セラフィムの羽

瀬楽英津子

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媾合〜そろそろココだけでイケるだろ

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  「お前、どっか行きたいとことか無いのか?」

  松岡の問い掛けに、亜也人が、ハンバーガーを頬張った顔をひょいと上げる。

  内藤の元を訪れてから二週間が経った夕刻。11月最初の連休を前に、松岡は、亜也人を連れてショッピングモールを訪れていた。

  目的は、亜也人の冬用衣料の調達と、気分転換。
  昨夜、松岡は、内藤とのやり取りの一切合切をようやく亜也人に打ち明けた。早く話さなければと思いながらも、それを聞いた時の亜也人の反応が気になり、ずるずると先延ばしにしてしまっていた。
  昨夜話したのも、予め決めていたわけでは無い。内藤に、亜也人の身体はいつ頃回復するのかと探りの電話を入れられ、このままでは亜也人に伝える前に仕事の依頼が来てしまうと、慌てて切り出したのだった。
  松岡は、慎重に言葉を選びながら、それでも、内藤と話した内容を包み隠さず全て伝えた。
  亜也人は、松岡の話しを物音ひとつ立てずに大人しく聞き、最後に、「わかった」とだけ呟いた。
  平気な顔をしていたが、夜、松岡が枕元にミネラルウォーターを置きに亜也人の部屋を尋ねると、寝返りを打って背を向けたシーツの奥から、微かに鼻を啜る音が聞こえた。嫌なら嫌で怒って暴れれば良いものを、誰も知らないところでひっそりと泣く姿が切なかった。

  だからかも知れない。松岡は、亜也人の喜ぶ顔が無性に見たくなった。

  「折角の休みなんだし、行きたいとこあったら連れてってやるから…。どっかないのか?」

  「んな、いきなり言われても分かんねーよ」

  「色々あんだろ。動物園とか、水族館とか。そうだ、いっそのこと、某有名ネズミ王国でも行っとくか?」

  「嫌だよ。野郎同士で恥ずかしい」

  仏頂面で見上げたものの、亜也人の声色は、心底怒ってはいなかった。

  「野郎同士で来てる高校生なんていっぱい居んじゃねーか」

  「あんたと俺じゃ親子だよ」

  「親子なら尚更いっぱい居んだろ。よし決まりな」

  「勝手に決めんな!」

  折角なのでショーレストランでディナーでもと思いオフィシャルサイトにアクセスしたが、休日だけあり、どこも予約で一杯だった。この分だとアトラクションもかなりな混雑が予想される。効率良く回るために亜也人に何が乗りたいか聞くと、なんでもいい、という返事が松岡に返ってきた。

  「何でもいいことねーだろ。絶叫系かショー系か。てか、ランドとシー、どっちにするよ」

  「どっちでも良い」

  「だから、それは無しだ。どっちか選べ」

  「本当に。俺、解らないから、本当にどっちでもいいよ…」
  
  逃げるように外らされた視線の先で、亜也人がカップについた水滴を指先でつねるように擦り潰す。亜也人に指先を弄る癖があることを松岡が知ったのはつい最近だ。前から何かあるとすぐに指先をつねるような仕草をしていたが、このところ頻繁なので嫌でも目に付いた。

  「行ったこと無いから。解らないから…」

  「え…」

  「母さん、外、出るの嫌いだったし。一緒に行く相手もいなかったから…」

  松岡は、「そうか」と答えた。喉の奥に何かが絡みつき、胸がつかえて声が微かに裏返った。

   「じゃあ両方行こう。どっかホテル取って…どうせ車なんだし、近くのホテルじゃなくても良いだろう?」

  「え……」

  「そうだ。それがいい、そうしよう。折角行くんだし、両方行こう 」

  亜也人は、ドリンクカップに刺さったストローを咥えたままポカンと松岡を見上げ、 しかしすぐに、怒ったような顔でドリンクを吸い上げた。

  早朝に出発することに決め、マンションに戻ると、松岡は、真っ先に亜也人の部屋に行き、目覚めし時計をセットしてからリビングに戻った。買い物袋もそのままに、亜也人を風呂に入れと追い立て、その隙に、小さな紙袋をテーブルに置く。
  内藤と取引きをした日、松岡は、亜也人から取り上げたままになっていたスマートフォンを、隠しておいた金庫から取り出し、充電した。
  このまま返さないつもりだったが、内藤からの仕事を受けることで、松岡は、自分がこの先、亜也人から色んなものを取り上げてしまうような気がしていた。
  それは、自尊心かも知れないし、生きる喜びや希望、ひょっとしたら生きる意味そのものかも知れない。この先の事を考えると、松岡は、自分だけはもう亜也人から何も奪いたくは無かった。

