BODY TALK ―初恋の代償―

南 鴇也

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番外編

かわいい嫉妬 01

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※本編第1章『契り』のアフターストーリー。
亜矢と結月が同棲して1年ほど経った時のエピソードです。

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「気が重い……今からでも断れないか」

はーっと長く溜息を吐く俺に、神霜かみしもが苦笑した。

「さすがに当日ですから、無理ですよ。衣装のスーツ、持ってきましたから着替えてください」

これ以上駄々をこねても神霜が不憫になるだけなので、不本意ながら差し出されたソレを受け取る。


今日は、ビジネス総合誌に載せるインタビュー記事の取材と撮影の日だった。

これまで必要以上に外との接点を持たせなかった祖母が、最近はやたらと外部のクライアントの所や交流会に行かせるようになった。マーケティングの仕事は現場を見るのがセオリーなので、だいぶやりやすくなったのは良かったのだが。
それでも、今回の件はあまり気が進まない。

祖母の意図するところは、大体は想像できる。

大学卒業後、親の会社に当たり前のように入社してから、七光りと言われない為にも自分なりに仕事はきっちりやってきた。思っていたよりも、うちの社の人間に低俗な者はいなかった。境遇を妬む者はなく、相応の評価はされ、いつの間にかマーケティング部門の大きい案件を任されるようになっていた。それが外部のマーケターの耳にも入っているようで、最近では業務提携の話が多く出るようになった。

今回の雑誌の取材も、若手マーケターを大きく打ち出すことで、会社の勢いを世に知らしめる為だろう。
会長である祖母は、確実に、ビジネス戦略的に俺を利用している。

「それもあると思いますが……」

俺の話を聞いていた神霜が言葉を濁す。

「うん?他に何かあるのか?」

そう訊ねた時、玄関から「ただいま」と声が聞こえた。

「あ、神霜さん!お久しぶりです」

帰宅した亜矢は、リビングに入るなり笑顔で神霜に駆け寄った。

「宮白さん、お邪魔しています。ずいぶん前と雰囲気が違うので驚きましたよ」
「大学に入ってから神霜さんに会うの、初めてですもんね」

屋敷を出てから、執事の神霜は俺に付くことはなくなった。仕事上の秘書ではないので当然ではあるのだが、おそらく、祖母は俺に何もかも独りでさせて、不自由さを知らしめたい、といった魂胆だろう。
神霜はたまに、身辺調査よろしく、ウチを訪れてはいたのだが、身内の込み入った話もあることから、亜矢の居ない時間に来てもらうことが多くなった。そういう訳で、神霜と亜矢が会うのは半年ぶりだったのだ。

「大学は建築の分野に進まれたんですよね。良かったですね、これで結月様と同じ……」
「わ、神霜さん!」
いきなり亜矢が慌てだしたので、「何だ?」と聞くと「なんでもないです!」と勢いよく返される。

「宮白さんは相変わらず可愛いですね」
神霜が俺を見て、穏やかな声で小さく言った。
何か意味を含んでいそうな物言いだったが、そうだな、と軽く応える。

「着替えてくる。ゆっくりお喋りしてなさい」と、ポンポンと亜矢の頭に手をのせて、自室へと向かった。

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