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第一章[婚約破棄と声高に叫ぶ愚者]
アイネリーディンと言う転生令嬢が言うことには・2
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「……。」
「……。」
「す、すまん…ッ?!///」
「お兄様……はぁ、なんで妹にドキッとしているのかしら?シスコンですの。…愚問でしたわね」
「…煩いわッ!!」
「フッ」
「~~~ッ!?!?」
お兄様…、アースシェイドは前世34歳の会社員…それも貿易会社の専属システムエンジニアだった。2歳下の後輩社員と職場恋愛の末に結婚したのが飛行機事故で亡くなるまでの5年も前の話…、なんだとか。
…そして、『恋する未完成レシピ☆』の悪役令嬢『アイネリーディン』が前世のお兄様──山田拓郎は“推し”だ、と。
頬を真っ赤に染め思春期男子の如く狼狽える兄をじと目で睨め付け一応…と、分かりきっているが、当然の牽制──釘を刺しておく。
「…お兄様、こちらの世界でも三親等内の婚姻は禁止されてしましてよ?遺伝子の近い者同士の交尾は…、禁止されてはないけれど、推奨もされていないわ。──それと私にその気は御座いませんから。」
「…ッ!?俺にだってないわ!!それに俺は、俺は…ベスのことを誰より愛している…ッ!!」
“ベス”──エリザベス・ホワイトリリー女伯爵。21歳のアースシェイドの同年の幼馴染みにして唯一の最愛。ホワイトリリー女伯爵の容姿は白銀の髪と臙脂色の瞳は猫のように吊り上がり“薬師令嬢”の名を欲しいままにしている、宮廷薬師として城に薬を日夜調剤している傍ら女伯爵として領地を託された5年前から両立しているアイネリーディンとはまたタイプの違う才媛だ。
「…でしょうね。なら、離してくれない?お兄様」
「!?…す、すまん。」
パッとやっと手を離した兄に嘆息してアイネリーディンは続きを話す。
「『恋する未完成レシピ☆』は乙女ゲームだし、冒険やクラフト要素はあったけど世界が崩壊するとか戦争になるだとかはなかったわ。…けれど」
「…けれど?」
一瞬の間の後、アイネリーディンは──
「…けれど男爵令嬢の如何によっては王都に彗星が落ちたり大規模な魔物行進が王国目指したりするくらいですわね」
「………!?ぁ、ぁあ~~…?そうなのか…?すまん。何分推しにしか興味がなくて…、な?」
ドヤァ~ッ☆
「…ドヤらないで下さいまし。シスコンお兄様」
ドヤる兄にげんなりした妹が消音結界の中前世の『恋する未完成レシピ☆』について語る。
…彼のゲームは乙女ゲームでありながらヒロインの起こした行動如何によって災厄とも災害とも呼べる現象が度々起こる曰く付きのゲームでもあった。
「クラフト」ガチ勢の柚姫然り、「アイネリーディン」ガチ勢の山田拓郎然り。
…無論柚姫の妹珠希のようにちゃんと“乙女ゲーム”として楽しんでいた乙女ユーザーも十分楽しめる名作である。…一部界隈では迷作とも呼ばれているが。
……いや、普通乙女ゲームの筈なのに彗星が落ちてくるとか、魔物行進とか。
一体全体何処のクトゥルフ神話ですか!やだ~~っ!?
「…中でも這い寄る混沌の禁術書事件はホラー要素強めの本格ホラーでしたわね。ああ、そう言えば━━それはナンシーが作った『ネクロノミコン』が直接の原因…、だったかしら。……ナンシー・バックレアがあれのレシピを覚えてないと良いわね?」
「!!!
