【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

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【SS1】ハイネの譚

第15話-実の母より義姉

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私が王宮入りしてから暫くが経つが…
殿下が私の部屋を訪ねて来る事は一度としてなかった。

私が王宮入りした理由は…殿下の婚約者として
後の王太子妃としての公務を慣らす為だ。

しかし殿下は私に仕事を何一つ降っては下さらなかった…

殿下は帰国してから王太子としての公務でアルテア各地の領地を査察しに赴くが…私を同行させてはくれなかった。


『まずは王宮での暮らしに慣れよ』


殿下はそう言って私を公務に関わらせなかった。
最初は思いやりかと思った…


しかし私が王宮入りして数ヶ月が経過しても…殿下が私を頼る事は無かった…


殿下は一人で公務を片付けてしまう。
本人はそれを苦と思っていない


自分の能力を最大に活かし…結果を出す事が殿下の喜びだからだ…


しかし…仮にも未来の王太子妃足る私が…殿下から何一つ宛にされない現状が私には辛かった


私は殿下に取って頼るに足らない存在と思われているのだろうか…


『ハイネさん今朝もお早いですわね。』

『王女殿下…』

『堅苦しい敬称は不要ですわ。私の事はエミリアと名前で呼んで下さいね。私も貴女をハイネちゃんと呼んでも良いかしら?』

『そんな…恐れ多いです。』

この王宮で私を唯一気遣って下さるのは彼の姉君であるこのエミリア様だけだ。

『毎朝リフェリオに合わせてこんな早くから起きなくてもいいんですよ?』

『殿下が朝早くから公務に励んで居られるのに私だけ眠っている訳にも行きませんので…』

『ハイネちゃん?そんなに気を張り詰める必要はありませんわ。この王宮入りの期間は貴女が王宮での暮らしに慣れる為の期間です。リフェリオとの婚礼を終えれば嫌でも忙しくなりますわよ!今が最後の休暇だと思ってしたい事をして過ごせば良いのですよ』


エミリア様は私に優しい言葉を掛けて下さる…
しかし私の不安は拭えなかった…


『私…不安なのです…彼に頼られない事が…必要とされていないみたいで…』

『そんな事ありませんわ…あの子も漸く父上から王族として本格的な公務を任され遂没頭しているだけですのよ』

『本当に…そうでしょうか?』

『私はあの子の姉を18年やっているのですよ?間違いありませんわ!』

エミリア様の邪念のない透き通った瞳…
殿下と同じく月の様に淡いグレーの瞳に励まされ…本の少しだけ…心が安らいだ…。


私とエミリア様が親密になるのに時間はそう掛からなかった。やはり殿下と同じ血が流れている彼女は人に慕われる資質がある。

気が付けば私達は雑談に花を咲かせていた。

『あなた達の結婚式が待ち遠しいわ!私の子供の頃からの夢はウェディングドレスを着る事だったけど…私には出来ないから……ハイネちゃんのドレス姿を見る事が私の楽しみなのよ!』

