赤ちゃんからなんて聞いてない!

アリス

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こんにちは、赤ちゃん♪ここは異世界だよ~……じゃないわッ!?

なんか死んだ。

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思えばクソみたいな人生だった…あ、一応言っておくけどのはここ5年くらいの話──小中高とまではごく普通のありふれた一般家庭だった。
父は高校教師母は声優。
私は長女で私の5歳下に弟、更に弟より2歳下に妹…弟はやんちゃ坊主で25歳の私と20歳の弟は未だに格ゲーで本気バトルするほど落ち着きがない…。
ーーん?“本気バトル”ってどういう事か…って?

…決まっている。

のだ。
なのに格ゲーが好きって言う…。
んで、ゲームで私に負けると始めムスッとなり、次第に無口になり、敗けが越すと顔真っ赤にしてコントローラー投げ出してのだ、私に。
因みにこれは友人にもやってるらしく、取っ組み合いの喧嘩になる。…まあ、それも近年は聞かないのだけど。
姉であるは特別か何か知らないが、未だ自宅凹してくる弟と掴み合いの取っ組み合いをする。…たまに。
妹の方はそんな事はなく大人しくて物静かなーー毒舌家だ。
穏やかそうな優しそうな笑顔からサラッと飛び出す毒舌は正直ノイローゼに追い込んだ他クラスのいじめっ子がいるくらいにはえげつない。
両親は共働きで毎日忙しくしていたが、愛情深い人達だった…本当、親不孝者だ、私は。
心配させまいと何も話せなかった…大学卒業して入った会社ーーそこは所謂ブラック会社だった。
残業代は出ないのは当たり前、1日8時間労働で残業(無能な上司が押し付けてくる)が当たり前。
週休二日?ある訳ない。
いや、一応会社は5日働いて二日は公休だが、週末にこれまた大量の資料を押し付けられるので…それを片していたら自然と1日が潰れる…だけの話。不思議。
…訴える?……。
……そんな事思いもしなかったわ。
日々の労働とセクハラ・パワハラ・モラハラに晒されて心身共に疲れきっていたからね…(遠い目)。
何かあると首にするぞ、とか減給するぞ、とか脅されたものだ。
そんなもんだから過労死したのは必然とも言える。
…………
……。
で、今暗いところから明るい所に出た訳だけれど……?


「オギャアオギャアオギャア~~ッ!!?(な、な、な…まさか──ッ!!?)」

ようこそ。真っ暗な中から明るい現世地獄へ。

~~~~ッ!!!

 「あらあら…ふふっ、見て。あなた…フランネージュが起きたみたいよ?」
 「ああ、まだ見えないが元気に育ってくれればそれだけで良い。この子は私とネリアの宝だからな」
 「ええ。あなた…私にこの子をくれてありがとうございます。私はとても幸せだわ」
 「こちらこそありがとう。ネリア私のような未熟者に嫁いできてくれて。」
 「何を言うの?あなた──ハルト私は求婚プロポーズを受けたの。他でもないあなただから──私は政略結婚でもあなたと居ることが私にとっては幸福なの。」
 「ネリア…そうか。私はちゃんと君を幸せに出来ているのだな?」
 「ええ。あなたのそう言う卑屈な所も私は“かわいい”と思うくらいには愛しているわ」
 「…ネリア」
 「…何かしら?」
…………。


 「?ぁぅ~…」
(なんか両親?みたい…キラキラした顔の美男美女が目の前でいちゃついている…。)

姿が見えないとか目が開かないとか……思いっきり見えてますけど!?
バッチリくっきり濃厚キスシーン見ちゃってるけど!?はわわ~っ!!?ど、どしよー…?……。ど、どうしようもない…けど。
 「ぁぅぁぅあっ!」
手足をバタバタ…ん、本当に小さい…。
赤ちゃんの手って……こんなに小さいんだねー…?
当然気にせず濃厚キスシーンは無常にも現在進行形で見せ付けられている……。
…ああ、早く終われ。
両親の仲が良いのは…良いんだけど。良くない。
 「きゃぅ~…ッ!」
コンコンコンッ
戸を叩く音の後、
 「旦那様、奥様…。会われますか?」
 「「!」」
ピタッ
二人の動きが面白いように固まった。
まるで時空魔法の〝停止ストップ〟を喰らった人間のように固まった。…すごい、ボンドか何かで固めたみたいになっているわ…!