  亜也人が風呂から上がるのを待ち、戻ったところを呼び止めて向かいに座らせ、紙袋からスマートフォンを取り出し、差し出した。 

  「なんで…」

  「本当は、内藤から依頼が来た時に渡そうと思ったんだが、明日、はぐれた時に無いと困るしな」

 住所録を始め、メールの受信履歴や通話履歴、ウェブサイトの閲覧からアプリに至るまで、データは何一つとして消去していない。自分が直前まで使っていた状態のまま戻ってくるとは思っていなかったのか、亜也人は喜びよりも困惑したように表情を強張らせた。

  「これ…。俺、良二に連絡するかも知れないんだぜ…?」

  「したいならすればいい」

  「警察に電話して…あんたに監禁されてるって言うかも知れない…」

  「それならそれで、全て丸く収まって良いかもな」

  「あんた捕まるじゃん!」

  取り上げた時は返せ返せと喚き散らしていたくせに、いざ返ってくるとなると、まるで受け取りたくないような反応をする。亜也人はそれからもグズグズと意味不明な質問を繰り返していたが、松岡が、「いらないなら返せ」と声を荒げると、ようやく素直に受け取った。

  「こんなことしてもらっても、あんたのこと好きだなんて認めないから…」

  まるで、自分自身に言い聞かせるように、聞こえるか聞こえないかのような声で言うと、亜也人はゆっくりと椅子から立ち上がった。
  松岡は、リビングを抜けていく華奢な背中に、「解ってる」と呟いた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



  休日のテーマパークは想像以上の混みようで、開園前から入口ゲートは長蛇の列だった。
  入ってすぐにバケツ入りのポップコーンを買い、亜也人の首にぶら下げた。亜也人は、松岡を睨み付けながら、「恥ずかしい」と文句を言っていたが、その割には、アトラクションに乗る時以外はずっと首からぶら下げていて、松岡の目には気に入っているように見えた。
  アトラクションは当初予定していた半分も乗れなかったが、夜のパレードを満喫し、明日の事を考えて、パレードが終わったところでパークを出ることにした。
  早めに戻ったにも関わらず、帰り道、スーベニアショップの周りは酷い混雑だった。はぐれないよう亜也人の姿を確認しようと振り返ると、スーベニアショップのショーウィンドゥを真剣に見つめる亜也人の横顔が松岡の目に入った。
  見たい、と言っている気がして、松岡は、亜也人の手を引いてスーベニアショップに入った。

  「折角だから土産でも買っていけよ。欲しいもんがあったら言え。買ってやるから」

  亜也人は、いらない素振りをしながらも、混雑した店内をキョロキョロと眺め、可愛らしいピンク色で統一された、お姫様のコーナーで足を止めた。

  「お前、こういう趣味なのか?」

  「ちげーよ。あんたが買えって言うから…」

  「ふぅん。なら、あれにしろよ。あれ、お前に似てる」

  大きなピンクのリボンを付けた白い猫が、松岡の指差す先で悩ましげな視線を送っている。

  「バカにしてんのか?」

  「してねーよ。あの生意気そうな目付き、お前にそっくりじゃねーか」
  
  瞳の澄んだ大きな目を尖らせて、亜也人は松岡を睨み見上げた。松岡は亜也人を上から眺め、「ほら、そっくり」と笑った。

  文句を言いながらも、亜也人は白いネコのキャラクターの丸い手鏡を手に取り、それから、メインキャラクターのストラップを二つ選んで松岡に手渡した。

  長蛇の列を並んでレジを済ませ店を出ると、もうすっかりいい時間になっていた。予約した海浜エリアのシティホテルまで車を走らせ、部屋に入ると、亜也人に先にシャワーを浴びるように言い、入れ替わりで松岡がシャワーを浴びた。
  バスローブに着替えて戻ると、亜也人は濡れ髪のままベッドの上で胡座をかき、背中を丸めて膝の上に置かれたスーベニアショップの袋を眺めていた。

