✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

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〜第四章 変わりゆく時代〜

84話✡︎気付きにくいもの✡︎

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 翌日ユリナは一人でフェルミンの部屋に向かった。
 昨日エレナがあの様子だったので、フェルミンにお願いしづらいのではと、気を利かせたのだ。
 フェルミンにはシンシルから上等な部屋を用意され、滞在期間の間だけ召使いもつけられていた、シンシルの護衛の一部までつけられている。


 ユリナはフェルミンの部屋に行くと、護衛がユリナに礼を取り少し離れた。
 扉をノックして反応が無かったが、お構いなしにユリナは部屋に入った。

 フェルミンは豪華なベッドでまだお休み中だった、召使いは隣の部屋に居るらしく、フェルミンが起きるのを待っている様だ。

 くーくーすやすや寝ているフェルミンは可愛らしく、まだ幼さが僅かに残っているのが伺える。


「フェ~ルミン!」
「うぁ!寝坊した!」

 寝坊でなく寝ぼけている……驚いて飛び起きたフェルミンは、あたりを見回してユリナに起こされたのを理解する。

「ユリナさんおはよう、驚いたよ~お店の仕込みしないとって」
「ごめんねフェルミン、ちょと話したいことあってさ、 聞いてくれる?」
 ユリナは右目をウィンクしながらフェルミンに話し出す。

 ちょうどエレナはその頃フェルミンの部屋に向かっていた。目的は同じだ……


 ユリナが経緯から説明してクリタス平原を、ゴブリン達の独立国家クリタスに返還出来ないかを話した。

 フェルミンは少し考えながら話し出す。
「クリタス平原なら出来ると思う……もちろんタダでは譲れないけど、あそこはお爺ちゃんが言ってた……

クリタス平原はパルセスにあってパルセスでは無い。
あの地は主人を待つ亡者どもがいる。

って……」
「ちょっと待って、亡者って!」
 ユリナが声を大きくしてフェルミンに聞こうとした。
 クリタス平原には今、トールとオプスが向かっているからだ、だがそれを止める様に。

「それなら心配ないわよユリナ。
今、クリタス平原の本当の主が向かっているんだから、それに亡者なら闇の女神オプス様には逆らえないでしょ?」

 エレナは扉ごしに話を聞いていた確かにそうだ、闇の女神オプスの役目は大きく分けて二つある。

一つは、冥界を闇で包み冥界から地上を守ること。

一つは、荒ぶる亡者、荒ぶる死者を優しさと慈愛を持って包みこみ、満たされぬ魂を満たし輪廻に導くこと。
どうしても鎮まらない魂は、無に返し無からやり直す機会を与えること。

 闇の女神オプスは六大神の中で最も慈悲深く絶対に見離さない女神である。


「ユリナ、オプス様が瞳をいつも瞑っているのは何故かわかる?」
 ユリナは考えるが解らない、オプスは暗黒の瞳を持つが、魔力を込めない限り発動はしない事をオプスから聞いていた。

「神の目で見ているの、オプス様は亡者達の過去を全て見通しているんだと思う。
何故そうなってしまったか、何故怨み、怨念になってしまったか。

その魂の苦しみを受け止めて、手を差し伸べている……ユリナもドラゴンナイトに一度でもなればきっと解るよ」
 エレナはアルベルトが命を落とした時、ドラゴンナイトになり、タナトスの全てを見た。
 ありとあらゆる苦しみと苦痛、ねじ曲げられた魂達の塊であった……

 そして生き残ったカナの全ても見た……知っていたとは言え、カナから見たあの時の世界はエレナが想像するよりも酷いものであった……

「だから大丈夫、オプス様とトールを心配する事は無いよ」
 エレナはそう優しく言いながら部屋に入って来た。

「フェルミン、そのお話をファルドクス国王に話に行きたいんだけど、フェルミンの方から少し話てくれない?」
「パルセスに行くってこと?別に良いけど……ちゃんと考えてるの?
領土返還なんて普通じゃ出来ないよ。」

「返還と言うより買うってイメージかな?
結果返還になるけど」
「買う⁈幾らで⁈」
フェルミンが身を乗り出す様に聞いてくる。
「百億ペルタ」
「安い!無理‼︎」
「解ってるって、前金として支払う金額。
でも……
返還してくれるなら都市開発を全てパルセスに依頼するかなぁ」
エレナはニコニコしながらフェルミンに言う。


「都市開発?どこの?」
フェルミンは不思議そうに聞く。
エレナはアグドの地図を広げてベルリス温泉を指差して言う。

「今回、アグドとセレスが友好を結び、カナもあちらで良い人に出会えて、置いて来たのその人はアグドの軍最高司令官ジェネラルの称号を持つ人なのつまり……」
「それってもう既に……
ほぼ同盟関係、いや!血縁同盟……」