…そうだった。それもあったな!…なあ、妹よ」
「何かしらシスコンお兄様」
「……俺、物凄く嫌な予感するのだが?」
……。
一瞬の間、顔を見合せ──
「ないないない!有り得ませんわ…ッ!?」
「そうだよな!そんな簡単に作れるモンじゃねぇよな…ッ!?」
「ええ、ええ、ええ!!そんな簡単に作れる代物ではありませんわ…!それにそんな貴重品作っていたなら何故市場に流れてませんの…ッ!?」
あのナンシー・バックレア男爵令嬢の性格からして自己顕示欲と承認欲求の塊。…それに『クラフト』で作り出された多くのアイテムは体力や魔力を回復するお役立ちポーションの他にテディベア、ギターやヴァイオリン、ピアノ等の楽器、理力の杖や召喚の杖、危険じゃない魔導書、幸運の鐘に虹の橋の渡航手形等々多岐に渡る自由度の高さは某有名アトリエシリーズに勝るとも劣らない充実っぷりだ。総アイテム数2万点…いや、一周クリアで全部回収出来る品数ではないだろう。(…本当、何処と張り合っているのやら)
「…!!そ、そうだよな…!?一冊作成した『ネクロノミコン』…その売却額なんと200万フォル!これは魔導書の中でも最高値だ。平民の一家四人家族が一月平穏無事に王都で暮らすのに必要な額が月30万フォルだから──約7倍、か。」
「ええ。『クラフト』には何故か料理レシピもあって…ハンバーグ1個が200フォルなのを見ると魔導書とか楽器とかの嗜好品の方が遥かに利益率は高かったですわね」
乙女ゲーム『恋する未完成レシピ☆』はなかなかに闇の深いゲームである。恋愛アドベンチャー&RPG+クラフト…色々と詰め込み過ぎである。しかも特定のキーアイテムは作成した段階でオリジナルストーリーと紐付け連動されて半ば強制的に面倒事に巻き込まれる…いや、プレイヤー(ナンシー)の所為と言われたらそれまで、だけれども。
柚姫は本当に『攻略対象』のイケメンには興味がなかった。…代わりに興味を示したのが『クラフト』。冒険者ギルドでモブパーティーを雇っての『冒険』。
新たなキーアイテムを見つける為のアイテムの作成、それから情報収集。冒険者ギルドの他にも商人ギルドにも立ち寄って情報や伝を作ったり…とまあ、普通に恋愛そっち退けでギルドの人達や街の人々と交流ばかりしていた。…結果いつも結末は誰のルートにも行かずノーマルエンド。
それを聞かされた珠希は呆れた眼差しと溜め息、それから
『…それじゃいつまで経っても新たなレシピが開封されないけど──良いの?』
と、暴露しない限りずっと同じループをしていた柚姫だ。渋々二周目以降解禁される全会話スキップをオンにして彼等を渋々嫌々ながら攻略したのも遥か彼方…。
「…『ネクロノミコン』のような禁術書は一冊が限界。確か〝世界に一冊だけ〟の魔導書…そんな触れ込みだったから一冊先に作っておけば二冊目は誕生しない…と思うわ。たぶんですけれど」
「その禁術書を平然と売るナンシー…いやはや恐ろしい女だな、ナンシー・バックレア男爵令嬢と言うのは!」
「…それを容認していたのは間違いなく私達“プレイヤー”なのだけど?」
「…ああ、だってゲームだしな!俺はアイネリーディン目当てに何度も第三王子の近くをうろちょろしてからクラフトするのが日課だったからな♪」
ガハハッ!
