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61.皆して貶すな!

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  古民家なままの我が家の、古い畳の大部屋で、豪快に笑い声を上げるその嗄れた声は、けたたましく耳を刺激する。

  この太眉に白いタンクトップ、髪をツンツンと突き立てた父・やすしは、見ればわかるほどに上機嫌で、目尻にシワを寄せてまた高笑いした。

「ワッハッハ……いやしかし、凛がこんなに器量の良い人を婿にしようとはな!」
「ホント、昔から不器用で中々人見知りな性格で……ちょっと内にこもっていたと言いますか……」

「な……!  ちょっとやめてよ、そういうの……」

  目尻を拭う仕草をする母を叱咤するも、反論出来るような言葉が見つからず、徐々に小さくなる。

  思えば幼稚園の時からうまく友達の輪に馴染めずに、1人で遊んでいることが多かったし、今更反論するようなことでも無いのだが……。
  改めて両親から言われてしまうと、どうしようもなく惨めな気持ちになるものだな。

  それを今まさに敵であるこの悪魔部長に聞かれるのも癪で仕方ない。

  チラッと目を向けると、部長はまた父から酒を注がれているところだった。

  まだ昼間だというのに、だいぶ飲んでしまっていて真っ赤になっている父に対し、同じくらい飲んでいるであろうが、いつも通り真っ白な肌の部長は、相当酒に強いように見受けられてしまうのだろう。

  ……トイレとか、大丈夫なのかな?

  既に敗北を期して、完全に頭が上がらない状態の私は何も面白くは無い。

  しかしふと真面目に思えば、明らかに量の多いこの料理達がもったいなくて、なるべく食べ切れるように必死に箸を進めていた。

  母め……何故今日に限って生魚なのだ!

  いつもなら煮物だの天ぷらだの、焼き物の方が多いというのに……。

  むしろ、しがない農家であるがために、うちの家は貧乏だった。

  無駄に土地はあるのに収入も変わらないから、車もリフォームももっての他だったのだ。

  子供1人養うのもやっとの生活だと、一度夫婦喧嘩しているのを見たことがある。

  それにも関わらずこの男は!

  金にモノ言って両親を買収し、更には家に隣接した車庫も設計中だと……!?

  ホント、舐め腐っている、けど。

  お刺身に食べ飽きて、箸を置いた。

  なんで、そんなにまで必死なのかも、分からない。

「確かに、娘さんはどこか抜けているところがありますね。
私もつい、キツく叱ってしまうことがあります」

「な……!」

  そんな声が降ってきて、思わず反抗的に顔を上げた。
  部長はグラスを口に近づけ、目を細めて笑う。

  あんまりそういうの、恥ずかしいから言って欲しく無いのに……!

「あーもう、どうぞどうぞ、こいつ箱入り娘なもので。
どんどん叱ってやってくだせぇ」
「ホント、甘やかし過ぎたのかねぇなんて思うこともあるくらいなんですが」

  あぐらをかいた膝に手を乗せた父と頬に手を添えた母がコクコクと頷くのを見て、ムッと唇を噛む。

  もう、ホントこの親どもは!
  何調子よくサラッと娘の悪口を言うんだか!!

「でも、ご両親がいてくれたからこそ、こんな素敵な女性と巡り合うことが出来たと思います。
私の両親は早くに他界しておりますので、親の温もりは存じ上げません」
「あら、まぁ…」

  眉をひそめて感嘆する母に、思わずため息が漏れそうだった。
  527歳の人間の両親が生きてたらそれは確かに私もビックリするわ。

  それとも、もっと前のことを言っているのだろうか?
  人間だった頃、両親は早くに他界していたのだろうか?

  それなら、本当のこと、なんだろうけど……。

  そんなことを考えていると、部長は少し後ずさりして、床に手をついた。

「だから、1つだけ言わせてください。
凛さんをここまで立派に育ててくださり、ありがとうございました。
あとは私が一生をかけて、凛さんをお守り致します」

  お守りって……何からよ。

  と思いつつも、深々と頭を下げる部長に、なんだか顔が熱くなった。

  「うぅ…あんたぁホントに何から何まで良いお方だねぇ……」
「こちらこそ、娘をよろしくお願い致しますぅー」

  目尻を拭いながら、頭を下げる父と母に、また少し恥ずかしく感じた。

  完全に騙されている、けど、親にとって泣くほど嬉しい言葉なのだろうか。

  親になってみないと、分からないんだろうな。
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