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プロローグ:断頭台の終わりが始まりを紡ぐ。
砕けた恋心に私は苦笑を浮かべた。
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「━━これより、罪人アルティナ・マテリアル公爵令嬢の処刑を執り行う!」
何故?
問いは無意味だった──だって。
死人に口無し──猿轡されている現段階に於いてはまったくの無意味でしょ──?
「この者…あー、えっと…エロウィ──じゃなかった、エドウィン・パルテノン・グレンガリア王太子の情婦──じゃない、愛人…でもない、えっ?これ…言うの?マジで?!…チッ、こんな仕事遣りたくねぇぞ。…文句を言うな?非番だったのに俺、急に呼ばれたんだぞ!?…あーもう面倒だ!つまり、浮気を咎められた王太子がキレての本日の斬首刑となりました…!!
──こほん。では執り行います」
…随分と喋る執行人だこと。
猿轡をされていても目はばっちりとその風変わりな“執行人”を捉えてた。
<恋>とは違う。
…単純な興味。
ざんばらな黒髪に無精髭の27、8歳前後の…その深緑の瞳が印象的であった…。
流された噂は悪意に塗れ、尾ひれに背鰭、爪に牙まで生やしてしまうほど酷いものであったが──
…こう見えても頑張って居たのだけれど。
「王妃教育」の他に「領地経営」の勉強も…。
今だって私には時が止まったように見えるけれど……時は着実にその時を刻む…。
───ザシュッ!!
ゴーン、ゴーン、ゴーン━━ッ
━━享年16歳。早すぎる死だ。
この後の王国の未来は分からない──ただ、彼女の長く愚かな恋心に別れを告げたのは確かだ。
「王国」が繁栄したのか、衰退したのか…はたまた内乱に発展したのか、件の浮気相手──男爵令嬢のミリア・ピュレーとは婚姻出来たのか否かも──既に来世の彼女、「アルティナ」にはどうでも良いことであった…。
…………。
「…んっ、はっ!……はあはあっ、っぁぁっ!!」
ガバッ!!
思わずと、飛び起きた…深夜2時過ぎ。
人々が寝静まり、ここ『マテリアル公爵家王都邸』にも夜の帳がとっくに降りている時間…。
「…最悪!!なんで…、なんでッ!殺された時の事を夢に視るのよ……!?」
「それは御主人様が過去を過去と思えていないから…ではないでしょうか?」
冷や汗をびっしりと背中に掻いた青銀の髪の美少女が引き攣った頬をそのままにベッド横に佇む同じ顔のパーツ、同じ背格好、同じ声質の──魔導人形。
──…彼女『イブ』は傍らの…ベッドに座ったままの美少女──アルティナは無表情のままに返す魔導人形に苦笑を浮かべた。
「…イブ……随分と辛辣ね…。」
「?私にそのような機能は御座いません。」
…このイブ──造った当初から無機質で無愛想な魔導人形であった。
彼女はアルティナが行きたくない、会いたくないと言った時や人に代わりを務める──為だけに造った魔導人形──…、機械と魔導的要素を組み合わせた技術の粋を集めた<機械仕掛けの魔導人形>である。
…他にも150体の魔導人形が稼働中だ。
…通算4回も「自殺」した身では説得力はないが──多少は「あの」王太子の意識改革をしようとした──秒で諦める事になるとは…思わなかったけれど。
「…記憶結晶も、私の記憶を核であるドラゴンの魔石に籠めてある癖に。
……何を言うの?」
記憶結晶…文字通り、空の魔石に記憶移植を行って作ったもの──この「イブ」にはアルティナの前世を含める通算5回分のアルティナの「人生」が…「記憶」が込められている。
…全て無意味。不必要。
偽りの愛情など要らない。
家族も、「婚約者」も──全て不要だ。
どうせ、偽りの愛情しかないのなら──魔導人形でも良いでしょ?
…私は「彼ら」を見限る。
…彼らも「私」を見ない。
──なら、構わないでしょう?
私を理解してくれたのは──今10歳の私の産みの母だけ。
後半年で──殺される。
継母となったあの毒婦──私の異母姉妹となる、ミリア・ピュレー男爵令嬢の実母。
名を──〝カミラ〟。
…因みに名の由来は地獄に咲くと言われる仇花─…そう、仇を討つ、とか…『恩を仇で返す』とかの語源となった地獄の底に咲くとされる真っ赤な彼岸花に似た花の。
この花は仇を討ちたい人の前に現れ、愛情を持って育てればその者に助力する。
反対に雑にすれば──仇を討ちたい人を誘引する。
普通の彼岸花と違ってこの花は…意思があり、人の言葉を理解する。
時折念話で『あの肥料は美味しくない』とか『ああ、この水は旨いな。もっと寄越せ!──ん?偉そう?そんなの当たり前だ!俺様、仇花様だからな!!』とか…自己主張してくる。非常に鬱陶し━━賑やかな花?だ。
……なぜ、そんな事を知っているのか…って?
母が━━その、…種を持っていたのよ。
今領地にも…勿論、この王都公爵邸の庭にも咲いているわ。
……え?地獄の花じゃなかった、…って?
………。
知らないわよ。本人?本花?に聞いてよ。
前に訊いたときは…『なんか風に呼ばれた気がしたんだ…フッ』とか花の癖に黄昏た事を言っていたが……たぶん、何も考えていないわ。“格好いいから言ってみた”感が強いから。
カミラなんて女性的な名前なのに大概の奴が男性的?雄しべ的?な性格だし、口調だし…念話で届く声は男性的な低いものばかりだ。
地獄の花…とされているカミラ━━今ではマテリアル公爵領を代表する三大花━━桜、椿、彼岸花━━となるほどに咲きに咲いた。
…カミラ・ピュレー男爵夫人━━お分かりだろうか?
