真珠の涙は艶麗に煌めく

枳 雨那

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陰陽師の帰村

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「僕たちも、もちろん協力しますよ」
「俺も!」
「私は言わずもがな、かな。首長ですから」

 玻璃と瑠璃、瑪瑙も賛同してくれた。真珠は頷いて、覚悟を決める。黒曜の手を握り返して、その目を見つめた。

「できる限りのことを、頑張ってみます」
「さすがね。気高く、謙虚で、人々のためを思う。それでこそ巫女だわ。私も協力するから」
「よろしくお願いします」

 そしてふと、真珠は疑問に思った。問題が解決した後、自分はどうなるのか。元の世界に帰れないのか。

「あの……黒曜さんは、様々な術式が使えると伺いました」
「そうね。それがどうしたの?」
「人を空間移動させることとか、できますか?」
「え?」

 突然の質問に黒曜は目をぱちぱちさせたが、すぐに合点がいったように頷いた。

「ほんの短い距離ならできるけれど、あなたを元いた世界に送り返すところまでは、できるか分からない」
「やはり、だめですか……」
「時間をもらえるなら、術式を研究してみるわ。その代わり、あなたはこの村と国を救うことを、一生懸命考えて」
「はい、お願いします」

 日本に帰れるかもしれない。そんな希望に、真珠は目を輝かせた。その目標があれば、多少の辛いことは乗り切れるだろう。ここにいる皆を信じて頑張ってみようと、静かに闘志を燃やした。

「え。お姉さん、元いた世界に帰っちゃうの?」
「瑠璃」

 瑠璃が驚いたように言葉を発すると、玻璃が小声でそれを諌めた。真珠はどのように反応すべきか分からず、困ってしまった。

(帰れるなら、帰りたい)

 寝込んでいた母・蛍の、現在の病状も気になる。宝石箱を壊してしまったことも、謝らなければならない。真珠が突然姿を消してから、もう三日が経った。何か事件に巻き込まれでもしていないかと、両親は心配しているだろう。

 黒曜の術式が完成する保証はない。元の世界に帰ることは絶望的だと分かったら、真珠はこの世界で生きていくことになる。ただ、まだ今は、『帰れるかもしれない』という希望を持っておきたい。

「瑠璃は、真珠が帰ると困るの?」
「俺と兄貴はそうだよ。だって昨日、けっこ……ふごっ……」
「瑠璃、余計なことは言うなと、いつも注意していますよね」

 黒曜の質問に、瑠璃が応えようとした。しかし、昨日と同じく、玻璃がきらきらした笑顔を浮かべながら、瑠璃の顎を掴んで止めた。瑠璃は、「結婚を申し込んだ」と言おうとしたのだろう。玻璃はそれを皆に知られたくないらしい。真珠も彼らに合わせ、黙っておくことにした。

「あら、もう随分と仲がいいのね? 銀もここにいるってことは、真珠と知り合いなの?」
「真珠を最初に見つけてきたのは、銀なんだよ」

 瑠璃が寂しそうに唇を尖らせているせいで、黒曜は真珠と彼らの関係に勘付いたようだ。瑪瑙が、真珠を連れてきた経緯を説明すると、彼女は再び頬に笑窪を作った。

「そう。真珠は運がよかったわね。銀は昔から正義感が強くて、困っている人を放っておけないし……私の自慢の幼馴染みなの」
「えっ、幼馴染み?」

 それは初耳だった。やはり、同い年だと接点も多くなるものなのか。真珠が銀を見上げると、彼は答えるのも面倒くさそうに、目を閉じて溜め息をついた。

「俺の育った道場に、黒曜がしょっちゅう遊びに来ていただけだ」
「つれないわね。それだけの関係じゃないでしょう?」
「銀が黒曜にたじろぐ姿なんて、久しぶりだね。昔はよく見たものなのに」

 彼らの会話を聞いた真珠は、複雑な心境だった。銀が優しく面倒見のいい人であることは、真珠もよく知っている。ただ、一緒に過ごした時間はほんの少し。幼馴染み同士の二人が過ごした時間とは、比べ物にならないほど短い。

(『それだけの関係じゃない』ってなに……?)

