おっ、やっと着いたみたいだ」
二つ前の駅から、立ったままうな垂れていた僕は、そのアナウンスを耳にし顔を上げる。
現実時間としては三十分くらいしか経っていなかったのだが、しかし体感時間としては、数時間単位でこの中に閉じ込められていたかのような、そんな疲労感を体全体からひしひしと感じてくる。
もういっそのこと、このまま宿に直行して寝たいくらいだった。
「おっとそうだ……ライフ・ゼロ、着いたぞ」
僕は、僕に寄り掛かったまま眠っていたライフ・ゼロの体を、ぽんぽんと二回ほど軽く叩く。
こんな場所で、しかも立ったまま寝るなんて……器用なやつだな。
「う~ん……あと五分……」
「五分も寝たら次の駅に行っちまうぞ。ほら」
今度は肩に触れて、ライフ・ゼロの体を揺さぶって起こす。
「んぐぐ……まったく、人の安眠を邪魔しおってからに……」
「お前、人じゃなくて魔物だろ? っていうか、よくこんな状況で寝れるな?」
「ふぁ~あ……昔は年中無休で侵略に勤しんでいたからな。だから寝れる時には、いつでもどこでも、どんな状態でも寝ておったのだ」
「なるほどね」
「さて……そろそろか?」
「ああ」
列車のスピードが徐々に下がっていくのを感じ、扉からは、ライトだけが点灯しているトンネルの光景ではなく、大勢の人が立って、列車が来るのを今か今かと待っているホームの光景が見えてきた。
それから間もなく、列車は完全に停車し、両開きのドアがブシューという音をたてて開いたと同時に、僕達は列車の外へと早歩きで出てから、とりあえずホームの真ん中あたりの安全地帯へと避難した。
「ふわぁ~あ、やっと着いたか……」
ライフ・ゼロは大きく伸びをしながら、そして口も大きく開けてあくびをしながら、そんなことを言ってみせる。
「ああ、やっとだよ……さて、ルーナとマジスターはどこだ?」
そんな呑気なライフ・ゼロは放っておいて、僕は列車の中ではぐれてしまったルーナとマジスターの姿を、車内から濁流のように流れ出てくる人間の中から探す。
マジスターは背が高いし、軍服みたいな服を着ているから、多少は目立つので見つけられるかもしれないが、問題はルーナだ。
彼女は僕よりも多分、十センチ程小さいと思うから、いくらガンマンのような恰好をして目立つとしても、この集団の中に埋もれてしまったら、見つけ出すのは非常に困難だ。
マジスターと一緒に居てくれたらいいのだが……。
「…………おっ! あれだ!」
そんな人の大群から、僕がまず見つけ出したのはやっぱりマジスターだった。
僕はマジスターに向けて大きく手を振ると、僕の姿に気づいたのか、マジスターが手を振り返してこちらの方へとやって来る。
するとその後ろにはルーナも着いて来ており、どうやら二人は一緒に居たようだ。
探す手間が省けて良かった。
「二人とも大丈夫だったか?」
歩み寄ってくるなり、マジスターは僕達のことを気に掛けてくれる。
「僕はなんとか……ただライフ・ゼロが完全に参っちゃってね」
「もう二度とこんな窮屈な物には乗りたくないっ!!」
腕を組んで、怒りを露わにして、ライフ・ゼロはそう言ってのける。
といっても、帰りもまたこれに乗らないといけないんだけどな。
「そうか……まあ嫌になるのも無理はないな。いくらわしでも、あんなギュウギュウ詰めにされたらかなわんわ……」
「わたしも……乗ってるだけで、さっき食べたハンバーガーのエネルギー、全部持っていかれたわ……」
言って、マジスターとルーナは揃って大きな溜息を吐いてみせる。
どうやら元気印のこの二人でも、あの超過密空間はさすがに身にこたえたようだな……。
「さて……疲れたからといって、ここでいつまでもゆっくりしておくわけにはいかんだろう。みんな、もうひと踏ん張りだ」
「おう……」
すっかり元気というものを失った僕達は、カラ元気でありながらも、もう一息振り絞って、再び人海の中へと潜って行き、地上へ向かう階段を上って行く。
考えてもみれば、僕達は朝からぶっ続けで七時間バイクを運転した後にこんなことをしているのだから、こうやって疲弊してしまうのは至極当たり前のことだった。
いや、むしろまだまだこうやって体を動かせているのだから、おそらく僕達は普通の人達よりもタフであることは確かなはずだ。
「ひゃっ!!」
そんなことを思っていた矢先に、短い叫び声が聞こえ振り返ると、ルーナが階段に躓いてその場に倒れていた。
僕はすぐさま人を掻き分けながら階段を逆走し、ルーナの元へと駆け寄る。
「大丈夫か?」
「うん……躓いただけだから」
そう言って再び立ち上がるルーナ。
