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本編【表】
第56話-結婚式
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今日はセリアとライアンの結婚式の日だ。
本来ならライアンが爵位を継承し正式に家督を継いでから婚姻を果たす取り決めであったが、王太子の件もあり式を前倒しで執り行う事とした。
アルテア二大武家が1つになる結婚式だ。
本来なら配下の家々や、御三家や王家も招いて大々的に執り行う筈だったが…参列者は両家に近しい者だけで慎ましく行なわれる。
二人にとって式の規模等どうでもいい事だ。
結婚式はただの形式に過ぎない。
大事な事は、今日をもって二人が真の夫婦として結ばれ、誰にもそれを侵害出来なくなると言う事だ。
新婦の控え室にて…フェレネス家の侍女ベルにより純白のウェディングドレスを着付けられるセリア
令嬢に仕える侍女として
ウェディングドレスの着付けを任されるのは最大の名誉であり信頼の証だ。
『ありがとう…ベル。どう?変じゃないかしら?』
『大変お綺麗ですよ…ぐすっ…』
『な、なぜ泣くの?ベル…?』
『これで…お嬢様も本当にフェレネス家からファルカシオン家に嫁いで行かれてしまうと思うと…嬉しさと寂しさで…私ったら…どちらの涙なのか分からなくなってしまいました…』
『ベルったら…』
彼女はしっかり者の侍女だが、涙脆く他者に感情移入しやすい。
彼女はフェレネス家の娘を世話する侍女として
時に友人として
時に姉として
時に母として
フェレネス家の娘達一人一人の感情に寄り添って仕えて来た侍女だ。
その娘の一人が今日…フェレネスの姓からファルカシオンの姓に代わり、嫁いで行ってしまう。
嬉し泣きなのか
寂しさ故の涙なのか分からなくなってしまったのだ。
『ベル…。今までありがとう、妹達をお願いしますね。』
『承知致しました…。』
二人は静かに抱擁し、暫しの別れを惜しみ、新たな門出を祝った。
『時にお嬢様…?バージンロードのエスコート役は…本当にシェーヌ様で宜しいのでしょうか?』
ベルはエスコート役が父では無く兄シェーヌである事に疑問を投げた。
いや…疑問と言うには語弊がある。
ベルはセリアが何故エスコート役に父を選ばないかを知っている。
セリアは父を憎んでいる。
今までのセリアに対する扱い。
苛烈な教育と恐ろしい罰。
父に褒められた記憶等一度もない。
労われた事も…愛を教わった事も…。
それらを教えてくれたのは
母と…兄と…妹達だけだ。
この結婚式だって、娘を祝う父としてではなく
フェレネス家当主として…政略結婚の見届け人として参列しているに違いない。
これがセリアの心の内だった。
ベルやレベッカも
今日までに何度もセリアに考え直す様に説得した。
"一生に一度の結婚式で、父と和解するならこれが最初で最後のチャンス"…と
確かに…セリアにとってはこれが最初で最後のチャンスだろう。
今日でフェレネスの姓でなくなるセリアは
その気になれば永遠に父に会わない選択肢だってある。
今日和解出来なければ…機会はもう永遠にやって来ないだろう。
セリアは頭では理解しても、足を動かせずにいた。
彼女にとって父親は恐怖の象徴だ。
自ら話し掛けに行き…何かを頼むなんて出来ない。
娘として父に甘える方法なんてセリアは知らなかった。
『セリア…』
『と、当主…様…?』
この場に来る筈の無い父の声にピクリと肩を震わせ振り返るセリア。
ベルは一礼し後ろに下がった。
父と娘の最後の会話に水を差すまいと言う気遣いだ。
『おめでとう…。』
ライアン以上に寡黙な父が絞り出す様な声で短く祝いの言葉を送る。
普段他者を威圧し屈強な兵すらも目を逸らす程の眼力ある父の目線はセリアの足元に向いていた。
『……』
セリアは恐怖の象徴である父を前にして
言葉を出せずにいた。
言いたい事は山ほどあった。
なんで今まで褒めてくれなかったのですか?
私、頑張りましたよ?
私がダメな娘だからですか?
