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第三章〜戦士の国アグド〜
48話✡︎英雄の敗北✡︎
しおりを挟むベルガルが斬馬刀を背中から抜き、正々堂々と叫ぶ。
「貴殿と剣を交えること嬉しく思う‼︎」
「貴方もここが戦場でなくて……
良かったですね……」
エレナはそう静かに挑発して素早く距離を詰めた。
それに対してベルガルはその斬馬刀を両手で上から下に振り下ろし斬りかかる。
凄まじい力をそれだけで思わせるが、エレナは素早く右に交わした時に、激しい音と共に床が砕かれる。
エレナは完全な隙を突いて小太刀を抜き斬りかかるが、魔力を込め刃を硬くする事しか出来ず、水の刃が使えない甲冑に傷をつける事は出来るがやはり……斬れない。
ベルガルが振り向きざまに、斬馬刀を横に振りなぎ払おうとするが、エレナはそれを高く飛び難なくかわし距離を取り着地する。
やはり相当な手練れだ。
エレナは高く飛ぶ瞬間に、ベルガルの手を一瞬だけ見ていた。
右腕だけで斬馬刀を振り抜いていた……首を狙う様に飛べば、装備したまま斬馬刀を持てる様に作られた左手のナックルをまともに貰っていたか、小太刀を折られていただろう……
「エレナさんが、引けを取っている……」
アヤが驚く。
「お姉ちゃん……」
ユリナがカナを見て言うとカナは静かに頷いた。
今度はベルガルから仕掛ける、エレナとの距離を詰め斬馬刀を右下から左上に斬り上げた。
斬馬刀をこの形で振れば……右側に致命的な隙が生まれる!
だがエレナはその空間には飛び込まなかった、明らかに誘っていると感じてエレナは後ろに飛び躱して距離を取る。
「ほう、見事に先を読むのぉ……
だが次は?」
ウィースガルムは楽しんでいる。
ベルガルは斬り上げた斬馬刀で信じられないほど早く持ち直し、突きを入れて来た。
その突きは瞬間的に凄まじい速さでエレナに襲いかかった!
エレナは大技と見て、この時生まれたエレナから見て右側の隙を見逃さずギリギリの線でかわした。
僅かに読み違えたか……
エレナの胸のあたりの水の魔法衣が僅かに斬れるが素早く間合いにはいり。
その瞬間に込めれる魔力を全て込め、神速と言える様な速さで、鎧の上半身と下半身の僅かな繋ぎ目を正確に振り抜いた!
「え……」
エレナは思わず小さく声を出した。
振り抜けていなかった……
ユリナもカナも、アヤもピリアも目を疑った、ベルガルの鍛え抜かれた強靭な筋肉に、エレナの小太刀が止められたのだ。
クリスタルの小太刀を伝わって来る僅かな炎の魔力をエレナは感じた。
(まさか!肉体すら‼︎)
そうエレナが思った瞬間、ベルガルの巨大なナックルをつけた拳が目に入った。
ナックルの先には鋭利な刃が見え、思わずエレナは小太刀を放し。
後ろに飛ぼうとしたが遅かった……
(死……)
エレナはそう覚悟した、今まで生きて来た全てのことが頭の中を過ぎ去って行く、エレナは走馬灯を見ていた。
何故か最後に今まで見たことの無い、ユリナとカナが幸せに過ごしているその姿を見た。
次の瞬間!
エレナの腹にベルガルの拳が直撃する。
エレナは血を吐きながら飛ばされ巨大な柱に叩きつけられた!
その場の時がしばらく止まり、ユリナもカナも声を失い、全てが白黒の世界の様に感じた。
絶望……
エルフ族の英雄が……
負けてはならないエヴァスが……
水の祝福を持つ巫女が……
初めて初めて、
母が負ける姿を見た……
信じられなかったが……
玉座の間にいる、オーク達が歓声を上げ始める。
ユリナとカナは我にかえり怒りに満ち溢れた。
その時ベルガルは笑みを浮かべて、エレナを吹き飛ばした拳を見て刃に血がついてない事に気付き叫ぶ!