キラリ白い歯を見せつけニカッと豪快に過去を笑い飛ばすアースシェイド。
「…はぁ、私このお兄様の妹、なんですのよね?妹辞めたい…」
「それで、アイネ」
「……なんですの?お兄様」
「ネクロノミコン作ったか?」
「……。」
「……。」
「…アイテムボックスの中に永久封印ですわ」
「作ったんだな…」
「……誰よりも先に作ってしまえば禁術書も禁術書足り得ない。ならば私が所有しますわ」
“市場”に流したらダメな地雷が多い〝隠しバッドエンド〟が多く点在していた乙女ゲーム…それが『恋する未完成レシピ☆』だった。
…いや、本当。彗星だって何の対処もしなければ〝王国は滅びた〟の一文で真っ黒画面で『GameOver』の表記→タイトル画面とよくなっていたものだ。
…仕様が分からないとこの表記になりがちだった。
まぁ、普通に攻略対象を攻略していれば〝こうはならんだろう…!〟ネタ要素満載の小ネタも小ネタだ。
恋する未完成レシピは乙女ゲーム的要素以外も十二分に楽しめる名作である。
その点はアイネリーディンもアースシェイドも認めている。
「…すると他の地雷も…?」
「ええ。全て所有しておりますわ。私クラフターでしたから」
「ナンシー・バックレアの体で?」
「ええ。…勿論“今は”アイネリーディンとして可能な限り早期に対処致しました…たぶん恐らくきっと彗星も這い寄る混沌も魔物行進も起きない。──そうあってほしいものですわね」
フッ…と遠くを見詰めるアイネリーディン…。
彼女の脳内には今前世で彗星が降って王都を破壊された過去や魔物行進に蹂躙された王国、這い寄る混沌の侵攻に為す術なく地に伏した苦い過去のバッドエンドの数々が過ぎては通り過ぎている…のだろう。
恋する未完成レシピ☆は攻略対象以外の人物も個性豊かでなるほど独自AIを積んでいるだけはある最新のVRゴーグルを使ったゲームらしいリアル準拠ソフトだった。
街の一人一人がそこにちゃんと生きており時間帯によっては受け答えが変わりまた天気によっても違いがあって面白く…恋愛シミュレーションゲームなのに攻略対象以外との普通の「交流」ばかりをしていた柚姫のような多くのユーザーを虜にしたものだ。
「…確定バッドエンドの多くがクラフトアイテムの中にある、とか初見で解る訳ないんだよな~!あの鬼畜ゲームは」
「ええ。本当に」
『恋する未完成レシピ☆』の攻略本はソフト発売日の2ヶ月後。当然その間に独走していた最前線はその爆弾──確定死亡フラグ──を処理しきれず幾度も死んで活路を見出だした…いや、攻略スレは一時期阿鼻叫喚の喧々轟々。ソロプレイオンリーの“乙女ゲーム”の筈なのだが──いや、恐ろしいゲームである。
「そうそうお兄様、クラフトには建物──この場合は禁術書なんかを保管・管理する〝博物館〟なんかも作れたりするのを御存知?」
「…!?ま、マジか…ッ!あのゲームそんな物までクラフト出来るのか…ッ?!」
「ええ。出来ますのよ、ふふふ♪」
驚愕の事実に目を見開き驚く兄を楽しそうに見遣って得意気にふんぞり返る妹…今だけは前世の「柚姫」が顔を出す。
「私、あのバカとそのまま婚姻する事になったら王家直轄領の一角に「博物館」を建てる予定でしたの。
…ですが、結果はあれ。これからどうしましょうかしら?」
「…ッ!?王領になんてモンを……ッ!い、いや…危険なアイテムはずっとアイテムボックスに封印していれば良いだろう…!?」
「……。それが、お兄様…」
苦虫を何十匹と噛み砕いたような渋~い顔で溜め息を吐くアイネリーディン。
「……いやだ、その先は聞きたくない…ッ!!」
「…ネクロノミコンが」
「や、やめろ…ッ?!」
青ざめ耳を塞ぐ兄…だが、もう遅い。
「…ネクロノミコンが人語を発して主張してきましたわ。
“早く吾を飾る博物館を用意しろ。さもなくば這い寄る混沌をここに喚ぶぞ?”━━と。
それは今も念話で語り掛けて来ますの。ええ、もう痛いほどに」
