【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

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本編【表】

第23話-オオカミ少年

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~セリア視点~



-この人って人は...この人って人は...


セリアは戦慄していた。
幾ら虫の好かない人間に対する本音とは言え、相手はこの国の王族だ。

如何に本人が言いたい事を言えと言っても、本当に言いたい事をありのままに話してしまうシェーヌに驚愕した。


先程まで愛想の良い笑顔を繕っていた王太子の表情は一瞬で真顔に変わり、眉がピクピクと歪んでいた。


否が応でもゆくゆくは、自分の主となる王位継承者に向かっての物言い。


下手をすれば...いや下手をしなくても充分 不敬罪に問える発言だ。


-兄上...あなたはバカなんですか...?


そんな挑発をして何の得になると言うのか...
下手をすればフェレネス家の爵位剥奪と解体だって有り得る言葉を...


『殿下のお言葉通り!言いたい事を言わせて貰ったぜ!』


『あ、兄上...』

流石にシェーヌを制止しようと口を挟むセリアだがシェーヌの勢いは止まらない。


『何を後ろめたそうな声出してんだセリア?殿下は言いたい事を言えと仰ったんだぞ?そんな気遣いを無下にして黙ってる方が無礼じゃないか!』


尚も挑発の様な言葉を続けるシェーヌ。


『ふ、ふふ...案ずるなセリアよ。俺はこれしきの言葉で気を悪くする様な器の小さい男ではない。シェーヌは俺の言葉に従った迄の事だ。』


王太子は引き攣った笑顔で平静を装いセリアに語りかける。気位の高い王太子にとって、自分が好きに語れと言った手前、本当に相手が好きに語った事を咎めるのは"まさか本当に好きな事を言うなんて思わなかった"と自白する様な物。


そんな事はこの王太子のプライドが許さないのだ。


『それに…!臣下の心の内が把握出来るのは良い事だ!表向きはニコニコ諂って居ても腹の底では舌を出している者共よりかは遥かにマシだ!なぁに!信用が無いならばこれから育むだけの事!シェーヌの言葉はとても有益だった!』


気が付けばいつもの自信に溢れる王太子に戻っていた。

彼の自己肯定能力は凄まじい。
"信用出来ない人間"とまで言われながら、その言葉を自分の懐の広さをアピールする道具に変え。

あまつさえ"有益だった"と称す。


彼の言葉を単純化すれば
"俺は悪口言われてもへっちゃら!寧ろ俺の得になったもんね"と言う子供地味だ負け惜しみだが

言葉回しによって懐の広い賢王の器を誇示する道具に変える。


良く言えば超絶ポジティブ思考。
悪く言うなら負けず嫌いの屁理屈名人だ。


『へへっ!殿下ならそう仰られると思っていたぜ!』


シェーヌは悪戯が成功した子供の様に笑って見せる。


-まさか…兄上は殿下がどう反応するか分かっていた…?


セリアはシェーヌの言葉に半信半疑だが…
シェーヌの言葉により取り敢えずは王太子に優位な流れを断ち切る事が出来た。


『時にシェーヌよ。お前は今のアルテアの在り方をどう思う?』


王太子は突然話題を変える様に話を振る。
また自分が優位になれる会話の糸口を探しているのだ。


『賊との小競り合いはあれど、15年前のイリス戦争を最後に他国との諍いも無く。平和で良いんじゃないかと思いますが?』


『つまり…今のままで良いと?』


『あぁ』


『分かっていない。』


シェーヌの返事にすかさず待ってましたとばかりに言葉を返す。


『本当に今のままで良いと思うのか?異常気象で飢饉が発生しアルテアは長年食糧難に苦しんだ。隣国は酷い干ばつに苦しみ、隣国の民が賊に成り果てアルテアの地を侵している。また異常気象は大陸全土で起きている。多くの国が食糧難や干ばつで苦しむ中、アルテアは水源保有大国。他国からすれば宝の山だ。いつまでも他国がアルテアを放って置くと思うのか?今の様なアルテアのやり方が通用すると本当に思うか?』


ベラベラ ベラベラ
間髪入れず始まる王太子の1人演説。


シェーヌやセリアに反論する余地すら与えない。


『何が言いたいんで?』


シェーヌは回りくどい王太子の演説に?が写かび思わず質問で返してしまう。

王太子に畳み掛ける隙を与えてしまう。


『シェーヌよ。かの大陸大戦の様に大国が再びアルテアに宣戦布告したらどうする?』

王太子はまた質問を投げる
その真意は不明だ。


『戦うなぁ』


シェーヌは率直に迷うこと無く返す。


『その大国がアルテアよりも優れた軍事力や技術を持つ国ならば?』


再び質問。


『命の限り死ぬまで戦うなぁ』


シェーヌの答えは変わらない。


『………誠の武人の言葉だが…それでは国は守れないのだ。現実は戦うだけでは何も変わらないのだ。』


王太子はシェーヌの答えを頭からは非難しないが、その"戦う"と言う意志を否定する。

王太子の演説は正論にも聞こえるが何故か2人の頭には入らない。

彼の今の"立派な王太子"の姿が繕った人格が故に、どんな正論も自分達を懐柔する為の御為倒しにしか聞こえて来ないからだ。

"オオカミ少年"と言う童話がある。
このお話の教訓は…


と言う教訓だ。
2人にとって王太子はもう立派なオオカミ少年なのだ。


『変化を拒んでは行けない。大事なのはどんな形であれこの大陸にアルテアが永遠に存在し栄え続ける事だ。その為ならば他国に迎合して古き仕来りや所謂を曲げてもだ…時代は目まぐるしく変化している。このままではアルテアは時代に淘汰されアルテア人は大陸から根絶される事になるのだ。』