『あのエミリア様……1つ伺ってもよろしいでしょうか?』

『なにかしら?』

『エミリア様は…国王陛下より結婚を勧められた際も拒否されたと聞きます…一体何故…?』

『えっと…』

エミリア様が困った顔をされていた。
私はしまったと内心で思った。

エミリア様があまりに話しやすい方だったので…
ウェディングドレスに憧れていながら何故結婚を拒否したのかと言う疑問が自然と口から出てしまった…


『も、申し訳ございません…失礼な事を…』

『いえ…いいのよ…ごほごほっ……』

エミリア様が突然咳き込み出した。

『エミリア様…?』

『大丈…ごほっ…すぐ治まるか…ごほごほっ!人に感染るものじゃないから安心し…げほげほっ!!』

苦しそうに胸を抑えながら激しく咳き込むエミリア様…王女専属侍女達がエミリア様に駆け寄り背中を摩るが…それ位の事しか侍女達もしてやれない

『姉上!大丈夫ですか!?』

彼女の咳音を聞き、たまたま通り掛かったであろう殿下が部屋に駆け込んで来た…

『姉上…これをゆっくり吸って下さい』


殿下は近衛兵から手渡された煙をあげる小袋の様な物をエミリア様の口に宛てがう

咳き込んでいる人間に煙等吸わせたら余計に悪化するのではないだろうか…

『けほっ…ん……はぁ…はぁ…』

しかし…小袋からあがる煙を吸い込んだエミリア様の咳は嘘の様に止まった…。

『ありがとう…リフェリオ…もう大丈夫よ…』

まだ息が少し荒いが…少しずつ呼吸を整えるエミリア様…彼女は生まれつき肺が弱いと聞いてはいたが…ここまで深刻だとは思わなかった…。

『姉上…せめて夏までの間は離宮でお過ごし頂けませんか……春でも王都の空気は姉上の肺に障りますので…』

『あらリフェリオ。私を追い出してハイネちゃんとイチャイチャする気?私の目は気にしなくていいのに』

呼吸が整ったエミリア様は軽口を叩く。

『姉上…僕は本気で言っているんです。この薬も…数が豊富にある訳ではございません…』

殿下の一人称が普段なら絶対に言わない"僕"に変わった…エミリア様は幼くして母君を亡くした殿下の母親代わりで…国王陛下を除けば彼女だけが唯一殿下を叱れる立場にあり殿下も頭があがらないのだ。

私には冷たい態度の殿下だが…エミリア様が咳き込む姿を見た時、彼の目の色が変わっていた。

エミリア様を心から心配していた…。

『検討致しますわ。』

エミリア王女はそっぽを向いてふんと鼻を鳴らした。
殿下は呆れ顔で退室して行ってしまった。

ここで強がって見せる事で殿下を心配させまいとする彼女の気遣いだろう…私には分かる…この御方はそういう方だ。

『さっきの質問の答えね…実はコレが理由ですのよ』

『え』

『私は生まれながらに肺が弱く…ロクに外も歩けない…散歩をしたり…友人と戯れる事も…美しい景色に胸踊らせる事も出来ない…私の世界はこの王宮だけ…世界は広いと言うのにまるで鳥籠ね…』

『こんな私を愛してくれる殿方が見付かったとして結婚し…子が産まれた時…私と同じ病気を持ってしまったら…そう考えると恐ろしくて…』

『子供とは可能性の宝庫よ…そんな子供が…病気を理由に鳥籠から出られないなんて……子供には病気や立場なんかに縛られずに幸せに生きて欲しいと私は願っています。だから私はどなたとも結婚はしない道を選びました。』


『そう…だったのですね…』


"子供には病気や立場に囚われず幸せに生きて欲しい"


母親になる事を断念した彼女から出たのは誰よりも母親に相応しい言葉だった…。


私は…ラグライア家の権威復興の為に作られた人形…泣こうが叫ぼうが苛烈な教育や体罰が緩んだ事は無かった…。

"これはあなたの為なのよ"

"ラグライア公爵家の令嬢として自覚を持ちなさい"


私の母の口癖だ。
母親とは…股ぐらから子を生み出せば母親なのだろうか?

エミリア様の様な方を見ていると私の母親が本当に自分の母親なのかと自信が無くなってくる…

母親の資質とは…子を愛する事
立場も…財産も…全てを捨て様と子の幸せを願う事

エミリア様の様な方がもし私の母親だったら…
私は迷わずに済んだのかな…?

今のこの不安も…抱き締めて忘れさせてくれたのかな?

 
『ハイネちゃん…?どうかして?』


エミリア様の言葉で私は自分が涙を流している事に気付く…私は泣いてばかりだ…

こんな弱い自分にもうんざりする…
殿下からすれば…私は3年前の弱いハイネのまま…

だから私は殿下から頼られな…


『いらっしゃい…ほら』

『あっ…』  


悪いことばかり考えている私をエミリア様が優しく抱き締めてくれた……

温かい…良い匂い…リフェリオにちょっと似た匂い…


『私達は血は繋がらずとももう姉妹よ…ずっと可愛い妹が欲しかったの…たっぷり甘えていいですからね』

『エミ…エミリア様…』

私は彼女のドレスが私の涙で染みになる程泣いてしまった…

弱い自分への嫌悪

ひとりぼっちの王宮暮らし

殿下に頼られない日々への不安


今迄溜め込んだ感情が涙となり溢れた
一度感情が零れると…もう自分では止められなかった…


『ハイネちゃんも私の事は姉と思ってちょうだいね?』

『はい…お姉様…』


エミリア様は…お姉様は涙でグシャグシャな私の顔をハンカチで拭いて下さった

やはりこの方は殿下の姉だ…
人心掌握に長けた人たらしの血が脈々と流れていると悟った…。


義姉に…それもこの国の王族である義姉に弱さを晒してしまった…スルッと私の心の内に入り込まれてしまった…


しかし…お姉様は包み隠さない私をさらけ出しても受け止めて下さる方となった。


それがなんとか…私を正気でいさせてくれる励みになった…。
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