【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

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本編【表】

第4話-流血

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『殿下!大変でございます!!』
王宮勤めの近衛兵が勢いよく客間に駆け込む


『騒々しい…何事だ』
王太子は"せっかく良い所を邪魔するな"と言わんばかりに不機嫌な顔付きだ。


『ハイネ様が…刃物を手に自殺すると騒いでおります!』


-しまった…ハイネ様は先程自身を"不要の者"と評し "生きる望みを失った"と語っていた。

-アルテアでは自決を匂わせる台詞だ。


-単に殿下の気を引きたいが為に咄嗟に口にしたはったりかと思い大して気にとめなかったが、どうやら本当らしい。

客間の外の廊下から騒がしい声が近付いてくる。


『近付かないで下さい!近付いたら死にます!』

ハイネ嬢の声だ。どうやらこの客間に近付いて来ているらしい。


『何故さっさと引っ立てないのだ』
王太子は近衛兵を責める様に言う。

『ハイネ様は近付いたら死ぬと…もし万が一の事がありましたら…』

『ふっ…貴様ら近衛兵は突っ立って見ているだけのカカシか?』

王太子は近衛兵を鼻で笑い見下した。

この近衛兵も気の毒だ。
死ぬと騒ぐハイネ嬢。もし仮に手を出し死なれたら全責任は近衛兵に向く。

かと言ってハイネ嬢を野放しにすれば王太子からは無能認定の板挟みだ。

彼は溜息を付き客間の扉を開けると、客間の扉のすぐ側でハイネ嬢とそれを取り囲む近衛兵 遠巻きには侍従や侍女達が野次馬と化している。

王太子は近衛兵の間を割って入り

『騒々しいぞ!何を騒いでいるハイネ!』
威圧する様な大きな声をハイネ嬢を制した。

『殿下…』
彼の怒声にピクりと反応し声を震わせるハイネ嬢
その手には短刀が握られていた。

『それはラグライア家からアルテア王家に対する反抗か?』
短刀を握る彼女に臆する事無く身を寄せ

『よろしい。俺が憎ければ突くがいい』
自身の左胸を叩き挑発する。

ハイネ嬢は絞り出す様に声を出す

『いいえ…ラグライア家は関係ありません…全ては私の意志です…今日 貴方の元に問いただしに来たのも…両親の反対を押し切って私の意志で参りました。あなたの口から全てを聞く為に…』

『早く突け 二度言わせるな』
一歩間違えたら刃傷沙汰の大事件に繋がりかねない状況だと言うのに王太子は相変わらず自分のペースで話を進める。全く会話が噛み合わないのだ。

彼女の短刀を握る手が震える。

『どうした?短刀を握ったものの…やはり王族に危害を加えるのは後が怖いか?』

-殿下違います。
彼女は一度は愛した殿下だからこそ躊躇われているのです。

-殿下は教養において学生時代 天童と謳われる程 深い知識を持ちと武芸においても同年代では敵無しと評され不得意な事は無いと言う噂を聞きましたが…いくら学や剣の腕があっても人の心を理解する事だけは苦手な様ですね。

-もし物語を読み 登場人物が何故この様な行動をとったか答えよと言う問題が出たならば

-このお方の解答欄は空白だらけになる事でしょう。

『分かった ならば別の機会を設けてやろう。』
王太子はそう言いセリアを自分の傍に来る様に促すと

『さぁハイネ…この者を突くがいい』
セリアをハイネ嬢の前に背中を押した。

『殿下…?』

-何を言って居るのだろう?
彼女は貴方に会いにこられたのですよ?
何度も言いますが…いや実際には口にしていませんが何故私を巻き込まれるのです?

-この方は本当に訳の分からない事を言う。
殿下は心で何を考えているのか全く分からない
1つだけ分かる事は真っ当な思考回路をしていないと言う事だ。

『ハイネよ…このセリア嬢はお前から俺を奪った張本人だ。憎かろう?この者が俺に擦り寄らなければお前が婚約破棄される事は無かった。』

-何を…言っているの?