認めて欲しかった。
愛して欲しかった。
しかしそれらの言葉がセリアの喉から出る事は無い。
自分の我意を押し殺し、感情を出さず父の理想とする真面目な淑女として生きる様に育てたのは父自身だ。
何も望むな
何も欲しがるな
家の為に尽くし 家の為に生きろ
これが父が娘に与えた最初で最後の贈り物だったからだ。
その呪縛から断ち切り真のセリアとして振る舞える相手はライアンただ一人。
『すまない邪魔をしたな…。』
娘から言葉が帰らない事から全てを察したフェレネス伯は控え室の扉に向かい歩き出してしまう。
喉まで出かかった想いを吐き出せず窒息しそうになるセリアは…言葉の代わりに行動を起こした。
『当主様…』
セリアは短刀を抜き、自らの父に向けた。
生まれ持った刃を父に向けた。
今までの鬱屈とした地獄の日々への恨み
セリアの心を凍らせた恨みを…言葉でなく行動で示した。
しかしフェレネス伯は臆さず…自らに刃を向ける娘に近付いて行く。
刃を持ち震える娘の手を掴むと、刃を自分の首元に突き立てさせる。
彼は自分の罪を自覚していた。
自分の教育が子供達に苦しみしか与えていなかったと
しかし彼はそれしか知らない。
戦いしか知らない彼は子供達を兵を鍛えあげる様に接するしか術を知らなかった。
自身も父からそうやって鍛え上げられて来たからだ。
己の罪を自覚したのはセリア達の母が死んだ日だった。
まだ年端も行かぬ子供達が、最愛の母を亡くしたのに誰も涙を流せなかった。
皆、目に涙を溜めてもそれを零すまいと必死に堪えていた。
涙を流せば、人前で泣くなと折檻される事を恐れていたからだ。
この子供達の姿を見てフェレネス伯は自分の今までの教育が教育でなく罪であったと気付いた。
自分の教えが…母の死に目に涙すら流せない人間に育てあげてしまったと…
彼は断じて…子供達をただ苦しめたかった訳では無い。自分の教育を理由に苦しむ事はあっても、強さを与えられ…他の強者に食い物にされない様に生きて欲しいと言うのが彼が誰にも打ち明けなかった子供達への願いであり、厳しさの根源だった。
その後の彼は末子の双子姉妹の教育は最低限の物だけとし、侍女達に一任していた。
己の罪を自覚したからだ、
罪を自覚し…十二分に悔いたが…
過ぎた時は戻せない。
せめて…自分なりの歪な愛情が子供達に伝わっている事を祈るだけだった。
しかし娘の返答は刃だった。
自分の教育が…苦しみしか与えられなかった罪でしかないならば…この首を差し出そう。
そんな意が含まれた行動だった。
『お嬢様…?』
ベルが不安そうな声をあげる。
セリアは一間を置いて短刀を握る手の力を緩め刃を下ろした。
『お父様…お願いがあります。』
『私と…バージンロードを歩いて頂けませんか?』
セリアの言葉を聞いたフェレネス伯は目を見開き驚きの表情を見せた。
今まで娘に父として頼られた事などないからだ。
そしてその頼み事の内容は、今まで娘を虐げた自分を父としてセリアが認めたと言う事になるからだ。
『私を…許してくれるのか?』
『許した訳ではありません…。今まで受けて来た事辛い記憶は…一生消える事はありませんから。』
『……。』
『ですが…貴方を憎んだ私がいたから…少しだけ強くなれた気がします。貴方を畏れた私がいたから…今の私があります。』
『お父様…貴方を憎み…畏れた私を…今だけ預かっていて下さい。』
そう言って自身の短刀を父に手渡した。
全てを水に流す事は出来ないが…
暫しの休戦を図り今だけは"普通の父娘"になろうと言う意味だ。
この休戦がいつまで続くかは分からない…
それは彼自身がどう変わるかで決まる。
セリアは決して、今日が特別な日だから彼を一時的に父と認めたのではない。
特別な日であろうが、彼がセリアにした仕打ちはそれほどまでに惨い。
本来なら生涯関係の修復は不可能だ。
しかし…彼も変わり始めている。
セリアはそれに気付いている。
時間は掛かるだろう。
もしかしたら今世では無理かも知れない。
それでも変わるつもりがあるならば…
普通の親子に戻れるならば…それがいい。
『ありがとう…』
フェレネス伯は…父は小さく呟いた。
-----------
エプソンの街にある教会の祭壇前で。
ライアンはこれまでの人生にない程、胸を高鳴らせていた。
今日が彼の人生一番の晴れの日だ。
今まで恋焦がれ
慕い憧れた女性が自身の妻になる日…。
彼からすれば喉から手を出しても届くまいと見切りを付けた高嶺の花が…自らの手に舞い降りる程の僥倖。
普段ポーカーフェイスな彼の表情にもあからさまな緊張が走る。
