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27 ディートリヒの誕生日3
しおりを挟むディートリヒが、ユリアーネ以外の女性をパートナーにするのは、初めてのこと。ついに陛下は運命の番を見つけたのか。誰もが謎の令嬢に注目する。
その中でいち早く気がついたのは、リーンハルトの元同級生たち。
「リーンハルト卿……だよな?」
「まさか陛下のご趣味か!」
「さすが陛下。俺たちの夢を叶えてくださる」
「ばか。さすがにそれはないだろう」
「それじゃ、もしかして。双子の……?」
似ているとは聞いていたが、これほどそっくりだとは。
元同級生たちは、リーンハルトへの愛を貫き通したい気持ちと、やっぱり女性がいいという気持ちでせめぎ合っていた。
そんな姿を後ろから生暖かく見守っていたカイは、大きくため息をつく。
「ついにリーの可愛さも、世間に知れ渡ってしまったな」
家臣であり、幼馴染でもあるカイとしては、あの超絶可愛い双子が心配でならない。
この先、執事としてリーンハルトをそばで支えることはできるが、リーゼルにはやはりしっかりと守ってくれる伴侶が必要だ。
その伴侶が、陛下なら良いのに。
リーゼルは不思議と陛下を恐れていないし、陛下も好意的だ。
男装などしていなければ、良い出会いを得られたのかもしれないと思うと残念でならない。
「……ったく。リーンのやつ、いつになったら戻るんだよ」
国外からの賓客や上位貴族からの祝辞が終わり、パーティーが本格的に始まる。
例年、皇帝の誕生日パーティーといえば、ディートリヒの機嫌が悪く殺伐としたものだったが、今年はどうしたことだろうか。パートナーの令嬢の影響なのか、陛下の周りには花さえ咲いていそうな雰囲気。
女性に対してこれほど丁寧に接する皇帝の姿を、誰が想像しただろうか。
やはり、あの令嬢が気になる。
我先にとディートリヒのもとへとやってきたのは、ユリアーネだった。
誕生日のお祝いもそこそこに彼女が放った言葉は「陛下。運命の番を見つけられましたの?」だった。
この場で誰もが気にしていることを、これほど単刀直入に聞けるのは彼女くらいだ。
誰もがそのやり取りに耳をそばだてる。
「いいや。彼女はリーンハルト卿の妹だ。卿には世話になっているから、感謝の意味を込めてご令嬢をエスコートしたまで」
「なんだそうだったのか」
「てっきり陛下は番を見つけたのかと……」
貴族たちは一気に興味を無くしたようだ。
下手に追及されることがなくて良かったと、リーゼルはほっとする。
とりあえず今日の役目は、穏便に済みそうだ。
「まあ。陛下らしいお優しさですわね」
ユリアーネは、リーゼルを一瞥してからそう微笑んだ。
それから、まるで自分こそが真のパートナーだと言わんばかりの態度で、ディートリヒの腕に抱きつこうとする。
「それでは、初めのダンスは私と――」
「悪いが今日は、リーゼル嬢へ礼を尽くさねばならない。ほかを当たってくれ」
ディートリヒするりとユリアーネを交わすと、リーゼルへと手を差し出した。
「リーゼル嬢。初めのダンスを俺と踊ってほしい」
リーゼルは、ぴりっと緊張した。
ユリアーネの顔を見ずとも、彼女の方角からびしびしと威圧感が漂ってくるのだ。
もしも気弱な令嬢ならば、動物の姿を見せてしまっていたかもしれない。しかしリーゼルは、物怖じしない性格と鈍い性格のおかげで、見た目には平常を保っている。
(まさかこんなところで、私の性格が役に立つとわね……)
ユリアーネには悪いが、今日はとことん陛下の役に立つために来ている。リーゼルはダンスを受けた。
ユリアーネがどのような表情をしていたかなど、見る勇気はなかった。
「陛下……。ユリアーネ嬢にあれほど冷たく接して良かったのですか?」
ダンスを踊り始めたリーゼルは、心配しながらディートリヒを見つめる。
彼の、運命の番を求める気持ちは知っているが、二十五歳を迎えてもその希望は叶えられていない。これからは、真剣にユリアーネとの結婚を考えなければいけなくなる。
それを踏まえれば、関係は良好に保っていたほうが良さそうだが。
「いいんだ。あいつは家門の義務に囚われているだけだ。そのうち俺と同じ気持ちに至るさ」
ディートリヒとユリアーネは幼馴染だと聞いている。
そのせいだろうか。単に拒否しているというよりは、ユリアーネもいずれ理解してくれるという自信があるようにみえる。
(じつは陛下は、ユリアーネ嬢にも運命の番を見つけてほしいと思っているのかしら)
お互いに生まれた時からライバル家門であり、政略結婚を視野に入れなければいけない相手。
このような関係では、ディートリヒが先に身の振り方を決めなければ、ユリアーネはひたすら待ち続けるしかない。
ディートリヒの冷たさこそが、幼馴染への思いやりなのかもしれない。
やはり陛下は優しくて素敵な方だ。
「それよりリーゼル嬢。ダンスが上手いな。練習したのか?」
「はっはい。カイと特訓しました……」
「カイ卿とは、随分と親しいようだな」
「生まれた時から同じ邸宅内で暮らしておりますし、兄弟みたいなものですよ?」
「そうか。普通はそうだよな……」
ダンスを特訓したのは何年も前の話だが。リーンハルトと三人で、首都での社交界デビューを夢見て練習したものだ。
(そういえば今日は、私の社交界デビューでもあるのよね)
まさか自らを偽った状態で迎えるとは、考えもしていなかったが。
夢見た社交界デビューとは異なるがそれでも、ファーストダンスをディートリヒと踊ることができたのは、大切な思い出となりそうだ。
ダンスが終わると拍手とともに、国外からの賓客の一人が二人のもとへとやってきた。
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