【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

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-ライアン視点-


2人で忍んで交易盛んな商業都市パロマに出掛けた。
普通の恋人や夫婦の様なデートがしたかったからだ。


市場では往来する人々のエネルギーに満ち満ちていた
今朝捕れたばかりの新鮮な魚や魚介料理が…王太子が持ち帰った異国の技術により平民でも安く買う事が出来る様になった。

市場にいる者達は笑顔に溢れていた。
まだまだ貧しい地域はアルテアに存在するが、この街に飢えで苦しむ者はいない。

王太子の政策で年間の餓死者が2割減少した。
2割と聞くと大した事も無い様に聞こえるが2割でも数千人を越える…それほどまでアルテアを襲った飢饉は深刻であった…


異常気象と言う神の厄災レベルの天変地異に王太子は立ち向かい、"このままのアルテアではいけない"と一石を投じた…。


俺が奴を殺さなかった理由はそこにあった。


奴の人格は到底認められた物でないが…
政策そのものは正しかったと…


街行く民達を見れば分かる…
誰も飢えていない…
骨と皮だけの者もいなければ路上で物乞いする子供もいない…


『ライアン?』


物思いにふけているとセリアに声を掛けられ我に返る。


『疲れましたか?何処かで休憩しましょうか?』


セリアが気遣ってくれた。
デートに誘ったのは俺だと言うのに気遣われてしまった。


『いや…大丈夫…ありがとうセリア』

『眉が下がっていますよライアン、その大丈夫は大丈夫じゃない人が言う大丈夫です』


セリアに隠し事は出来ない…
俺のちょっとした表情の変化で俺の真意を見抜く


『セリアには敵わないな…ちょっと悩みがある』

『言って下さいな、私に出来る事ならなんなりと力になりますので』

『いや…下らない思い付きに過ぎないんだが…』

『セリア…本当に俺で良かったのか…?』

『何がですか?』

『この街を見て思った…奴は本当は正しかったのではないかと…』

『奴って…まさか殿下の事ですか?』

『あぁ…奴は嘘吐きで最低な人間だった…だが優れた男だった…それだけは間違いない…』

『それに比べて俺は…』

『思うんだ…俺が奴を王座から引き摺り降ろす原因となった事で…これから苦しむ民が生まれるんじゃないかと』

『奴は暴君にも…名君にもなり得た…もし名君になり得たなら…その芽を潰した俺は大戦犯だ』

『奴の捨て台詞が頭を離れない…"今日と言う日を後悔する"と…』

『俺には奴ほどの力がない…政治も外交も…奴の代わりにはなり得ない…出来るのは…君や民の為に体を張る事だけだ…』

『だからふと思った…奴を王座から引き摺り降ろした事が…本当に正しかったのか…君の隣にいる男が本当に俺で良かったのかと…もし君自身も後悔しているなら俺は…』


『いい加減にして下さい!!怒りますよ!』

『え…』

黙って聞いてくれていたセリアが俺の言葉を遮った


『そう言う感情をライアンが持っている事に私は腹が立ちます!…どれだけ愛しているか伝わってない証拠ですもの』

『セリア…』

『ライアン…愛してます。貴方が何者であろうと愛し続けます』

『もし…自身の責務に耐え切れず…荷を下ろしたいとライアンが思っているなら…全てを捨てて異国に逃げたって構いません!私は地の果てでもお供します!』

『セリア…すまない…愛してるよ』

『私も愛してます。ライアン…愚痴も弱音も私に吐いて下さい…私が貴方の心を守りますから…でも二度と…私の愛を疑わないで下さい…次疑ったら罰を与えますからね?』


セリアは冗談を言う様にはにかみながら言った。
本当に頼もしい女性だ。

自分を信じられない俺の心をセリアは楽にしてくれる。


そこからは俺が殿下の事を口にしたのを口火に悪口大会が始まった。


『殿下に詰め寄られキスされそうになった時…私鳥肌が立ってしまいましたわ…』

