真珠の涙は艶麗に煌めく

枳 雨那

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秘めた劣情

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 瑪瑙の家は、銀や玻璃の家のようなレンガ造りではなく、木造一戸建てだった。日本でいう書院造に近く、和の要素を全面に押し出していて、庭に何本も植えてある松の木を見ながら、真珠は感嘆した。

 瑪瑙は真珠を背負ったまま、玄関の引き戸を開け、家の中へと上がって行く。真珠は自分の下駄を脱いでいないことに気付いて、慌てて瑪瑙の肩を叩いた。

「瑪瑙さん、私、下駄を脱いでいないです」
「えっ? ああ、ごめんね。うっかりしていたよ」

 かつて玻璃が、瑪瑙のことを「抜けているところがある」と言っていたように、些細なことだが、たまにこうして彼もミスをする。真珠は彼のこういうところも、長所の一つだと思い、その背中に隠れて笑った。

 瑪瑙は玄関に戻って真珠の下駄を脱がせ、今度こそ客間へと入っていった。

 彼は布団の上に真珠を下ろすと、洋灯と真珠の着替えを取りに部屋を出て行く。その間に、真珠は脱力して布団の上に横になっていた。

 着物を脱がなければならないのに、媚薬のせいで全身が気怠けだるく、やる気が出ない。そのうえ、肌が火照っていて、熱を持て余していた。

(これって、ものすごくえっちな気分になる薬だっけ?)

 真珠は媚薬というものをよく分かっていない。ただ、下腹部がうずいて仕方ないのは、その影響を受けているからだとは理解していた。銀と手を繋いでいたときも、瑪瑙に背負われていたときも、もっと触れてほしいと本能的に思ってしまったくらいなのだ。

 この効果はいつ切れるのだろうか。ずっとではないだろうが、もどかしく苦しい状態をしばらく味わわないといけない。

「真珠、お待たせ」
「あ……ありがとうございます」

 横になっていた身体を起こそうとすると、瑪瑙は真珠の背中を支えてくれた。彼が洋灯を机の上に置き、それに火を点けると、部屋の中がオレンジ色の光に包まれる。どこの家でも見られる温かい光に、真珠もほっと息をついた。

「着替えはできそう?」
「そうなんですけど……力が入らなくて」
「私が途中まで手伝うから、頑張って浴衣に着替えて」
「はい……」

 まるで、親に着替えを手伝ってもらう子どものようだ。瑪瑙が帯を解き、締めつけを楽にしてくれる。時代劇なんかでは、帯を一気に引っ張られた女性が、くるくると回転する場面を見たことがあったが、実際にやることもあるのだろうか。そんなことを考えながら、瑪瑙に帯を任せ、真珠はじっとその手を見ていた。

「銀とは、話ができたみたいだね?」
「あっ……はい。瑪瑙さんのお陰です」
「よかったよ。銀も、ようやく以前の表情を取り戻していたように見えた」
「そうですか?」
「うん。君を襲った男への剣幕は、凄まじかったけどね」

 真珠はあの時の銀を思い出していた。確かに、あんな大声が出せるとは思っていなかったし、相手が竦み上がるほどの形相をしていた。全て、真珠を思っての行動なのだと分かるから、それを怖いとは思わない。むしろ、喜んだくらいだった。

「今日は、銀の家に行かなくてよかったのかい?」
「え?」
「帰り際、こっそり手を繋いでいただろう?」
「あっ! み、見られていましたか……」
「悔しいけれど、正直、お似合いだと思ったよ」

 予想もしない言葉に、真珠は驚いて瑪瑙の顔を見た。穏やかに笑っているのに、眼鏡の奥の瞳は、少し寂しそうだ。

「いえ、あのっ、あれは……いろいろ理由が重なって、といいますか……」
「銀のことが好きなんだろう?」

 真珠はギクリとした。瑠璃と同じことを瑪瑙が聞いてくるということは、そういう風に見えているということだ。

「それは、分からないんです。もちろん、頼りにはしていますが、それは好きって気持ちとは違うと思うし……」
「ふむ……。私も天然けしていると言われることが多いけれど、君たちは、もしかしたら私以上に鈍感なのかもしれない」
「えっ? どういうことですか?」
「これは自分たちで気付くべきことだから、私の口からは言えないよ」

