30 / 57
30 夫の好感度が知りたい6
しおりを挟む「おはようございます、王太子妃様。王太子殿下の侍従からの伝言で、殿下は早朝、聖女探しへ出かけたとのことです」
「やっぱり、行ったのね」
マドレーヌを大切に思っているジェラートなら、きっと聖女探しへ出かけるだろうとシャルロットも予想はしていた。
深夜のマドレーヌは「よろけただけ」と笑っていたが、いつか本当に倒れるかもしれないという、危機感を夫は抱いたのかもしれない。
小説の内容を知っているシャルロットとしては、一年後のマドレーヌの元気な姿を想像できるが、ジェラートは何も知らないので不安なのだろう。
クラフティに続き、ジェラートも留守になってしまったので、シャルロットは王太子宮とハット家の両方を、管理しなければならなくなった。
ハット家は執事長に任せきりでも構わないが、聖女が倒れたとの連絡の後に聖女探しが始まったとなれば、不安もあるかもしれない。
両方の使用人達を安心させたいと思ったシャルロットは、交互に寝泊まりをする生活を始めた。
それから二週間後。
「ジェラート様は、まだお戻りにならないわね……」
王太子宮にある執務室の窓から、シャルロットはぼーっと門の方角を眺めていた。
いつものジェラートなら、午後のお茶会が開かれる頃には帰ってくるが、何日待っても一向に帰って来る気配がない。
国王陛下が「聖女探しを優先せよ」という勅命を出したこともあり、今回のジェラートは期限を区切らず、聖女を見つけるまでは帰ってこないのかもしれない。
「王太子殿下も、お手紙くらいくださればよろしいのに……」
お茶の準備を整えているアンが、自分のことのように不満そうな声を上げるので、シャルロットはくすっと微笑んだ。
「仕方ないわ。ジェラート様はそういったことに対して、不器用なのよ」
そう返すと、なぜか物珍し気な表情のアンに見つめられ、シャルロットは居心地悪くたじろぐ。
「どうしたのよ。アン……」
「ふふ。王太子妃様も、変わられたなーと思いまして」
「私が?」
「以前の王太子妃様なら、きっと不安そうにしていたでしょうが、今は余裕が感じられます」
アンに指摘され、シャルロットは自分自身でも、不思議なほど落ち着いていることに気がついた。
別居する前のシャルロットならば、ジェラートが冷たい態度なのは自分を嫌っているせいだ。としか思えなかったが、今なら夫の不器用さを少しは理解できる。
妻のためにと『白いもの』を大量に集めるようなジェラートは、適量の匙加減が難しい性格なのだろう。
国王の勅命も、『見つけるまで帰ってくるな』という意味ではないはずだが、ジェラートとしては『マドレーヌを早く故郷へ帰したい』という気持ちでいっぱいなのかもしれない。
「アン……。私ね、離婚をせずに幸せになれる道も、あるんじゃないかと思えてきたの……。これは、私の自惚れかしら……」
小説の中のシャルロットは、ひたすらジェラートに無視され続けていたが、今のシャルロットとジェラートの間には、新たな関係が生まれつつある。
夫は、シャルロットの悪女な行為を「可愛い」と受け入れ、妻の好きなものを贈ってみたり、体調を気遣ってくれるようにもなった。
別居前におこなわれていた寒さに耐えながらのお茶会が嘘のように、今は不器用ではあるが夫は優しさを見せてくれる。
ジェラートがシャルロットに慣れたことで、確実に夫婦関係は良い方向へと向かい出した。
それが『愛』ではないとしても、国を背負うパートナーとしてお互いに尊重し合えれば、そんな人生も悪くはない。
「自惚れではございません! 王太子妃様は、きっと、きっと、幸せになれます!」
「ありがとう……、アン」
小説の内容を知らないアンが思い描いているであろう『幸せ』とは違うだろうが、アンの言葉にシャルロットは背中を押してもらえたような気分になった。
ヒロインとジェラートが愛し合う姿を見るのは辛いが、シャルロットさえ自制できれば、悪女として断罪される心配もないはず。
なにより、やっと自分に興味を持ってくれた夫と『離れたくない』というのが、シャルロットの素直な気持ちだった。
(早く、帰ってきてほしいわ)
これまでのジェラートは、交流を深めるたびに新しい姿を見せてくれた。帰ってきたらまた、新しい夫が見られるかもしれない。
そう思うと、夫の帰りが待ち遠しくて仕方なかった。
その日の夜。ハット家へ戻ったシャルロットが、そろそろ寝ようとしていた時刻。
外の騒がしさに気がつき、窓を開けて屋敷の玄関を見下ろした。
(馬車と、騎士団がいるわ。もしかして……!)
917
あなたにおすすめの小説
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。
そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。
王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。
友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。
仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。
書きながらなので、亀更新です。
どうにか完結に持って行きたい。
ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。
藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」
憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。
彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。
すごく幸せでした……あの日までは。
結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。
それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。
そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった……
もう耐える事は出来ません。
旦那様、私はあなたのせいで死にます。
だから、後悔しながら生きてください。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。
感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。
たくさんの感想ありがとうございます。
次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。
このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。
良かったら読んでください。
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる