初恋の代償

南 鴇也

文字の大きさ
104 / 111
最終章

萌芽 10

しおりを挟む

数年ぶりに訪れた一ノ瀬家の屋敷は、以前と変わらず荘厳な雰囲気に包まれていて、訳もなく緊張する。

「宮白さん、ですか?」

門の前で佇んでいると、聞き覚えのある声に呼び掛けられた。

「神霜さん……!」
「ああ、良かった。宮白さんに連絡を取りたいと思っていたのです。実は――」
「神霜さん、あのっ……」

焦りのあまり言葉を遮る形になってしまった僕の様子を見て、彼は一瞬ハッとした顔をしてから、困ったように眉尻を下げた。

「結月様は、もう此処にはおりません」
「えっ……」
「急に笠原嬢との婚約を解消すると仰って、会長と話をしたのち……結月様は、一ノ瀬との縁を切る形を選ばれました」

婚約解消……。絶縁……?

「じゃあ、結月さんは今どこに……!」
「我々も分からないのです。3日前の朝、気づいたら最低限の荷物だけ持って出ていかれたようで、“他は処分してくれ”と書き置きを残されたまま……」
「電話は……?」
「繋がりません。おそらく番号を変えてしまわれたのだと」

「――君が、宮白亜矢さんだね」

声がした方を振り返ると、スーツを着た男性が立っていた。初めて対峙するその人の纏う雰囲気に、何故か懐かしさを覚えてドキリとする。

「結月の父親だ。会うのは初めてだね。挨拶が遅れて申し訳なかった」
「いえ、こちらこそ……!」

僕は勢いよくお辞儀をした。
同棲することになったとき、一緒になってお祖母様を説得してくれたと聞いた。僕と結月さんの関係が、このような結末になってしまったことを、どう思っているのだろう。

「結月が出ていったのは本当のことだ。あの子もそれを望んでいた。……私には、この形でしか、あの子を自由にすることが出来なかった」
「自由に……」

同棲初日、結月さんの生い立ちを聞いた。はっきりとは言っていなかったものの、彼のお祖母様への感情は深い憎しみだったように思う。語る目は、長い間鎖に繋がれていたかのように、寂しく冷めていた。
手段はどうであれ、確かに、解放されたのだ。

自由になって、独りで、一体どこへ……?

「真っ先に君の所に行ったと思っていたのだが、違ったんだね」

沈んだ声で言われたその言葉に、目の前が真っ暗になる。
僕は何を期待していたのだろう。
会いに行けば、何かが変わると思っていた?
結月さんは僕を置いていったのだ。それがもう答えじゃないか。

それでも、会いたいと思うのは……。

ギリ、と掌に爪を立てて、声を振り絞る。

「何でもいいんです……! 結月さんの行く所に、何か心当たりは――」

あぶり出しのようににじみ出た記憶に、僕は途中で言葉を噤んだ。
――そうだ、きっとあの場所だ……


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

処理中です...