  「先に髪乾かしとけ、って言ったのに」

  何も耳に入らないほど夢中になっているのか、松岡の声はおろか近付く気配にも全く気付かず、松岡がギリギリまで近付いて頭を小突いて初めて亜也人はビクリと顔を上げた。

  「土産、渡したいのか?」

  あたふたとした視線が松岡の視線に絡み付く。
  松岡は、ホテルに向かう道中、助手席で、亜也人がこの袋を大事そうに胸に抱えていたのを知っている。カラフルなキャラクターのついた袋を、亜也人は、始終大事に自分の胸に寄り添わせるように置いていた。顔は窓の外の夜景に向いていたが、意識は常に胸に抱えた袋に向いている。亜也人の抱き方はそれくらい優しく繊細だった。

  「早く渡したいなら連れてってやるぞ?」

  亜也人は、小突かれた頭に手を当てたまま、戸惑った様子で松岡を見上げた。

  「でも、明日は…」

  「早めに帰りゃいいじゃねーか。何なら、別の日に出直したっていいんだ。こんなとこぐらいまたいつでも連れて来てやるよ」

  嬉しいのに困惑した表情を浮かべるのはどういう心理なのだろう。
  亜也人の顔は、一瞬、確かに嬉しそうにほころんだものの、直ぐに困惑したように重く固まった。亜也人のこういう反応を見るたびに、松岡は、亜也人が、嬉しいことに怖じ気づいているような、喜びに尻込みしているような気がして、堪らない気持ちになる。
  嬉しいなら嬉しいと素直に喜べばいいものを、いつもどこか遠慮がちに距離を取り、曖昧な表情を浮かべて自信なさげに気持を閉ざす。その希薄で儚げな感じも亜也人の魅力ではあったが、松岡は、気が強く反抗的な亜也人を知っている。抵抗する時の噛み付くような激しさ、絶対に屈服しないという強い意思の表れた目、快楽に溺れまいとギリギリまで踏ん張る気位の高さ、そういう亜也人を知っているだけに、嬉しさを感じた時のギャップの大きさに戸惑う。
  嬉しさだけでなく、楽しさ、優しさといった前向きな感情表現が圧倒的に足りない気がする。
  単に慣れていないだけなのか、それとも、喜んだ後にガッカリさせられたトラウマでもあるのか。本当の理由は亜也人本人しか解らないが、後者でなければ良いと松岡は思った。

  「どうするかはお前に任せるから、明日の朝までに決めとけ」

  言いながらドレッサーの椅子にどっかりと腰を下ろすと、松岡は、ヘアドライヤーを掴み取り手早く髪を乾かした。亜也人は、松岡の背中を途方に暮れたような顔で眺めていたが、松岡が自分の髪を乾かし終わり、「ついでに乾かしてやる」と振り返って亜也人にドライヤーを向けると、ぱっと顔を上げ、珍しく素直に頭を差し出した。

  亜也人の髪は濡れ髪でも柔らかく滑らかで、松岡の手指に心地よく纏わり付いた。
  カラスの濡れ羽色とは良く言ったもので、黒く艶やかな髪は、濡れてなお艶やかに輝いている。こだわっているわけでは無さそうだが、亜也人の黒髪は、亜也人の白い肌をより一層白く際立たせ、漆黒の瞳をより深く魅惑的に見せていた。

  「それにしてもずいぶん伸びてんな。いい加減…」

  切れよ、と言いかけ、松岡はハタと手を止めた。 
  そう言えば、亜也人を連れて来てから一度も美容院に行っていない。長くても違和感が無いから全く気付かなかった。一緒に出歩くたびにやたら視線を感じると思ったが、ひょっとするとそれは亜也人の髪のせいだったのかも知れないと、松岡は今頃になって気が付いた。