『あれでも奴は色男だ…ちょっとはときめいたんじゃないか?』

『全っ然です!!!生理的に…あの人は無理です!!』

『俺も同性ながら奴の演技臭い喋り方は…ちょっと気持ち悪いと思ったな』

『あの方はいちいち格好付けなきゃ喋れないんですよ!』

セリアが奴の悪口に鼻息を荒くする
本当に…心底嫌って居るのが伝わって来る…

そして結婚前までは不満があっても口にしないセリアと比べると新鮮味を感じた…。

前まで、彼女の口から不満や悪口等聞いた事がなかったからだ。


『でも…私殿下に感謝してる事が一つだけありますの…』

『なんだい?感謝してる事って…』

『殿下と関わる様になったお陰で…今のなんでも話せる私がいるなって…』

『今までの私は…なんて言うかその無機質だったでしょう?私が受けた教育も原因なのですが…今まで何かに対して腹を立てたり感情を出す事が無かった私ですが…』

『殿下と言う弊害があったからこそ…追い詰められて感情を出す事出来る様になった気がします』

『た、確かにな…俺も奴がセリアにちょっかいを出さなければきっかけも無くセリアに真意を明かす事は永遠になかっただろう…』

『そう考えたら…殿下にちょっと感謝ですね』

冗談の様に言うセリア

『奴に感謝等しない…奴は卑劣な人間だ…』

『いいえ…殿下はクソ野郎です!』

『え!?』


セリアの口からとんでもなく汚い言葉が飛び出し驚く
今までの彼女なら…絶対に口にしない言葉だ


『はは…ははは』


しかしそのギャップが堪らない…
確かに…セリアに"クソ野郎"と言わしめる人間等、奴しかいないだろう


少しだけ…針の穴ほどの気持ちだが…感謝するよ


殿下…あんたが齎したトラブルのお陰で…
俺達は心打ちを打ち明けられる本物の夫婦になれた。


俺達はその後、二人で色々な出店を見て回った。
一つのパイを二人で分け合い食べ歩いた

途中で寄った宝飾店でセリアに何か贈り物をしようと思ったが彼女に拒否された。


『私…目がチカチカする様な宝石は苦手ですの…装飾品は…この結婚指輪だけで充分ですわ』


そう言うが何か贈りたかった俺にセリアは出店で見付けたフミドリを模したブローチをねだった。


フミドリは帰巣本能から必ず自分の巣に帰る習性から伝書鳥として人間と共生関係にある鳥だ。


セリアがうんと幼い時
病気を理由に隔離されていた時にフミドリが運んで来る家族からの手紙が慰めになっていたらしい。

故に自然と手紙を運んでくれるフミドリが好きになったそうだ。


俺がブローチをプレゼントするとセリアは子供の様にはしゃいでくれた…


すると今度はセリアがもう1つ同じブローチを買い
俺に贈った。


『ライアンが無事家に帰れます様に』


そう言って俺の胸にブローチを付けてくれた。


『これでお揃いですね!』


セリアはそう言って微笑んだ。


幸せ過ぎる…


俺達は…今までの失った時間を取り返すべく存分に絆を深めた。


----------------------------------

夕刻の日暮れが2人だけの時間に終わりを告げる。

明日より俺は父から爵位を譲り受け辺境伯として国境守護の任を引き継ぐ。

セリアと2人きりで出掛けられる日もそう多くは無いだろう。

敵は休まず攻めて来る。

つまり俺に休み等あって無い様なものだ。
しかしその人生に悔いはない

命や人生を捧げても惜しくない人達がいるからだ

セリアも俺の決意を受け入れてくれている。
俺達は互いの手を握りながら沈み行く夕日を前に二人だけの時間を惜しみながらも…これからも続く二人の人生について語り合った。


『ライアン…その…子供は何人欲しいですか…?』

『え…そうだな…考えた事も無かった…』


俺はセリアの突然の問いに答えを返せずにいた。
貴族と言う立場上世継ぎは大事だが…暫くはセリアと二人で過ごしたい…だが、愛するセリアから生まれてくる二人の分身を想像すると頬が緩んでしまいそうな自分もいる…