「うわぁああ~~ッ!?やっぱりロクでもなかったーーッ!!(泣)」
嫌だ嫌だ聞きたくない聞きたくないと耳を塞いでも意味はない。
ハキハキと良く通る魅惑の悪役令嬢の涼やかな声でそこまで聞かされたのだ。…事情を知る者としては否が応にも聞くしかない。
なんせ、ゲームの世界がそのまま現実になった今世だ。扱いが難しい地雷アイテムの管理は前世を知るアイネリーディンの他にアースシェイド、破滅が確定したナンシー・バックレア男爵令嬢の三人のみ。
それ以外は現地人。…今後転移者が現れるかもしれないし、自分達のように前世の記憶を持った転生者が生まれるかもしれない…希望的観測に過ぎない未来の協力者なんてアテにならない。…何をどうしたって今の現状戦力でどうにかするしかないのだから。
「……。」
「す、すまん…ッ?!///」
「お兄様……はぁ、なんで妹にドキッとしているのかしら?シスコンですの。…愚問でしたわね」
「…煩いわッ!!」
「フッ」
「~~~ッ!?!?」
お兄様…、アースシェイドは前世34歳の会社員…それも貿易会社の専属システムエンジニアだった。2歳下の後輩社員と職場恋愛の末に結婚したのが飛行機事故で亡くなるまでの5年も前の話…、なんだとか。
…そして、『恋する未完成レシピ☆』の悪役令嬢『アイネリーディン』が前世のお兄様──山田拓郎は“推し”だ、と。
頬を真っ赤に染め思春期男子の如く狼狽える兄をじと目で睨め付け一応…と、分かりきっているが、当然の牽制──釘を刺しておく。
「…お兄様、こちらの世界でも三親等内の婚姻は禁止されてしましてよ?遺伝子の近い者同士の交尾は…、禁止されてはないけれど、推奨もされていないわ。──それと私にその気は御座いませんから。」
「…ッ!?俺にだってないわ!!それに俺は、俺は…ベスのことを誰より愛している…ッ!!」
“ベス”──エリザベス・ホワイトリリー女伯爵。21歳のアースシェイドの同年の幼馴染みにして唯一の最愛。ホワイトリリー女伯爵の容姿は白銀の髪と臙脂色の瞳は猫のように吊り上がり“薬師令嬢”の名を欲しいままにしている、宮廷薬師として城に薬を日夜調剤している傍ら女伯爵として領地を託された5年前から両立しているアイネリーディンとはまたタイプの違う才媛だ。
「…でしょうね。なら、離してくれない?お兄様」
「!?…す、すまん。」
パッとやっと手を離した兄に嘆息してアイネリーディンは続きを話す。
「『恋する未完成レシピ☆』は乙女ゲームだし、冒険やクラフト要素はあったけど世界が崩壊するとか戦争になるだとかはなかったわ。…けれど」
「…けれど?」
一瞬の間の後、アイネリーディンは──
「…けれど男爵令嬢の如何によっては王都に彗星が落ちたり大規模な魔物行進が王国目指したりするくらいですわね」
「………!?ぁ、ぁあ~~…?そうなのか…?すまん。何分推しにしか興味がなくて…、な?」
ドヤァ~ッ☆
「…ドヤらないで下さいまし。シスコンお兄様」
ドヤる兄にげんなりした妹が消音結界の中前世の『恋する未完成レシピ☆』について語る。
…彼のゲームは乙女ゲームでありながらヒロインの起こした行動如何によって災厄とも災害とも呼べる現象が度々起こる曰く付きのゲームでもあった。
「クラフト」ガチ勢の柚姫然り、「アイネリーディン」ガチ勢の山田拓郎然り。
…無論柚姫の妹珠希のようにちゃんと“乙女ゲーム”として楽しんでいた乙女ユーザーも十分楽しめる名作である。…一部界隈では迷作とも呼ばれているが。
……いや、普通乙女ゲームの筈なのに彗星が落ちてくるとか、魔物行進とか。
一体全体何処のクトゥルフ神話ですか!やだ~~っ!?
「…中でも這い寄る混沌の禁術書事件はホラー要素強めの本格ホラーでしたわね。ああ、そう言えば━━それはナンシーが作った『ネクロノミコン』が直接の原因…、だったかしら。……ナンシー・バックレアがあれのレシピを覚えてないと良いわね?」
「!!!