  「今度の休み、髪、切りに行くか…」

  待ち兼ねていたとばかり思ったが、亜也人は意外にもあっさりとしていた。

  「別にどっちでも良い」

  「お前はなんでもそれだな。たまには自分の希望を言ってみろよ」

  「本当に。髪型なんてどうでもいいし」

  「よくねぇだろ。ちったぁ自分に興味もて」

  お洒落に一番気を使う年頃だろうに。松岡は思いながら亜也人の髪をわしゃわしゃと手で掻き回した。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


  翌朝、亜也人はテーマパークにも行きたいと言い、結局、テーマパークを早めに切り上げお土産を渡しに行くことになった。

  何処に行けばいいか聞くと、亜也人は、「家」と答えた。

  「母さんに。俺、修学旅行とかも行ってないからお土産とか買ったことなくて」

  「ふぅん」

  無いものねだり、と言うにはあまりに細やかな願望だった。女物を選んだ時点で母親への土産であることは想像がついたが、あの母親がどんな顔でこれを受け取るのかが気になった。
  カウンセラーからの報告では、母親本人は落ち着いているらしいが、意識的か無意識か亜也人の事は全く話さないらしい。最悪な事態を想定して、松岡は、紀伊田に連絡を取り、亜也人が訪れる時間、カウンセラーに亜也人の家で待機させるよう指示をした。

  松岡の機転が功を奏し、亜也人の母親は、亜也人に会っても取り乱すことなく、亜也人がお土産を渡すと、手に取って直ぐに封を開け、「かわいい」と微笑んだ。
  母親の意外な反応に、亜也人は、やはり一瞬頬をほころばせ、しかしすぐに困惑した顔で俯いた。
  母親は、玄関口で帰ろうとする亜也人を引き止め、部屋の中に上がるよう促した。お茶とお茶菓子を出し、亜也人の元気な様子を喜び、近況を聞いた。母親には、亜也人は全寮制の高校に通っていて、松岡は学校関係者ということになっていた。
  母親は、亜也人が真面目に生活していると思い、安心しているようだった。
  どこからどう見ても、普通の優しい良い母親だった。亜也人は殆ど何も話さなかったが、その口元は微かにほころんでいた。
  帰り際も、車に乗り込む亜也人を名残惜しそうに見つめ、車が完全に見えなくなるまで見送っていた。

  「喜んでくれて良かったな」

  小さくなって行く母親をバックミラー越しに見ながら松岡が言うと、亜也人は、「うん」と小さく頷いた。

  「他には行かなくて良いのか?」

  ペアで買ったストラップが誰のためのものか想像はついていたが、積川の名前を出すのは癪だった。そんな松岡の気持を察したのか、亜也人は、行かなくていい、と答えた。

  「せっかく買ったのに渡さなくて良いのか?」

  「うん。母さんに渡せたから」

  答えになっていないと思いながらも、松岡はそれ以上訪ねはしなかった。

  マンションへ帰る途中、小洒落たレストランで夕食を摂り、コンビニに寄ってバンやスナック菓子やらを買い込んで部屋に戻った。

  疲れただろうと思い、亜也人に早くシャワーを浴びるよう促すと、逆に、「あんたのが疲れてるだろ」と言われ、松岡が先に浴びることになった。
  バスタブに浸かり身体を伸ばしていると、脱衣場で物音がした。亜也人が着替えの洗濯物でも置きに来たのだろう。思いながら天井を仰いで目を閉じると、突然バスルームの扉が開き、亜也人が全裸で入って来た。

  「お前、何してるんだ!」

  勢いよく入ってくると、亜也人は松岡の言うことも聞かず、バスタブのへりを跨ぎ、松岡の胸にしがみつくように抱きついた。

  「ちょっ…一体なんの真似だ。どうしちまったんだ!」

  亜也人の柔らかい肌が身体に触れる。起き上がろうと上体を起こすと、胸元に添えられた手が背中をバスタブの背もたれに押さえ付け、湯気で上気した亜也人が真正面から松岡を見据えた。