『むぅ~ん?』


相変わらずシェーヌの頭にはハテナマークが消えない。王太子の演説は自身の言葉を立派に見せようと堅苦しい言葉で装飾されている為、ややこしい話が嫌いなシェーヌの頭には入ってこない。


『何故お前にこの話をするか…分かるな?』

王太子は自身がされて嫌悪感を抱いた人の心中を察せよと言う理不尽クイズを出す。


『分かりません!』


シェーヌは分からないと素直に即答する。
本当に分からないからだ。




『……俺はセリアの個人能力をかっている。そしてシェーヌ、お前の兵を束ねる統率力もだ!俺が王になった暁には…セリアには我が妃として、そしてお前には俺の第一家臣として支えて欲しい。無論 お前に相応しい地位を与えよう。今のアルテアは年功序列の様な無為な制度で古くから存在する貴族家が地位の座にしがみついている。アルテア御三家もラグライア公爵家も、お前達フェレネス家の者共が与えた功績以上の働きをしていないのにだ、俺が王になった暁には…そんな制度は撤廃し男爵家だろうが…平民だろうが!功績を挙げた者を上に押し上げる新体制を樹立しアルテアを開国し大陸の国々と共栄していくつもりだ!共にアルテアの新時代を築こう!』


話している内に自分の言葉に興奮して来たのか、終盤は早口で、一見立派にも聞こえる演説を続ける。


しかし彼は分かっていない。
シェーヌは王太子を"信用出来ない人間"と称した。

信用していない人間が幾ら立派な事を言っても説得力を持たない。


そもそもアルテアは創立してより数百年
元より他国との交流等戦争以外無かった国だ。


そんなアルテアが開国して他国仲良くしよう等と言う王太子の言葉は…

頭上の遥か彼方にある月に行ってみようと言っているに等しい。


即ち絵空事にしか聞こえないのだ。


『俺の言いたい事は分かるな?』


再び理不尽クイズ


『全然』


理解しようとも思っていないシェーヌ。
シェーヌは自分が見限った人間の話は頭の中に入って来ない。


何を言われようが右の耳から左に出て行ってしまう。


人の意等 なんとも思わない王太子と見限った人間の口から出る言葉はどんなに立派な言葉でも理解しようとすらしないシェーヌはある意味 少し似ている。


違いは2人の他人を測る物差しが


王太子は"こいつを利用出来るか?"と言う実利的な見方であり


シェーヌは"こいつを信用出来るか?"と言う内面的な見方である事だ。


『ちっ…』


反応が悪いシェーヌを見て苛立った王太子は
本来の尊大な王太子に一瞬戻り

2人に気付かれない様に小さく舌打ちをした。
が…すぐに笑顔で良き王太子の顔に戻り


『すまんなセリアよ。お前を置いてけぼりにして堅苦しい話をしてしまった。』


セリアに気を遣うフリをしてこの会話を閉幕とする。


『シェーヌよ!セリアを少し借りるぞ?』

『え?』


王太子はセリアの手を取る。
突然の事に呆気に取られるセリア。


『嫁入り前の妹を他の異性と2人きりにはさせられんなァ』

すかさず助け舟を入れるシェーヌ。


『何も取って食おうと言う訳では無い!セリアは辺境伯家の財政支出管理を任されているのだろう?そんなセリアと少し政治や経済の話がしたいだけなのだ。』


『うっ…』


政治や経済の話と聞いて、表情を曇らせるシェーヌ。彼は細々とした数字が大の苦手だ。


-と言うか…何故この方はファルカシオン家での私の役割を知っているんですか…


フェレネス家とファルカシオン家の人間以外 知らない筈の自分の役割を知られていた事に背筋に冷たい物を感じるが…


ここは、シェーヌに頼る訳には行かない。
彼は剣技と兵の統率力には優れても政治とは何かを王太子に語られても何も分からない。

実はシェーヌが未だ未婚なのはこれが原因だったりもする。

フェレネス家次期当主のシェーヌが政治に関しては全くの無知、故に妻に迎えるならば数字に強く、少々いい加減な所があるシェーヌの尻をひっぱたきながら背中を押せる様な豪胆なしっかり者で無ければ務まらない。


とにかく…政治はシェーヌの守備範囲外。
下手に口を出せば王太子に攻撃の隙を与える事になりかねない。


セリアは"大丈夫です"と言う意を込めて、シェーヌに向かい頷いて見せた。


王太子は笑顔でセリアの手を取る。


『じき、先客の用も済み使いの者が来よう。それまでシェーヌは緩りと寛がれよ。さぁ行こうかセリア』


まだまだ…この王太子によるフェレネス家懐柔計画は続く様だ。
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