これから先、生涯を共にする女性の到着を今か今かと待ち侘びる。
扉が開いた!!…胸に膨らむ期待を漸く解放仕掛けたライアンだったが…入って来たのはシェーヌだった…
とんだ肩透かしに小さくため息を吐く。
もどかしさから、普段冷静沈着なライアンはソワソワしていた。
『ちぇ…突然エスコート役は親父殿に任せたいだとよ…セリアの奴…』
『残念でしたわね!私をセリアちゃんに見立てて歩幅を合わせる練習までして張り切っていたのに!』
アレクシアに愚痴を吐くシェーヌ。
願わくばこのまま大人しくいて欲しいと願うライアンだったが、祭壇前に突っ立つライアンとシェーヌは目が合ってしまった。
『いよぉ~!色男~!格好付けてヘマすんなよ~!』
緊張顔のライアンをシェーヌがからかわない筈がない。今にも冷や汗を吹き出しそうな風情のライアンを茶化すと式場に集まった来賓者達の中からクスクスと笑いが零れた。
今日集まったのは、両家の親類とエプソンの住民でライアン達と交流があった者達が数名だ。
貴族家の結婚式と言えば財力を示す絶好のデモンストレーションの場だ。
両家の力を鑑みれば王都の大聖堂を貸切り、大神官を招いて、そこには溢れんばかりの来賓客でごった返しただろう。
配下の家々の者達は今後も一層の寵愛を求めて祝儀の品の高価さを競い合い、なんとか両家の力に肖りたい下位貴族の者達は次期辺境伯と辺境伯夫人に顔を覚えて貰おうと媚寄り擦り寄るだろう。
しかし、王太子の一件があり
どの家に間者がまだ息巻いているか分からない為、招待客は2人の親しい者だけにと限定したのだ。
『ライアン!お前なら信用出来る!今日からセリアを守る役目はお前に引き継いだからな!』
『相棒…!妹をよろしくな…!』
シェーヌはライアンの肩を抱き
激励の言葉を掛けた。
-こいつは…人を鼓舞するのが上手い奴だ…
ライアンの緊張は解け、代わりに強い使命感が宿った。
-あの日俺を立ち直らせてくれたのもお前だったな…
-ありがとう…シェーヌ。
照れ臭くて言葉には出来ないライアンは心で親友に今までの感謝を告げる。
代わりに真っ直ぐシェーヌの目を見据えて返す言葉は決まっている。
短く端的だが…絶対的な意志を込めて。
『任せろ!』
そう言ってシェーヌの肩を抱き返した。
『え?シェーヌ泣いてますの?』
アレクシアはシェーヌが涙目になっているのを見逃さなかった。
『バ…バカ!目から汗が滲んでるだけだ!今日はポカポカ陽気だからな!!気温は肌感で8度位かなァ!?あ~~熱い!!!』
瞼をゴシゴシと擦り必死に誤魔化すシェーヌ
そんな姿を可愛らしいと思いクスクスと笑うアレクシア。
シェーヌからすればセリアの…いや家族の幸せは戦士の誇りよりも大事な物だ。
セリアが病弱だった幼少時代。
何も出来ない無力を呪ったシェーヌ。
医師から成人まで生きられないと宣告されたセリアが
今日と言う日を迎えられた事が何より嬉しい。
父が狂気に走りセリアを雪山に放り出したあの日
自分は何一つ動けなかった無念。
そんな中、ただ一人セリアを探しに夜の雪山に走り出したのは自分より歳下のライアンだった。
自分には出来ない"守り抜く力"を持つライアンを…
シェーヌはこの日から密かに憧れ…羨ましいとさえ思っていた。
-俺には剣しかねぇ…
-家族を脅威から遠ざける術は…敵を殺す事しか知らねぇ
-お前みたいに後先考えず死地に飛び込むなんて…発想すらなかった。
-だからライアン…お前になら任せられる…
-あの日セリアを助けに行く事を選んだお前になら…
-凄い奴だよ…俺は未だにあの日のお前を越えられた気がしねぇ…
-俺より歳下なのに…家族の為なら迷い無く死地に足を踏み入れたお前の底力…
-マジでかっけぇと思ったよ…俺もそんな勇気が欲しくて…何度も敵の前に立っては剣の錆にして来たが…
-アルテアの勇者なんて称号を貰っても…あの夜のお前の勇気の前じゃ…そんな物は虚仮だ。
-お前は自分を過小評価しがちだが…俺はお前のあの夜の行動を一生忘れない…尊敬してるんだぜ!
シェーヌも普段ライアンに対しての思いの内を心で唱える。
照れ臭くて言葉に等出来ない。
男の友情に長い言葉は不要だ。
想うだけでいい。
互いが互いを認め合えればそれでいい。
「新婦様のご入場です。」
従者がそう言って教会の扉を開いた。
『ちょっとシェーヌ!早く引っ込みなさい!』
『やっべ!!…おいライアン!ヘマしたら笑ってやるからな~!』
アレクシアの引っ張られ席に戻るシェーヌ。
いよいよ待ち侘びた花嫁の登場だ。
ライアンは息を吐いて