  「色々連れてってもらったからお礼…」

  「バカか。そういうのはいい、って前に言っただろ!」

  「借りは作りたくないから…」

  「借りだと?てめぇ、何ふざけたこと言ってんだ!」

  首筋に顔を埋めて吸い付いてくる亜也人の腕を取り、身体をひっくり返して逆に背もたれに押し付けた。

  「こちとらそんな交換条件、まったく要求して無いんだよ!それをこんな真似しやがって。そうでなくても、もう二週間も禁欲してて溜まりまくってんだ!ふざけた真似したらめちゃめちゃに犯すぞコラ!」

  勢いに任せて怒鳴り睨み付けた。泣くなら泣け、と思っていたが、松岡の予想に反して亜也人は妙に真面目くさった顔で松岡を見返した。

  「めちゃめちゃにしたいなら、すればいいだろ…」

  「お前、なに言って…。てか、だいたい、まだ身体治ってねーだろ!」

  「平気だから」

  「は?」

  「身体はもう平気だから…」

  怒っているのでも悲しんでいるのでもない、亜也人は、なにか不貞腐れているような、それでいて、どことなくはにかむような表情を浮かべていた。

  これじゃあまるで。

  ふいに、松岡の中である仮説がじわじわと湧き上がった。もしや、と思い、身を乗り出して亜也人の大きく広がった瞳を食い入るように覗き込んだ。

  「お前、まさか俺としたいのか?」

  亜也人は即座に首を振った。

  「違う!ただのお礼だよ!」

  「礼なら言葉だけで充分だ」

  「俺としたくないのかよ」

  「それとこれとは話が別だ」

  「何が別だよ!ひとが折角お礼するっつってんのに、なんでそんな面倒臭いこと言うんだよ。したくないならもういいよ」

  離れようとする亜也人を無理に引き戻し、「俺を見ろ」と視線を向けさせた。松岡の中で生まれた疑惑が徐々に確信に変わりつつあった。

  「お前はすぐそうやって自分で勝手に結論出しちまうけど、俺は面倒臭いことなんか何も言ってないぞ?
  しつこいようだが、俺はお前に見返りなんて求めてないんだ。俺は、お前が嫌がることはしたくないし、無理強いもしたくない。だから、お礼とか、貸し借りとか、そんな理由でお前を抱くわけにはいかない。俺はちゃんとお前に俺を好きになってもらって、お前がしたいと思ってくれてからお前を抱きたいんだ」

  「そんなことできるわけないじゃんか!」

  まるで、助けてくれ、とでも言うように、亜也人は泣き出しそうに眉を潜めた。

  「俺は良二が好きなのに、どうしてあんたとしたいなんて思うんだ!どうしてお礼が悪いんだよ!それ以外に俺があんたに抱かれる理由があるのかよ!俺にはそれしか理由が無いんだよ!」

  「理由?」

  回りくどい言葉で隠された真実が、うっかり漏れ出た瞬間だった。
 
  『良二を裏切っていると思ってるんです』

  山下の言葉が耳の奥でこだまする。

  『自分が良二を怒らせたから、責任感じて…』

  松岡は何もかも理解した。
  亜也人には理由が必要なのだ。周りに対する、そして、自分に対する理由が。
  松岡は、目の前で唇を真一文字に結んで見上げる亜也人を優しく見返した。

  「そうだな。お礼するのは悪くないよな。俺はおっかねぇ男だから、お礼しなきゃ痛い目にあうかも知れねぇしな。もしも誰かが裏切ったとかぬかしやがったら、身体で落とし前つけた、って言っときゃいいさ」

  「誰がそんなこと言ったよ」

  「言ってるさ」

  濡れた前髪を掻き上げ、おでこに顔をつけて亜也人を抱き寄せた。松岡の腕の中で、亜也人は観念したように目を閉じた。
  久しぶりに触れる亜也人の肌は、これまでに味わったことが無いほど松岡の皮膚にもっちりと吸い付いた。亜也人の腕を肩に回し、脇の下のくびれからウエストのS字カーブを手のひらでなぞり、ビクビクと震える背中を両腕を回して抱き締めた。

