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誘いと真実
余韻
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「え…海?」
「そう。
アウトドアサークルの夏イベント」
「なんで、私を?」
鐘崎と身体の付き合いが始まって約1ヶ月が経ったある夜、行為が終わって一息とばかりに、お互い裸のまま横になっていた。
最近の鐘崎はすぐにシャワーには行かない。
こうしてしばらく寄り添って、時折首筋にキスをされたり、肌を撫でられたりする。
かと言ってセックスの方はお互い1回で完全燃焼なようで、2回戦と続くわけではない。
いわゆる、後戯というやつか。
今まで誰にもされたことが無かったから、新しくて、ヤる前とは違う心地良さがある。
触れて、身体を包む肌に、安心する。
「サークル外の人、2人までなら呼んでも良いって話だから。
今回、あんまり人来ないみたいで、参加者募集してんの。
秦さん…来ない?」
「ん……考えとく」
鼻を擦り付けるように腕をなぞられて、少しドキッとした。
甘えている、のだろうか?
可愛い。
「……待ってる」
「……うん」
少し嬉しそうに、頬にキスをされる。
このキスにどんな意味があるのかとか、考えると分からない。
セフレに、後戯は必要か?
そこから考えなくちゃいけなくなる。
後戯はヒト独特の物だと言う。
一種のコミュニケーションで、どちらかが満足出来なかった時や、行為の余韻を楽しむ行動。
私たちのはおそらく後者だが、それはあくまで両想いのカップルが、お互いの愛を確かめる為の行為でもあると思う。
だが、私と鐘崎はカップルではない。
ただ身体を重ねて、行為に満足するだけでいい、それがセフレの関係だろう。
でも、鐘崎にこうされて、嫌な訳ではない。
むしろ、もしこの後戯が、愛を確かめる為の、鐘崎の無意識の行為なのだとしたら。
私は、嬉しいと思ってしまう。
鐘崎への想いが、伝わっているかのようで。
***
「…それって、大学の部外者でも行けたりする?」
「え?どうでしょう?」
「何、大学生に混ざる気してんの?
やめとけー?もうおばさんなんだから」
「うっさいなー!
まだまだ若いわ!」
「へぇー店長に向かってそんな口を利くとは…」
「大して年も変わんないですからねーうちの店長とは」
「…………」
店長と莉奈さんが、ムッとした表情でいがみ合っている。
突然のことで少し驚くが、最近2人は何か、ピリピリしている。
何があったか分からないけど、それでも2人と一緒にいるのは心地良いと思う。
2人がとてもオープンで、私に気を遣わないからかもしれないが。
だから忙しい時間が終わった後でも、疲れが出るよりむしろ、この締め作業の時間が楽しみではある。
私も気を遣わなくていいから。
「絶対やめた方がいい」
「いいんですよー。
あたしは若い子達と海バカンスを楽しみたいのー。
特に秦ちゃんとー」
「私ですか?」
「だって、秦ちゃんと遊んだこと無いじゃない?
ここ年中無休だし、あたしら意外と必要とされてるからあんまり休めないし?
日中はお互い予定があるわけで…」
確かに、このお店で1年バイトしているが、打ち上げや仕事仲間との飲み会すらやったことがない。
深夜帯は私と莉奈さんともう1人で回してるが、大体私か莉奈さんが休みの日に交換するぐらいなので、2人で一緒に休みになることは中々無い。
逆に言えば、休むのは難しい気もするが……。
「まぁ、いいよ」
「え?」
「そんなに行きたいなら行ってくれば?
どうせ来月の話なんだし、シフトまだだし、1泊2日で帰りは日中なんだろ?
帰ってすぐどっちか深夜帯出てくれるなら、他の子に出てもらうよ」
「はい!はい!あたし出ます!
あたしが行きたいって言ったんだし!」
勢いよく手を挙げ、子供のように喜ぶ莉奈さん。
それを見て、父親のように優しく笑う店長。
「おう、偉いな高嶋!」
「まぁ、こう見えてここの優等生ですから!」
「古株とも言うがな」
「っさいなー!店長だって他の社員より古臭いわ!」
「古株と古臭いは違うだろーが!