ただ入口に目をやりジッと待つ。
最愛の女性の入場を。
自分の命より大事な存在を。
『あぁ…』
思わずそんな声が漏れてしまう。
目は釘付けになり、自然と頬が緩んでしまう。
バージンロードを父のエスコートのままに連れられやって来る彼女の姿に…。
雪の白さにも勝る純白のウェディングドレスに身を包むセリアは、ヴェールを被りながらも…
目を瞑って居ても光を感じる様に
彼女の美しさが伝わる。
ヴェール越しにセリアの蒼い瞳と目が合う。
ライアンは心臓がキュッとなった。
背筋に熱が走る…その熱はドンドン上に登り
ライアンは目を逸らして仕舞いたくなる…
これ以上彼女を見据えれば…赤面を躱す事は不可能だからだ。
しかし…彼女のこの姿を永遠に見ていたい自分もいて葛藤する…。
願わくば…世界の時間が止まればいい。
止まった世界でならば…人目を気にすること無く彼女の瞳を何十年だって見ていたい…。
なんと素晴らしき日だろう。
なんと美しき瞳だろう。
正に今日の蒼空をそのまま写しこんだ様な彼女の瞳に釘付けだ。
フェレネス伯はバージンロードを終え、セリアを祭壇までエスコートする任を終えると、セリアに短刀を手渡す。
生まれ持った刃…
アルテアで生まれた子女が…生涯を誓う男に出会うまで
その純潔を守る為に持たせるセリアの名が彫刻された短刀。
この短刀も…今日で不要の物となる。
もう自身で純潔を守る必要はない。
守ってくれる彼がいる。
純潔を捧げたい彼がいる。
生涯を預けたい彼がいる。
セリアは祭壇に登り、ライアンの隣に立つと一礼し
短刀をライアンに両手で手渡す。
"私の全ては貴方のモノ"と言う意を持つ
アルテアの伝統的な婚礼の作法だ。
ライアンもそれを両手で受け取る。
普段腰に刺す剣とは比べ物にならない程ライアンには重く感じた。
それはこの短刀を受け取ると言う事は、これから生涯に渡り、彼女を守る使命を受け継ぐ意となるからだ。
短刀を受け取り
セリアのヴェールを取ると再び目が合った。
彼女は幸せそうに微笑んだ。
もう…我慢の限界だった。
ヴェール越しでも心臓が爆発しそうな程に高鳴っていたのに…ライアンの顔は…恐らく生まれ初めてと言うレベルで真っ赤に赤面した。
-顔が…頭が熱い
-あぁ…セリア…君が眩し過ぎて直視出来ない。
ライアンは堪らずセリアから目を逸らし顔をパシパシと叩いてなんとか正気に戻ろうとする。
そんな姿を見て来賓客はまたクスクスと笑う。
『おほん!気持ちは分かるよ……大丈夫かね?』
神父が苦笑いしながら気遣う。
ライアンは息を整え、無言で頷いた。
-よしっ…もう大丈夫だ!ドンと来い!
ライアンは息を飲んで再びセリアの目を見据えた。
『ライアン…?』
『あ…』
顔が赤いライアンを見て、体調不良を心配するセリア。しかしその表情はライアンにとって逆効果だった。
『ははは…神への宣誓等不要な位、愛しあっているんだね…』
神父は微笑ましい物を見る目で言った。
『すまない…もう大丈夫だ。』
『くすっ…ライアンったら』
二人は見詰めあって微笑みあった。
『今日二人は永遠に結ばれます。我々は今日と言う記念すべき日に立ち会う事が出来ました。』
神父の言葉等、二人の頭には入らない。
指輪の交換や細々とした儀式の作法も
二人はほぼ無心で行った。
二人の心にあるのは互いの瞳だけ
『今…指輪の交換は成されました。二人の魂を象徴する指輪を互いに交換した二人は血より濃い絆で結ばれたのです。』
互いの眼差しだけが、二人の世界を支配する
それ以外は完全な無音…
まるで水の中にいる様に…
『これで…何者も二人を引き裂く事は叶いません。降り注ぐ厄災も…疫病も…如何なる不運も、二人を引き裂く事は叶いません。』
あぁ…長かった。
漸く…
二人の想いは今正に以心伝心し
通い合っている。
『創世神アルテルシオンの名の元に。彼を夫とし、彼女を妻とし、2人を夫婦とします。』
『ふぅ~~~!!!いいぞ~~~!!!!』
シェーヌが雄叫びをあげる。
『おめでとう!!本当におめでとう!!』
アレクシアが快活に祝う。
『お嬢様…おめ…ひぐっ…おめでとうござ…』
ベルが感涙する。
『さぁ、神の御前で…誓いのキスを。』
『セリア…。』
『ライアン…。』
二人は小さく…しかし深い想いを込めた口付けを交わした。
『神への宣誓は成されました。死が二人を別つまで…何者も二人を引き裂く事は叶いません。』
『セリア…』
『ライアン…』
二人は互いの名前を呼び合いながら互いを抱擁した。
互いに長年欲しかった物が漸く手に入ったのだ。