 「お、あ、ああ…会おう。く会おうじゃないか!はは、ははは……はあ。」
 「…折角イチャイチャしていたのにぃ~!!」

……不満そうなコーネリアママンの慟哭が公爵家の無駄に広い渡り廊下に響くのだった…。



私の父親の名前はラインハルト・フォン・グラルシカ公爵、
母の名前はコーネリア・フォン・グラルシカ公爵夫人。
それが“今世の私”──フランネージュ・フォン・グラルシカ公爵家長女に与えられた“名”であり“身分”である。

朝萌える木漏れ日に目を細めた。
眩しい…。
この世界の成り立ち、国の数、国名、地名、大陸名等は“女神”が直々に教えてくれた。
転生するまでの処理待ち中に色々とオハナシしたのだ。(ん?カタカナなのはなんでか…って?ーーふふ、なんで…、でしょうねぇ)
…まあ、ざっくり言うとあの5年間は目の前の女神のが原因らしい。
本来裁く筈の神の端くれは私がいた街の隣街に人間として転生し、神の頃の記憶も能力ちからも何もかもを封じられ現世で様々な不幸に見舞われる筈──…
それを徹夜明けの深夜残業中うっかりパソコン画面の決済数字を改竄してしまい……本来罰を私が「受けてしまった」事が不幸の始まり…らしい。
いや、通りで世間に足を向けて寝られないような犯罪は犯したことのない品行方正な私があんなメに遭うだなんてーー世も末だ、と何度嘆いた事か。
…つまりはこの“転生”はそのお詫びもあるのだ。
記憶を保持したまま、各種チート盛り盛りで無事に公爵家令嬢勝ち組人生と相成った、と言う訳である。
いや~ほんと。
勘弁してほしいものだわ。
“あ、死ぬな…”と過った次の瞬間には完全没入型VRMMOのような“転生の間”のような白亜の空間に私は生前の姿でポツンと立っていた…のだから。
そんな過去の感傷とは裏腹に父を呼んだ燕尾服姿の男性は父の年齢に近い風貌…灰色の短髪、紫色の瞳の整った顔立ちの美丈夫は──今世の我が愛しのお父様パパンの筆頭執事のゼノスだ。
 「ゼノス…良いところだったのに……。」
 「旦那様、先方がお待ちです。──それとも?国王陛下を。」
 「~~~ッ、分かっている!行けばいいのだろ、行けば…ッ!」
かなーーりの溜めの後、諦めたような、渋々と納得させるような…納得いかない!とばかりの不平不満を隠そうともしない父…存外に子供っぽい駄々を捏ねる。……ママンはこんなダメな所を「かわいい」とうっとり目を細めている……いや、うん。…ご馳走さまです。惚れた弱みなのか、やることなす事「かわいい」と許容してしまう我が愛しのお母様ママンはやはりお父様に相応しい妻なのだろう。
ーーと言うか、しれっとパワーワードが聞こえた気がしたが。
…………。
……え゛?
国王陛下──我が家に来てるの…?
現在進行形でーー。

 「ばぅあぅう!!」
 (はっ?)

いくら我が家が公爵家だから…って。

国王陛下……この国の最高権力者が単身で凸しているのーー?
一人で?
供も着けずに──はっ?