  「のぼせちまったな。…ベッド行くか?」

   首筋に口付け、耳たぶに唇を付けて息を吐きかけながら囁くと、亜也人が、んっ、と言葉にならない返事を漏らす。悩ましい吐息。ほんのりと赤らんだ目尻が情欲をそそる。
  肩に置かれた亜也人の腕を首に巻き付け、しっかり掴まっているよう伝えて抱き上げ、亜也人の部屋のベッドに運んだ。
  亜也人の匂いの移ったシーツにゆっくり雪崩れ込み、手首を頭の横で押さえてベッドに縛り付け、肌と肌を擦り付けるように亜也人の身体の上に自分の身体を重ねる。
  ふっくらとした小さな乳首が外気に触れてキュッと縮み上がる。硬くなったその乳首を指の腹で擦り付けるように撫で、頭を起こして、反対側の乳首を口に含んだ。

  「あっ、だめ…」

  小ぶりだが、健気に硬く直立した乳首を舐め転がし、舌の先で小刻みに弾いて、唇で挟んで吸い上げる。
  既に性感帯として充分開発された亜也人の乳首は、ほんの少し触れられただけで赤みを増して卑猥に膨らむ。松岡はその先の快楽を求めていた。

  「こんなに赤く腫れて疼いてる。乳首の奥、ジンジンするだろ?」

  息を吹きかけ、舐め回しては口に含み、強く吸い上げては舌の先で執拗に弾く。繰り返される愛撫に、亜也人が背中を仰け反らせて大きく息を吐く。
  呼吸が喘ぎに変わるのも時間の問題だった。

  「ほら。そろそろココだけでイケないか?」

  「あっ、そんなの…無理に決まって…ああああっ…ん、んっ…ん!」

  激しい刺激から一転、今度は乳輪ごと下から上へ、一定のリズムで優しく舐め上げる。
松岡によって慣らされた亜也人の身体は、この単調な刺激で後ろの性感帯を呼び起こす。
吐息が喘ぎに変わり、小さな悲鳴に変わって行く。

  「んあぁ…これ、も、いや…あんぁっ…ひ…んっ…も、だめ…」

  松岡の身体の下で亜也人が腰をもぞもぞさせている。自分が植え付けた快楽が自分の思い通りに開花するこの喜び。亜也人を責め可愛がりながら、松岡もまた亜也人に愛撫されているような快楽を覚えていた。

  「あっあ…あぁん…やっ、だ…も、やめて…それ、いや…な…んでぇ…」

  片方の乳首を舐め上げながら、指の腹で擦り撫でていたもう片方の乳首を、人差し指と中指の間に挟んで摘み上げる。
  ギリギリのところまで来ているのか、松岡の腹の辺りに下敷きになった亜也人の下半身が、熱を帯びて硬さを増している。
  乳首から唇を離して様子を伺うと、興奮に目の縁を赤く染めた亜也人の、恍惚とした瞳と目が合った。

  「お尻の奥がジンジンしてるの想像してみな」

  「や…も、指、入れて…も、イキたい…」

  「ダメだ…」

  「やあっ…これ、やめて…指、欲しい…おねがいっ…からぁ…」

  絶頂を求めて泣きつくさまが松岡の性欲を刺激する。
  初めての感覚に頭がついて行かないのだろう。亜也人の身体の反応から既にドライオーガズムには達していると思われたが、亜也人は射精を求めていた。

  「お前、いつもそんなこと言わねぇのに、なんで今そんなこと言うの?」

  松岡の決心が揺らぐ。
  亜也人が自分から求めるなど、今までただの一度も無かった。
  入れたい、と思った。指などではなく、自分の熱く猛り狂ったイチモツを、今すぐ亜也人の中に深く埋めたい。根元まで埋めて、揺さぶって振り回して叩きつけたい。
  誘惑にかられながら、松岡は再び亜也人の乳首を舐め上げた。

  「後でたっぷり入れてやるから今はこっちに集中しな…」

  亜也人は、もはや鳴き声に近い喘ぎ声を上げながら、やがて、硬く張り詰めたペニスに触れることなく射精した。

  息も絶え絶えに脱力する亜也人を、松岡はたまらなく愛おしいと思った。

  次は俺を喜ばしてくれ。

  汗ばんだ額を手でなぞり、頬を包んで唇を重ねる。
  唇をこじ開けて舌をねじ込むと、亜也人の舌が吐息とともに口の中に流れ込んできた。

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