この時間を堪能したい…二人は観客達を置き去りに互いの体温を満喫した。
『あの…?俺ら席を外そうか?』
シェーヌが素っ頓狂な事を言うがこれはギャグではない。2人の熱に気圧され…本気で提案しているのだ。
シェーヌの言葉でハッと我に帰った二人はまた顔が赤くなり、観客達は祝福を込めた笑いと拍手を贈った。
『姉上ー!お幸せに~!!!』
力強く手を振るレベッカとアークレイ
『ネェネ~!ライアンと仲良くね~!』
『ネェネ可愛い~!ラーシャもその服着たい~!』
『ふふっ…二人もいつか着れますわよ!』
可愛くはしゃぐラーシャとマトラにセリアは手を振る。
これからファルカシオン邸に戻りパーティが催される。
主役の二人は一足先に馬車で戻る手筈なのだ。
二人の人生最良の日は始まったばかりだ。
本来ならライアンが爵位を継承し正式に家督を継いでから婚姻を果たす取り決めであったが、王太子の件もあり式を前倒しで執り行う事とした。
アルテア二大武家が1つになる結婚式だ。
本来なら配下の家々や、御三家や王家も招いて大々的に執り行う筈だったが…参列者は両家に近しい者だけで慎ましく行なわれる。
二人にとって式の規模等どうでもいい事だ。
結婚式はただの形式に過ぎない。
大事な事は、今日をもって二人が真の夫婦として結ばれ、誰にもそれを侵害出来なくなると言う事だ。
新婦の控え室にて…フェレネス家の侍女ベルにより純白のウェディングドレスを着付けられるセリア
令嬢に仕える侍女として
ウェディングドレスの着付けを任されるのは最大の名誉であり信頼の証だ。
『ありがとう…ベル。どう?変じゃないかしら?』
『大変お綺麗ですよ…ぐすっ…』
『な、なぜ泣くの?ベル…?』
『これで…お嬢様も本当にフェレネス家からファルカシオン家に嫁いで行かれてしまうと思うと…嬉しさと寂しさで…私ったら…どちらの涙なのか分からなくなってしまいました…』
『ベルったら…』
彼女はしっかり者の侍女だが、涙脆く他者に感情移入しやすい。
彼女はフェレネス家の娘を世話する侍女として
時に友人として
時に姉として
時に母として
フェレネス家の娘達一人一人の感情に寄り添って仕えて来た侍女だ。
その娘の一人が今日…フェレネスの姓からファルカシオンの姓に代わり、嫁いで行ってしまう。
嬉し泣きなのか
寂しさ故の涙なのか分からなくなってしまったのだ。
『ベル…。今までありがとう、妹達をお願いしますね。』
『承知致しました…。』
二人は静かに抱擁し、暫しの別れを惜しみ、新たな門出を祝った。
『時にお嬢様…?バージンロードのエスコート役は…本当にシェーヌ様で宜しいのでしょうか?』
ベルはエスコート役が父では無く兄シェーヌである事に疑問を投げた。
いや…疑問と言うには語弊がある。
ベルはセリアが何故エスコート役に父を選ばないかを知っている。
セリアは父を憎んでいる。
今までのセリアに対する扱い。
苛烈な教育と恐ろしい罰。
父に褒められた記憶等一度もない。
労われた事も…愛を教わった事も…。
それらを教えてくれたのは
母と…兄と…妹達だけだ。
この結婚式だって、娘を祝う父としてではなく
フェレネス家当主として…政略結婚の見届け人として参列しているに違いない。
これがセリアの心の内だった。
ベルやレベッカも
今日までに何度もセリアに考え直す様に説得した。
"一生に一度の結婚式で、父と和解するならこれが最初で最後のチャンス"…と
確かに…セリアにとってはこれが最初で最後のチャンスだろう。
今日でフェレネスの姓でなくなるセリアは
その気になれば永遠に父に会わない選択肢だってある。
今日和解出来なければ…機会はもう永遠にやって来ないだろう。
セリアは頭では理解しても、足を動かせずにいた。
彼女にとって父親は恐怖の象徴だ。
自ら話し掛けに行き…何かを頼むなんて出来ない。
娘として父に甘える方法なんてセリアは知らなかった。
『セリア…』
『と、当主…様…?』
この場に来る筈の無い父の声にピクリと肩を震わせ振り返るセリア。
ベルは一礼し後ろに下がった。
父と娘の最後の会話に水を差すまいと言う気遣いだ。
『おめでとう…。』
ライアン以上に寡黙な父が絞り出す様な声で短く祝いの言葉を送る。
普段他者を威圧し屈強な兵すらも目を逸らす程の眼力ある父の目線はセリアの足元に向いていた。
『……』
セリアは恐怖の象徴である父を前にして
言葉を出せずにいた。
言いたい事は山ほどあった。
なんで今まで褒めてくれなかったのですか?
私、頑張りましたよ?
私がダメな娘だからですか?