「そのお祝いにアグドのここに新しく温泉が出来たの、ベルリス温泉って言うんだけどここをゴブリン達と共有して。
温泉地だけで無く商業、流通、交易拠点に開発するの。
全てセレスが出資してね。」

「!去年見つかったセレティア金山‼︎
そうか……そこからお金を……」
「それだけじゃ無いわよ
グルカスに闇鉱石の鉱脈もあるから開発を始めるし。
そうね、金で換算すれば……
金塊五千から八千位は今回のベルリス温泉に投資は簡単に出来るかな?」

「ちょ!闇鉱石ってミスリルより高価な鉱石!セレスってそんな物もあるの⁈」

「えぇ、私達は必要な時にしか自然の恵みを頂かないから、未開発な鉱脈は沢山あるの、でもねフェルミン覚えておいてね。

開発は国を豊かにするかも知れない
でもねそれは一時の幸福。
自然の恵みは無限にある訳じゃない
いつかは無くなるの……

開発し尽くしてしまえば、何も無くなっちゃうの永遠の豊かさを求めるなら。
私達を生かしてくれる自然の揺り籠を大切にしなければならないの……

私達エルフは何万年も生きる
だから解ったの必要な時に
自然の恵みを頂く……
それが本当の豊かさになるって」
エレナはエルフ族のセレスの豊かさの秘密をフェルミンに教えた……

 ドワーフの国パルセスは何か見つかれば直ぐに開発して繁栄して来た。
 その結果エレナが生まれてから五千年の間に、掘り尽くされた鉱脈は無数にある。
 それに対してセレスはシンシルのもとで、その年代、その時期の相場を見て塩や食料、宝石や鉱石をサラン経由で交易して国益を上げ続けて来た。

 現状の国力で言えば対等だが、セレスの底力はそう考えれば底知れないものがある……

「エレナさん、必要な時って今がそうなの?」
「えぇ、あの土地を無事に開発すれば沢山の種族が交流できる

夢の土地なの……

それに必要なお金なら
考える必要なんて無いかな」

 その言葉を聞いてフェルミンは気づいた、エレナは覚悟を決めている事に、それは既に国王が決める領域の話であった。


「なんで、それを私に教えてくれたの?
自然の揺り籠って……」
フェルミンが聞いた。

「フェルミンがパルセスの女王になればいいなって……
パルセスは今のままじゃいつか
自然の恵みを掘り尽くしてしまう。

そうなったら次は戦争になるかも知れない
ドワーフは物作りや商売が得意で
優しくて穏やかな種族……
そのままでいて欲しいから」

 フェルミンは驚く……でもエレナが女王になるならと一瞬考えた。

 エレナは先を見ていた、クリタス時代、そうユニオンの時代はクリタスが圧倒的な力を誇り、巨人族を支えユニオンレグヌスが安定していた。
 だが今は巨人族が居ない、そしてクリタスも再興出来たとしても、かつての力は無い……

 手段は一つしかない事に気づいていた、党首種族の無い、議会制、全ての種族が対等に話し合い支え合う、それ以外の手段を取れば争いがすぐに起きる。
 だが議会制にしても、争いは起きるかも知れない。
 その為に話し合える存在、自己利益に拘らない名君となれる者が王になって欲しかった。

 それと同時にもし争いが起きても、その争いを預かり、平穏を齎す者をエレナは探していた、争いを預かれる程の力と正しさを持つ者。

 それを両立出来る存在……巨人族が居ないこの時代に想いあたるのは一つしかない……

 神族しか居ない、神の血を引く者、だがそれは神話の様な話……

 ピリアとフィリアはオプスの髪の星から生まれた……血を引いてる訳ではない為に神族に近いが神族とは言えない、そもそもドッペルは魔族で暗黒世界の存在……

 エレナは知らない、ユリナが神の血を濃く引く神族である事を、六大神の一人、光神ルーメンの子だと言う事を、そしてフロースデア家の秘密も……


 ユリナが魔力修練の最高位の呼吸法が苦手なのは、あまりにも神の血が濃い神族の為に、自らの魔力と他の神の魔力がぶつかってしまい上手く出来ないのである。
 更に六大神が親戚なために、他の神の偉大さを、凄い!と言う位しか感じないので完璧に出来るはずが無い……

 それをエレナが気付く筈がない、そう言った訳があり、親しい存在であるフェルミンがパルセスの女王になって欲しいと思っていた……。

「お母さん、喉乾いたからお茶持って来るね」
そう言って、何も知らないユリナは部屋から出て行った。



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