【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

文字の大きさ
79 / 81
【SS1】ハイネの譚

第18話-崩壊

しおりを挟む
『あらハイネちゃん!どうしたの?』

侍女や従者達の陰口に耐えきれなくなった私の足は自然とお姉様の部屋に向かっていた。

彼女はいつも通りの優しい笑顔で出迎えてくれたが…私の視線は彼女では無く部屋の内装に向いていた。


なにもない…


ベッドやクローゼット等大きな家具はそのままだが
細々とした小物等が彼女の部屋から全てなくなっていた。


『リフェリオがね…どうしても離宮に移動して欲しいって聞かないのよ…本当にあの子の心配性には困った物よね…』


『そ、そうでしたか……今まで良くして頂きありがとうございました…。』


私は繕った表情で別れの挨拶を述べた…
唯一の心の慰めだったお姉様が離宮に移ってしまう事に動揺がない訳では無いが…

私の都合でお姉様を王宮に留め、病状を悪化させたくなかったからだ。


『ちょっと待ってハイネちゃん?何か用があっていらしたのでは?』


『いえ…お姉様のお顔を見に参っただけですのよ』


私は繕って嘘を吐く他無かった…


唯一の味方を失った私は、絶対に頼りたく無かった両親を頼る他無かった


殿下の心が離れている旨を知らせる文を送ると両親の行動は早かった、学生時代も含め、今まで数える程しか私に会いに来なかった両親は私からの文が届いたであろう日の翌日に私を訪ねに王宮にやって来た。


両親の表情は…久しぶりに会う娘を慈しむ物ではなく"焦り"の表情だった。


『ハイネ…一体何故…なにか粗相でもしたか!?』

『殿下になにか失礼を働いたんじゃないの?』


久しぶりに会うなり開口一番飛び出した言葉は私が何か不始末をやったと疑わない言葉だった。


『王立学園でも男爵家の端くれの娘に足元を掬われそうになり、漸く王宮入りしたかと思えば…なにをやっているんだお前は!!』

『貴方がきっと気付かずに殿下に無礼を働いていたのよ!!そうでなければ王宮入りした婚約者に仕事も与えないなんて有り得ないわ!!』

『お前を信じ口出しせずに見守っていた結果がこれか!!』

『だから言ったでしょう!?あなたの為にもあなたは私達の言う事に従っていれば良いと!!』



両親の口から出る言葉は、追い詰められた私を更に追い詰める様な言葉ばかり…


否定否定否定…


否定しかしてくれない
僅かでも私に寄り添う様な言葉は両親からは出ない


私が全て悪い事が前提で話が進む。
家を出てから数年経つが…両親はなにも変わってはいなかった。


私が両親を呼んだ理由は…この窮地を脱する為の良案も貰う為では無い…


両親とて殿下の意向を変える力がない事を私は承知していた。


私はただ…慰めて欲しくて両親に縋った。
もしかしたら数年の時を経て両親の内面が少しは変わっている事に期待して…


優しく抱き締めてくれる事を期待して…


しかし、結果は頭ごなしの否定だった。


私のやって来た事の否定
私の考えの否定
私の人生の否定


否定否定否定…


あぁ…"人は変わらない"と私は理解した
両親に責められ涙目になって何も言い返せない自分に気付いたからだ。


私は所詮…何も変われなかった弱いハイネのままだった。


殿下の婚約者と言う立場で虎の威を借りて強くなった気がしていただけ…


『こうなったら…仕方あるまい』


私を叱責していた父が突然穏やかな声色になった。


『公爵家としてあるまじき事だが、ハイネ…お前は殿下に夜這いを仕掛けろ』


『は…?』


父の口からとんでもない言葉が飛び出した。


『殿下と体を重ね既成事実を作れば…ひとまず王太子妃の地位は確約となろう。』


『お父様…なにを言っているか分かっておられるのですか?それは公爵家として…いえ、アルテア人としてあるまじき行為であるとご承知ですか?』


『お前こそ分かっておるのか!!!!!!』


父は机を激しく叩き私を威圧した。
私は勿論、母すらもすくみあがる程の声量だ。


『お前を王太子妃にする為にラグライア家が幾ら金を注ぎ込んだと思っているのだ!!!サインに借りを作らない為に酒造工場とユビターの製造権に領土や別邸等ラグライア家が保持する財産の大半を明け渡したのだ!!!お前を嫁に寄越せと言うサイン家を黙らせる為にな!!!』