認めて欲しかった。
愛して欲しかった。
しかしそれらの言葉がセリアの喉から出る事は無い。
自分の我意を押し殺し、感情を出さず父の理想とする真面目な淑女として生きる様に育てたのは父自身だ。
何も望むな
何も欲しがるな
家の為に尽くし 家の為に生きろ
これが父が娘に与えた最初で最後の贈り物だったからだ。
その呪縛から断ち切り真のセリアとして振る舞える相手はライアンただ一人。
『すまない邪魔をしたな…。』
娘から言葉が帰らない事から全てを察したフェレネス伯は控え室の扉に向かい歩き出してしまう。
喉まで出かかった想いを吐き出せず窒息しそうになるセリアは…言葉の代わりに行動を起こした。
『当主様…』
セリアは短刀を抜き、自らの父に向けた。
生まれ持った刃を父に向けた。
今までの鬱屈とした地獄の日々への恨み
セリアの心を凍らせた恨みを…言葉でなく行動で示した。
しかしフェレネス伯は臆さず…自らに刃を向ける娘に近付いて行く。
刃を持ち震える娘の手を掴むと、刃を自分の首元に突き立てさせる。
彼は自分の罪を自覚していた。
自分の教育が子供達に苦しみしか与えていなかったと
しかし彼はそれしか知らない。
戦いしか知らない彼は子供達を兵を鍛えあげる様に接するしか術を知らなかった。
自身も父からそうやって鍛え上げられて来たからだ。
己の罪を自覚したのはセリア達の母が死んだ日だった。
まだ年端も行かぬ子供達が、最愛の母を亡くしたのに誰も涙を流せなかった。
皆、目に涙を溜めてもそれを零すまいと必死に堪えていた。
涙を流せば、人前で泣くなと折檻される事を恐れていたからだ。
この子供達の姿を見てフェレネス伯は自分の今までの教育が教育でなく罪であったと気付いた。
自分の教えが…母の死に目に涙すら流せない人間に育てあげてしまったと…
彼は断じて…子供達をただ苦しめたかった訳では無い。自分の教育を理由に苦しむ事はあっても、強さを与えられ…他の強者に食い物にされない様に生きて欲しいと言うのが彼が誰にも打ち明けなかった子供達への願いであり、厳しさの根源だった。
その後の彼は末子の双子姉妹の教育は最低限の物だけとし、侍女達に一任していた。
己の罪を自覚したからだ、
罪を自覚し…十二分に悔いたが…
過ぎた時は戻せない。
せめて…自分なりの歪な愛情が子供達に伝わっている事を祈るだけだった。
しかし娘の返答は刃だった。
自分の教育が…苦しみしか与えられなかった罪でしかないならば…この首を差し出そう。
そんな意が含まれた行動だった。
『お嬢様…?』
ベルが不安そうな声をあげる。
セリアは一間を置いて短刀を握る手の力を緩め刃を下ろした。
『お父様…お願いがあります。』
『私と…バージンロードを歩いて頂けませんか?』
セリアの言葉を聞いたフェレネス伯は目を見開き驚きの表情を見せた。
今まで娘に父として頼られた事などないからだ。
そしてその頼み事の内容は、今まで娘を虐げた自分を父としてセリアが認めたと言う事になるからだ。
『私を…許してくれるのか?』
『許した訳ではありません…。今まで受けて来た事辛い記憶は…一生消える事はありませんから。』
『……。』
『ですが…貴方を憎んだ私がいたから…少しだけ強くなれた気がします。貴方を畏れた私がいたから…今の私があります。』
『お父様…貴方を憎み…畏れた私を…今だけ預かっていて下さい。』
そう言って自身の短刀を父に手渡した。
全てを水に流す事は出来ないが…
暫しの休戦を図り今だけは"普通の父娘"になろうと言う意味だ。
この休戦がいつまで続くかは分からない…
それは彼自身がどう変わるかで決まる。
セリアは決して、今日が特別な日だから彼を一時的に父と認めたのではない。
特別な日であろうが、彼がセリアにした仕打ちはそれほどまでに惨い。
本来なら生涯関係の修復は不可能だ。
しかし…彼も変わり始めている。
セリアはそれに気付いている。
時間は掛かるだろう。
もしかしたら今世では無理かも知れない。
それでも変わるつもりがあるならば…
普通の親子に戻れるならば…それがいい。
『ありがとう…』
フェレネス伯は…父は小さく呟いた。
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エプソンの街にある教会の祭壇前で。
ライアンはこれまでの人生にない程、胸を高鳴らせていた。
今日が彼の人生一番の晴れの日だ。
今まで恋焦がれ
慕い憧れた女性が自身の妻になる日…。
彼からすれば喉から手を出しても届くまいと見切りを付けた高嶺の花が…自らの手に舞い降りる程の僥倖。
普段ポーカーフェイスな彼の表情にもあからさまな緊張が走る。
これから先、生涯を共にする女性の到着を今か今かと待ち侘びる。
扉が開いた!!…胸に膨らむ期待を漸く解放仕掛けたライアンだったが…入って来たのはシェーヌだった…
とんだ肩透かしに小さくため息を吐く。
