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【SS1】ハイネの譚
第18話-崩壊
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『あらハイネちゃん!どうしたの?』
侍女や従者達の陰口に耐えきれなくなった私の足は自然とお姉様の部屋に向かっていた。
彼女はいつも通りの優しい笑顔で出迎えてくれたが…私の視線は彼女では無く部屋の内装に向いていた。
なにもない…
ベッドやクローゼット等大きな家具はそのままだが
細々とした小物等が彼女の部屋から全てなくなっていた。
『リフェリオがね…どうしても離宮に移動して欲しいって聞かないのよ…本当にあの子の心配性には困った物よね…』
『そ、そうでしたか……今まで良くして頂きありがとうございました…。』
私は繕った表情で別れの挨拶を述べた…
唯一の心の慰めだったお姉様が離宮に移ってしまう事に動揺がない訳では無いが…
私の都合でお姉様を王宮に留め、病状を悪化させたくなかったからだ。
『ちょっと待ってハイネちゃん?何か用があっていらしたのでは?』
『いえ…お姉様のお顔を見に参っただけですのよ』
私は繕って嘘を吐く他無かった…
唯一の味方を失った私は、絶対に頼りたく無かった両親を頼る他無かった
殿下の心が離れている旨を知らせる文を送ると両親の行動は早かった、学生時代も含め、今まで数える程しか私に会いに来なかった両親は私からの文が届いたであろう日の翌日に私を訪ねに王宮にやって来た。
両親の表情は…久しぶりに会う娘を慈しむ物ではなく"焦り"の表情だった。
『ハイネ…一体何故…なにか粗相でもしたか!?』
『殿下になにか失礼を働いたんじゃないの?』
久しぶりに会うなり開口一番飛び出した言葉は私が何か不始末をやったと疑わない言葉だった。
『王立学園でも男爵家の端くれの娘に足元を掬われそうになり、漸く王宮入りしたかと思えば…なにをやっているんだお前は!!』
『貴方がきっと気付かずに殿下に無礼を働いていたのよ!!そうでなければ王宮入りした婚約者に仕事も与えないなんて有り得ないわ!!』
『お前を信じ口出しせずに見守っていた結果がこれか!!』
『だから言ったでしょう!?あなたの為にもあなたは私達の言う事に従っていれば良いと!!』
両親の口から出る言葉は、追い詰められた私を更に追い詰める様な言葉ばかり…
否定否定否定…
否定しかしてくれない
僅かでも私に寄り添う様な言葉は両親からは出ない
私が全て悪い事が前提で話が進む。
家を出てから数年経つが…両親はなにも変わってはいなかった。
私が両親を呼んだ理由は…この窮地を脱する為の良案も貰う為では無い…
両親とて殿下の意向を変える力がない事を私は承知していた。
私はただ…慰めて欲しくて両親に縋った。
もしかしたら数年の時を経て両親の内面が少しは変わっている事に期待して…
優しく抱き締めてくれる事を期待して…
しかし、結果は頭ごなしの否定だった。
私のやって来た事の否定
私の考えの否定
私の人生の否定
否定否定否定…
あぁ…"人は変わらない"と私は理解した
両親に責められ涙目になって何も言い返せない自分に気付いたからだ。
私は所詮…何も変われなかった弱いハイネのままだった。
殿下の婚約者と言う立場で虎の威を借りて強くなった気がしていただけ…
『こうなったら…仕方あるまい』
私を叱責していた父が突然穏やかな声色になった。
『公爵家としてあるまじき事だが、ハイネ…お前は殿下に夜這いを仕掛けろ』
『は…?』
父の口からとんでもない言葉が飛び出した。
『殿下と体を重ね既成事実を作れば…ひとまず王太子妃の地位は確約となろう。』
『お父様…なにを言っているか分かっておられるのですか?それは公爵家として…いえ、アルテア人としてあるまじき行為であるとご承知ですか?』
『お前こそ分かっておるのか!!!!!!』
父は机を激しく叩き私を威圧した。
私は勿論、母すらもすくみあがる程の声量だ。
『お前を王太子妃にする為にラグライア家が幾ら金を注ぎ込んだと思っているのだ!!!サインに借りを作らない為に酒造工場とユビターの製造権に領土や別邸等ラグライア家が保持する財産の大半を明け渡したのだ!!!お前を嫁に寄越せと言うサイン家を黙らせる為にな!!!』
『臣下の者共もサイン家に靡き始めている…分かるか!?お前が王太子妃になれなければラグライア家は公爵としての立場を追われる事になるのだぞ!!』
『実はな…飢饉の折にサイン家から借り受けた食糧備蓄の返済が滞っているのだ…主要産業を失った今…このままでは領土を維持出来なくなる…』
『あ、あなた……』
父の言葉を聞いて母の顔から血の気が引く
『ハイネ!!お願いよ!!私達が路頭に迷っても良いって言うの!?』
父の言葉で血相を変えた母が私に縋り着いた。
『家具や屋敷も差し押さえられ…周りから後ろ指を刺されて笑われるのよ?思い出も何もかも売り払って私達が今まで築いて来た物全てを奪われる事になってもいいの!?』
母は涙を流しながら私の裾にしがみついた。
"何か他に策を"と言っても私には何も考え付かない…
どうすれば殿下の気を引けるかなんて…私には分からない…
あの方の心は誰にも分からない…
私は"よく検討致します"と曖昧な返答しか返せずにいた。
両親を頼ったのは間違いだった…
娘に色仕掛けを強要する両親を見て私の心は益々薄暗く影を落とすだけであった…。