 銀のことを好きだとか、そういう感情はない。それなのに、彼のよさや過去を知る女性が現れて、嫉妬しているのだ。彼の優しさは自分にだけ向けられたものだと、無意識に思っていた。どれほどおごっていたのか。

 けれど、真珠は、心がもやもやするのを止められなかった。

「とにかく。術式は完成できるか分からないけれど、最大限努力してみるわ。瑠璃も男なら、真珠の気持ちを優先してあげなければだめよ」
「はーい……」

 瑠璃はしぶしぶと返事をした。玻璃の手からようやく解放されたらしく、頬には指の圧がかかった赤い痕ができている。

「真珠、私に聞いておきたいことはない? 内容によっては、占いで見てあげることもできるわ」
「あ、えーっと……昨日のアヤカシが私に関連しているかということと、この色香の原因について、意見を聞きたいです」

 気持ちが静まらないまま、真珠は予め心に留めておいたことを聞いた。黒曜は頷きながらも、アヤカシと巫女の関係については、曖昧に濁した。

「巫女が降臨してから、アヤカシが増えたり狂暴化したり、あちこちに現れたりするようになった時は、関連性はあると言えるわ。でも、現時点では時間もそれほど経っていないし、何も言えないわね」
「そうですか……」
「それと、私は色香を感じ取れないけれど、巫女であることがそうさせているのはほぼ確かだと思う。そうでなくても、あなたは可憐で魅力的だから。ああ、それで彼らに用心棒を?」
「あ、えっと、はい……お褒めいただき光栄です」
「ふふ。頼もしいわね」

 真珠は頷いた。未だに心が動揺していて、上手く言葉を返せない。

「他には? もう聞きたいことはない?」
「はい、大丈夫です」
「さて、真珠も頑張ると決心してくれたし、黒曜も帰ってきてくれた。少しでも村がいい方向に動くよう、互いに協力しよう」

 瑪瑙が場をまとめ、首長室での話は終わった。その後、黒曜は、家を訪ねてくる村人が多くいるとのことで、先に帰って行った。

「これからは、巫女について調査していくしかないね。私は、国に巫女出現についての報告を上げる。どのような返事があるかは分からないけれど、やることは変わらない。真珠、困ったら何でも相談するんだよ?」
「……はい」
「そういえば、今日は銀の家に戻るんだよね?」
「あ、はい……」
「えっ、まだうちにいればいいのに!」

 真珠が肯定の返事をしようとすると、瑠璃が遮った。とてもじゃないが、昨夜のこともあり、今日は銀の家に泊まりたいと真珠は思っている。だが、正直に話すことは躊躇ためらわれた。

「こいつは、しばらく俺のところで面倒を見る」
「おや、いつの間にそんな約束をされたんですか? 僕たちもこちらで迎え入れたいと思っていますが」

 銀が真珠の代わりに話してくれたにも関わらず、玻璃が笑顔で噛みついていった。しかし今は、銀をからかっているというより、本気で真珠を招きたいと思っているようだ。真珠は照れてしまい、下を向いた。

「まあまあ、そんなに彼女を取り合わずに。真珠はどうしたいの?」
「えっと、銀さんの家に……」

 瑪瑙の問いに真珠が答えると、玻璃と瑠璃があからさまに肩を落とした。そんな姿を見たら、申し訳ない気持ちが込み上げてくる。

「じ、じゃあ! 明日はまた、玻璃さんと瑠璃さんのところにお世話になっていいですか!」

 投げやりに真珠が叫ぶ。銀は口をぽかんと開け、玻璃と瑠璃は肩を抱き合い、瑪瑙は小さく笑い声を漏らした。
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