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第4章
再会 05
しおりを挟むその日の夜は一睡も出来なかった。
翌日、僕は自室に閉じ籠もった。
椅子に座ってぼうっと窓の外を見ていると、急に激しい雨が窓ガラスを打ちつけ始めた。
ついさっきまで、あんなに良い天気だったのに。
遠くで雷鳴が聞こえて、僕は布団の中に潜り込んだ。
結局、逃げられなかった。それをしたところで、無駄だと解っていたから。
「助けて……結月さん」
結月さん。
やっぱり、貴方の名前を呼んでしまう。
あれから、何も変わっていないんだ。僕は……
「――亜矢」
遠くで僕の名前を呼ぶ声がする。
いつもそうだったな。
ギュッと抱き寄せて、温かい手で子供をあやすように優しく髪を撫でてくれて……。
「亜矢」
ハッとして目を開ける。
「っ!!」
「……起きたのか」
微睡みの中で感じていた温もりは、結月さんのものなんかじゃない。
もう二度と会いたくないと願った、その人。
「千尋、兄……」
「久しぶりに日本に帰って来たというのに、迎えにも来てくれないなんて、酷いぞ。亜矢」
僕を包み込む、筋肉質の太い腕。
体が強張って動けない。一刻も早く、この人の傍から離れたいのに……。
「それにしても、4年ぶりか……」
節くれ立った大きな手が僕の髪を撫で、頬へと滑り落ちた。
「驚いた。こんなに綺麗になっているなんて」
指先で柔らかく頬に触れながら、眼鏡の奥の目を細くして、じっくりと僕を見る。そして、耳元に顔を近づけ、低く囁いた。
「――愉しみだ」
「っ……!!」
背中からパーカーの中に手が忍び込むのを感じて、咄嗟に体を突き飛ばし、ベッドから降りて一心不乱に駆け出す。
「逃がさないから」
腕を引かれた瞬間、開きかけた扉を閉められてしまった。
右頬を手で覆われたかと思うと、強制的に振り向かされ、肩を壁に押し付けられる。直ぐに、噛み付くように唇が重ねられた。上下の唇を啄むように吸われたあと、反射的に開いた口の中に熱い舌が入ってくる。逃げてもあっという間に浚われ、軽く噛まれる。
乱暴なのに、口内の性感帯を探るようなキス。
「っ、ふ……んぅ……」
――このままじゃ、流される……
どん、と胸を拳で叩くと、抱きすくめられ、深く舌を絡められる。腕の中でもがいてみても、さらに力が強く篭るだけだった。
「っは……」
唇が離れたと同時に、僕は顔を背けた。
悔しい。こんなにも容易く捕まってしまうなんて。
見たくない。声も、聞きたくない……。
顔を隠すように深く俯いていると、ぐいと顎を掴まれ上を向かせられる。
視線がぶつかる。
何もかも見透かすような、涼しげな切れ長の瞳……。
「言っただろ? 次また会うときは――」
耳元で告げられる言葉に、一瞬にしてグラリと目が眩む。
――そうだ。忘れていた。
この人に本気で求められたら、堕ちてしまう。
もう二度と、他の誰かを愛せなくなるまで。
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