【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

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本編【表】

第52話-敗北の予感

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-王太子視点-


おかしい…
俺の剣が奴に当たらない…

昨日の奴とはまるで別人の様に動きが違う。


木剣と真剣では重さが違うので昨日の勝負時に比べ俺の剣撃のスピードが僅かに緩まるのは理解出来る。


しかしそれは奴とて同じ事。


それなのに…奴の足さばきや剣を躱す速度は昨日とはまるで違う。


奴は"演武と実戦は違う"とかなんとか宣っていた。
昨日の模擬戦では俺に圧倒されていた奴が…今は涼しい顔をして俺を翻弄している…。


俺とて武の心得がある者…。
木剣とは言え、相手の息遣いや剣の構え方で大体の実力は分かるつもりだ。


昨日の奴を見て、俺の敵では無い事は明白だった筈…

何故真剣を持った途端にこんな身のこなしになるのかが分からない…


『はぁ…はぁ…』


『息が切れ始めましたね。殿下。』


クソ…屈辱だ…。
全てにおいて1番である筈のこの俺が…

たかが辺境伯家の若造如きに…


いや…


いやいや…ダメだ…落ち着くのだ。


これは奴の挑発…
ここは一旦攻撃の手を緩め…受け身になるのだ。


奴は恐らく積極的に攻めるよりも、守りに徹し、相手が疲弊した所でカウンターを返すタイプの使い手だ。


ならば…今度はこちらが奴と同じ事をしてやれば…


人の真似事等癪だが…命のやり取りだ。
やむを得ない。


俺は守りの姿勢に入った。
しかし奴は仕掛けて来ない。


『どうしたファルカシオン!打って来いッ!!』


『・・・』


-ぐっ…奴は微動だにしない…
あくまで守りに徹する気だ…


-これでは戦局は変わらない…
何か打開策は…


ジリジリと削られていく体力に俺は焦りを感じて居た。


悔しいが…"敗北"の2文字が脳裏をよぎった。


-敗北…?敗北だと……?


-有り得んッ!!!


-この俺が敗北等有り得んッ!!!


-負けを認める位ならば…死んだ方がマシだ…


-俺はアルテアを背負って立つ王子…。


-二度と負ける訳にはいかん…いかないのだッ!!!


『とっておきの技を見せてやるッ!!!貴様にこれを捌く技量があるかッ!!?ははっ!!無理だろうな!!!貴様は所詮腰抜けだッ!!!』


-見え透いた挑発だが…奴はどう出る?


ライアンは剣を正面に構えて見せた。


言葉には出さねど、それは"受けて立つ"と言う意味を示す。


王太子はそのライアンの姿を見てニヤリと笑うと
正面に構えていた自身の剣を逆手に持ち変え足場を狙い剣を薙ぎ払った。


これはと言う技で、本来は短剣か双剣術で用いられる技術で重量の重いアルテアのロングソードでは不向きな技だ。


しかしそれ故に虚を突くには最適の技でもある。


成功すれば重量もある分、深手を与えられ相手の足を使い物に無らなくする事が出来る。


王太子は異国の戦士から見て盗み得た技を自分のモノとし、奥の手として隠していたのだ。


が…


王太子の"足切り"はライアンの地に突き立てた剣により阻まれ、ボキリと真ん中から折れてしまった。


『そんな…そん』


『生兵法が実戦で通じると思ったか』


ライアンは技を見切られ自身の剣を折られ放心している王太子に拳を放った。


ライアンからすれば、それはこの短期間で行われた王太子による数々の非礼への仕返しだ。


自身の婚約者にちょっかいを掛けた報い。
昨日の"稽古"と評した一方的な暴力への報い。


そんな物では無い。
その程度の事ならば…既に鼻っ柱の高いこの王太子に恥をかかせただけで満足している。


この殴打は
"愛するセリアを不安にさせ傷付けた仕返し"だ。


『ぐっ…クソ…』

「負けた…殿下が負けてしまわれた…」

「殿下の…負けだ…」


近衛兵達がザワつく。


王太子は折れた剣を放り…鼻から吹き出す血を見て震えた。

無論怒りでだ。


『こいつを殺せーーーッ!!!!』


王太子は直属の近衛兵に命じた。
しかし近衛兵達は動かない。


『聞こえないのか!?こいつは反逆者だ!!今すぐ殺せーーッ!!!』


「殿下…畏れながら…それは致しかねます。」


近衛兵の隊長が渋い顔をしながらも命令を拒否する。


『き、貴様ッ…俺の命令に背く気か!!』


「神の名のもとに催した決闘は…何者であろうと侵害出来ません…例え国王陛下のご命令でもです。」


「神は正しき者の味方…その采配を覆す事はどんな権威を持っても叶いません…。」


-クソッ…クソッ!!頭の固い俗物めッ!!


-何が神だ!!ならば貴様は神に死ねと命じられたら死ぬつもりなのか!!


-神に縋る弱者共め!!


『神等いるものかッ!!いもしない神の掟より今此処にいる未来の王に従え!!!』



この発言を聞いて近衛兵達は、睨むまでは行かないが怪訝な表情をする。


アルテアの神であるアルテルシオンは絶対的な存在だ。アルテア人は国教を重んじる力が他の民族と比べても強い。


女は未婚で純潔を失えば
男は戦えない体になれば不要の者と言う神の掟に従い、疑いもせず自死を選ぶ者が決して少なくないのがアルテア人だ。


そんな中、アルテア人の神を冒涜する発言をすれば
一気に反感を買ってしまう。


-ちっ…誇りだのなんだの言ってる近衛兵共では無くサイン配下の兵を侍らせるべきだった…奴等なら命ずるままになんでもしただろうに…


『殿下…男らしく戦って下さい。』


ライアンは剣を鞘に納め拳を構えた。
素手で勝負しようと言って居るのだ。


『ライアン!遊ぶな!!さっさと決着を付けろ!!』

シェーヌが叫ぶ。
シェーヌからすればライアンが何故トドメを刺してしまわないのかが分からない。

相手の剣が折れ、戦闘不能になれば後はもう首を撥ねて終わるのが決闘だ。

しかしライアンは剣を失った王太子の為に素手で勝負を続行しようとしている。

その真意が分からない…剣で打ち合う決闘ならば既に勝負は付いて居るのだ。


ライアンは何故…さっさと王太子を殺してしまわないのだろうか。


王太子は膝を付きながらも立ち上がると異国の武術の構えを取る。

彼からすれば願ってもない二度目のチャンスだ。
剣では遅れを取ったが…拳ならばと。


誰も予想していなかった異例の第2ラウンドが始まる。
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