…そうだった。それもあったな!…なあ、妹よ」
「何かしらシスコンお兄様」
「……俺、物凄く嫌な予感するのだが?」
……。
一瞬の間、顔を見合せ──
「ないないない!有り得ませんわ…ッ!?」
「そうだよな!そんな簡単に作れるモンじゃねぇよな…ッ!?」
「ええ、ええ、ええ!!そんな簡単に作れる代物ではありませんわ…!それにそんな貴重品作っていたなら何故市場に流れてませんの…ッ!?」
あのナンシー・バックレア男爵令嬢の性格からして自己顕示欲と承認欲求の塊。…それに『クラフト』で作り出された多くのアイテムは体力や魔力を回復するお役立ちポーションの他にテディベア、ギターやヴァイオリン、ピアノ等の楽器、理力の杖や召喚の杖、危険じゃない魔導書、幸運の鐘に虹の橋の渡航手形等々多岐に渡る自由度の高さは某有名アトリエシリーズに勝るとも劣らない充実っぷりだ。総アイテム数2万点…いや、一周クリアで全部回収出来る品数ではないだろう。(…本当、何処と張り合っているのやら)
「…!!そ、そうだよな…!?一冊作成した『ネクロノミコン』…その売却額なんと200万フォル!これは魔導書の中でも最高値だ。平民の一家四人家族が一月平穏無事に王都で暮らすのに必要な額が月30万フォルだから──約7倍、か。」
「ええ。『クラフト』には何故か料理レシピもあって…ハンバーグ1個が200フォルなのを見ると魔導書とか楽器とかの嗜好品の方が遥かに利益率は高かったですわね」
乙女ゲーム『恋する未完成レシピ☆』はなかなかに闇の深いゲームである。恋愛アドベンチャー&RPG+クラフト…色々と詰め込み過ぎである。しかも特定のキーアイテムは作成した段階でオリジナルストーリーと紐付け連動されて半ば強制的に面倒事に巻き込まれる…いや、プレイヤー(ナンシー)の所為と言われたらそれまで、だけれども。
柚姫は本当に『攻略対象』のイケメンには興味がなかった。…代わりに興味を示したのが『クラフト』。冒険者ギルドでモブパーティーを雇っての『冒険』。
新たなキーアイテムを見つける為のアイテムの作成、それから情報収集。冒険者ギルドの他にも商人ギルドにも立ち寄って情報や伝を作ったり…とまあ、普通に恋愛そっち退けでギルドの人達や街の人々と交流ばかりしていた。…結果いつも結末は誰のルートにも行かずノーマルエンド。
それを聞かされた珠希は呆れた眼差しと溜め息、それから
『…それじゃいつまで経っても新たなレシピが開封されないけど──良いの?』
と、暴露しない限りずっと同じループをしていた柚姫だ。渋々二周目以降解禁される全会話スキップをオンにして彼等を渋々嫌々ながら攻略したのも遥か彼方…。
「…『ネクロノミコン』のような禁術書は一冊が限界。確か〝世界に一冊だけ〟の魔導書…そんな触れ込みだったから一冊先に作っておけば二冊目は誕生しない…と思うわ。たぶんですけれど」
「その禁術書を平然と売るナンシー…いやはや恐ろしい女だな、ナンシー・バックレア男爵令嬢と言うのは!」
「…それを容認していたのは間違いなく私達“プレイヤー”なのだけど?」
「…ああ、だってゲームだしな!俺はアイネリーディン目当てに何度も第三王子の近くをうろちょろしてからクラフトするのが日課だったからな♪」
ガハハッ!