この上り階段は段差がそこまで高くなっておらず、しっかりと足が上がれば躓くことは無いような、そんな作りになっているはずだが、おそらく彼女は、その足が疲労によって上手く上がらなくなってしまっているのだろう。
僕やマジスターのような、兵団で訓練を受けた男達でもへとへとになっているというのに、訓練も受けていない、女の子であるルーナが、ここまでしっかり着いて来てくれているということ自体が、そもそもすごいことなのだが……しかしそれももう、限界なのだろう。
ルーナは隠しているようだが、しかしその表情からも辛さが見え隠れしている。
だけど、それを指摘したところで休んでくれるような子でないことは、僕は知っている。頑なに大丈夫だと言って、僕達の後を着いてくるだろう。
「ルーナ、はい」
だから僕は止めずに、彼女にそっと手を差し伸べた。
本当は負ぶってもよかったのだが、生憎僕の背中にはギターケースという先客がいる。
だからせめて、少しでも彼女の負担が小さくなるようにと思い、僕は手を貸したのだ。
僕と目の前にある扉の僅かな空間に入り込み、ライフ・ゼロは僕のお腹の部分くらいから、顔を見上げて確認してくる。
「ああ。ただ扉の真ん前だから、開閉した時に挟まれないようにしろよ」
「うむ……心得た」
らしくないほどにすんなりと答えると、ライフ・ゼロは苦々しい表情をしたまま、その場でぐったりとしていた。
どうやら相当参っちゃってるようだな……まあよくよく考えてみれば、一人で狭い空間に閉じ込められるのと、大勢の人ごみの中に閉じ込められるのとでは、同じ窮屈でも、わけが違うからな。
人ごみの中では窮屈以外にも、人が動くことによって自分に外圧が加えられたり、体温や吐く息でむんむんしたり、仕舞いには大勢が呼吸をするから酸素が薄くなったりと、圧倒的に一人で狭い空間に閉じ込められるよりかは、実害が多い。
そこに何年いたとか、そういうのは関係無く、そもそも比べる土俵が違ったということだな。
「……うぬ、ちょっと体を貸せ」
「えっ?」
するとライフ・ゼロは僕の方に体を倒し、顏だけを横に向けて、寄り掛かってきたのだ。
おも……くは無いのだが、しかし至る所から押されている中、この正面部分だけは楽をしていたのに、ライフ・ゼロが寄り掛かってきたことにより、僕は三百六十度、どこからも圧力を受けることとなってしまった。
しかし僕に寄りかかったライフ・ゼロは、先程までの苦い表情はしておらず、まるで子供が昼寝をしている時のような、そんな安らかな表情をしていたのだ。
その顔を見て僕は、口元まで出かけていた文句をぐっと呑み込んだ。
僕には兄弟はいないのだが、しかし今のライフ・ゼロの姿はまるで、普段はクソ生意気だが、疲れ切ってしまうと、こうやって兄に甘えてくる妹のような、そんな姿に見えたのだ。
「……たわけが」
するとぐったりと僕に体を寄せたまま、ライフ・ゼロがいつもの小生意気な口調で、それでも弱々しく、反抗してきた。
「我の方がうぬより年上だ……妹ではない……むしろ姉だ」
「……そうかい」
どれだけくたびれていても、自分を優先順位に置こうとすることだけはこだわってくるライフ・ゼロ。
しかし僕はそれに、あえて多くは突っ込まなかった。
姉だろうが妹だろうが、どっちだっていい。ライフ・ゼロが僕のことを、兄弟のように慕ってくれているということが分かっただけでも、十分な収穫だった。
それから六駅ほど通過しただろうか、それでもその間に列車から降りる人間は、僕が見ただけでも僅か十人を超えるか超えないかくらいの人数しか下車することが無く、一向に車内のすし詰め状態は解消されないまま、その窮屈さに耐えていると、やっと待ちに待った車内アナウンスが聞こえてきた。
『本日はアクトポートサブウェイをご利用いただき真にありがとうございます。次はセントラルタウン、セントラルタウン、アクトポートスクエア前です』
「おっ、やっと着いたみたいだ」
二つ前の駅から、立ったままうな垂れていた僕は、そのアナウンスを耳にし顔を上げる。
現実時間としては三十分くらいしか経っていなかったのだが、しかし体感時間としては、数時間単位でこの中に閉じ込められていたかのような、そんな疲労感を体全体からひしひしと感じてくる。
もういっそのこと、このまま宿に直行して寝たいくらいだった。
「おっとそうだ……ライフ・ゼロ、着いたぞ」
僕は、僕に寄り掛かったまま眠っていたライフ・ゼロの体を、ぽんぽんと二回ほど軽く叩く。
こんな場所で、しかも立ったまま寝るなんて……器用なやつだな。
「う~ん……あと五分……」
「五分も寝たら次の駅に行っちまうぞ。ほら」
今度は肩に触れて、ライフ・ゼロの体を揺さぶって起こす。
「んぐぐ……まったく、人の安眠を邪魔しおってからに……」