王太子の発言は出鱈目も甚だしい。
突然 王宮に呼び付けて求婚を迫ったのは紛れも無い王太子だ。

それが今度はそのセリアを自分が袖にした元婚約者に殺させようとしている。

もうここまで来ると異常者の域だ。
周りの近衛兵達もザワついている。

止めるべきか、止めていいものか、この状況はなんなのか?と頭を悩ませているのだろう。

仕方がない事だ。その答えを知るのはこの場で彼ただ一人なのだから

『この者を突け…憎き怨敵を殺す強さをお前が持っているならばまだ見込みもある。そうすれば婚約破棄は撤回し今度こそお前を王太子妃に迎えよう。』

王太子はハイネ嬢の短刀を握る手を掴みセリアの細い首に当てる。

刃の冷たさとハイネ嬢の震えがセリアの首元を走る。

-今日は一体なんと言う日だろう?
今日と言う日に名前を付けるならば

-"とばっちりの日"が相応しいだろう。

心中で自嘲じみた考えを走らせていると、セリアは不意に笑みを零してしまう。

自分の今日と言うこの無茶苦茶な一日があまりに滑稽過ぎるからだ。

周りにいる王太子以外の人間はセリアにギョッとした眼差しを向ける。

首元に刃物を当てられ笑っていられる女性が奇異でない筈がない。

。恐怖で身を硬直させるものだ。泣き叫んだって仕方がない状況だ。

『彼女には出来ないと高を括っているな?それは大きな間違いだ。』

王太子はセリアの笑みを全く別の真意と解釈する。

『ハイネは俺の為ならなんでもする。そう…だ。俺の気を引く為ならば公爵令嬢にあるまじき振る舞いも厭わない。』

意味ありげな発言と共にニッと口角をあげ笑う。
王太子の発言にハイネ嬢も動揺の顔を見せる。

端正な顔立ちなだけに彼の笑みは余計に悪どい顔付きに見えた。

王太子はセリアに耳打ちした。

『ハイネが俺を求めるサマは正に飼い主の寵愛を求めしっぽを振るだった。俺の関心が離れていると知ると夜這いを仕掛け娼婦も顔負けの卑しい下着姿で俺に情を求めてきたのだ。婚姻前のアルテアの女にとって純潔は命と同等にも関わらず俺を求める姿は正に盛りがついた雌犬だ。』

セリアの耳元で穢らわしい言葉の数々を吐き付ける。

-王立学園では上級生としてあれほど気品溢れる姿だったハイネ様が…?

セリアはハイネの方に目をやると、ハイネ嬢はセリアから目を逸らした。大方何を耳打ちしたか察しての行動だろう。

つまり王太子の発言は事実と言う事だ。

『セリアよ 俺の言う事に従えないなら死ぬがいい   ハイネよ 再び俺の隣に立ちたいならばセリアを突け…どうするかはお前達次第だ。』


-なんと言う男だろう。
この男は自分を殺さんとやって来た元婚約者を使って私を脅す道具にしている。

人の都合や想いを全く意に介さない。
自分以外の人間は利用する為の道具としか見ていない

利用出来なくなれば正に壊れた道具の様に捨てていく。

その事に一部の罪悪感も感じない


まさに悪魔の感性メンタルだ。


「こう言う人だったんですね……」


セリアに向けた短刀を下ろすハイネ嬢
目は虚ろながら王太子に抱いていた愛と言う執着の呪いから解放されたかの様に何処か悟った表情だ。


漸くこの男の邪悪な本性に気付いたらしい。


-何故、公爵令嬢ともあろうハイネ様がこんな大騒ぎをしてまで、この王太子に執着していたか理解に苦しみますが…とにもかくにも貴女は解放されたのです。


-殿下もこんな不祥事は大事には出来ないはず。
傷が癒えるには時間が必要でしょうが、どうか別の方とお幸せに……


「さようなら」
ハイネ嬢は自分の手首に短刀を据え


「え…」


勢いよく短刀を引いた。


辺りに赤の飛沫が舞った。
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