「まだだ!まだ終わってはいない‼︎」
ベルガルがエレナの方を見る。
エレナは腹部を抑え、血を吐きながら立とうとしている。
斬り裂かれた筈の腹部からは血が一滴もでていない。
引き裂かれた水の魔法衣の下から、緑に光るものが見える。フェルミンがくれたシャツであった。
(こ、これはミスリル……
フェルミンありがとう……)
エレナは心からフェルミンに礼を言い涙を流した、フェルミンの気持ちに守られたからである。
ベルガルはエレナの小太刀をエレナに投げて言う。
「立て、英雄ならば最後まで戦え!」
エレナはもう立てないそれどころか、いつ気絶してもおかしくない。
ベルガルが二、三歩あゆり寄り叫ぶ!
「エルフ族の英雄とはそんな物か!
二千年前の我らの怨み!
言い伝えられたあの屈辱‼︎
この程度の者が、我らに味あわせたのかぁ‼︎」
ベルガルがそう言うのも納得できる。
ピリアは感じた。
(私とフィリアと同じだ……
あの何も変わらなかった真実。
あの十万年の間祈り、願い、そして何も変わらなかったあの時間……
彼らは二千年前、エレナさんに負けてからずっと、時が止まって同じ事を繰り返して来たんだ。
私達が、クリアスを憎んだのと同じ様に……エレナさんを憎んでひたすら復讐の日を待ち望んで……)
(ピリア……どうする?
私は……まだ動けない……)
カイナは焦っていた、今ならエレナを助けられる、だがネクロマンサーとしてでなければ、魔法を封じられたこの場所では戦えない、カイナはエレナ以外にネクロマンサーだと言う事を知られたくなかった。
ベルガルが、立てないエレナに業を煮やしたか、とどめを刺しにゆっくりと歩み寄る。
(だめっ!奴はオークのそれに漬け込んだんだ‼︎
奴はオーク達の時間を動かそうとしてる、エレナさんを殺し復讐を果たさせて!
そんなことをしたら……
オプス様が愛した世界がまた……)
ピリアは必死に考えはじめる。
エレナは必死に立とうとするが、力が入らない次第にエレナの見る世界が暗くなって行く……
これが戦場ならばエレナはもうとっくに討ち取られていただろう。
ベルガルが走り出し斬馬刀を振り上げ、そのままエレナに振り下ろした‼︎
何故か凄まじい鉄と鉄がぶつかり合う音がして、エレナをかばう。
ユリナがあの斬馬刀を持ち自らの魔力を力に変えて受け止めたのだ。
「ウィンダム‼︎」
ユリナが叫び、ウィンダムが斬馬刀の扱いを記憶の様にユリナに伝える。
だがベルガルの斬馬刀はユリナには重すぎ、その重さでユリナの顔が歪む……
カナが後ろからベルガルに斬りかかるが、エレナを技で圧倒したベルガルは、素早く右腕を斬馬刀から放し、カナを拳で振り払う。
カナの刀身がクニャとまがり、僅かにベルガルの腕を切るが、ベルガルにとっては蚊に刺された様なもの……話にならない。
そしてカナは胸ぐらを掴まれ、エレナが叩き付けられた柱に投げつけられエレナの目の前に落下する。
ユリナは蹴飛ばされひざまづいてしまう。
ウィースガルムは喜びながら、笑い始めオークの兵達がそれに歓声で応える。
既にこれは外交では無い……その卑劣な罠が姿を現し始めた。
そこにグリフが止めに入るが、オーク兵に止められる。
「グリフよ、貴様ほど誇り高く。
オークとして素晴らしい戦士は少ない、だがこれは二千年前の復讐。
復讐に誇りは要らぬ、解れば下がれ。
今なら咎めはせぬ‼︎」
ウィースガルムの言葉に、王の言葉にグリフはどうする事も出来ずに、何かを見て急いで玉座の間から出て行ってしまう。
ベルガルが最後の一太刀を振り降ろそうとした時、背後から強烈な殺気を感じ。
ベルガルは振り向きざまに、その殺気の主に薙ぎ払うように斬りかかった!
激しい轟音を立て、その殺気の主はそれを斬馬刀で受け止め強烈な蹴りを入れて、ベルガルをエレナ達の前から遠ざける。
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