悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています

廻り

文字の大きさ
17 / 55

16 ヴィンセント16歳 01

しおりを挟む

 ヴィンセントが安心するまで。
 その約束で始めた彼に仕事を任せる生活だったが、気づけば三年も経過しており、エルは二十一歳になり、ヴィンセントは十五歳を終えようとしていた。

 その日。エルは、窓から差し込む朝日で目が覚めた。
 眠い目をこすりながら目を開けると、目の前にはヴィンセントの姿。彼はにこりと笑みを浮かべながらエルを見つめていた。

「おはようございますエル」
「あ……おはようヴィー。今日も先に起きていたのね」
「はい。エルが目覚める瞬間を見るのが、朝の楽しみなので。朝の挨拶をしても良いですか?」
「……うん」

 ヴィンセントは嬉しそうにエルを抱き寄せると、彼女の額や頬に口づけをした。
 どこで覚えてきたのか。「家族は、おやすみやおはよう、行ってきますなどの挨拶の際には、顔にキスするそうです」との情報を彼が得たのは、ギルドの依頼を受けるようになってからすぐの頃。
 「エルと一緒にいる時間が減って寂しいので、もっと家族らしいことがしたいです」と懇願されて、始めたのがきっかけだった。

 ヴィンセントが安心するまで。
 そのつもりだったのに、何だかんだと言い訳をされ続け、彼が仕事をする状態も、このスキンシップも、続けたままになっている。

「エル。大好きです。今日も仕事がんばってきますね」
「……無理しないで、気をつけるのよ」



(やっぱり。このままは、いけないわよね……)

 エルは朝食の支度をしながら、ため息をついた。
 この歳になっても懐いてくれるのは嬉しい限りだけれど、そろそろ姉離れしてもらわなければ困る。

 この三年間でヴィンセントはさらに身長が伸び、今では大人と変わらないくらいになっている。
 ヒロインと出会う頃の彼に見た目が近づいてきたせいで、あまり距離が近いとうっかりときめいてしまいそうだ。
 ヴィンセントは家族であり、弟のようなもの。そのような気持ちは抱きたくない。

「そろそろ、ヴィーの誕生日よね。今年こそヴィーのベッドを買いましょう」

 そんな気持ちを抱えつつ、朝食の席でそう提案してみたが。彼はにこりと笑みを浮かべながら「嫌です」と否定した。

「あのベッドで二人で寝るのはもう限界よ。あなただって窮屈でしょう?」
「それなら二人用のベッドがほしいです」

 しれっと自分の望みを堂々と口にする彼に、エルは呆れてぽかんとする。
 出会った頃は、手を繫ぐために一生懸命、言い訳をしていた可愛い子だったのに。

「ほら。ヴィーもそろそろお年頃だし。好きな子を家へ呼んだ時に、姉と寝ているなんて知られたくないでしょう?」
「エルは、僕が女性の友人を連れて来たらショックだと言いました」
「それならもう大丈夫よ。心の準備はできてるから」

 あれはもう六年ほど前のことで、あの時のヴィンセントは十歳の可愛い男の子だった。
 まさか今でもその発言を覚えていたことに、エルは少し驚きながら答えた。

 するとヴィンセントは、かたっと音を立ててナイフとフォークを置いてから、うつむき加減に呟く。

「それは……もう、僕を独占したい気持ちが無くなったということですか……? 僕にはエルだけなのに……」

 そして彼は、小刻みに震え出した。

(そんなに不安なの……?)

 思い返せば当時の発言も、ヴィンセントが不安がるので安心させるために言ったようなもの。
 彼はその言葉によって、安心を得ていたということなのか。今まで……。

「あの……違うの。ただ、ヴィーの年頃だとそうかなーと、気を遣っただけで……」
「それなら、僕を嫌いになっていませんか?」

 懇願するようなその目が、当時のヴィンセントと重なって見える。エルがそばいなければ、ベッドでうずくまり震えていた頃の彼に。
 エルは立ち上がり、彼の隣へと移動して抱きしめた。

「嫌いになんて、なるはずないでしょう。私はこれからもずっとヴィーのことが大好きよ」
「僕もエルが大好きです。この気持ちは変わりません」

(結局、今年も失敗か……)

 エルのマナ核の音を聞きながら、表情が穏やかになっていく彼を見ていると、エルはもう何も言えない。
 身体は大人に成長したけれど、彼の不安な気持ちはあの頃のまま。
 皇宮で辛い幼少期を過ごしたせいで、家族に愛されて育つという年数がまだ足りていないのかもしれない。
 彼が何に対しても怯えることなく自立するには、時間が必要だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

seo
恋愛
 血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。  いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。  これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。 #逆ハー風なところあり #他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

わたしを嫌う妹の企みで追放されそうになりました。だけど、保護してくれた公爵様から溺愛されて、すごく幸せです。

バナナマヨネーズ
恋愛
山田華火は、妹と共に異世界に召喚されたが、妹の浅はかな企みの所為で追放されそうになる。 そんな華火を救ったのは、若くしてシグルド公爵となったウェインだった。 ウェインに保護された華火だったが、この世界の言葉を一切理解できないでいた。 言葉が分からない華火と、華火に一目で心を奪われたウェインのじりじりするほどゆっくりと進む関係性に、二人の周囲の人間はやきもきするばかり。 この物語は、理不尽に異世界に召喚された少女とその少女を保護した青年の呆れるくらいゆっくりと進む恋の物語である。 3/4 タイトルを変更しました。 旧タイトル「どうして異世界に召喚されたのかがわかりません。だけど、わたしを保護してくれたイケメンが超過保護っぽいことはわかります。」 3/10 翻訳版を公開しました。本編では異世界語で進んでいた会話を日本語表記にしています。なお、翻訳箇所がない話数には、タイトルに 〃 をつけてますので、本編既読の場合は飛ばしてもらって大丈夫です ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...