「お前、人じゃなくて魔物だろ? っていうか、よくこんな状況で寝れるな?」
「ふぁ~あ……昔は年中無休で侵略に勤しんでいたからな。だから寝れる時には、いつでもどこでも、どんな状態でも寝ておったのだ」
「なるほどね」
「さて……そろそろか?」
「ああ」
列車のスピードが徐々に下がっていくのを感じ、扉からは、ライトだけが点灯しているトンネルの光景ではなく、大勢の人が立って、列車が来るのを今か今かと待っているホームの光景が見えてきた。
それから間もなく、列車は完全に停車し、両開きのドアがブシューという音をたてて開いたと同時に、僕達は列車の外へと早歩きで出てから、とりあえずホームの真ん中あたりの安全地帯へと避難した。
「ふわぁ~あ、やっと着いたか……」
ライフ・ゼロは大きく伸びをしながら、そして口も大きく開けてあくびをしながら、そんなことを言ってみせる。
「ああ、やっとだよ……さて、ルーナとマジスターはどこだ?」
そんな呑気なライフ・ゼロは放っておいて、僕は列車の中ではぐれてしまったルーナとマジスターの姿を、車内から濁流のように流れ出てくる人間の中から探す。
マジスターは背が高いし、軍服みたいな服を着ているから、多少は目立つので見つけられるかもしれないが、問題はルーナだ。
彼女は僕よりも多分、十センチ程小さいと思うから、いくらガンマンのような恰好をして目立つとしても、この集団の中に埋もれてしまったら、見つけ出すのは非常に困難だ。
マジスターと一緒に居てくれたらいいのだが……。
「…………おっ! あれだ!」
そんな人の大群から、僕がまず見つけ出したのはやっぱりマジスターだった。
僕はマジスターに向けて大きく手を振ると、僕の姿に気づいたのか、マジスターが手を振り返してこちらの方へとやって来る。
するとその後ろにはルーナも着いて来ており、どうやら二人は一緒に居たようだ。
探す手間が省けて良かった。
「二人とも大丈夫だったか?」
歩み寄ってくるなり、マジスターは僕達のことを気に掛けてくれる。
「僕はなんとか……ただライフ・ゼロが完全に参っちゃってね」
「もう二度とこんな窮屈な物には乗りたくないっ!!」
腕を組んで、怒りを露わにして、ライフ・ゼロはそう言ってのける。
といっても、帰りもまたこれに乗らないといけないんだけどな。
「そうか……まあ嫌になるのも無理はないな。いくらわしでも、あんなギュウギュウ詰めにされたらかなわんわ……」
「わたしも……乗ってるだけで、さっき食べたハンバーガーのエネルギー、全部持っていかれたわ……」
言って、マジスターとルーナは揃って大きな溜息を吐いてみせる。
どうやら元気印のこの二人でも、あの超過密空間はさすがに身にこたえたようだな……。
「さて……疲れたからといって、ここでいつまでもゆっくりしておくわけにはいかんだろう。みんな、もうひと踏ん張りだ」
「おう……」
すっかり元気というものを失った僕達は、カラ元気でありながらも、もう一息振り絞って、再び人海の中へと潜って行き、地上へ向かう階段を上って行く。
考えてもみれば、僕達は朝からぶっ続けで七時間バイクを運転した後にこんなことをしているのだから、こうやって疲弊してしまうのは至極当たり前のことだった。
いや、むしろまだまだこうやって体を動かせているのだから、おそらく僕達は普通の人達よりもタフであることは確かなはずだ。
「ひゃっ!!」
そんなことを思っていた矢先に、短い叫び声が聞こえ振り返ると、ルーナが階段に躓いてその場に倒れていた。
僕はすぐさま人を掻き分けながら階段を逆走し、ルーナの元へと駆け寄る。
「大丈夫か?」
「うん……躓いただけだから」
そう言って再び立ち上がるルーナ。
この上り階段は段差がそこまで高くなっておらず、しっかりと足が上がれば躓くことは無いような、そんな作りになっているはずだが、おそらく彼女は、その足が疲労によって上手く上がらなくなってしまっているのだろう。
僕やマジスターのような、兵団で訓練を受けた男達でもへとへとになっているというのに、訓練も受けていない、女の子であるルーナが、ここまでしっかり着いて来てくれているということ自体が、そもそもすごいことなのだが……しかしそれももう、限界なのだろう。
ルーナは隠しているようだが、しかしその表情からも辛さが見え隠れしている。
だけど、それを指摘したところで休んでくれるような子でないことは、僕は知っている。頑なに大丈夫だと言って、僕達の後を着いてくるだろう。
「ルーナ、はい」
だから僕は止めずに、彼女にそっと手を差し伸べた。
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