【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

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本編【表】

第34話-君恋し葛藤の日々

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-幼き日のライアン視点-


ウラドからセリアを救い出してあれから1週間


アルテア中でセリアの名が広まった。


不治の病に犯されていたセリアをアルテルシオンが癒した。


セリアはアルテルシオンに祝福を受けた聖女だ。


そんな噂が錯綜して、皆がセリアを称えた。


話が歪曲して都合の悪い話はない物とされ、都合のいい話だけが広まるのが宗教の恐ろしい所だ。


遂最近まで俺もアルテルシオンを唯一無二の神と信じていた為、あまり偉そうな事は言えないが…


あれからすっかり病気を克服したセリアと俺は何回か顔合わせをした。


病気を克服したセリアは初めて対面した時とは異なり顔色は艶があり血色も良く、細かった体も健康的な体付きになっていた。


病魔に蝕まれていたセリアが元気な姿になった俺は生まれて初めて"美しさ"と言う物を認識した。


セリアは…相当な美人だ。


フェレネス伯爵夫人も美麗の淑女と渾名され評判のある女性で若き頃は我が父とフェレネス伯爵が彼女を奪い合って剣を交えたなんて噂もある程だが…


セリアはそんな伯爵夫人の美貌を受け継いでいた。
ただ…相変わらず無表情で俯きがちな彼女の雰囲気は父であるフェレネス伯爵にも似た所がある。


俺は…再び開かれた対面式でセリアに見とれていたが…

セリアは一度 二度と俺と目が合うと途端に逸らし俯いてしまう。


何か会話を…と言っても…この前の遭難の話しか俺とセリアには接点がない…


彼女をまた不安にするあの夜の話はしたくなかった。


俺達はただ…互いに見詰め合うだけの無言の対面式を何時間も続けた…

彼女の青空を写しこんだ様な蒼い瞳を見ているだけで時間を忘れられた。


しかし途中で様子を見に入室して来た父上に呆れられてしまった…


俺はどうして…こう気が利かないのだろう…


二度目の対面式では、セリアから声を掛けてくれた。


『ライアン様と併走したいです。』


また無言の時間が数十分続き、耐えきれなくなったセリアが出した提案は…乗馬だった。


俺はチャンスだと思った。


この前…俺は暴れ馬のドゴンを克服した。
ここで格好良い姿を見せれば…セリアも少しは感心してくれるだろう。


俺はセリアの提案に了承した。
しかし…俺の浅はかな希望は打ち砕かれた。


セリアは騎馬隊最強のフェレネス家の娘だ。
フェレネス家の子供は揺籃より先に馬に乗るとさえ言われるだけありセリアの乗馬技術は大人も顔負けの物だった。


自分より遥かに大きな白馬に颯爽と跨るセリアは…
なんと言うか…その…格好良かった。


負けじと俺もドゴンに跨ろうとするが…この前の走りが嘘だったかの様にドゴンは暴れ嘶き、俺を背に乗せる事を拒んで振り落とした。


俺は…無様に泥の中に放り込まれた。


最悪だ…最悪だ…


格好付ける所か最悪の醜態を晒してしまった…


こんな顔中に泥を付けたみっともない姿では、セリアの顔が見られない…


泥に埋まる俺をセリアが懸命に引っ張ってくれたのがまた情けない…


男の癖に…戦士を目指す者の癖に…


許嫁のセリアに助け出される自分が情けなかった。


『だ、大丈夫ですか?』


セリアが半笑いで俺を見ていた。
呆れているのだろう…


『す、すまない…あっ…』


俺はセリアの白い余所行きの服が…泥で汚れている事に気付いた。


-クソ…クソ…なにをしているんだ俺は…


セリアがなにか励ましの声を掛けてくれていたが俺には聞こえなかった。

ハンカチを取り出し俺の顔を拭こうとしたセリアだが…俺はそれを拒んだ。