しかし私ももう両親が出した案以外、彼の気を引く術等思い付かなかった。
侍女や従者達の陰口に耐えきれなくなった私の足は自然とお姉様の部屋に向かっていた。
彼女はいつも通りの優しい笑顔で出迎えてくれたが…私の視線は彼女では無く部屋の内装に向いていた。
なにもない…
ベッドやクローゼット等大きな家具はそのままだが
細々とした小物等が彼女の部屋から全てなくなっていた。
『リフェリオがね…どうしても離宮に移動して欲しいって聞かないのよ…本当にあの子の心配性には困った物よね…』
『そ、そうでしたか……今まで良くして頂きありがとうございました…。』
私は繕った表情で別れの挨拶を述べた…
唯一の心の慰めだったお姉様が離宮に移ってしまう事に動揺がない訳では無いが…
私の都合でお姉様を王宮に留め、病状を悪化させたくなかったからだ。
『ちょっと待ってハイネちゃん?何か用があっていらしたのでは?』
『いえ…お姉様のお顔を見に参っただけですのよ』
私は繕って嘘を吐く他無かった…
唯一の味方を失った私は、絶対に頼りたく無かった両親を頼る他無かった
殿下の心が離れている旨を知らせる文を送ると両親の行動は早かった、学生時代も含め、今まで数える程しか私に会いに来なかった両親は私からの文が届いたであろう日の翌日に私を訪ねに王宮にやって来た。
両親の表情は…久しぶりに会う娘を慈しむ物ではなく"焦り"の表情だった。
『ハイネ…一体何故…なにか粗相でもしたか!?』
『殿下になにか失礼を働いたんじゃないの?』
久しぶりに会うなり開口一番飛び出した言葉は私が何か不始末をやったと疑わない言葉だった。
『王立学園でも男爵家の端くれの娘に足元を掬われそうになり、漸く王宮入りしたかと思えば…なにをやっているんだお前は!!』
『貴方がきっと気付かずに殿下に無礼を働いていたのよ!!そうでなければ王宮入りした婚約者に仕事も与えないなんて有り得ないわ!!』
『お前を信じ口出しせずに見守っていた結果がこれか!!』
『だから言ったでしょう!?あなたの為にもあなたは私達の言う事に従っていれば良いと!!』
両親の口から出る言葉は、追い詰められた私を更に追い詰める様な言葉ばかり…
否定否定否定…
否定しかしてくれない
僅かでも私に寄り添う様な言葉は両親からは出ない
私が全て悪い事が前提で話が進む。
家を出てから数年経つが…両親はなにも変わってはいなかった。
私が両親を呼んだ理由は…この窮地を脱する為の良案も貰う為では無い…
両親とて殿下の意向を変える力がない事を私は承知していた。
私はただ…慰めて欲しくて両親に縋った。
もしかしたら数年の時を経て両親の内面が少しは変わっている事に期待して…
優しく抱き締めてくれる事を期待して…
しかし、結果は頭ごなしの否定だった。
私のやって来た事の否定
私の考えの否定
私の人生の否定
否定否定否定…
あぁ…"人は変わらない"と私は理解した
両親に責められ涙目になって何も言い返せない自分に気付いたからだ。
私は所詮…何も変われなかった弱いハイネのままだった。
殿下の婚約者と言う立場で虎の威を借りて強くなった気がしていただけ…
『こうなったら…仕方あるまい』
私を叱責していた父が突然穏やかな声色になった。
『公爵家としてあるまじき事だが、ハイネ…お前は殿下に夜這いを仕掛けろ』
『は…?』
父の口からとんでもない言葉が飛び出した。
『殿下と体を重ね既成事実を作れば…ひとまず王太子妃の地位は確約となろう。』
『お父様…なにを言っているか分かっておられるのですか?それは公爵家として…いえ、アルテア人としてあるまじき行為であるとご承知ですか?』
『お前こそ分かっておるのか!!!!!!』
父は机を激しく叩き私を威圧した。
私は勿論、母すらもすくみあがる程の声量だ。
『お前を王太子妃にする為にラグライア家が幾ら金を注ぎ込んだと思っているのだ!!!サインに借りを作らない為に酒造工場とユビターの製造権に領土や別邸等ラグライア家が保持する財産の大半を明け渡したのだ!!!お前を嫁に寄越せと言うサイン家を黙らせる為にな!!!』
『臣下の者共もサイン家に靡き始めている…分かるか!?お前が王太子妃になれなければラグライア家は公爵としての立場を追われる事になるのだぞ!!』
『実はな…飢饉の折にサイン家から借り受けた食糧備蓄の返済が滞っているのだ…主要産業を失った今…このままでは領土を維持出来なくなる…』
『あ、あなた……』
父の言葉を聞いて母の顔から血の気が引く
『ハイネ!!お願いよ!!私達が路頭に迷っても良いって言うの!?』
父の言葉で血相を変えた母が私に縋り着いた。
『家具や屋敷も差し押さえられ…周りから後ろ指を刺されて笑われるのよ?思い出も何もかも売り払って私達が今まで築いて来た物全てを奪われる事になってもいいの!?』
母は涙を流しながら私の裾にしがみついた。
"何か他に策を"と言っても私には何も考え付かない…
どうすれば殿下の気を引けるかなんて…私には分からない…
あの方の心は誰にも分からない…
私は"よく検討致します"と曖昧な返答しか返せずにいた。
両親を頼ったのは間違いだった…
娘に色仕掛けを強要する両親を見て私の心は益々薄暗く影を落とすだけであった…。
しかし私ももう両親が出した案以外、彼の気を引く術等思い付かなかった。
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