悪役令嬢は令息になりました。

fuluri

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幼少期

お父様との時間です。

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お茶を飲み終わった私は席から立ち上がると、早足でお父様の方へと近づいていく。
セイル兄様に『兄様も来て』と視線で促すと、困惑しながらもきちんとこちらに来てくれた。
……私の方が動き出しは早いのに同時に着くなんて……足の長さの違いが恨めしい。

「お父様、行きましょう!」

私に出来うる限りの愛らしい笑顔で片手を差し出す。これもクラハの礼儀作法の鬼授業で叩き込まれ中のエスコート時に使う仕草だ。
そしてセイル兄様にちらりと視線をやって『兄様もやって!』とお願いする。

すると、それを察してくれたのかセイル兄様も同じようにお父様に向かって片手を差し出す。
両側から息子二人に手を差し出されたお父様は、今度は眉間に皺を寄せながら手を取って立ち上がってくれた。
……だから怖いって、父様。
セイル兄様がお父様の顔の怖さにちょっと怯んじゃったでしょ!

それでもなんとか手を繋いで客間へ続く廊下を歩いていく。
私はにこにこしたまま歩き、横目で見るとセイル兄様も少し頬を緩めて嬉しそうにしていた。

……が、父様。
お顔が怖いです。表情と行動が一致してません。
今にも振りほどかれるんじゃないかと思うような顔をしているくせに、手はしっかりと握ってくれているのだ。
……お父様、嫌なのか嫌じゃないのかどっちなんでしょうか。

客間へ着くと、ベストなタイミングでクラハがドアを開けてくれたので、立ち止まることもなくそのまま私たちは中に入る。
……なんかあっという間だったなあ。
いつもはもう少し長い気がする廊下なんだけどね。
なんだかんだ言って私もセイル兄様と同じくお父様と手を繋いで歩くのが嬉しかったみたいだ。


「お父様、僕お父様のお膝に乗りたいです」

……これは、一応言ってみたけど断られるかもな~。
貴族って家族であっても人によってはそういうふれあいをあんまり好まない人もいるからね。
お父様はどうか分からないけど、イメージ的にやってくれなそう。
……と、思ったのだけれど。

私が両脇の下に違和感を感じたと思ったら、突然浮遊感にさらされ、すぐに安定するところへ下ろされた。
何だ?!と思って見ると、違和感の正体はお父様の手だった。
どうやら私は余計なことを考えている間にお父様のお膝の上にご招待されたようだ。

「これで良いのか?」

……い、意外と簡単にやってくれるんだね。
びっくりしちゃったよ。
……ほら、いつも微笑んであんまり感情を表に出さないセイル兄様が目を見開いて思考停止してるよ!
セイル兄様!戻ってきてー!

「は、はい。ありがとうございます!」

あ、いや、どうせならセイル兄様も一緒にお膝にのせてもらいたい。
というか、セイル兄様が全然戻ってこない。
息してる?!大丈夫?!

「お、お父様!セイル兄様もお膝に乗りたいそうです!」

さすがに膝に乗せられたら戻ってくるだろう。
……くるよね?


「そうか」

そう言って未だ固まったままのセイル兄様をひょいっとお膝の上に乗せた。
セイル兄様、剣術とか教えてもらうようになってこの二年で筋肉は少しついたけど、線は細いままだから軽いんだよね。

一回冗談でお互いに持ち上げられるか試してみたんだけど、私をセイル兄様が持ち上げられるのは当然だから良しとして。
私が『まあ無理だろう』と話しながらセイル兄様を持ち上げてみると、何と持ち上がったのだ。
セイル兄様がちょっと涙目になって、割とガチでへこみながら「もっと頑張って筋肉つけよう……」と呟いてました。

「……え、あれ?」

あ、セイル兄様がやっと戻ってきた!
さっきと自分がいる位置が違うことに気がついて、きょろきょろと周りを見回すと、お父様と私と視線が合った。
そこでようやく事態を把握したらしく、わたわたと混乱している。

セイル兄様の様子が面白いので落ち着くまでしばらくこのまま見ていよう。
しばらくお父様と二人でじーっと見つめていると、視線を感じたのだろう、セイル兄様が居心地悪そうにしながら復活した。

「……父上、ありがとうございます……」

「ああ」

少し緊張しながら、それでも嬉しそうにしているセイル兄様と、無表情で頷くお父様。
……だから、お父様。顔が怖いってば……。

「お父様、僕もセイル兄様も最近お父様に会えなくて寂しかったです。そんなにお仕事が忙しいんですか?」

「……そうだな。最近は忙しくてあまり家に帰れていなかった」

やっぱり忙しいらしい。
何とかしたい気持ちは山々だけど、前世でも高校卒業までしか生きていなかった私がいきなり宰相の仕事をどうにか出来るなんて全く思えない。

でも、会いたいものは会いたいのである。
どうするのが良いんだろうなあ……。
……あ、帰ってくるのが難しいなら私たちが行けば良くない?
あーでも、忙しいなら邪魔になるかなあ……。

「お父様、それなら僕たちがお父様の所へ行っても良いですか?ね、セイル兄様?」

先程からあまり話に入ってこないセイル兄様に視線を向け、セイル兄様もお父様を説得してくれるように目でお願いする。
すると、セイル兄様がゆっくりと頷き、お父様をまっすぐに見つめながら言葉を紡ぎだした。

「……宰相である父上の仕事を見ることは、跡取りであるリュート、そしてそれを補佐する僕の勉強になると思います。二人とも精霊と契約をしていますし、最近は剣術も習っていますので、城に行って帰るだけなら危険はそれほどないでしょう。……それに、僕も父上にお会いしたいです」

ぐはあっ!
すごい冷静に説得してると思ったら最後に爆弾ぶつけてきた!
セイル兄様!それは卑怯だと思います!
それをやられてノーと言える人は限りなく少ないと思われます!

「……そうだな。お前たちの身の安全も確保されているのであれば、良いだろう。ただし、護衛は付けてきなさい」

お父様は表情を変えなかったけど、説得はされてくれたようだ。
やったね!セイル兄様!
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