セラフィムの羽

瀬楽英津子

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良二II

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   亜也人の白く細い首が、良二の手の中でヒクヒクと動いていた。
    同じ男とは思えない、柔らかく滑らかな肌。両手の中にすっぽりと収まり、なおも余る華奢な首。控えめに出た喉仏。亜也人の身体はどこもかしこも繊細で、良二をひどく困惑させる。
   そのくせ、この、誘うような反応は何だ。強く抱けば折れてしまいそうなのに、ひとたび触れれば、吸い付くように寄り添って離れない。
    受け入れているのか、いないのか。そもそもどちらが誘っているのかも解らない。しているようで、されている、自分が亜也人の中の何かに操られ、亜也人の意のままに動かされてるような気さえする。

  「俺を見ろよ、亜也人…」

   親指の腹に力を入れ、良二は、亜也人の首をギュッと絞めた。同時に、亜也人の中にずっぽりと埋めたイチモツを深く激しく突き上げる。
   ん、ん、ん、ん、ん、と、亜也人が背中を仰け反らせて喘ぐ。

  「こっち見ろ、って」

   大きく開かれた、血走った目。まるで目の内側から血が滲み出るように、亜也人の濁りの無い青白い綺麗な白目が、涙に潤みながらじわじわと赤く染まり出す。濡れた睫毛が目の際で束になり、溢れた涙が震えながら頬を伝い流れる。

  「んんんんー、んんー、んんっ、んっ」

   亜也人は何を伝えたいのだろう。必死で訴えかける亜也人の瞳を見ながら、良二は、身体の奥深くに沈めたイチモツを、下から上へ擦り付けるように奥の奥まで突き上げた。

  「いいよ、亜也人。すげぇ締まる。すげぇ気持ち良い」

   下半身がぶつかり合う音がパンパンと響き渡り、繋がった部分がグチュグチュと卑猥な音を立てる。それが媚薬となり、良二は、更に激しく腰を動かした。自分がどんなふうに出し入れしているかなど気にも止めず、欲望のまま、ひたすら、奥へ奥へと突き入れた。
    どの辺りが限界なのだろう。唇の色が無くなり、震え出した時。瞳が、ぼんやりとして何も映さなくなった時。しかし、それよりも先に、亜也人に首を押さえる腕を何度も叩かれ、良二はやんわりと手を緩めた。 

   ごほっ、ごほっ、と、亜也人が激しくむせ返る。身体を折り曲げ、喉をかばうように手で押さえ、亜也人は、切なそうにゼイゼイと喉を鳴らした。亜也人が咳込むたびに、熱い肉壁が良二の埋め込まれたままのイチモツをビクンビクンと締め上げる。
   たまらない快感だった。良二は、亜也人の首に再び手をかけた。
   キュウゥゥゥと絞め上げ、さっきよりも更に激しく腰を振る。

  「んー、んんっ、んー、んー」

  「ああ、亜也人…。すげぇよ。何だこれ。すげぇきもちいい…」

  「んんんっ、んー、んんー、んふっ、ん」

   お尻がぶつかる音が早くなり、後孔から、ネバついた液体が伝い流れる。

   良二の猟奇的はセックスは、亜也人が腕を叩いて助けを求めるまで続く。腕を叩かれ手を緩めると、ふたたび、亜也人が、ごほっ、ごほっ、とむせ返る。

  「亜也人! 亜也人!」

  「りょ…ひっ、ゴホッ…りょう…じ…んっ」

  「亜也人! あ、たまんねぇよ。亜也人」

  「も、だめ…死んじゃう、あっ…そ…な突いちゃ…だめっ…」

   しかし、首絞め行為が終わったからと言ってセックスが終わったわけではない。むしろ良二の身体は、精力が底無しになったのではないかと思うほど亜也人の中に入りたがった。
   散々、貫かれ、イカされた亜也人の身体は、もはや軽く突かれるだけでイッてしまいそうなほど敏感になっている。それは、良二の情熱を受け止めるには酷な状態で、亜也人は、良二に貫かれながら、気を失ってしまう事がよくあった。