それ悪口だぞ!?」
「はいはーい。
じゃ、トイレ掃除してきまーす」
「おい!ちっ、逃げたな…」
店長は片眉を上げて頭を掻いた。
それでも少し嬉しそうに笑う店長を見て、自然と顔が綻んだ。
「……なんだよ秦ちゃん」
「いえ、何でも」
私に気付いて、ツンとした口調の割にまた父親のように優しい顔をして、頭を掻いた方とは反対の手で私の頭を撫でると、何も言わずに調理場へ戻っていった。
なんだか、鐘崎とは違う形で、大切にされている気がして、胸の奥が暖かくなった。
2人には、感謝だ。
「そう。
アウトドアサークルの夏イベント」
「なんで、私を?」
鐘崎と身体の付き合いが始まって約1ヶ月が経ったある夜、行為が終わって一息とばかりに、お互い裸のまま横になっていた。
最近の鐘崎はすぐにシャワーには行かない。
こうしてしばらく寄り添って、時折首筋にキスをされたり、肌を撫でられたりする。
かと言ってセックスの方はお互い1回で完全燃焼なようで、2回戦と続くわけではない。
いわゆる、後戯というやつか。
今まで誰にもされたことが無かったから、新しくて、ヤる前とは違う心地良さがある。
触れて、身体を包む肌に、安心する。
「サークル外の人、2人までなら呼んでも良いって話だから。
今回、あんまり人来ないみたいで、参加者募集してんの。
秦さん…来ない?」
「ん……考えとく」
鼻を擦り付けるように腕をなぞられて、少しドキッとした。
甘えている、のだろうか?
可愛い。
「……待ってる」
「……うん」
少し嬉しそうに、頬にキスをされる。
このキスにどんな意味があるのかとか、考えると分からない。
セフレに、後戯は必要か?
そこから考えなくちゃいけなくなる。
後戯はヒト独特の物だと言う。
一種のコミュニケーションで、どちらかが満足出来なかった時や、行為の余韻を楽しむ行動。
私たちのはおそらく後者だが、それはあくまで両想いのカップルが、お互いの愛を確かめる為の行為でもあると思う。
だが、私と鐘崎はカップルではない。
ただ身体を重ねて、行為に満足するだけでいい、それがセフレの関係だろう。
でも、鐘崎にこうされて、嫌な訳ではない。
むしろ、もしこの後戯が、愛を確かめる為の、鐘崎の無意識の行為なのだとしたら。
私は、嬉しいと思ってしまう。
鐘崎への想いが、伝わっているかのようで。
***
「…それって、大学の部外者でも行けたりする?」
「え?どうでしょう?」
「何、大学生に混ざる気してんの?
やめとけー?もうおばさんなんだから」
「うっさいなー!
まだまだ若いわ!」
「へぇー店長に向かってそんな口を利くとは…」
「大して年も変わんないですからねーうちの店長とは」
「…………」
店長と莉奈さんが、ムッとした表情でいがみ合っている。
突然のことで少し驚くが、最近2人は何か、ピリピリしている。
何があったか分からないけど、それでも2人と一緒にいるのは心地良いと思う。
2人がとてもオープンで、私に気を遣わないからかもしれないが。
だから忙しい時間が終わった後でも、疲れが出るよりむしろ、この締め作業の時間が楽しみではある。
私も気を遣わなくていいから。
「絶対やめた方がいい」
「いいんですよー。
あたしは若い子達と海バカンスを楽しみたいのー。
特に秦ちゃんとー」
「私ですか?」
「だって、秦ちゃんと遊んだこと無いじゃない?
ここ年中無休だし、あたしら意外と必要とされてるからあんまり休めないし?
日中はお互い予定があるわけで…」
確かに、このお店で1年バイトしているが、打ち上げや仕事仲間との飲み会すらやったことがない。
深夜帯は私と莉奈さんともう1人で回してるが、大体私か莉奈さんが休みの日に交換するぐらいなので、2人で一緒に休みになることは中々無い。
逆に言えば、休むのは難しい気もするが……。
「まぁ、いいよ」
「え?」
「そんなに行きたいなら行ってくれば?
どうせ来月の話なんだし、シフトまだだし、1泊2日で帰りは日中なんだろ?
帰ってすぐどっちか深夜帯出てくれるなら、他の子に出てもらうよ」
「はい!はい!あたし出ます!
あたしが行きたいって言ったんだし!」
勢いよく手を挙げ、子供のように喜ぶ莉奈さん。
それを見て、父親のように優しく笑う店長。
「おう、偉いな高嶋!」
「まぁ、こう見えてここの優等生ですから!」
「古株とも言うがな」
「っさいなー!店長だって他の社員より古臭いわ!」
「古株と古臭いは違うだろーが!
それ悪口だぞ!?」
「はいはーい。
じゃ、トイレ掃除してきまーす」
「おい!ちっ、逃げたな…」
店長は片眉を上げて頭を掻いた。
それでも少し嬉しそうに笑う店長を見て、自然と顔が綻んだ。
「……なんだよ秦ちゃん」
「いえ、何でも」
私に気付いて、ツンとした口調の割にまた父親のように優しい顔をして、頭を掻いた方とは反対の手で私の頭を撫でると、何も言わずに調理場へ戻っていった。
なんだか、鐘崎とは違う形で、大切にされている気がして、胸の奥が暖かくなった。
2人には、感謝だ。
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