【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

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本編【表】

第35話-失望

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-幼き日のライアン視点-


俺達ファルカシオン国境警備隊はトーゴ平原を少し進んだエプソン近郊の森で賊と遭遇した。


賊は20人からなる中規模の盗賊団で、アルテアの水源を盗掘していた。


我々と鉢合わせし追い詰められた賊共は忽ち剣を抜き交戦となった。


覚悟が無かった訳ではない。
しかし…一秒先が自分か相手が死ぬ実戦は…

俺が思っている以上にシビアで待った無しの世界だった。


俺が切り付けた賊は傷から血を流し悲痛な叫びあげて命乞いをする。


その命乞いに僅かに躊躇った隙に賊は隠し持っていた短剣で切りかかって来た所を父上がトドメを刺した。


『なにをしているライアン!!敵に情けを掛けてはならん!!迷いある剣では朽木すら切れんぞ!!』


普段温和な父上に一喝された。
俺がなまじ敵に情けを掛けたから…一息で殺めるには足りず…反撃を許した。


俺はまだ人を殺すと言う事がどんな物か理解していなかった。


守る事は…滅ぼすより難しいと言うが
敵を躊躇いなく殺める事もまた難しい…


シェーヌは13歳でこれを意図も容易くこなして居たのか…


気が付けばまた俺はシェーヌと自身を比較し卑屈になっていた。


ダメだダメだ…


後悔する暇にこの反省を次に活かせ!!


俺は粛々と…敵を殺して回った。





戦場は"殺るか" "殺られるか"だ。
話し合い等通用しない。


殺さねば殺される。


俺は自分に言い聞かせた。


"これは正当な殺しだ"

"セリアや領民を悪から遠ざける為の殺しだ"

"例え神の御前に立たされ今日の殺しを咎められても…胸を張って説明が出来る"


俺は自分自身に言い聞かせる事で…殺しの洗練を全うした。


セリアに呪いを掛けた神等認めないと誓った筈にも関わらず…俺は罪悪感を誤魔化す為に無意識に神に縋っていた。


賊達は一人…また一人と頭数を減らし


遂に全員が地面に染みを作る骸となり
父上達は骸を槍で突いて残党狩りを行う。


『な、何故そんな事を…』

『確実に殺す為だ。』


骸を槍で突くと言う行為に、今回が初陣だった俺は抵抗感を覚えた。

そんな俺に父上は理由を述べた。


『動物にも言える事だが…手傷を負って追い詰められた生物は…起死回生を測って想像も付かない事をする。剣を交えた敵は必ず殺さねばならない理由はそれだ。』


父上はそう言って呻きながらまだ息がある賊の一人を一突きで葬る。


『それに…武力を用いてアルテアを侵した時点でこの者らは死刑だ。敵に憐憫の情があるなら一息で楽にしてやるのがせめてもの情けだ。』



そう言って父上達が骸の山に槍を突き刺して回る中


「あっ…あぁ…」


仲間の死体に紛れた賊の生き残りと目が合った。
賊は…俺と目が合うと途端に震え出した


『・・・』


俺は父上の教えに従い、短剣を引き抜いて賊に迫る。


「や、やぁ…やめ、やめてくれぇ…」


息を殺す様に…賊は俺に命乞いをして来た。
だがダメだ…殺すしかない


俺は先程、躊躇った一瞬で賊に殺されかけた事を思い出し自分の躊躇いを押し殺した。


「俺は違うんだ…!俺は…あいつらに脅されて扱き使われていただけで…武器だって何も持たされちゃいないんだ!サラバドの農地が枯れるまではただの農民だった!!」


『悪いが…死んで貰う』


「頼むよ坊ちゃん…後生だ!!…故郷で家族が俺の帰りを待っているんだ…!カミさんは去年娘を産んだばかりで…俺が帰らないと飢え死にするしかないんだ…」


敵に同情等するな…

誇りある戦いの結末は…

どちらかの死で終えなければならない…


俺はまた自分に言い聞かせた。


「頼むっ…!!」



しかし…果たして本当にそうだろうか?


今日の殺しは…正当な殺しだ。
武器を持ってアルテアを侵して領民を脅かした賊。
殺さねばこちらが殺されていた。


だから仕方なく殺した。
この戦いは…名誉ある戦いだったと誰に聞かれても言える。


しかし…剣も持たず命乞いをする無抵抗の賊を殺める事が…誇りと言えるだろうか?