飛び出してくる執事ゼノスお父様パパンの会話に私は脳内大混乱である。
見た目は赤ちゃん、中身は大人の私がちょっと意味が分からない事態に二人…いや、ママンも含め三人の大人以上にその小さな灰色脳ミソはショート寸前であった…。
──────
────
──

 「遊びに来ちゃった☆テヘッペロ☆」
 「……。」
 「……。」
ゼノスは待たせていたガセボの出入口近くで待機したまま気配を消して立っていた。
両親二人の冷たい視線と無言の圧力をなんとも思っていないのか、そんな巫座戯た軽いノリも両親には一切響かない…。
と言うか──この国の国王陛下って若々しいな。
無理もない。先代国王は人間だが、先代王妃はエルフの姫なのだから。
つまり、今代国王陛下は人間(父)とエルフ(母)の間に産まれた混血児ハーフとなる。

見た目金髪碧眼の17歳児にしか見えない若々しい王子様然とした容姿でありながら身長は180㎝と前世日本だと高身長、今世だと平均身長の痩身麗躯。
顔立ちは爽やかイケメンの代表格とされるジ○ニ系の王道アイドルのような王子様顔。艶を孕んだテノールボイスは聴く者の腰を砕けさせる…と、我が家のメイド達が騒いでいた。
いや、美形だな!うむ、実にいい。もっと聴かせてくれ。
例えばーー
『もっとヨガらせてやろうか?』とか、
『はっ、良い恰好だな?俺の靴は旨いか?』とか、
『返事は「はい」か「Yes」だ。…良い子だ』とかとか。軍服に軍帽で革靴!んで止めは乗馬鞭で豪華な玉座に足組んで見下しして貰いたい…っ!!
冷たい視線のレーザービームで私の心臓を撃ち抜いて欲しい…!!是非とも!!
…因みに私は前世も今世もミーハーだ。
まあ、前世は乙女ゲームの中の美麗な攻略対象者(男)×攻略対象者(男)モノのBL本ヘビーユーザーだったからな。因みに生モノ(三次元)でも気軽に行けない次元の尊いモノ(二次元)でもどちらでも可である。萌えは萌えだし、尊いものは尊い。
美形は愛で崇めるものでノータッチ、No,ストーカー。付き纏いは迷惑だろうし、そもそも妄想だけ満足していた琴音ことねにとって自宅まで突き止めて追っかけるストーカー女子、犯罪者予備軍の彼女達の心理は理解し難い。

─…妄想だげで良くないか?

しばしば過激なファンが警察にお世話になるニュースを眺めながら、琴音は彼女達に呆れていた。

美しいものは尊い。
格好いい人は独り占めしたい。
その感情は分からないでもないがーー些か度が過ぎる。
出待ちだけならまあ分からないでもない、だが──自宅を突き止めて押し掛けるのはどうかと思う。
……今と何の関係があるのか、って?
……。
……ないよ。
つい“遠視”の魔法でそのご尊顔をガン見している事に心の中では狂喜乱舞していて…正直正常ではいられない。
はあはあ。素晴らしい…!!♡
我が愛しのお父様パパン国王陛下尊い俺の嫁が仲睦まじく見詰め合っているのは──なんと言うか、その…っ!
動悸息切れ眩暈吐き気を催す…いや、ダメだ…悪寒までしてきた…?!
録画録画記録記録接写接写ーーっ!!
無言で便利スキルでこの夢のカプを撮影するんだ…!
…実際無限収納インベントリには大量に公爵ラインハルト×国王陛下ジークハルトのツーショット写真やら記録映像やらが大量に保管されている…。
産まれながらにして父と国家権力者をカップリングにする業の深い腐女子ーー。

 「あぅあぅ,あうう~~♡」
(はあはあ。美味し過ぎる…!!♡なんぞ、これ。この無言の間…たまんねぇ、たまんねぇよ!?♡)
 「あら、ご機嫌ですね?お嬢様…ふふ、お可愛らしい。」
乳母のマリアの優し気な笑顔が自分へと向けられている…だが、そんな事は関係ない!とばかりに虚空を見詰めニヤニヤと締まりのない本性を知っていれば若干気持ち悪い笑顔を浮かべる赤ちゃんを誰も咎める事なく好意的に見守っている…。
焦げ茶色の髪をひっつめた20歳半ばくらいの栗色の綺麗な瞳の穏和な面立ちの出来る秘書さん。そんな雰囲気のする三児のママ。
