✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

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第三章〜戦士の国アグド〜

57話✡︎守護竜の使い方Ⅱ✡︎

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翌日、行軍十一日目。


 出発の準備が整い、各部部隊が合図を待っている。
 シェラドの部下が大きな赤い旗を掲げた。
そして十秒後、各部隊が息を揃えて一斉に動き出す。

 二個師団が走りだす。
 シェラド率いる軍が初めて早い動きを見せた……

 ユリナはシェラドの指揮が見事に思える。
だが、こんな物じゃないと解っていた、この部隊に歩兵は居ない。
 全て騎馬であり、三万一千の騎馬兵が一斉に走れば、軽い揺れを感じる。
 この部隊に、歩兵が加わればどれだけ恐ろしい軍になるかなど、まだユリナには想像が出来なかった。

 エレナもユリナと同じ気持ちであった。
 ただ一つ違うのは、エレナはシェラドが炎の使徒である事に安心していた。


 この行いは反乱にも見て取れるが炎の守護竜ヴァラドが、シェラドに賛成している様だ。
 つまり、これだけの行為を神の竜が止めない……それだけ、オーク族の長老は罪が重い様だ……


 その夜、エルフの野営地の一部が慌ただしい。

 正確に言うと、エレナ達と、ユリナに使われてる弓兵だ、ユリナが指揮官用の大きな天幕を張る様に支持する。

「うーん、囲うだけでいいですよ。」
 エレナがそう言うと、ユリナが何で?と言う顔をするが、エレナが夜空を指差す


ユリナが夜空を見上げると……


 そこにはこの行軍中で、最高の夜空が広がっていた。そして最高に美しく大きな月が一つ……
 他に千年に一度七日間だけ見える、ノウムの月も小さく見えていた。二つの月と小さな星も美しく輝く。

「ユリナ……ノウムの月が出てる、今日から七日間しか見れないの、次に訪れるのは千年後に時代が変わろうとした時……」
エレナが優しい目で眺めながら言う。


「時代が変わろうとした時?」
ユリナが聞く。
「そう、ノウムの月は、神の月と呼ばれてるの不思議とあの月が七日間輝けば優しい時代が来ると言われてるのよ……」
エレナが希望を瞳に輝かせて見つめる。

「三千年前も一時現れましたね。
あの時は三日で見えなくなってしまいましたがシンシル様が、エレナ様に千年後にまたそなたが輝かせるだろうと、言われたのを覚えています。」
カナがお風呂の支度を終えて、やって来た。


「千年後って、二千年前お母さんが……」
ユリナが驚く。

「そう、二千年前のオーク族にセレスが攻められた時……
首都エルドまで攻め込まれてしまったのよ……

でも、あのノウムの月が現れたの、それと同時にサランがアグドに攻め込んでくれて。

 みんな神が私達に味方してくれたって思えたの、あの日から七日間必死で戦って……
やっと勝ったんだけど……

多過ぎる犠牲が出てたけど……
ノウムの月が七日間輝き続けてくれて、それをみんなが心の支えにして、頑張って国を立て直したのよ」
エレナが思い出しながら話す。


「シェラドさんが、いま国を変えようとしていること……
きっとシェラドさんが七日間輝かせてくれますよ。」
カナがそう言う。

「いいえ、みんなであの輝きを守りましょう。」
エレナがそう言いカナもユリナもノウムの月を見つめた。


 しばらくして、焚き火を囲んで食事をとり。
 アンサラを待つと、地面にモグラが掘る様に土が盛り上がる。
 そして、盛り上がった先にピョコっとアンサラの鼻がでる。

 ベルガルもシェラドもその時には来ていて、カナがシェラドの横に座っていた。
 皆が昨日どうやって、アンサラが顔を出したのか興味を持ち、静かに見守る。

 アンサラが土の中で踠いてる様子が、土の動きで解る……今日も幼竜は苦労している。

 長い……見るに見兼ねてユリナがアンサラを掘り出し、抱き抱えるように引き上げる。
「ありがとうユリナ。
この辺の土は硬くて昨日より大変だったよ」
アンサラがお礼を言う。

「出て来るところが、大きな岩とかだったらどうするの?」
それとなくアヤが聞く。


「そう言う時は、岩の形を変えるんだよ。
自然界の物だったら僕に操れない物はないからね」
 アンサラが自信満々に言うと、アンサラは熱い視線を感じる。


 だったら地面を操って、すんなり出て来なよとかはユリナ達にはどうでも良かった。


「アンサラさん!石の風呂作ってください!」
 カナが珍しくストレートに言った、普段ならそれはユリナの役割……


「石風呂?そんな、水は?火は?」
 エレナがリヴァイアサンを出して、シェラドがヴァラドをだす。
 二匹とも遠い目で星空を眺め、遠い世界を見ている。


「ヴァラド~久しぶりだね、元気してる?」
アンサラがヴァラドに話しかける。
 ヴァラドは無口な様でうんうんと頷く。

 アンサラはヴァラドと見つめ合い、話の流れを理解した。
 この二匹は通じ合う物がある様だ。


「うーん、ヴァラドも大変だね。
リヴァイアサンとウィンダムは何時ものことだけど。」
アンサラが言う。
「うるさい!お前に何が解る!」
リヴァイアサンが怒る。

「解らない、何も解らない子供じゃないんだからさ、もっと落ち着きなよ」
幼い姿のアンサラが言うが妙に説得力がある。


「貴様ー!」
リヴァイアサンとウィンダムが声を揃えて、飛びかかろうとした。
「ウィンダム!」
ユリナが声でウィンダムを止めるが……エレナはリヴァイアサンの喉元に笑顔でクリスタルのナイフ突き付ける。
 そのナイフの速さは誰もが目で追えなかった……