  「あああ…ま、てっ。んはぁっ、…も、だめっ…やあっ…ん」

  「もうちょっとだけ我慢しろ…」

  「んやぁっ、それ、だめっ、いっ、イクっ、イッちゃ…うっ…あ、んんっ」

   俺はいつか亜也人を殺してしまうかも知れない。

   亜也人が気を失うたび、良二は、恐ろしさを覚えた。
   しかし、亜也人を見ると強引に引き寄せてしまう。亜也人を思うだけで、自然と奥歯に力が入り、ギリギリと噛み締めてしまう。
   大切にしたいと思う一方で、めちゃめちゃに壊してしまいたい衝動に駆られる。

  「やっぱ俺、異常者なんかな…」

   自分の下で、息も絶え絶えに喘ぐ亜也人に呟いた。

  「なぁ、亜也人。…はぁ…俺はどうすりゃ良い?  どう…すりゃ、お前に酷いことっ…しねぇで済む?  」

  「やめっ!も、うごかさな…で、そ…なしたらっ…死んじゃ…あ…んっ」

   亜也人の背中がビクッと跳ね上がり、両肩に持ち上げた脚がガクガクと震え始める。身体の中は恐ろしく熱く、内壁の粘膜という粘膜が、良二の中の雄を一滴残らず搾り取るように締め付けた。

  「亜也人…」

  「も…やめ…っ、おねが…」

   最後まで言い終えないうちに、亜也人は、ガックリと頭を下げた。
   またか。
   亜也人が気を失うのと同時に、良二の背筋に冷たい震えが駈け上がる。
   それでも良二は欲望を止める事は出来なかった。
   良二は、動かなくなった亜也人の身体に更に激しく腰を打ち付けた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆



  「だから言っただろ?俺の忠告を無視するからこんな事になるんだよ」

   電子タバコを咥えながら、内藤圭吾が、良二を振り返った。
   石破組の、組事務所。およそヤクザの若頭には見えない、きっちりと撫で付けられたセンター分けの黒髪に黒縁メガネ。いかにも頭の切れそうなインテリ風の佇まいで、内藤は、専用デスクのリクライニングチェアーにもたれていた。

  地場をしきる勢力と、その領内の不良グループとは密接な繋がりがある。とくに、私立北一高校は、内藤の出身校であり歴代番長とも面識がある関係上、他のどのグループより内藤と親密な関係にあった。
   
   良二は、北高に入ってすぐ、当時二年生の山下に紹介されて内藤に会った。ヤクザへの憧れなど微塵も無かったが、内藤は、義理人情の熱い任侠の世界には似つかわしくない冷めた男で、考え方も行動も冷酷かつ合理的、変に威張ったり、必要以上に手懐けようとしないところが、群れを嫌う良二の性に合っていた。
   以来、良二は、内藤に頼まれ色々な仕事をこなした。主に、ナイトクラブでクスリを売り捌く役目が多かったが、借金の取立の同行や、祭り等のテキ屋の見回りに駆り出される事もあり、良二の生活にそれなりの刺激を与えた。
   亜也人と出会った夏祭りの日も、良二は、山下とともに内藤に駆り出されてテキ屋の見回りに来ていた。
   そして、最初に亜也人を見付けたのも内藤だった。
   並んで歩く内藤が突然足を止め、良二もつられて足を止めた。見上げると、いつも能面を貼り付けたような無表情な内藤の口元が、微かに笑み型に引きつっているのが見えた。瞳も同様に、落ち着き払った闇色の奥に、狂気を孕んだ不気味な光が宿っていた。
    内藤の視線の先には亜也人がいた。

  「見ろよあの絶望に取り憑かれた目。ゾクゾクしねぇか? ありゃあ完全に予後不良だな。ほっといたらそのうち死ぬぞ」

   まるで、瀕死の獲物を前に舌舐めずりするように、内藤は、視線の先の亜也人を嬉々とした目で見た。

  「ああいうの見ると、トドメを刺してやりたくなるんだよ。お前もそうだろ?」

  「え…」

  「隠すなよ。お前も俺と同じだよ。綺麗なもんが弱ってるとこ見るとそそられるだろ?めちゃくちゃに壊してやりたくなるだろ?」

  「俺は別に…」

  「別に、そうじゃねぇ、ってか? そうだよ。俺とお前は同類だ。間違っても助けてやろうなんて思っちゃダメだぜ?」

   全てを見透かすように、内藤は笑った。

   良二と内藤が見つめる中、亜也人は、おぼつかない足取りで男に手を引かれて歩いて行った。
   その後、良二は山下と合流し、三人で祭り会場を見回った。場内を歩いている間、良二は内藤の言葉を思い出していた。