フランネージュとの関係は…まあ、乳母である。因みに独身時代は普通の見習いメイド→パーラーメイド→オールスチュワーデス→侍女見習い→専属侍女・乳母と…ごく普通に立身出世した。…いや、僅か5年でここまで出世したのはマリアが殊更優秀なだけだろう。
この上影としての仕事もこなす敏腕侍女。情報収集のエキスパート。不意打ちや奇襲戦闘が主で一撃必殺の暗殺スタイル。
元々冒険者だったマリアが我が家のメイドになったのは…孤児院で偶然訪れていたお母様と知り合い誘われたのが切っ掛け。
その時特に依頼を受けていなかったマリアは快諾してその日の三日後には領主館に向かう公爵家の馬車の中揺られていた…と。
寝物語でマリアが私に話していた。
当初は早々に飽きたら辞めようと思っていたマリアがこうして結婚して子供まで居るところを見るとーーまあ、居心地が良かったのだろう。マリアにとっては。
それに冒険者も辞めた訳ではなく、週休3日の内1日を冒険に当て、残り2日を家族と過ごしたり買い物したりして過ごす。
 
「…zzz…」

いつの間にか眠っていた…まあ、私、赤ちゃんなので。すぐに寝ちゃうんだ。
……。

撮影も録画もそこで止まった…この魔法はフランネージュが起きている時しか作動しないのだ。
…不器用な遺伝子は前世とそう変わらない。
一見そつなくこなしているようでいて、何処か抜けている…そんな不器用で器用な所。
勤めていたブラック企業の作業中も白のブラウスに黒のブラジャーで行って透けていたのを上司(ハゲ頭エロジジイ)に視姦されていた…眠気で脳が可笑しくなっていたのだろう。恐らく。


ぱちっ☆
 「──ばぅあぅう…?!」
(──はっ?!な、ななな…っ!?///)

 「…ほら、目にゴミ入ってる…」
 「…おっ、おぅ…ありがとうハルト」
 「もう…ジーク邪魔しないでよ」
 「ごめんごめん…最近なんか視線感じるから♪」
 「…視線?」
 「そうだよ。なんか見慣れない魔力だな~?と思ってね。」
 「──そう」
 「敵意も悪意はないがーーなんか濃い異質な感じ…まあ、害はないと思うけど……伯母上に通じる視線なんだよね」

 「…ぁぅぅ~~!」
 (!!!き、気付かれた…だと!?) 
 「あらあら…起きられましたか?お嬢様…ふふ、不機嫌……何か悪い夢でも見られましたか。」

 「…まあ、息抜きに寄っただけだからもうそろそろ戻るよ」
 「…用事がないのに来るな」
 「ふふ、そう言っていつも気に掛けてくれるからハルトが好きだよ」
 「はいはい」
 「ちょっと!私の旦那口説かないでくれる!?この両刀陛下…!」
 「美しいものは男でも女でも愛でる性質タチなんだよね、僕は。」
王妃一人、側妃二人、公娼一人、寵姫(男女含む)十五人…いやはやお盛ん陛下である。
因みに奥さんはこの王妃陛下と側妃様方までで、公娼は他の貴族夫人から選出される。給料もある。人によっては一月か二月で契約が満了する。
…この際に子供が出来たとしても王家の子ではなく、婚家の子供とされる。国王陛下専属の高級娼婦ーーそんな存在。王から直接打診が行ったり、側近から王(主)に直接推薦されたりする。
王妃や側妃は政略結婚が主で議会や大臣の了解や承諾を得て決まる。
勿論最終決定権は国王陛下にある…が、互いの家と家の意思も一応は考慮される。
寵姫には子供は出来たとしても「庶子」となって王位継承権はない…まあ、愛人だな。公的な…、ね。
国王陛下は…まあ、絶倫なので。
19日サイクルで毎日毎夜順番に閨を共にしている…のを、後に知ることになる。

 「…俺にその趣味はない」
 「またまた~」
 「……。」
 「……いや、黙るなよ!?マジっぽく見られるだろ。」
 「!?私の旦那にそれ以上厭らしい目を向けないでよ…!!」

 「──っ!?ぁぅぅ~~♪♡きゃっきゃっ♪」
(──っ!?うへっ…♡うへっへっへっへっ…♪♪♡)
密着具合が神…♪♪
“戻るよ”とか言いつつも未だ離れ難いのか…幼馴染みであり、親友であり、忠臣であるパパンと接近したまま側を離れようとしない。

──無論撮影は再開。接写録画記録を続行♪

萌えに萌え滾る理想郷ユートピア…素晴らしい☆
ああ……素晴らしい!!