俺は自問した。


シェーヌは初陣で海から船でアルテアに侵入し、人が寄り付かない山岳付近を根城にしていた賊集団30人程をフェレネス軍の僅か8人で壊滅させたそうだ。


その際、齢13歳で一番敵首を挙げたのはシェーヌは一人で20人近くの賊を屠ったと噂されている。


その戦いぶりはまさに闘神の如く敵の血を浴びることに一切躊躇いが無く。


情けも容赦もなく戦意喪失して降伏する賊の首を撥ねて回ったらしい。


シェーヌは殺しに躊躇いが無い。
敵を討ち滅ぼす事が彼の誇りだからだ。


だが俺は違う。
守る為の殺しは厭わないが…戦意を失った敵を殺すのは俺の誇りとは反する。


シェーヌの強みが攻める事なら
俺の強みは守る事だ。


シェーヌを超えるべきライバルと見ていた俺は奴の思想と真逆の考えを持つことで対抗していた。


今思えば…幼稚な張り合いに過ぎなかったのかも知れない。



俺は…賊を見逃した。
賊は顔を深く切られて負傷していたので止血用に自分のハンカチをくれてやった。


「ありがてぇ…坊ちゃん…この恩は忘れねーよ…!」


俺は…父上達が残党狩りをしている隙に目を盗み
賊の生き残りを森の奥に逃がした。


賊の男は何度も何度も頭を下げて俺に感謝した。


正直…気分が良かった。


賊の男に平身低頭感謝された事がではない。


国教や誰かが決めた掟では無く自らの意思
自らの法誇りで初めて事を成した事が誇らしかった。


命を奪う事。
敵を殺しまくる事が仕事である武家の生まれである自分が…


自らの意思で"人を一人助けた"
その実感が持てた事が嬉しかった。


初めて自分が他の誰にも出来なかった事をやってのけた気分になれた。



俺は今日シェーヌを超えた。


無闇矢鱈に敵の死に固執するのは…悪く言えば臆病の証だ。


生かした敵に復讐される事を畏れるが故だ。


俺はそんな臆病者じゃない!


もし奴が再びアルテアに害を成す脅威になったなら
俺が何度でも止めてやる!


俺はこの時子供ながらに、一国の主になったかの様に有頂天だった。


今まで自分が疑問視していた敵は必ず殺せと言う必殺の掟。


その掟に一石を投じた快感。
人を殺めると言う罪悪感から目を背け自分は良い人間と思いたかったのか…はたまた虚栄心か…


俺はこの先激しい後悔に苛まれる事となる。
俺の幼稚な対抗心が…取り返しの付かない自体に発展してしまうからだ。



----------------------

三日後…


早朝、朝の鍛錬をしていた俺に父上は物凄い形相で掴みかかって来た。


『敵に情けを掛けたな!?』


普段温厚な父上が目を血走らせ俺を絞め殺さんとばかりに胸倉を掴み上げて俺に迫った。


俺はその二面性に恐怖し咄嗟に"何の事か"と誤魔化した。

しかし父上は…血塗られたハンカチを俺に突き付けた。


俺が賊にくれてやった止血用のハンカチだ。
ハンカチには俺の名が刺繍されていた。


俺は観念して全てを打ち明けた。
しかし打ち明けた途端に、父上は鉄拳で俺を殴り付けた。


『戯け者!!敵に情けを掛けてはならんとあれほど言っただろう!!!』


『お、お言葉ですが…奴は戦う意思のない非戦闘員で賊に囚われていた使い走りでした!!』



俺は父上に反論した。
父上の怒りは"神聖な戦の誇りに俺がケチを付けた事に違いない"と決め付けていたからだ。


俺はセリアの件以降
神の掟に対して疑問と反抗心を抱いていた。


誇りを重んじろと言うならば、無抵抗の人間を殺す事が誇りなのかと父上に反論した。


するともう一撃…父上の鉄拳制裁を受けた。
理性的な父上が…俺の話すら聞かず一方的に叱る等初めての事だ。


父上は息を荒らげながら言った…


『昨日の夕刻…見知らぬ余所者が目撃された。』

『その者は…家業で作物を運んでいた少女から食糧を奪い散々辱めた挙句…執拗に殴打を加えて殺害した。少女の亡骸の傍から…このハンカチが見付かったのだ。』


『なっ……』



-ば、バカな……


-俺が見逃したあいつが…少女を殺した…?


-だってあいつは…自分は賊に囚われていただけだって…



俺はこれ以上に無いほどの後悔に苛まれた。


自分のエゴが…守るべき領民を死に至らしめた…


俺がした事は…誇りでもなんでもない…

ただ逃げていただけだったと思い知らされる。

俺は…今まで父上が…先祖達が果たして来た責務から逃げていただけ…


例え血に塗れてでも…守るべき者の為に命を賭ける。

例え敵からどんなに情けを乞われようと…

悪魔と罵られ様と…


領民の為に血を被る。
そんな責務に都合のいい自己解釈を付随させて逃げていただけだったのだと自覚した。


『俺は……俺は……』


『王政に報復の許可を賜った。これよりフェレネス遠征軍にファルカシオン軍も合流し下手人を捕縛しにサラバドに向かう……下手人の顔はお前しか知らん…下手人の人相と特徴を言え…』


父上はもう怒りを表しはしなかった。
代わりに静かに…俺にあの賊の人相を聞いた。


『俺にやらせて下さい!!今度は必ず!!』


『人相を言えと言っているんだ!!!』


父上に怒鳴られ…俺は涙を流しながら紙にあの賊の人相を書く。


"もうお前等信用ならん"と見放されたのだ。


あの時に戻れたら…


そんな後悔しかなかった。
俺の下らない思想が罪のない少女の命を奪った。


俺が殺したも同然だ…


こんな不甲斐ない俺が…どの面を下げてセリアを守れるだなんて言えるだろう…


俺は…負け犬だ…


この約立たずめ…消えてしまえ!!


俺は心の中で自分を何度も詰った。


こんな俺はセリアに相応しくない…
俺には…セリアを守れない…


『お前には…まだ早かった』


父上は俺にそう言い残し…サラバドに向かった。
外には既にフェレネス遠征軍とファルカシオン軍の戦士団が整列していた。


その先頭にはシェーヌがいた。
扉腰に目が合うとシェーヌは何とも言えない表情で俺を見詰めてきた。


奴に…一瞬でも勝てたと思っていた自分が酷く惨めに感じた。


俺は本当にどうしようもない。


俺はこの日…全てを諦めた。
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