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第三章〜戦士の国アグド〜
50話✡︎戦士ベルガル✡︎
しおりを挟む「カイナ……」
少しずつ傷が癒えていく中、エレナがカイナが動こうとしているのに気付いた。
「この魔法は……
まさかネクロマンサー⁈」
ピリアが驚いた、闇と死は近い関係にあり魔法も似ているが、慈悲深いオプスの力を使う闇と違い、死の女神ムエルテの力を使う死の魔法は、強制力が尋常では無く慈悲のかけらも無い……冷酷な魔法である。
アヤが直ぐに弾いてる音色を僅かに変えて、カイナの姿を隠した。
アヤとカイナは一度や二度では無い様に精錬されたように、いちぶの狂いも無く連携している。
(まさか……
アヤもイミニーなの?)
エレナはそう疑問に思った。
「ピリア……少し時間がかかる、とっておきの魔法で奴を驚かせてやる……」
カイナが鋭い目をしている、ピリアはカイナも変わろうとしているのを感じた。
アヤのおかげで、カイナがネクロマンサーだと言う事はまだ気付かれていない。
そしてオーク兵の怒りはウィースガルムの姿をしたドッペルに向けられる。
まずはドッペルの近くに居たオーク兵が斬りかかるが、ドッペルはそれを左手に持った巨大な戦鎚で一振り横に薙ぎ払い、一掃する。
ウィースガルムはその当時のオーク族の最強を争った戦士だ、その力はさっきエレナが戦ったベルガルの比ではない。
そのドッペルはウィースガルムに成り代わっていたのだ。
ベルガルは眼を疑った、受け入れがたい真実突きつけられた。
長く王の護衛隊長を務めていたが、偽物だった事を見抜けなかった。
それと同時にいつ入れ替わったのか、いつから様子が変わったのかを必死に思い出そうとした。
そして気づいた、王がある事をしなくなったその日を……
強烈な怒りが心の底から湧き上がり、ベルガルの怒りは頂点に達した!
怒り溢れる雄叫びを上げてドッペルに立ち向かって行く。
ドッペルの戦鎚をベルガルは斬馬刀を両手で持ち受け止め、押し返して斬りかかるが、鉄と鉄の激しい音が響き渡る。巨大な戦鎚と斬馬刀で打ち合う。
ベルガルも剣と拳だけなら、エレナを圧倒した戦士だ、その力を全力でウィースガルムの姿をしたドッペルにぶつける!
ベルガルの部下がベルガルの加勢に向かおうとしたその時……
「行くな!」
シェラドが叫びその場に動揺が走る。
「なぜ……」
カナが小さく囁く……
「ベルガルは、奴に誇りを踏み躙られたんだ……
長年にわたり王に仕え、王を慕いベルガルなりに守り続けて来たんだ。
それがドッペルに知らぬ間に討ち取られ、入れ替わっていた。
あいつの立場に立ってみろ……
その気持ちが解る筈だ」
シェラドがベルガルを見守りながら、ベルガルの気持ちを伝えてくれた。
ベルガルも誇り高い戦士であった。その戦士が命の炎を燃やし、オーク族最強の戦士ウィースガルムの力を持つドッペルに挑んでいる……
その姿を見てエレナ達はベルガルへの怒りが薄れて行くのを感じた。
ベルガルは完全に押されている、だが彼は引かずに全力でドッペルの攻撃を防ぎ、激しく巨大な戦鎚と斬馬刀のぶつかり合う音が響き渡り続ける。
「ユリナ、悪いがその斬馬刀を貸してくれ」
シェラドがユリナに頼んで来た。
ユリナは戸惑ったが、シェラドを信じて斬馬刀を渡した。
ベルガルが一瞬だけ、ドッペルの足の運びに遅いタイミングがあるのに気づいた。
打ち込みをこちらが防いだ時に、僅かに踏み込みが甘い、その為に力で劣るベルガルは押し返せていた。
ベルガルは勝負に出た……ドッペルが左手で戦鎚で打ち込んで来たのを受け止めた瞬間。
ベルガルは大きく踏み込み前にでて全ての力を込めてドッペルの戦鎚を始めて大きく押し返した!
ドッペルの巨体の体勢が大きく崩れ、そこに素早くエレナに放った凄まじく早い斬馬刀の突きを放とうとしたが……
ドッペルは背負っていた巨大な斬馬刀を右手で素早く抜いて、逆に横から斬りかかっていた!
ベルガルは素早くそれを防ぐが、ドッペルの左手の戦鎚が上から振り下ろされ、右肩を直撃し、赤い血が飛び鎖骨はおろか肩甲骨まで割られてしまう。
「グァ……」
ベルガルは激痛を味わうが僅かな声しか上げなかった。
「ほぅまだ立ってられるのか、この私を見抜けなかった、節穴の様な目はまだ諦めぬ様だな」
ドッペルはウィースガルムの顔で残酷な笑みを浮かべ侮辱する。
「黙れ!貴様の言葉で!我が一族の誇りを戦士の誇りを‼︎
全てのオークが捨てる所だった‼︎」
ベルガルは苦痛を感じさせない声で叫びながら左腕一本で
斬馬刀を振り上げ叫んだ!
「水の巫女よ!我が一族を許せ‼︎」
生涯最後の想いを込めた一太刀を振り下ろした。
ベルガルの斬馬刀は届く事なく、ドッペルの斬馬刀に弾かれ、戦鎚がベルガルの頭上に振り下ろされそうになった時、シェラドがベルガルにタックルを入れてその場から遠ざけた!
「なっ貴様邪魔するな!」
ベルガルが叫ぶが、明らかにシェラドに救われた瞬間であった。
戦いに集中しているオーク達は気付かなかったが、次第に玉座の間にカイナが放つ魔力が満たされ始めていた……。
冥界の支配者、死の女神ムエルテを崇拝する魔力……オークの魔道士が放つ魔法を封じる結界を無視している様に、死の魔力が満たされていくがエレナとピリア以外の者は気づいて居なかった。
「数千、数万の死を生み出しし者よ……
我はそなた達を誘わん……
我が元に誘わん
この地にて死を生み出し続けた偉大な者よ……
我と共に血の酒を酌み交わし……」
カイナの詠唱と共に拳から流れた血が描く魔法陣が真紅に輝き出した。
「我と共に復讐の怒りを満たさん‼︎」
カイナが力強く死者を呼び寄せている。
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