もうこれだけでご飯三杯は行けるね!♪
 「きゃっきゃっきゃぅうう~~っ♡(σ≧▽≦)σ♪」
(はぁ、堪らん…っ!いい。実に良いぞ!もっとやれ。私が許す(?)!!)
 「あらあら。…ご機嫌ですわね、お嬢様。…ふふ、お可愛らしい」
乳母がご機嫌な主家のお嬢様をあやしながら穏和な笑み向ける。

ゾクゥッ!!

 「!?な、なんだ…?」
 「…ね、こんな感じの視線?悪意じゃないけど…なんか嫌な感じがするんだ。」
国王陛下と公爵の男二人同時に感じた悪寒とも熱気とも取れる熱い熱い視線…そんな感じの魔力。
ーーだけど「それ」に何処かラインハルトは見知ったような…なんか身近でいつも慣れ親しんだ者の魔力──あ。
(…これ、フランの放つ魔力だ……。なぜ?)
 「……。」
 「いやどうした?急に黙って。」
お父様パパンは気付いた…!
誤魔化すように頭を振って
 「なんでもない、ジーク」
 「……?」

 「きゃぅうう~~っ!?!?♡」
(ぬきょう~~っ!?!?♡キャア!キャアッ!!///(萌死))
接近して見えるように角度と掌で隠され重なった…。
カシャカシャカシャカシャカシャカシャ!!
無音無言無詠唱で撮影と録画をする…。

 「……やっぱり、か。……はぁ、悪いな…ジーク。」
 「?」
よく分からない…、と首を傾げるジークハルトに眉間に皺を寄せ苦虫を何匹も噛み砕いたような表情かおではあ、と溜め息を吐いた。

 「我が家の問題だ。…まあ、たぶん?悪気はない…と、思う。」
 「…どうした、お前らしくもないね。歯切れの悪い……ッ!?」

…国王陛下も何か気付いた…っぽい。
と言うか…フランネージュの魔力は母体内にいた時でさえも何度も感じ取った事があるもの…。
それがする人物はこの家にはただ一人。

 「…きゃう!?……zzz…。」
(!?バレた…、だと!?……寝て誤魔化そ。すやぁ~)
※ちょうどタイミング良く眠気に襲われたので寝ただけである。赤ちゃんの体力は紙装甲。いつ何時寝ても可笑しくない…寧ろ寝るのが赤ちゃんの仕事である。

 「……まあ、いいか。今度で」
 「……先ずは俺から話す。父親パパから話した方が角が立たんだろうしな。」
 「…ッ!?ハルトまでジークの悪乗りに乗らないで──ん?…─何の話?」
コーネリアは盛大にクエスチョンマークを浮かべてキョトンとしていた。
…と言うか、フランネージュが眠った事で“接写”も“録画”も止まっても魔力の気配もしなくなったのだから。
これはだと言ったも同然だ。
10分後、王宮からが飛んできて『至急戻るように』と宛名無し差出人無記名で国王陛下にはとても馴染み深い…まあ、王妃陛下からのお手紙勅命だ。卓逸であり駿逸。非常に綺麗な文字で書かれた『戻れ』の意思に転移で即座に戻った国王陛下ジークハルトの背中は煤けていた…ような。
───…




ポンッ☆
 「お、やったやった♪成功した!!」
ピョンピョンと跳ねる5歳児──さらさらの白銀の髪は父譲り、大きくクリッと開いた鮮血色ピジョン・ド・ブラッドの瞳は母譲り。
顔の輪郭は丸っこくも面長だと分かる…(ここは父親似)で、非常にかわいらしい顔立ち・容姿は全体的に母のコーネリアに似た雰囲気だ。
赤子の5年後の姿がこうなるのか~と姿見の前でしげしげと観察する。
きめ細かくすべらかな肌は白磁の陶器のように美しい。
顔、胴、足、手…全てが美しく神が作り上げた芸術品のような美麗な人形。
そう言われても納得する。
 「…っと。流石に全裸のま彷徨く訳にはいかんな……確か…無限収納インベントリの中に十月十日待ち時間の間に手慰みに作った魔道具やら衣類があったような──…おっ。あった♪」
I-PATの薄い板のようなモノはフランネージュにしか見えていない。
これは宙に浮いていて、非常に分かりやすいのだ…まあ、フランネージュ限定、だが。
メニューから幾つかかのフォルダがある。
そこから[アイテム]をタップして[衣服]の項目で検索…。
5歳児服ーーワンピース、シャツ、スカート、タンクトップ、ブラウス、ツートップスカート、ショートパンツ、ショートブーツ、ロングブーツ、スニーカー、サンダル、メイド服、セーラー服、巫女服、もこもこ猫の着ぐるみ、もこもこ兎の着ぐるみ、スクール水着、体操服+ブルマ、サンタ服…等々。
ーーうむ、作りすぎたかな?