『私、母が亡くなって縋る者を亡くし…辛い幼少を過ごしました…兄や侍女から愛は貰って来ましたが…それでも母の愛を恋しく思う日があって…』


『私達の子供には…そんな思いをさせたくないのです…』


セリアは未来の我が子を案じていた。
アルテアの医術は未発達故に出産は命懸けだ。
歳を重ねてからの出産は尚更リスクを伴う…

セリアの母も俺の母も…出産で命を落とした

そして…フェレネス家の女性はどう言う因果か代々短命だ…。

セリアも…自分が死に…未来の子供達が愛に飢える事を案じて居るのだ。


『安心しておいで。君は不治の病を乗り越えた強い女性だ…セリアはきっと良い母親になれるよ』

『ありがとうございます…ライアンにそう言って頂けると安心出来ます』


俺がセリアに掛けた言葉は本心だ
セリアは強い、精神面だけの話では無い。
彼女は一度も病に掛かった事は無い

風邪すらひかない強い体になった
彼女の妹であるレベッカも…双子達も一度も病気をした事がないらしい。


きっと…フェレネス家の女性は代々短命と言うジンクスは、ただ不幸が重なっただけの事だ


子供の事等まだ考えても居なかったが…深く考える事もないだろう…そう遠くない日に自然と授かると思う。

『でも名前位は先に考えておきませんか?ほら、いざと言う時に迷わない様に!』

『そうだな!セリアは何か考えているかい?』

『はい!男の子ならヒュププケ健康の妖精女の子ならアマメノス幸せの妖精なんて如何でしょう!』

『うっ…』


俺はセリアの案を聞いて眉を顰めた。
冗談で言っているのでは無いと…セリアの目を見て分かったからだ…。

出来ればセリアの要望を叶えてやりたい俺だったが…未来の子供達が名前を理由に苦労する姿が浮かんで仕方がない…俺は遠回しに諭す事にする


『ははは…悪くない…悪くないが…もう少し周りの枠からはみ出さない名前はどうだ?ほら…君の愛馬コンスタンスなんて名が体を表していてピッタリだと思うし…そのネーミングセンスを…』


『でも…コンスタンスは父が名付けた名前ですし…そうだ!ゲブゲラゾーニ平和の妖精はどうでしょう!!』

『ぶっ!?』


俺は…思わず吹き出してしまった…
セリアは至って真面目に話して居るのに…彼女の口からとんでもないネーミングセンスが飛び出して来る事が耐えられなかった。


『わ、笑うなんて酷いですよライアン!!!』

『す、すまない…でも…ふふっ…』

『酷いです!!酷いです!!』


セリアがポカポカを俺を叩く
それでも笑いが止まらなかった
ゲブゲラゾーニ…ゲブゲラ…


頭の中で名前がコダマし、俺が息を整えるのに数分を要した…


『はぁ…はぁ…はぁ…』

『もうっ…ライアンたら…』

『すまないセリア…だけどゲブゲラだけは辞めような…?笑い死んでしまう…くふふ』

『じゃあライアンだったらなんて名前を付けるんですか!!』

『え、俺か…』

急に振られた事で焦った俺だが…
頭の中ですぐさま一つの名前が閃いた。


『男の子はまだ考え付かないが…女の子ならがいいかな…』

『ミアって…あの亡くなった少女の…』


そう…俺の過ちが殺めた少女の名だ。
守れなかった彼女を…今度こそ守り抜きたい
そんな願望を込めた名前だ


『いや…忘れてくれ、俺の願望を子の名に込めるなんて』

『ミア…良い名前だと思います!可愛いらしいですし!女の子ならミアに決まりですね!』

『セリア…ありがとう』

『但し男の子なら私が名前を付けますからね?』

『うっ…女の子であって欲しい』

『なんでですか~~!!!』


そう言って俺達は未来に思いを馳せた。


『今度…ミア亡くなった少女さんのお墓参りに私も連れて行って下さいね…。』

『貴方の荷物過去は私も背負いますから』

『あぁ…ありがとうセリア。』



俺達の人生は続く。
きっと…いつまでも


…続いて欲しい
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