『臣下の者共もサイン家に靡き始めている…分かるか!?お前が王太子妃になれなければラグライア家は公爵としての立場を追われる事になるのだぞ!!』


『実はな…飢饉の折にサイン家から借り受けた食糧備蓄の返済が滞っているのだ…主要産業を失った今…このままでは領土を維持出来なくなる…』


『あ、あなた……』


父の言葉を聞いて母の顔から血の気が引く


『ハイネ!!お願いよ!!私達が路頭に迷っても良いって言うの!?』


父の言葉で血相を変えた母が私に縋り着いた。


『家具や屋敷も差し押さえられ…周りから後ろ指を刺されて笑われるのよ?思い出も何もかも売り払って私達が今まで築いて来た物全てを奪われる事になってもいいの!?』


母は涙を流しながら私の裾にしがみついた。
"何か他に策を"と言っても私には何も考え付かない…


どうすれば殿下の気を引けるかなんて…私には分からない…


あの方の心は誰にも分からない…


私は"よく検討致します"と曖昧な返答しか返せずにいた。


両親を頼ったのは間違いだった…
娘に色仕掛けを強要する両親を見て私の心は益々薄暗く影を落とすだけであった…。


しかし私ももう両親が出した案以外、彼の気を引く術等思い付かなかった。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?!  ※少しだけ内容を変更いたしました!! ※他サイト様でも掲載始めました!

平民だからと婚約破棄された聖女は、実は公爵家の人間でした。復縁を迫られましたが、お断りします。

木山楽斗
恋愛
私の名前は、セレンティナ・ウォズエ。アルベニア王国の聖女である。 私は、伯爵家の三男であるドルバル・オルデニア様と婚約していた。しかし、ある時、平民だからという理由で、婚約破棄することになった。 それを特に気にすることもなく、私は聖女の仕事に戻っていた。元々、勝手に決められた婚約だったため、特に問題なかったのだ。 そんな時、公爵家の次男であるロクス・ヴァンデイン様が私を訪ねて来た。 そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。 という訳で、私は公爵家の人間になった。 そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。 しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。

【完結】がり勉地味眼鏡はお呼びじゃない!と好きな人が婚約破棄されたので私が貰いますわね!

水月 潮
恋愛
アドリアン・メラールはメラール公爵家の長男で一つ下の王女ユージェニーと婚約している。 アドリアンは学園では”がり勉地味眼鏡”というあだ名で有名である。 しかし、学園のダンスパーティーでアドリアンはユージェニーに「がり勉地味眼鏡なんてお呼びじゃないわ!」と婚約破棄される。 その上彼女はクレメント・グラミリアン男爵家令息という美少年と新たに婚約を結ぶと宣言する。 フローレンス・アンベール侯爵令嬢はその光景の目撃者の一人だ。 フローレンスは密かにアドリアンを慕っており、王女の婚約者だから無理と諦めていた。 フローレンスは諸事情あって今は婚約者はおらず、親からも政略結婚を強いられていない。 王女様、ありがとうございます! 彼は私が貰いますので! これを好機ととらえたフローレンスはアドリアンを捕まえる。 ※設定は緩いです。物語としてお楽しみください *HOTランキング1位(2021.9.20) 読者の皆様に感謝*.*

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

賢人 蓮
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

婚約者が番を見つけました

梨花
恋愛
 婚約者とのピクニックに出かけた主人公。でも、そこで婚約者が番を見つけて…………  2019年07月24日恋愛で38位になりました(*´▽`*)

【完結】エレクトラの婚約者

buchi
恋愛
しっかり者だが自己評価低めのエレクトラ。婚約相手は年下の美少年。迷うわー エレクトラは、平凡な伯爵令嬢。 父の再婚で家に乗り込んできた義母と義姉たちにいいようにあしらわれ、困り果てていた。 そこへ父がエレクトラに縁談を持ち込むが、二歳年下の少年で爵位もなければ金持ちでもない。 エレクトラは悩むが、義母は借金のカタにエレクトラに別な縁談を押し付けてきた。 もう自立するわ!とエレクトラは親友の王弟殿下の娘の侍女になろうと決意を固めるが…… 11万字とちょっと長め。 謙虚過ぎる性格のエレクトラと、優しいけど訳アリの高貴な三人の女友達、実は執着強めの天才肌の婚約予定者、扱いに困る義母と義姉が出てきます。暇つぶしにどうぞ。 タグにざまぁが付いていますが、義母や義姉たちが命に別状があったり、とことんひどいことになるザマァではないです。 まあ、そうなるよね〜みたいな因果応報的なざまぁです。

処理中です...