…まあ、でも暇だったし。
十月十日って長いのよね~。
暇だし外は真っ暗だし……“遠視トレース”しかする事なかったから。暇なのよ。
人の形になるまで待たなきゃ…だし、なんもかんもは魔法でどうにもならない。
無論“スキル”でも。
あるのは“私”と言う「意識」と各種スキルとーー身体が出来上がるまでのあの“転生の間”のような空間に自由意思で精神移動できるだけ。
そこでは私の姿は前世の生前の25歳の時の姿に戻る。
私はそこで色々な各種スキルや、魔法を試した。
その中に裁縫や料理、鍛治やら錬金術、調合に魔道具開発にと色々出来そうな事は試しに試した。…暇だったのが一番の理由だけれども。
赤ちゃんとして身体を得た今、お母様ママンのお腹から外に出れた頃にはやっと自由に動ける~!と歓喜の雄叫びを上げたつもりが実際はギャン泣きだった…と言うのも赤ちゃんだから仕方ない。

“遠視”で視た王都の街並み、領地の街並み、街道…冒険者が街の外で魔物を狩っている勇ましい姿や街道を往く商隊の馬車行列、旅人や人々の笑顔、弾む声の調子に駆ける子供達の笑い声…どれも新鮮で物珍しい。
それはそうだろう、この世界グレンラガンは異世界ラノベに憧れる夢の全てが詰まったような世界なのだから。
魔法があって魔物が居て冒険者が居る──そんな夢のような綺麗だけど残酷な世界。
人間以外にも多種多様な種族が居て…エルフやドワーフ、獣人と解る存在モノから竜人や魔人、精霊や妖精、土地神や神獣、聖獣も含めると実に多種多様だ。
この世界──と言うか惑星
──は、球体であり地球と同じく公転している。
太陽と何故か月は二つ。“蒼い月”と“赤い月”だ。
蒼い月が太陽と重なる「皆既日食」の時は天の門が開く=年始から三が日までの時期。
赤い月が太陽を覆い隠す「皆既月食」の日は反対に地獄の門が開く=お盆の時期。

この二つは「確定重ね月」とされ、毎年決まって起きる自然現象。

余談としては「皆既日食」では神獣や聖獣の魔力が増し、妖精や精霊もまたこの時期ばかりは実体化して新年を祝い、
「皆既月食」では魔人や魔物の魔力が増す…その為魔物狩り専門の冒険者には大変に喜ばれる時期でもある。
前世日本では「お盆」と言えば墓参りのイメージが強いがーーこの世界でもその認識は間違ってはいない。
地獄の門から開かれた先から現れるのはかつて亡くした大切な故人…彼等との再開(語らい)。

前世で言う「天国」は楽園とか、現世で善行ばかりをして亡くなった者が極楽浄土で楽しく暮らす場所──だが。
この世界で「天国」とは文字通りーー天(神又はそれに類するモノ)には神か精霊か神獣、聖獣しか来れない。
反対に「地獄」とは亡者を裁く場所──いや、間違いではないが…そればかりでもない。
ここには地上(光の下)では住めない魔族や、地上で迫害を受けた者達が避難してきた“異界ゲヘナ”とも言える別世界だ。
人工の太陽(紫外線0)と種族毎に区分けされた彼等の楽園…そこには自らを“魔族”と呼び、ただ一人の王が統べる──〝魔王〟が彼等の拠り所。
……。

 何 故 こ ん な 話 を し た の か と 言 う と ……

そのを上手いこと地上進出を手伝え、と女神に頼まれたからだ。
それと魔王の花嫁──〝聖女〟の地獄までの護衛。
…まあ、聖女はフランネージュ同様に赤ちゃんなので──…まだ聖女が成人するまで16年の猶予があるのだけれど。

魔王は地獄を離れられないので、迎えには来れないのだ。

地獄を維持する為の結界張り、異界である“地獄”と地上を隔てる「門」の封鎖に異変がないかの見張りも魔王の役目の一つ。
……。

──魔王、仕事のし過ぎでは…?

