✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

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〜第五章 ファーブラ・神話の始まり〜

99話✡︎✡︎八万年前……✡︎✡︎

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「これでピリアの願いが叶ったな」
「トールさん、ありがとうございます。
本当にありがとうございます」
 ピリアは何度も礼を言うが、ユリナはエレナが心配でそう言う気にはなれなかった。


「ユリナ、どうした?」
「ううん、何でもない目的は達成出来たから、早く帰りましょう」
「嬉しくないのか?」
トールがまた聞いて来た。


ユリナは少し顔を曇らせながら言う。
「今、私の近い人が苦しんでた気がしたの、だから心配で、喜べなくてごめんね……」
「ユリナさんの近い人?エレナ様が⁈」
ピリアが驚く。
「そうか……この棚にはまだ何かあるか?」
「破壊と科学の棚には、多くの破壊の記録とそれに関する巨人族の魂無き魔法、科学の記録があります。
出来れば封印しておきたいです」

 それを聞きトールは暗黒を使い、闇の封印を施し、ウィンダムの力で風の封印も重ねて封印した。

「またせたな急いで帰ろう。」
そうユリナとピリアに言い、急いで帰りはじめた。


 翌日、何事も無く記憶の間の出口に着くとユリナはふいに振り向いた、まだクロノスが記憶の間にいる気がした。
「ユリナさんどうしました?」
「ううん、何でもないよ行こう」

 三人は記憶の間を後にした、そして急いでミレスに戻り、王宮に帰りエレナの所に戻るとエレナは何事もなかった様にユリナ達を迎えた。

 ユリナは記憶の間であった事を全てエレナに話した。
 魔王の夢、クロノスにあった事、クロノスの神話、そしてエレナの事が心配になったこと全てを話した。


「心配してくれてありがとう。
こっちは大丈夫だよ、でも……」
 エレナはある事を感じたが、あえて言わなかった。
「でも?」
ユリナが聞いた。

「ちょっとね気にしないで……
ユリナもう一度記憶の間に行って、ダークエルフとエルフが何故争い始めたか調べて来てくれない?」
「ダークエルフ?」

 エルフとダークエルフは同じ種族と言える、だがある時を境に対立し始める、その溝は深く何故そうなったのかをエレナは知りたかった。

「その記憶ならミレスの棚から、すぐに見れますね。」
ピリアがそう言い。
「うん、解ったけど明日見に行くね……
少し疲れたから」
 ユリナはそう言い安心して屋敷に帰って行った。


 エレナは感じた、クロノス程の神が調べに来ていた……災いの日が近いかも知れない、そう感じたのだ。
 もしそうなら、話さえ聞こうとしないダークエルフとの関係を早急に改善しないといけない、そしてディアボルスが敵なのか味方なのかも解らない……

エレナは焦りを感じていた。

 だがユリナは別の答えを見つけていた。
 もし神が手に取らなかった、憎悪、憤怒、悲嘆、恐怖、絶望と言った心が冥界を生み出したなら……
 冥界の神々を神として天界に招けば、冥界は消えるのでは無いか、消えなくてもそれらをまとめる役目を与えれば、冥界と地上の争いは消えるのでは無いか……

 そう考えながら屋敷に向かい馬を走らせていた。

「トール、クロノス様は私の話を聞いてくれるかな?」
 屋敷に着いたユリナがふいにトールに聞いた、トールは天界で直接クロノスと話した事があるからだ。

 トールはユリナの秘密をオプスがいる時にクロノスから聞いている……それを考えユリナに答えた。
「多分聞いてくれるだろう、それを聞き入れるとは限らないがな……」
「やっぱり巫女だから?」
「あぁ、神に仕える者だからな」

トールは秘密を明かさず上手く答えた。


 翌日ユリナ達は記憶の間を再び訪れる、ユリナはまだ記憶の間にクロノスがいる事を感じるが、呼ぼうとはしなかった。

 何故かそのうち会える気がした。

 ピリアが、何時ものおいでおいでをして、暫くして一枚の石板が飛んできた。
「そう言えば、この石板は一度シンシル様が見はしませんでしたが、お呼びになりましたよ。」
「どう言うこと?」
「地上で何かあった様ですね。
その時は黒い霧に包まれ不吉の兆しがありましたが、確か翌日には晴れました。」

 ユリナはエレナとアルベルトが結ばれた話を知らない為に、それがなんなのか解らなかった。
「こちらは八万年前のサラティアの石版ですね。では写しますね」



 静かに遠い過去、八万年前の記憶が映し出される……




「第二師団は民の避難を急がせろ!
第三第四師団は私に続け!
少しでもミノタウロスを抑えるんだ‼︎」
「シェルド王子!
王は無事に闇の街道を通りセレスに避難し褐色の者達と合流!
援軍を集めております‼︎」
「援軍なんていらん‼︎
そんな物があの街道を使えば民の逃げ道が絶たれる!断れ‼」


 シェルドは軍を率いて非難する民とは逆に進んでいく……
 延々と続く力無き民の列の最後尾が見えない……

 シェルドの隊が伸びきった時に、急に横の林からミノタウロスの部隊がシェルドの部隊に奇襲をかけて来た!

「何!退路を守り民を逃せ‼︎
敵の数は⁈⁉︎」
「二個中隊!約二千‼」

 シェルドは焦る……二千といえども獣人族は屈強な戦士達の部隊、速さと正確性が強いエルフ達は肉弾戦ではミノタウロスには劣る、時が経てば前からも攻め寄せてくるのは目に見えている。


「前方部隊反転!
蜂矢にて奴らを粉砕突破せよ‼︎」


 シェルドはまだ先にいる、自分達よりも前に居る民を瞬時に見捨てた……
 このまま全てを助けることは出来ない、もしここで戦力を削がれ、時間を奪われたら。
逃げ切れる民も救えなくなってしまう。

 シェルドは心の中で涙を流し剣を抜いた。
 そして奇襲して来たミノタウロスの一群に突撃して行く……

 激しい戦いの末、見事に突破して後方の部隊と合流し体勢を立て直し、防御陣を敷き少しずつ後退していく。

 時折ミノタウロスの部隊の後方から悲鳴が聞こえて来る、力無きエルフの民が無残に殺されていくのだ、女も子供にもミノタウロスは容赦しない。

 正にあの先は地獄と化している……

「ウァァァーーーー‼︎」
シェルドが叫んだ、救えなかった苦しみと怒りを込めて……何度も叫んでいた。



 それを見ていたトールはシェルドの気持ちを深く理解した、ユリナにもシェルドの悲しみが心の奥底まで響き渡っていた。


「こんな戦い……」
ユリナが呟く。

「シェルドの判断は正しい……
生き残る事で多くを守ろうとした。

俺には出来なかった事だ……」
トールが言う。

 ユリナはトールの気持ちも理解していた、トールが悔やむあの戦いを考えたら、ユリナは何も言えなくなってしまった。

(なんで……種族同士で……
なんで……地上の者達で争うの?
冥界が敵じゃないの?……)
ユリナは深くそう思っていた。
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