もどかしさから、普段冷静沈着なライアンはソワソワしていた。
『ちぇ…突然エスコート役は親父殿に任せたいだとよ…セリアの奴…』
『残念でしたわね!私をセリアちゃんに見立てて歩幅を合わせる練習までして張り切っていたのに!』
アレクシアに愚痴を吐くシェーヌ。
願わくばこのまま大人しくいて欲しいと願うライアンだったが、祭壇前に突っ立つライアンとシェーヌは目が合ってしまった。
『いよぉ~!色男~!格好付けてヘマすんなよ~!』
緊張顔のライアンをシェーヌがからかわない筈がない。今にも冷や汗を吹き出しそうな風情のライアンを茶化すと式場に集まった来賓者達の中からクスクスと笑いが零れた。
今日集まったのは、両家の親類とエプソンの住民でライアン達と交流があった者達が数名だ。
貴族家の結婚式と言えば財力を示す絶好のデモンストレーションの場だ。
両家の力を鑑みれば王都の大聖堂を貸切り、大神官を招いて、そこには溢れんばかりの来賓客でごった返しただろう。
配下の家々の者達は今後も一層の寵愛を求めて祝儀の品の高価さを競い合い、なんとか両家の力に肖りたい下位貴族の者達は次期辺境伯と辺境伯夫人に顔を覚えて貰おうと媚寄り擦り寄るだろう。
しかし、王太子の一件があり
どの家に間者がまだ息巻いているか分からない為、招待客は2人の親しい者だけにと限定したのだ。
『ライアン!お前なら信用出来る!今日からセリアを守る役目はお前に引き継いだからな!』
『相棒…!妹をよろしくな…!』
シェーヌはライアンの肩を抱き
激励の言葉を掛けた。
-こいつは…人を鼓舞するのが上手い奴だ…
ライアンの緊張は解け、代わりに強い使命感が宿った。
-あの日俺を立ち直らせてくれたのもお前だったな…
-ありがとう…シェーヌ。
照れ臭くて言葉には出来ないライアンは心で親友に今までの感謝を告げる。
代わりに真っ直ぐシェーヌの目を見据えて返す言葉は決まっている。
短く端的だが…絶対的な意志を込めて。
『任せろ!』
そう言ってシェーヌの肩を抱き返した。
『え?シェーヌ泣いてますの?』
アレクシアはシェーヌが涙目になっているのを見逃さなかった。
『バ…バカ!目から汗が滲んでるだけだ!今日はポカポカ陽気だからな!!気温は肌感で8度位かなァ!?あ~~熱い!!!』
瞼をゴシゴシと擦り必死に誤魔化すシェーヌ
そんな姿を可愛らしいと思いクスクスと笑うアレクシア。
シェーヌからすればセリアの…いや家族の幸せは戦士の誇りよりも大事な物だ。
セリアが病弱だった幼少時代。
何も出来ない無力を呪ったシェーヌ。
医師から成人まで生きられないと宣告されたセリアが
今日と言う日を迎えられた事が何より嬉しい。
父が狂気に走りセリアを雪山に放り出したあの日
自分は何一つ動けなかった無念。
そんな中、ただ一人セリアを探しに夜の雪山に走り出したのは自分より歳下のライアンだった。
自分には出来ない"守り抜く力"を持つライアンを…
シェーヌはこの日から密かに憧れ…羨ましいとさえ思っていた。
-俺には剣しかねぇ…
-家族を脅威から遠ざける術は…敵を殺す事しか知らねぇ
-お前みたいに後先考えず死地に飛び込むなんて…発想すらなかった。
-だからライアン…お前になら任せられる…
-あの日セリアを助けに行く事を選んだお前になら…
-凄い奴だよ…俺は未だにあの日のお前を越えられた気がしねぇ…
-俺より歳下なのに…家族の為なら迷い無く死地に足を踏み入れたお前の底力…
-マジでかっけぇと思ったよ…俺もそんな勇気が欲しくて…何度も敵の前に立っては剣の錆にして来たが…
-アルテアの勇者なんて称号を貰っても…あの夜のお前の勇気の前じゃ…そんな物は虚仮だ。
-お前は自分を過小評価しがちだが…俺はお前のあの夜の行動を一生忘れない…尊敬してるんだぜ!
シェーヌも普段ライアンに対しての思いの内を心で唱える。
照れ臭くて言葉に等出来ない。
男の友情に長い言葉は不要だ。
想うだけでいい。
互いが互いを認め合えればそれでいい。
「新婦様のご入場です。」
従者がそう言って教会の扉を開いた。
『ちょっとシェーヌ!早く引っ込みなさい!』
『やっべ!!…おいライアン!ヘマしたら笑ってやるからな~!』
アレクシアの引っ張られ席に戻るシェーヌ。
いよいよ待ち侘びた花嫁の登場だ。
ライアンは息を吐いて
ただ入口に目をやりジッと待つ。
最愛の女性の入場を。
自分の命より大事な存在を。
『あぁ…』
思わずそんな声が漏れてしまう。
目は釘付けになり、自然と頬が緩んでしまう。
バージンロードを父のエスコートのままに連れられやって来る彼女の姿に…。
雪の白さにも勝る純白のウェディングドレスに身を包むセリアは、ヴェールを被りながらも…
目を瞑って居ても光を感じる様に
彼女の美しさが伝わる。
ヴェール越しにセリアの蒼い瞳と目が合う。
ライアンは心臓がキュッとなった。
背筋に熱が走る…その熱はドンドン上に登り