『よせっ!汚いだろう!』


『え…』


-あぁ…またやってしまった…どうして俺はぶっきらぼうな事しか言えないんだ…


俺は彼女の白く美しい髪が…肌が…これ以上汚れる事を拒んだ。


しかし咄嗟に拒んだ為…まるで彼女を汚い物扱いしている様な言い方になってしまった。


-違うんだセリア…君に汚れて欲しくないだけなんだ


この一言を言うだけで誤解が解けるのに…俺にはそんな簡単な一言を言う勇気すらなかった。


セリアはまた暫く俯くと…何を考えたのか自ら泥の水溜まりの中に身を倒した。


『何してるんだセリア!?』


『泥濘に足を取られて……大変…私もライアン様と変わらない程汚れてしまいましたね。これ以上汚れ様がありませんのでどうぞ此方をお使い下さい。』


そう言うとセリアはハンカチで俺の顔を拭ってくれた。

セリアは優しい嘘を吐く。
俺に恥をかかせまいとワザと泥に飛び込んだのだ。


-守るべき女性に守られてどうする…クソ…クソ…


俺は強くならなければならない…


どんな敵や災害

神の呪いからも彼女を守れる程の力を…


それから俺は自己鍛錬に邁進した。
実戦経験豊富なグロード兵士長が指南する剣術稽古に顔を出し実戦に向けた戦い方を学んだ。


セリアがもし野盗や賊に襲われた時、彼女を守れる様に。


勉学にも打ち込んだ。
数学や歴史等の基本教養は元より薬草学や植物学、医術にはより力を入れた。


セリアがもし…また何かの病気になったり、怪我をした時、すぐ側に俺がいさえすれば助けられる様に。


植物学を学んだのは、有毒植物から薬になる植物を学ぶ事で、緊急を有する有事の際にセリアを守る為だ。


自己鍛錬の合間を縫ってセリアとの対面も続けた。
日に日に成長していく実感があった俺を彼女に見せ付けて安心して貰う為に。



-セリアもう無理に笑わなくていい…気を遣う必要はない


-君が君のままでいても安心出来る様な俺になるからな



その一身で自己鍛錬を続けたが…
実力を付ければ付けるほど…

学べば学ぶほど…俺の限界が嫌と言う程実感させられた。


俺より後に剣術稽古に参加した我流のシェーヌに俺は模擬試合で負けた…


実際には引き分けだったが


シェーヌは"接戦だったな!"と軽口を叩くのに対して俺は息があがり何も言い返せなかった。


勉学も…俺より後に俺を真似る様に同じ学問を勉強し出したセリアに俺は補習された。


"この問題は先程の方程式で分解出来ますよ"


セリアとシェーヌの気遣いが俺にはただ ただ痛かった…


"また俺が気を遣われている"


それが情けなくて辛かった…


歳を重ねるごとに二人の名声は高まる。


アルテアの勇者シェーヌ

才色兼備なアルテアの華セリア


そんな中で俺は…まだ何者にもなれていない…


こんな俺が…どうやってセリアを守るなんて言えるのだろうか?


そんな俺の思い察し得たのかセリアはまた俺に気を遣い微笑んで言う。


"勉学も剣術も二つともモノにするなんて不可能です。天は二物を与えずですよ"と


その優しさが辛かった…
その気遣いが辛かった…


頑張れば頑張る程己の限界が嫌と言う程よく分かる…


俺は…シェーヌに剣術で勝てない
俺は…セリアに勉学で勝てない



俺は負け犬なのか?



いや…違う!!
違うと信じたい…


俺にはシェーヌにもセリアにも出来ない国境領土守護防衛の任があるじゃないか


これだけは…誰にも譲らない
倒す強さはシェーヌに負けても
守る強さだけは勝って見せる


俺は父に詰め寄って12の歳で国境警備兵の任を与えて貰った


シェーヌの初陣は13歳だったと聞く。
ならば実力で劣る俺が奴に近付くにはそれよりも早く実戦経験を積む必要がある。


俺は絶対に…この任を遂行して見せる!
そう誓って初の出兵に臨んだが…


ここでまた…俺は自分の不甲斐なさに苦しむ事になる。
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