【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

文字の大きさ
77 / 81
【SS1】ハイネの譚

第16話-彼の夢

しおりを挟む
-ハイネ視点-


ある日、私は殿下の執務室に呼び出された。
王宮入りしてからの初めての呼び出しに私は少しだけ胸を高鳴らせた。

漸く…殿下が私を頼りにしてくれるのだと思ったからだ。

『ハイネよ、今までお前を待たせた事を許せ』


殿下は殿下らしい口振りで私に謝罪した。
彼が人に謝る事等そうそう無い…

きっと…お姉様エミリア王女が何か殿下に口添えしてくれたのだろう。

『滅相もございません…しかし…私も殿下のお力になりたいのです。』

私は隠す事無く胸の内を明かした。
書類仕事の雑務だって構わない…とにかく私は彼の役に立ちたいのだ。

『その事だが…お前に今迄仕事を与えなかったのには訳があるのだ…説明するからまずは座れ』

私は促されるまま椅子に座る。
殿下の言う訳とやらには私も興味がある。

『ハイネよ…。この話は我が臣下の中でも信頼の置ける数名にしか打ち明けてはいない。くれぐれも他言無用であると心得よ』

『も、勿論です!』

殿下の言葉に私は少々食い気味に返答した。
そんな重大な話を聞かせて貰えるのは信頼されている証で、それが嬉しかったからだ。

『俺は…王位を継承し次第アルテアの長きに渡る鎖国を解いて開国し外交を始める』

『え…』

『どう思う?ハイネ』

『アルテアは…建国以来数百年の歴史から見ても…他国と友好関係にあった歴史はありません…』

『それで?』

『アルテアが他国と関わった歴史は…戦争の歴史しか無く…今迄大陸の様々な国がアルテアと友好関係を築こうと開国を迫って来ましたが…全て武力を以て跳ね除けています…』

『ハイネよ…結論を言ってくれ』

『アルテアを開国する等…不可能かと存じます…』

『それがお前の意見か?』

『はい…我々アルテア人の国教や習わしと異国人の生き方は相容れないと…国王陛下は勿論…アルテルシオン教会の司祭らや古参の貴族達も反発するかと…それに…』

『もういい…』

殿下は私の前に手をやり私の言葉を遮った。
殿下はとても残念そうな顔をしていた…

『ハイネ…お前は姉上の病気の事は知っているな?』

『勿論存じております…』

『アルテアで生まれながらに体の弱い人間を治すにはどうしたらいい?』

『神に祈り奇跡を信じる他ありません…』

『その祈りとやらが通じなければ…?』

『その……死を待つ他ありません…』

『お前も姉上の発作を治めた薬を見たろう?あれが"外の世界の一部"だ…神の奇跡とやらを容易く起こせるのが外の世界の技術なのだ…俺はその技術が欲しい…』

技術無き故にアルテアで死んでいく者を無くしたい…それが俺の夢であり王族として生まれた理由だと思っている。』

『ハイネ…先に進むには行く先にどれだけ大きな障害があろうと進む努力をせねばならない…目の前を大岩で塞がれ…"どうせ無理だ"と進む事を辞めれば永遠に前には進めないのだ。』

『一歩…半歩でもいい…前に進む努力をせねば』

『殿下…』

私は殿下の言葉に聞き入っていた。
私を含め今まで誰もやろうとすら思わなかった事をこの方はやろうとしている…。

なんと勇ましい方だろう…

『ハイネよ…お前には王太子妃として俺とアルテアを前に進ませる努力をして欲しい…出来るか?』

『私は…』

私は"出来ます"と即答出来なかった。
殿下のやろうとしている事はアルテア人から"アルテア人らしさ"を取り上げ様としているからだ。


アルテア人は他の種と交わってはならないと言う戒律

外界の民族と触れ合えば穢れが移りアルテア人の神聖さが損なわれると言う教え

他の種と交わり子を成せばアルテア人特有の白い髪を失い、それは"裏切りの証"として国外追放されて来た戒め

これらをかなぐり捨てて他の種に交わる事は決して簡単な事では無い。


アルテア人は建国以来この教えを貫いて来た。
殿下のやろうとしている事は鳥に羽ばたく事を禁ずるのと同じだ。


皆外界の民族を恐れ、忌み、嫌悪している。
私もだ…

アルテアの外にいる民族は穢れた欲の塊である蛮族だと皆幼い頃に必ず習う。


その根付いた慣習を…価値観を取り払う事が出来るものなのだろうかと疑問だったからだ。


『お前には理解して欲しかった』

殿下は表情を見て私の考えを察したのか溜息を吐いてそう言った。

『殿下…私は!!』

『よい…確かに誰が聞いても絵空事だろう…今この状況で陛下や国民に俺の胸の内を明かせば猛反発を食らうだろう…誰も俺の政策に耳を貸す者はいないと言うのも百も承知だ。』

『だからまずは信頼を築く。俺はデラガドより画期的な造船技術を持ち帰った…今進めている計画は造船所と港の開港だ…。これが上手く行き外の技術の恩恵を受ければ皆も聞く耳を持つだろう。』

『それまでハイネ…くれぐれも今日の話は他言無用であると心せよ』

『はい…承知致しました。』

『話は以上だ…。下がってよい』

『失礼致します…』


私は殿下の夢を共に背負うと言って差し上げられなかった…。

絵空事だろうと…夢物語であろうと…彼の望みを現実に近付ける為に共に努力すると言ってあげられなかった…

私はつくづく弱い女だ…


本当は…どんな道でもお供したいと言ってあげたかったのに…

後になってから言うべき言葉が頭を駆けていつも後悔する…


私は…どんな道でもあなたに付き従う覚悟は決まっていたのに…


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

処理中です...