ライアンは目を逸らして仕舞いたくなる…
これ以上彼女を見据えれば…赤面を躱す事は不可能だからだ。
しかし…彼女のこの姿を永遠に見ていたい自分もいて葛藤する…。
願わくば…世界の時間が止まればいい。
止まった世界でならば…人目を気にすること無く彼女の瞳を何十年だって見ていたい…。
なんと素晴らしき日だろう。
なんと美しき瞳だろう。
正に今日の蒼空をそのまま写しこんだ様な彼女の瞳に釘付けだ。
フェレネス伯はバージンロードを終え、セリアを祭壇までエスコートする任を終えると、セリアに短刀を手渡す。
生まれ持った刃…
アルテアで生まれた子女が…生涯を誓う男に出会うまで
その純潔を守る為に持たせるセリアの名が彫刻された短刀。
この短刀も…今日で不要の物となる。
もう自身で純潔を守る必要はない。
守ってくれる彼がいる。
純潔を捧げたい彼がいる。
生涯を預けたい彼がいる。
セリアは祭壇に登り、ライアンの隣に立つと一礼し
短刀をライアンに両手で手渡す。
"私の全ては貴方のモノ"と言う意を持つ
アルテアの伝統的な婚礼の作法だ。
ライアンもそれを両手で受け取る。
普段腰に刺す剣とは比べ物にならない程ライアンには重く感じた。
それはこの短刀を受け取ると言う事は、これから生涯に渡り、彼女を守る使命を受け継ぐ意となるからだ。
短刀を受け取り
セリアのヴェールを取ると再び目が合った。
彼女は幸せそうに微笑んだ。
もう…我慢の限界だった。
ヴェール越しでも心臓が爆発しそうな程に高鳴っていたのに…ライアンの顔は…恐らく生まれ初めてと言うレベルで真っ赤に赤面した。
-顔が…頭が熱い
-あぁ…セリア…君が眩し過ぎて直視出来ない。
ライアンは堪らずセリアから目を逸らし顔をパシパシと叩いてなんとか正気に戻ろうとする。
そんな姿を見て来賓客はまたクスクスと笑う。
『おほん!気持ちは分かるよ……大丈夫かね?』
神父が苦笑いしながら気遣う。
ライアンは息を整え、無言で頷いた。
-よしっ…もう大丈夫だ!ドンと来い!
ライアンは息を飲んで再びセリアの目を見据えた。
『ライアン…?』
『あ…』
顔が赤いライアンを見て、体調不良を心配するセリア。しかしその表情はライアンにとって逆効果だった。
『ははは…神への宣誓等不要な位、愛しあっているんだね…』
神父は微笑ましい物を見る目で言った。
『すまない…もう大丈夫だ。』
『くすっ…ライアンったら』
二人は見詰めあって微笑みあった。
『今日二人は永遠に結ばれます。我々は今日と言う記念すべき日に立ち会う事が出来ました。』
神父の言葉等、二人の頭には入らない。
指輪の交換や細々とした儀式の作法も
二人はほぼ無心で行った。
二人の心にあるのは互いの瞳だけ
『今…指輪の交換は成されました。二人の魂を象徴する指輪を互いに交換した二人は血より濃い絆で結ばれたのです。』
互いの眼差しだけが、二人の世界を支配する
それ以外は完全な無音…
まるで水の中にいる様に…
『これで…何者も二人を引き裂く事は叶いません。降り注ぐ厄災も…疫病も…如何なる不運も、二人を引き裂く事は叶いません。』
あぁ…長かった。
漸く…
二人の想いは今正に以心伝心し
通い合っている。
『創世神アルテルシオンの名の元に。彼を夫とし、彼女を妻とし、2人を夫婦とします。』
『ふぅ~~~!!!いいぞ~~~!!!!』
シェーヌが雄叫びをあげる。
『おめでとう!!本当におめでとう!!』
アレクシアが快活に祝う。
『お嬢様…おめ…ひぐっ…おめでとうござ…』
ベルが感涙する。
『さぁ、神の御前で…誓いのキスを。』
『セリア…。』
『ライアン…。』
二人は小さく…しかし深い想いを込めた口付けを交わした。
『神への宣誓は成されました。死が二人を別つまで…何者も二人を引き裂く事は叶いません。』
『セリア…』
『ライアン…』
二人は互いの名前を呼び合いながら互いを抱擁した。
互いに長年欲しかった物が漸く手に入ったのだ。
この時間を堪能したい…二人は観客達を置き去りに互いの体温を満喫した。
『あの…?俺ら席を外そうか?』
シェーヌが素っ頓狂な事を言うがこれはギャグではない。2人の熱に気圧され…本気で提案しているのだ。
シェーヌの言葉でハッと我に帰った二人はまた顔が赤くなり、観客達は祝福を込めた笑いと拍手を贈った。
『姉上ー!お幸せに~!!!』
力強く手を振るレベッカとアークレイ
『ネェネ~!ライアンと仲良くね~!』
『ネェネ可愛い~!ラーシャもその服着たい~!』
『ふふっ…二人もいつか着れますわよ!』
可愛くはしゃぐラーシャとマトラにセリアは手を振る。
これからファルカシオン邸に戻りパーティが催される。
主役の二人は一足先に馬車で戻る手筈なのだ。
二人の人生最良の日は始まったばかりだ。
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