キラリ白い歯を見せつけニカッと豪快に過去を笑い飛ばすアースシェイド。
「…はぁ、私このお兄様の妹、なんですのよね?妹辞めたい…」
「それで、アイネ」
「……なんですの?お兄様」
「ネクロノミコン作ったか?」
「……。」
「……。」
「…アイテムボックスの中に永久封印ですわ」
「作ったんだな…」
「……誰よりも先に作ってしまえば禁術書も禁術書足り得ない。ならば私が所有しますわ」
“市場”に流したらダメな地雷が多い〝隠しバッドエンド〟が多く点在していた乙女ゲーム…それが『恋する未完成レシピ☆』だった。
…いや、本当。彗星だって何の対処もしなければ〝王国は滅びた〟の一文で真っ黒画面で『GameOver』の表記→タイトル画面とよくなっていたものだ。
…仕様が分からないとこの表記になりがちだった。
まぁ、普通に攻略対象を攻略していれば〝こうはならんだろう…!〟ネタ要素満載の小ネタも小ネタだ。
恋する未完成レシピは乙女ゲーム的要素以外も十二分に楽しめる名作である。
その点はアイネリーディンもアースシェイドも認めている。
「…すると他の地雷も…?」
「ええ。全て所有しておりますわ。私クラフターでしたから」
「ナンシー・バックレアの体で?」
「ええ。…勿論“今は”アイネリーディンとして可能な限り早期に対処致しました…たぶん恐らくきっと彗星も這い寄る混沌も魔物行進も起きない。──そうあってほしいものですわね」
フッ…と遠くを見詰めるアイネリーディン…。
彼女の脳内には今前世で彗星が降って王都を破壊された過去や魔物行進に蹂躙された王国、這い寄る混沌の侵攻に為す術なく地に伏した苦い過去のバッドエンドの数々が過ぎては通り過ぎている…のだろう。
恋する未完成レシピ☆は攻略対象以外の人物も個性豊かでなるほど独自AIを積んでいるだけはある最新のVRゴーグルを使ったゲームらしいリアル準拠ソフトだった。
街の一人一人がそこにちゃんと生きており時間帯によっては受け答えが変わりまた天気によっても違いがあって面白く…恋愛シミュレーションゲームなのに攻略対象以外との普通の「交流」ばかりをしていた柚姫のような多くのユーザーを虜にしたものだ。
「…確定バッドエンドの多くがクラフトアイテムの中にある、とか初見で解る訳ないんだよな~!あの鬼畜ゲームは」
「ええ。本当に」
『恋する未完成レシピ☆』の攻略本はソフト発売日の2ヶ月後。当然その間に独走していた最前線はその爆弾──確定死亡フラグ──を処理しきれず幾度も死んで活路を見出だした…いや、攻略スレは一時期阿鼻叫喚の喧々轟々。ソロプレイオンリーの“乙女ゲーム”の筈なのだが──いや、恐ろしいゲームである。
「そうそうお兄様、クラフトには建物──この場合は禁術書なんかを保管・管理する〝博物館〟なんかも作れたりするのを御存知?」
「…!?ま、マジか…ッ!あのゲームそんな物までクラフト出来るのか…ッ?!」
「ええ。出来ますのよ、ふふふ♪」
驚愕の事実に目を見開き驚く兄を楽しそうに見遣って得意気にふんぞり返る妹…今だけは前世の「柚姫」が顔を出す。
「私、あのバカとそのまま婚姻する事になったら王家直轄領の一角に「博物館」を建てる予定でしたの。
…ですが、結果はあれ。これからどうしましょうかしら?」
「…ッ!?王領になんてモンを……ッ!い、いや…危険なアイテムはずっとアイテムボックスに封印していれば良いだろう…!?」
「……。それが、お兄様…」
苦虫を何十匹と噛み砕いたような渋~い顔で溜め息を吐くアイネリーディン。
「……いやだ、その先は聞きたくない…ッ!!」
「…ネクロノミコンが」
「や、やめろ…ッ?!」
青ざめ耳を塞ぐ兄…だが、もう遅い。
「…ネクロノミコンが人語を発して主張してきましたわ。
“早く吾を飾る博物館を用意しろ。さもなくば這い寄る混沌をここに喚ぶぞ?”━━と。
それは今も念話で語り掛けて来ますの。ええ、もう痛いほどに」
「うわぁああ~~ッ!?やっぱりロクでもなかったーーッ!!(泣)」
嫌だ嫌だ聞きたくない聞きたくないと耳を塞いでも意味はない。
ハキハキと良く通る魅惑の悪役令嬢の涼やかな声でそこまで聞かされたのだ。…事情を知る者としては否が応にも聞くしかない。
なんせ、ゲームの世界がそのまま現実になった今世だ。扱いが難しい地雷アイテムの管理は前世を知るアイネリーディンの他にアースシェイド、破滅が確定したナンシー・バックレア男爵令嬢の三人のみ。
それ以外は現地人。…今後転移者が現れるかもしれないし、自分達のように前世の記憶を持った転生者が生まれるかもしれない…希望的観測に過ぎない未来の協力者なんてアテにならない。…何をどうしたって今の現状戦力でどうにかするしかないのだから。
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