(俺と戦った時は本気じゃなかったのか……)
ベルガルが焦っていた、カナは焦らず何時もの笑顔。
 シェラドは頰に一滴の汗が見える。


「うーん、ところで、お風呂だけでいいの?」
 アンサラが汗を流しながら聞き、犬みたいに地面を嗅ぎまわる。
「他に何かあるの?」
ユリナが聞く。


「ちょっと大変だけどここ温泉あるよ……
多分……」
クンクン嗅ぎまわりながら、アンサラが言い続ける。
「毒消しと、怪我には良いね。
うーん美容はイマイチだけど効果ありそうだね」
 アンサラがそこまで言い、みんなの方を見る。


「アンサラちゃんお利口さんだね。」
 ユリナが異様な空気をかもし出して、アンサラを抱き上げる。
「じゃそれでお願いします!」
 カナが元気良く言うとユリナが、さっき張った天幕の囲いの中に連れて行き。


「ここにお願いね」
 そう言いながらアンサラをそこに降ろすと、アンサラは天幕の真ん中に行き、目をつぶり集中し始める…


 その辺り一帯に大地の力が溢れ出す。
 そして辺りが揺れ出し、アンサラの足元の地面が盛り上がり、地下深くにあった巨大な岩がせり出してくる。

 エレナ達は大地の力を目の当たりにする。
 ベルガルは最初は神の力を使って石風呂を作ろうとしている、エレナ達に呆気に取られていたが……心境が変わり始めた。

 アンサラが目を見開き、その目は緑に輝き岩が割れ変形していく……
 そして割れた破片は全て大地に吸い込まれていく。アンサラの頭には作りたい物が鮮明に描かれ、その形に岩が変形し磨かれて行く…


 その意思は強く天界に居る、大地の女神ガイアに届き、え?と思い石鏡をだして覗き込む。
 丁度そこに水の女神エヴァも居て一緒に覗き込み。
「アンサラちゃん何を頑張ってるんですか?」
とエヴァがガイアに聞くと……
「お風呂作ってる見たい……」
ガイアがなぜ?と言う顔で呟くとそこに光神ルーメが来て。

「ふっ我々の力を風呂にか……
まぁ良いでは無いか、本当にエレナ達は欲がないな。
水、風、大地、光、そして炎、全てが揃いつつあり。
ミューズの力も持っていて、その気になれば世界を全て手に入れられると言うのに。
それには祝福の力に甘えない。

だから余計に見守ってやりたいと思える。
まぁ笑ってやろう」
そうルーメンが言う。

「お兄様がそう言われるのでしたら、私達もどんなお風呂になるのか楽しませてもらいましょう」
 ガイアが言い三人は微笑みながら石鏡を見る。


 そう天界で神々が見てるとは知らずに、アンサラは最後に残った土を操り、浴槽部分から取り除くと、見事な二十人程が一度に入れる石風呂が出来た。

 良く磨かれてており、ツルツルしている。
ドワーフの名工が作った様な仕上がりで、アンサラはその浴槽の真ん中にいる。

そしてアンサラは更に力を込める!

「クォォーーー」

 可愛い幼い声で雄叫びを上げると、その石風呂のお湯の注ぎ口から赤茶色の温泉が湧出して来た!
 更にアンサラはそれを安定させる為に叫び続ける!

 そこに大地の女神ガイアが指を軽く動かし、アンサラを手伝ったつもりが、思ったより勢いよく温泉がでた為に……
「クォォーーゴボゴボ……ゴボ……」
アンサラは温泉に沈んだ。

 水の女神エヴァはそれを見てププッと笑い、ガイアもクスクス笑った。

一同が焦った時、アンサラが浮かび上がり犬かきをして出て来た。
「ふー出来たよ!ガイア様が手伝ってくれたから僕も沈んじゃったけど……
皆んな、お礼は要らないって。
楽しんで下さいだって」
そうアンサラは笑顔でエレナ達に言った。

 そう言われても巫女としてエレナはお礼を言わない訳にはいかないので、ユリナと一緒に祈りを捧げ礼を伝え、それが終わると。


「よし!皆んな入ろ~男達は後で入ってね!」
ユリナはベルガルとシェラドを天幕の囲いの外に出す。


 ピリアもすっかりお風呂に慣れた様だが、温泉は初めてである。
 美しい二つの月が輝く満天の星空の下……
エレナ達は最高の温泉を楽しむ。
 そして誰もが気付かなかった、この温泉が後々重要なベルリス温泉になる事を。


「全く、神々の力を……
だが彼らがあぁだから、この世界はこの二千年間平和だったのかも知れんな……
あの力を戦に使わない……

そしてそれを恐れる魔導師達……
何となくだが、この世界の均衡が解って来た気がするな」
ベルガルが優しい目でエレナ達の天幕を見ながら言う。

「神々は良く見ている、祝福を振りかざし支配する者に祝福を与えはしない」
シェラドが静かに答えた。
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