  『トドメを刺してやりたくなるんだよ』
  『めちゃくちゃに壊してやりたくなるだろ?』

   そうなのだろうか、とふと思った。
   冷酷非道だとよく言われる。殴り始めると次第にヒートアップしてなかなか止まらない。やりすぎだ、と言われる。加減を知らない、と恐れられる。痛めつける事に対しての恐怖心や罪悪感が他人と比べて少ないことは自覚している。
   それは、自分が内藤のような人間だからなのか。自分も内藤のように、能面を貼り付けたような、冷たい無表情な大人になるのだろうか。
   頭の奥に、今しがた見た、亜也人の、何も映していない真っ黒い穴のような瞳が思い浮かんだ。
   あいつはどんな大人になるのだろう。 
 
  『ほっといたらそのうち死ぬ』

   それはいつの事だろう。ふと思い、亜也人のことばかり考えている自分に戸惑った。
   まさか、助けようなんて思ってる訳じゃないだろうな。
   そんなわけ無い。
   思いながらも、内藤と別れた後、山下と並んで帰る道すがら、良二は亜也人の姿を探していた。
   そして、亜也人は、まるで、ふたたび出会う運命だったかのように良二の目の前に現れた。
  
   突然立ち止まった良二を、隣にいた山下が怪訝そうに見る。
   しかし良二は亜也人しか見ていなかった。

  「知り合いか?」

     まさか、と良二は答えていた。答えた、という自覚は無かった。思いが勝手に口からでていた。
  
  「まさか、あんな透き通った人間、知るわけない。あれ見てよ。俺、綺麗なもん見るとめちゃくちゃに壊してやりたくなるんだよね。なぁ、山下さん。俺、あいつが欲しい。あいつの周りにいる奴らシメて良い? あいつらシメて、あいつ、もらって良い?」

   以来、良二は亜也人と密接な関係にある。
   ちょっとした出来心が、思いもよらず離れられなくなってしまった。

  『助けてやろうなんて思っちゃダメだ』

   今、目の前にいる内藤は、あの日、良二にそう言った時と同じ目をしていた。

  「お前らは、お互い出会っちゃいけない相手だったんだよ」

   内藤は言うと、電子タバコの吸い口を咥えた唇を片方だけ吊り上げてフフンと笑った。

「運命の相手、って言うのは2種類いてな、一つお互いを高め合える最高最強な相手、もう一つは、お互いをことごとくダメにする最低最悪な相手だ。お前らは最低最悪。あいつはお前の悪い部分をどんどん引き出すし、お前もあいつの悪い部分をどんどん引き出す。
   あいつと付き合ってからお前、友達減ったろ? みんなお前の変化に気付いてんだよ」

  「俺がどう変わったって言うんですか…」

  「てめぇのツラ見て解らねぇか。ま、自分じゃ解らねぇんだろうなぁ。あいつも気の毒に…。絶望に取り憑かれてた頃はまだ可愛かったもんを、ついに自分から飛び込むようになっちまったか。そのうち、殺してくれってせがむようになるぜ? そしたらお前は犯罪者だ」

  「そんなことは…」

  「無いとは言い切れないだろ?今回だって、あと一歩遅けりゃ大変な事になってたんだ。このままじゃ、あいつは死ぬし、お前は人殺しだ。お前らの行く末なんて、殺人か心中がいいとこだ。お前らは一緒にいちゃダメな相手なんだよ」

   内藤の鋭い視線が胸に突き刺さる。良二は言い返す言葉が見つからず、ただ、憮然と俯いた。
   内藤は、良二の様子を観察するようにじっと見詰め、やがて、ゆっくりと切り出した。

