【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り

文字の大きさ
26 / 37

26 ディートリヒの誕生日2

しおりを挟む

「それにしても今さらだが、本人の了承も得ずにリーゼル嬢のふりをしても大丈夫なのか?」

 馬車へと乗り込み出発すると、ディートリヒは心配そうにリーゼルをみつめた。
 今でも女装作戦には否定的な様子。提案した際は少し強引に許可を求めてしまったが、あの時のリーゼルはなぜだが、ほかの女性にディートリヒの隣を取られたくないという気持ちもあった。
 貴族は皆、皇帝に恐怖している。誰かが嫌々パートナーとなるより、自分が名乗り出たほうが彼に寄り添えると考えていた。

「問題ございません。妹はきっと……、光栄に思うはずですから」

 リーゼルは気分を変えるように、ディートリヒへとにこりと笑みを浮かべる。

「陛下。本日はお忙しいでしょうから、先にお祝いさせてください。二十五歳の誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、リーンハルト」
「こちらは、お祝いの贈り物でございます。心ばかりの品ですが……」

 手に持っていた箱を差し出すと、ディートリヒは驚いた様子で受け取る。

「嬉しいな。開けてみても良いか?」
「はい。どうぞ」

 箱に納められていたのは、アスコットタイとタイを留めるリングだ。
 何を贈るかはとても迷ったが、幸いにも陛下の衣装部屋担当という役割を生かし、陛下に似合いそうで尚且つ、お持ちでない柄のタイを選んだ。

 ディートリヒはプレゼントを嬉しそうに見つめてからなぜか、自らの首に巻いてあるタイをするりとほどいた。

「こちらを結んでくれないか」
「あのっ陛下。こちらは本日のお召物には相応しくありませんわ。どうか、普段使いとしてお受け取りくださいっ」

 せっかく誕生日パーティーのために新調した衣装なのに、雰囲気が異なるアスコットタイでは申し訳ない。

「そんなことない。俺はリーンハルトが選んでくれたものを身に着けて、誕生日を迎えたい。誕生日の祝いとして、リーンハルトが結んでくれないか?」

 そこまで望まれてしまうと、拒むわけにもいかない。リーゼルは諦めて今日の主役の希望を叶えて差し上げることにした。

 椅子から立ち上がりタイを結んでいると、なんだかどきどきしてくる。
 いつもは彼を見上げながら結んでいるが、今はリーゼルがかがむ恰好のせいで彼の顔が近い。

 集中しなければと思い直していると、馬車の車輪が石でも踏んだのかがたりと大きく揺れた。
 思わず体勢が崩れたリーゼル。「きゃっ」と悲鳴を上げながら座り込んださきは、まさかのディートリヒの膝の上だった。

(よりによって……!)

 女装中とはいえ、侍従の身でなんたる失態。せっかくのお祝いが台無しだ。
 「もっ申し訳ございませんっ。すぐにどけますっ――」と慌てて立ち上がろうとしたが、なぜかディートリヒがリーゼルの腰に腕を回してきた。

「いや。このままのほうが、落ち着いて結べそうだ」

 確かに、この場でタイを結ぶにはベストポジションではあるが。リーゼルがさらに態勢を崩さないために、支えてくれるのもありがたいが。

(私の心は落ち着かないのですが……!)

 これではまるで、恋人同士ではないか。今日のリーゼルの役目はパーティーでのパートナーのふりであり、恋人のふりではないはずだ。

 動揺しまくりながらもなんとかタイを整えたリーゼルは、ポケットからコンパクトミラーを取り出して、ディートリヒへと向けた。

「いかがでしょうか……?」
「ああ。気に入った」

 ディートリヒは何度もミラーを確認しては満足そうに微笑んでいる。
 ハプニングはあったが、気に入ってもらえたようで良かった。
 
 ほっと一安心しているリーゼルの手を、ディートリヒがすくい取るように掴んだ。
 どうしたのだろうと見守っていると、彼はそれから手を自らの口ものへと導き、どいういうわけか、リーゼルの指先に口づける。

「ありがとう。大切にする」
「へっ陛下ぁ……!」

 顔を真っ赤にしながらリーゼルが驚くと、ディートリヒは気まずそうに視線を逸らしながら小さく咳払いする。 

「悪い、つい……。今のは練習だと思ってくれ……」

 この練習は必要だろうか。
 動揺しすぎたリーゼルは、彼の膝の上から立ち上がるタイミングすら逃してしまった。




 それからしばらくして、ディートリヒの誕生日パーティー会場。
 皇帝ディートリヒがパートナーを伴って入場すると、大きな拍手とともにざわめきで溢れた。

「あのご令嬢はどなただ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

蝋梅
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
 やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。  王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。  教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。  惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。  簡単に裏切る人になんてもう未練はない。  むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

処理中です...