 瑪瑙はくすくすと笑いながら、帯を全て取っ払った。真珠の着物が緩み、中の襦袢が見えてくると、瑪瑙は目を逸らしつつ、持ってきた緋色の浴衣を差し出した。

「母のお下がりだけど、使ってくれ」
「ありがとうございます」
「着替えたら今日はもう休みなさい。風呂は明日の朝、入れるように温めておくから」
「はい……おやすみなさい」
「おやすみ」

 瑪瑙は目を合わせないまま、部屋を出て行った。真珠をじろじろと見るのは、不躾だと思ったのだろう。

 真珠は、彼の紳士的な振る舞いに感謝しつつも、身体の熱をどうしたらいいのか分からず、困っていた。

 ほとんど力の入らない手を使い、もたつきながらも、真珠はどうにか浴衣に着替えることができた。帯はきちんと締められず、緩いまま着崩れているが、明日の朝になればこの痺れも去っているだろうと、そのまま布団に潜った。

 しかし、目を瞑ると、蘇ってくるのはあの男の感触だった。汗ばんだ手で肌を撫でられ、無理矢理指をねじ込まれた時は、痛くて不快でたまらなかった。

(もう、思い出したくない……)

 一日でたくさんのことがあった。鵺が現れたこと、真珠が特別な力を使えたこと、銀と関係の修復ができたこと――それらを考えようとしても、身体が疼いて、頭が言うことを聞かない。なんてものを飲ませてくれたんだと、真珠は心の中で悪態をついた。

 玻璃と瑠璃に触れられる時は、媚薬がなくても、真珠の身体はしっかり順応していた。それは、彼らが一方的な欲情の押し付けをしているのではなく、真珠を感じさせようとしているからだ。彼らに襲われたことを擁護するわけではないが、真珠が最終的に拒まなかったのは、それが根底にあった。

(どうやって、触ってくれたっけ?)

 二人が真珠に触れる時のことを思い出して、胸へと手をやった。緩い胸元から手を差し入れ、襟を軽く開けさせて触れてみる。彼らの手ではすっぽり収まるはずの乳房は、真珠の手では零れてしまうが、敏感になっている今はそれだけで気持ちがいい。

「んっ……」

 力が抜けているせいで、撫でて軽く揉むくらいしかできない。もっと強い刺激がほしくて、真珠は目を閉じて、二人に触られているところを想像した。

 彼らは、次に先端を摘まんだり、押し潰したりするはずだ。真珠も実際にそうしてみると、あっけなく鳥肌が立って、赤い蕾がぷっくりと膨らんでいった。それを指で弾いてみると、背筋を快感が走っていく。

「あっ……あぁっ」

 今ので、身体の中心から熱いものが溢れたのが分かった。自慰などしたことがない真珠は、羞恥を覚えながらも、好奇心と欲望には勝てずに下へ手を伸ばす。

 あの男が触ったところを上書きしたい。そんな理由をこじつけて、浴衣の裾から片手を入れた。

 秘所に指を這わせると、確かに蜜で潤っていた。彼らが撫でると、いつもぬるぬるする感覚はこれだ。何かが物足りないが、彼らの真似をして、真珠は指で弄ってみた。

 片手では胸を愛撫し、もう片方で秘裂をなぞる。それを続けると、いくらかの快感は拾えるものの、やはり決定打に欠ける。

(指を、挿れて……)

 真珠はついに、恥ずかしさを捨てて、中指を一本潜らせた。蜜壺は熱くうねり、簡単に指を飲み込んでいく。自分で触ってみた中では、一番の快感を得られる方法だった。

「あっ……あっ……」

 小さく嬌声を漏らしながら、あの男の指の感触を忘れたくて、真珠は内壁を擦り、気持ちのいいところを探した。彼らがいつも探り当てるそれは、一体どこにあるのか。指を最大まで中に潜らせても、思いのほか見つからない。

(もしかして、指の長さが足りない?)

 手の大きさが全く違うのだから、きっとそうなのだろう。自分でできることには限界があるのだ。

 それなのに、身体の火照りは一層強くなり、快感を貪りたくて悲鳴を上げている。この熱を一体どうしたらいいのだろうか。

「やだぁ……」

 助けてほしかった。熱を逃がせない身体がこんなにも苦しいとは。彼らも、色香に惹き寄せられると、きっとこんな風になってしまうのだ。真珠は、その辛さが分かってしまった。

 泣きそうになっていると、不意に、部屋の襖が静かに開いた。廊下の入り口とは違うそこは、隣の部屋に繋がっていたらしい。開けたのはもちろん、瑪瑙だった。
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