  「だがそこで俺から提案がある。お前、あいつを俺によこさねぇか?」

   良二がビクッと顔を上げる。内藤は、良二の反応を気にも止めず、まぁ聞け、とばかり良二を見据えた。

  「実は、例の仕事をオヤジに嗅ぎつけられた。尻尾を掴まれる前に、誰か捕まえて落とし前をつけなきゃならない」

  「まさかそのために亜也人を…? どうして…」 

   内藤は、

  「お前のためだよ」

   真剣な眼差しで語気を強めた。

  「お前たちは一緒にいると不幸になる。お前だって、オヤジに殺されたくはないだろう? オヤジはああ見えて俺より残忍だ。命が助かったとしても五体満足じゃいられないさ。だが、お前が亜也人を俺によこす、って言うなら、俺がお前を救ってやる。もちろん、亜也人だって悪いようにはしねぇ。亜也人は俺が手元に置いて普通の十代の若者らしい暮らしをさせてやる。たまにはお前にも会わせてやるし、ちゃんと学校にも通わせてやる。本音は、今すぐにでも引き離したいところだが、そんなことしたら、お前、どうにかなっちまうだろ?だから、百歩譲って、あいつと距離を置くって事で妥協してやってるんだ。俺様の仏心だよ」
   

   そこまで言うと、内藤は、デスクの上に両肘を突き、手の甲に顎を乗せて、良二に向かって身を乗り出した。

   「なぁ、良二。これはお前たちにとっても悪い話しじゃない筈だ。ハマり過ぎるピースは怖ぇんだよ。お前たちはハマり過ぎてる。外れなくなる前に外さなきゃ、一緒にブッ壊れちまうんだよ」

   良二の心の奥底に、冷たい雫がぽたりと落ちた。
   
   一緒にいちゃダメな相手?なんだよそれ。

   頭の奥がぐにゃりと歪んだような気がした。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


   ドアを開けると、亜也人はベッドの上で上体を起こし、入ってきた良二をオロオロと見上げた。

  「良二! ここどこ?俺、どうしてこんなところにいるの?」

  良二は、大丈夫だから、と答え、亜也人の座るベッドの上に、亜也人の顔が見えるようにお尻を乗り上げた。

  「内藤さんのマンションだ」

  「内藤さん…?」

  「バイトでお世話になってる人。お前、急に息止まるから、俺、慌てて内藤さんに連絡取ったんだ。その…救急車とかはヤバイと思ったから…。それで、ここへ運んで、内藤さんの知り合いの医者に診てもらった」

   亜也人は、良二の説明に黙って耳を傾けていたが、良二が話し終わって顔を上げると、妙にはにかんだ様子でむずむずと上唇を尖らせた。

  「何だよ、変な顔して…」

  「だって、良二、心配してくれてるから、俺、嬉しくて…」

  「嬉しい…?」

   上目使いにコクリと頷き、何かをねだるような甘えた目付きで視線を合わせる。

  「だって、こんなの全然たいした事じゃないのに、良二、凄く心配してくれるから。良二にこんなに心配してもらえるなら、倒れるのも悪くないかな…なんてね」

   良二の胸の奥に冷たい雫がもう一滴落ち
た。

   命の危険より、心配されることの方が嬉しいと言うのか。
   自分の顔が歪んでいくのが、自分でもよく解る。酷い顔をしているということは、見詰め合った亜也人の悲壮な顔付きから想像がついた。自分はきっと亜也人と同じ顔をしているに違いない。
   勘弁してくれ。
   良二は深い溜め息をついた。

  「なぁ、亜也人。お前、そろそろ家帰れ」

   今が潮時なのだと思った。
   亜也人は躊躇いもせず頷いた。

  「もちろん。俺も早く帰りたい。知らないところは落ちつかないよ」

  「そうじゃなくて、自分の家に帰れ…」

  「え?」

  「お前、二年になってからまともに家帰ってねぇだろ? ちゃんと家帰って、学校行け。今ならまだ間に合う。俺なんかといるより、ちゃんと学校行って、友達作って、普通に暮らした方が、よっぽどお前のためになる…」