……。

…いや、実際会ったことも話したこともない相手なので魔王の実態なんか知らんけど。

 「メイド服ーーは辞めて普通に黒ロリータにしたわっ!うん、かわいい♡」
姿見の前で自画自賛。半袖で編み上げの胸元、リボン、頭には黒レースに両端に赤薔薇の花飾り。
カチューシャになっているので喉元が苦しくなることはない。
ニーズソックスにガーターベルトで留め、ヒール無しの黒ローファー。
両手には同色の黒レースグローブ。
生地は薄いから白磁の肌が良く目立つ。
…白銀の髪にも似合うな、黒レースの赤薔薇の花飾りが着いたヘッドドレスカチューシャ。
……。
……。
……うむ、よきよき。
乳母のマリアは今の時間、長兄21歳の専属侍女として領地視察に随行している。
 「さあ、時間は有限、善は急げ…よ!…ここを転移の初期位置にして……うん。ここに強制転移…時間加速アクセラレーターも解除……、うん。──じゃ、転移!」
転移先──それは街の外。
先ずは自然豊かな街の外を歩きたい。
最近パソコン仕事ばかりでこう言う自然豊かな所は久しぶりだ。
 「~~♪」
照り付ける太陽、蒼い空、シャバの空気(?)…行き交う人々の好奇な視線にも特に気に留めていない絶賛5歳児はルンルン気分で街道をどんどんと逸れ、森へと向かう。
前世“琴音”はブラック会社勤めでなければ趣味に生きる活発なタイプの人間だった。
好奇心旺盛で将来は地元の田舎街で自然に囲まれた余生を過ごしたい…と。若い内は都会でバリバリ働いて休日や時々長期休暇を取って国内外の自然豊かな観光スポット巡りをしたいとそのように思っていた。
勿論腐女子でもあったのでその活動ヲタ活もしたかったけれど(読み専)。
休日は寝る時間か家事や上司の無茶振り(資料纏め)の時間であって、安らげる時間なんかなかった。物理的に。
その点今はどうよ?
“赤ちゃん”からだけど…魔法でこうして動ける身体に変身できる、何処に行っても自由!ビバ☆転生♪だ。
 「…今なら遣りたかったレジャー遊びをし放題だわ!

(※赤ちゃんが家出するとは普通誰も思い付かないだけで、後に両親や使用人や兄弟姉妹に知られ叱られるまでこのテンションであった…いや、それはそれで開き直って堂々と家出するようになるのだが……。)

自由って素晴らしい…!!」

鬱屈とした前世からの解放…

ブラック企業に馬車馬の如く使い潰された過去からの脱却…

自由がないと嘆き苦しんだ5年もの無能上司・無能会社からの抑圧…

──全てが今、どうでも良くなる…この世界は美しい!

中世ヨーロッパ風の街並み、異国情緒溢れる服装に、行き交う人々の姿はゲームの中では馴染み深いものの、決して三次元には居なかったエルフやドワーフや獣人と言った種族…どれもリアルでは見たことがない(地球に居たら問題だけれど)…。

電線もなければ電車もないけれどーーそれでも。

…それでも目に写る全てが色鮮やかに煌めいて見える。
キラキラと輝いて眩しいくらいに生命力に溢れているのだ…まあ、その分魔物とか盗賊とか居て意図も容易く命が失われる世界だけど。

 「先ずは釣りね!それからキャンプだわ、キャンプ♪」

誰にもともなく宣言してサクサクと森の中に分け行っていく…。


 


 



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