   途端に、亜也人が大きく目を見開いた。

  「ちょっと、何それ。どういう意味!」

  凄い迫力だった。良二の胸ぐらに掴みかかり、眉間を険しく顰め、この世の終わりとでも言いたげな切羽詰まった様子で、亜也人は良二に縋り付いた。

  「なんでいきなりそんなこと言い出すの?俺がこんな事になったからビビったの? それとも、もう俺に飽きた?」

  「そうじゃない!」

  「だったら何!? こんなの本当に何でもないんだ!俺、柔道部だった、って言っただろ? 練習じゃ、もっと酷い落とされ方いっぱいされたよ。だから、慣れてるんだ。こんなの平気なんだよ、俺は!
   本当に、なんでも良二の好きなようにしていいんだ。なんでも言ってよ、俺、なんでもするから。俺、良二に飽きられないようにするから!」

  「亜也人、落ち着け、って」

   この細い身体の一体どこにそんな力があるのかと思うほどの力強さで、亜也人は、良二を押し倒し、脚を跨いで馬乗りに乗り上げた。

  「お願い、良二。悪いところがあったら直すから、お願いだから俺を捨てないで…」

   まるで合せ鏡だ、と良二は思った。心を読まれているかのように、亜也人は、いつも良二が欲しい答えをくれる。しかしそれは、良二にとって嬉しい事ばかりではなかった。亜也人といると、自分の本心を見せ付けられているような場面に出くわす。自分が見たくない、自分自身の嫌な部分を炙り出され、晒されているような気分になる。

   だからこんなに痛め付けたくなるのか。
   自分の嫌な部分だから。

  「お願い、良二、俺を側に置いてよ。良二がいないと、俺、死んじゃうよ!   良二に捨てられるぐらいなら死んだほうがマシ。捨てられるぐらいなら死んでやるっ!」

  「亜也人…」
 
   どうしてこうなった、などと今更考えたところで意味は無い。もう、そういうところまで来てしまった。良二は覚悟を決めるしか無かった。

  「俺と離れたくないんだな?」

  亜也人の髪を撫でながら、良二は、宥めるように問いかけた。
    亜也人は、良二の胸ぐらを掴みながら、背中を丸め、喉に頭を押し付けて啜り泣いている。まるで、小さな子供のようだった。両手を伸ばし、手のひらで頬を包んで頭を持ち上げると、亜也人は、涙に濡れた睫毛を震わせて、「離れたくない」と答えた。

  「解った。その代わり、一つだけお願いがある」

  「うん…」

  「俺のこと助けて欲しい」
  
  「言われなくても助けるよ。良二のためなら何だってする」

  「亜也人…」

   「良二のことが大好きなんだ。もう離れられない。離れるなんて言わないで」 

   亜也人は言うと、良二のシャツを掴んだまま、ゆっくりと顔を近づけ、口付けた。

   こんな時ですら、亜也人の舌は熱く柔らかく良二を魅了する。
   唇を開いたまま、お互いの唇を吸っては離し、舌を突き出しては絡め合う。湿った吐息が鼻先で混じり合い、唾液を啜る音を卑猥に篭らせる。
   「んっ…」と、亜也人が悩ましく喘いだのが引き金だった。
   良二が亜也人の肩を抱いて、身体をゴロンと反対側に返す。亜也人をベッドに仰向けにしておいて、肩を押さえて唇を舐め、舌を割り込ませて口内を貪った。口の端から溢れた唾液をジュルジュルと音を立てて啜り、そのまま顎から喉にかけてのラインを唇でついばみ、吸い付きながら下りた。

  「続けても良いか?」

   鎖骨の窪みに来たところでひょいと顔を上げると、亜也人が瞳を潤ませて、こくり、と頷いた。

  「最後までやっちまうぞ?」

  「ん。して。俺もしたい」

   ねだるように開く唇にもう一度口付けて、トレーナーの襟を唇で押し下げて中をまさぐりながら、片方の手を裾から差し入れて乳首を摘んだ。まだ柔らかい乳首を親指の腹で弾くようにさすると、亜也人が、声を殺して、んふっ、んふっ、と喘いだ。

  「声、出せよ…」

    「だっ…て、んっ…ここ、ひとン家…っ、だ、からぁ…んっ」

  「内藤さんはここへは帰ってこねぇよ」

  「ああんっ!」

   トレーナーの裾を捲り上げ、片方の手で乳輪を摘んで乳首の先を舌でつつき、もう片方の手で、反対側の乳首を、人差し指の腹を左右に揺らして擦り撫でる。
   亜也人が背中をくねらせて嫌がるさまが堪らなく愛おしい。そのくせ気付くといつも奥歯をギリギリと噛み締めている。愛おしさの裏側で、捻りつぶし、握りつぶし、めちゃめちゃにしてやりたい衝動が巻き起こる。
   愛しているのに傷付けたいと思う。興奮という言葉では片付けられない特殊な欲望が良二の中にある。それが、亜也人によって引き出されている、と言われれば、良二には言い返す言葉が無かった。
   そして、解っていながらも止められない。
   乳首を弄んでいた指をみぞおちに滑らせ、へその窪みから下腹に伸ばして、スウェットのズボンの中に潜り込ませた。ああん、と喘ぐ亜也人の悩ましい声を聞きながら、わずかに芯を持ち始めた亜也人の下腹部を手の中に握り込み、根元からカリ首にかけて素早く激しく扱き上げた。

  「あっ、痛っ。ん!あああん、んんっ、ダメっ! そんな…ぁっ…んあっ、んっ、あぁっ…」

  「今日は、嫌、って言わねぇの?」

  「い、嫌、じゃない…からぁっ…んっ、あ、俺、良二に、気持ちよく…んっ、なって欲し…からぁっ…んんっ、んあっ」

  「クソッ。そんなこと言われたらすぐ入れたくなっちまうだろ?」

  「入れていいよ…。入れて。…俺の中で気持ちよくなって…」

  「またお前はそうやって俺を煽りやがって…」

   言い終わるのが先が、良二が亜也人のズボンを慌ただしく引きずり下ろし、足首から引っこ抜く。
  「痛かったら言えよ」と言いながら、亜也人の竿の先から垂れた先走り液を後ろの孔に擦り付けて、人差し指で入り口をゆっくり揉みほぐした。

  「痛くねぇか?」

  「痛くない。気持ち良い…」

   グチュグチュグチュ、と卑猥な音を立てながら、入り口を上下に広げ、中指を滑り込ませる。何人もの男に蹂躙されてきただろうに、亜也人の秘部は色素沈着が殆ど無く、僅かに赤みがかっている程度の初々しさで良二の指を飲み込んでいく。
   この可憐な小さな孔で、亜也人は、この指の何倍も太く逞しいものを飲み込み、離れないように締め付けて、一滴残らず搾り取るのだ。想像すると、良二の奥歯がまたギリギリと軋み出す。
   特に今日は、自分でも呆れるほど硬く大きく張り詰めていた。その熱く猛々しくいきり立ったイチモツを、亜也人の手を取り、手のひらに握らせた。

  「こんなに大きくなっちまってごめんな」

   亜也人は、「大丈夫、平気」と笑った。

  「こんなとこでやると思わなかったからゴムも無ぇや」

  「いいよ。そのまま入れて、中に出して」

   良二は頷き、亜也人のお尻を持ち上げて膝の上に引き寄せた。
   ドクドクと波打つイチモツの先端を後孔に当て、腰を低く落として、下から上へ、舐め上げるようにスライドさせながら嵌めていく。
   ああああん、と亜也人が肩を竦めて喘ぐ。切なそうに眉を顰める表情に、良二の奥歯がまた軋み出す。
  『痛くしない』という約束は早くも崩れた。
   くびれたウエストを掴み更にお尻を引き寄せて、両脚を担いで肩の上に持ち上げた。そこから奥の奥まで腰を突き入れる。まるで亜也人を身体の内側から壊しているような気分になる。奥へと突き入れたい衝動が止まらない。もっともっと中に入りたい。自分の猛り狂ったイチモツで亜也人の中を隙間なく埋めて、淫らな音を立てながらめちゃくちゃに掻き回したい。
    亜也人の苦しそうな顔、切ない喘ぎ声、全てが狂おしいまでに愛おしく、噛みちぎりたくなるほど欲しくなる。

  「亜也人! 亜也人!」

   「あっ、深い、深いよっ、…りょうじ!」

  「気持ちいいか? 亜也人、気持ち良いか?」

   亜也人の脚を担いだまま背中を折り曲げ、ヒクつく身体に抱きついて唇を吸った。
   腰を揺さぶるたび、亜也人が、あ、あ、あ、あ、と、か細い声で泣く。

  「あ、ダメ、そんなにしたらっ、イッちゃう」

  「扱いてやるからイケよ」

  「あっ、やあっ!!」

   身体を起こし、亜也人の少年らしい綺麗な下腹部を握り強く扱き上げる。

  「ダメダメ、イッちゃう、良二! も、ダメ、いや、あっ、も、イッちゃうからっ!」

   イケよ、と、腰を突き上げ、握りしめた陰茎を下から上へねじり上げた。
   瞬間、亜也人がビクッと背中を跳ね上げ、後孔の内側をヒクヒク痙攣させる。吐き出された液体が白い肌の上で光り、みぞおちの窪みに花びらのような模様を作った。

  「俺もイッていい?」

   亜也人の、額にこぼれた黒髪を指で払いながら、良二は、返事を待たずに腰を揺さ振った。
   亜也人は身体をぐにゃりと弛緩させたまま、虚ろな瞳で、あっ、あっ、と喘いでいる。
   紅潮した頬、艶やかに濡れた唇。顎の先が震え、細く白い喉が、息を飲んでゴクリと波を打つ。
   良二は、亜也人を深く貫きながら、自分の下でされるがままに揺さ振られる亜也人の汗ばんだ額と、切なく歪んだ眉を見ていた。

   綺麗だ。

   思った瞬間、白く細い喉に手を伸ばそうとしている自分に気付き愕然とした。

   異変を察知して、亜也人が、なに?と目を見開く。

   瞬間、息が止まった時の亜也人の顔がフラッシュバックした。

   同時に、身体の奥から熱い塊が押し上げた。

   良二は、フラッシュバックした亜也人を見て果てた。

   胸の奥がざわつき、頭の中がぐにゃりと曲がった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




「ようやく決心がついたか」

   内藤の神経質そうな細い目が、良二を見て、少しだけ柔らかく目尻を下げた。

  「いい心掛けだ。何にでも、ほどよい距離、ってもんがあるからな。お前らだって距離さえ保ってりゃなんも心配いらねぇんだ。今はダメでも、お互いオトナになって感情のコントロールが出来るようになりゃまた一緒にいられるかも知れねぇ。それまでは、付かず離れず、自分の目の届く範囲内に置いときゃいい」

   内藤の話は、自分自身ではどう考えても結論が出せない、八方塞がりの良二にとって、まさに救いの手だった。
   内藤は、良二と亜也人を『ハマり過ぎたピース』と言った。自分たちが周りからどう思われているのかは解らないし、正直、気にした事もない。それでも亜也人に対する想いが普通の色恋のレベルを超えていることは自分でも薄々感じていた。
   亜也人は自分にとって麻薬なのだ。
   ひとたび手を出したが最後、死ぬまで一生抜け出せない、とびきり極上の麻薬。そういう意味で言えば、内藤の言う、程よい距離を保つという考えは納得できた。
   亜也人の側にいるためには、自分自身が、亜也人に飲み込まれない男にならなくてはいけない。それまでは、目の届く範囲に置いておく。良二は内藤の意見に妥協点を見つけた。本心ではない、あくまで妥協だった。

  「あの…内藤さん…。亜也人のことですけど…」

  「なんだ?」

  「あいつ、あんまり身体、丈夫じゃないんで…その…酷いことはなるべくしないでやってもらえますか…」

  「は?」

   ははっ、と、内藤は珍しく驚いた様子で笑った。

  「自分は殺しかけといて、俺には、酷いことするな、ってか? こりゃ、笑っちゃうぐらい勝手な野郎だな」

  「解ってます。でも…」

  「安心しな。亜也人には何もしねぇよ。俺は、大事な弟分の色には手は出さない主義なんだ」

   良二は黙って頭を下げた。
   
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 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

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