この女、結婚しているのだ、ピュレー男爵と。
…アルティナの血縁上の父と…W不倫━━現代日本だと非難ごうごう、大バッシングの嵐だろう。
しかもアルティナとミリアの年の差…僅か半年。
━━お分かりだろうか?
入り婿の癖に妻が身重の時に他の女性と…寝所を伴にする、圧倒的(下半身の)だらしなさ。
しかも、婚姻後直ぐに他の女性…相手の女(カミラ)も親同士が決めた結婚、正直──ピュレー男爵が可哀想だ。(まあ、ピュレー男爵とカミラの間にも嫡子がいるので男爵家はその子が継ぐので問題ないが)
正直──「政略結婚」以外で結ばれる筈などなかった縁だ。
蛇鶻の如く嫌っているアルティナからすれば──〝血縁上の父〟としか元マテリアル公爵には思う所は何もない。
…アルティナ・マテリアル、10歳。
生きている母に真意を問い、父を男として愛しているのか、と訊いた。
『いいえ、ただ…離縁は外聞が悪いし…その、ロードリアン様の事は……今でも好きになれなかったわ…あなた(アルティナ)がお腹に居た時からはそれは顕著だったわ…でもね、私も貴族の娘。況してや入り婿を娶る必要があった我が公爵家は…野心のない……公爵家よりも下格の貴族家から婿を取った。
幸いにもアルゲイム伯爵家は家の派閥だし、当主は別に居るし…ロードリアン様は三男だから…角も立たないし…。』
…と、なんぞ言い訳がましく段々と小声になっていく母、アリアスフィアに当時5歳児のアルティナが本気で説教をしたのも──今ではひどく懐かしい。
あの男──ロードリアン某とやらは『浮気男』と謗りを受け、…元妻の殺人未遂の罪で10年は王城の地下牢から出られないだろうし、カミラ・ピュレー(元)男爵夫人は…アリアスフィアの殺人教唆、殺人依頼を裏組織に依頼していた証拠と共に打ち首にされた。
…そのカミラとロードリアンの娘、ミリアは……国一厳しいとされる北の修道院に預けられた。
対外的には母のアリアスフィア・マテリアルが女公爵となっているが…、実権は全て当時6歳の頃からアスティナが握っている。
母はお茶会を開いて宣伝と外交を請け負って、アルティナは開発・営業、運営に奔走している。
…王太子?あいつは……屑だ。泥棒猫を退けても──通算3:2回で別の格下貴族の娘と浮気をしたし…。
“2”はミリアで“3”がその他の女性。
王太子の本質は変わらない…なら、見限るのも──当然、でしょう?
間違っても公爵家から打診した事等ない──王家の、グレンガリア王が独断で決めた事。我が公爵家の後ろ楯欲しさに。
…いや、無理だから。
浮気男の屑王太子……そもそもが前提条件が間違っている。
アスティナは今や女公爵──対する王太子は今はまだ第一王子。
ただの「王子」と名の付いた子供に過ぎない。
…後6年までに<方舟>の製造を完成させなくては。
5回死んで6度目の──今度こそは生き延びなくては。
………。
「…そんな事もありましたかね?」
「いや、小首を傾げるとか…古代の技術って凄いものね」
「はい、…まあ、滅んだので大したことはあまりないのですがね。」
「古代の遺物が元創造主を酷評するもの?」
「…するもの、です。御主人様」
無愛想、無表情の魔導人形…イブはアルティナが成長する度に追加と刷新を繰り返した…霊子を動力に稼働する魔導人形。替え玉として、また…影武者として使用する為に戦闘魔導人形としても…保管されていた太古の記憶結晶を解析、そのまま流用した。
マテリアル王都公爵邸──その地下の地下の奥深くに──魔術式隠蔽魔術が施されていた<転移陣>…その先に太古の遺跡がそのままの形で残っていた。
紙媒体の図書エリア──「資料室」には多くの本が保管されていて…一つ一つ保護魔術が掛けられているのか…まるで昨日今日書店に並んだような真新しさの書籍が数多くあった。
無論、古代語の為…翻訳は未だ全ての本を済ませてはいない…、が。
背表紙だけで目的の『魔導人形の製造について』や『魔導人形の仕組み・序』や『魔導人形の仕組み・次』や『魔導人形の仕組み・完』に『方舟の製造に着手、その経緯、考察』(これは全部で1~30まであった。)
『超難易度魔術書Ⅰ』・『超難易度魔術書Ⅱ』・『超難易度魔術書Ⅲ』…それから『汎用性魔術1・2』や『召喚魔法』なんかもあった。
…これら大昔の遺産や遺物を━━超古代遺物と称し、人間の国の権力者━━取り分け王とか皇帝とか貴族とかと言った奴は。
…学者にとっては学術的な価値しか見出ださないが──、権力者にとっては古代の遺物は遺産となる。
魔導兵器の一つでも手に入れば──大幅な戦力の増強となる。
魔術書の一つでも見付かれば…それはそれで魔術師の強化となるのだ。
……その古代遺跡、<スティグマ研究所>は太古の頃からマテリアル公爵家の血にのみ反応するらしく、あの異母姉妹のミリアやらカミラ、ロードリアンは立ち入る事すら許されないようだ。
…防衛機構が働くし、そもそも<転移陣>すら無反応。と、所長室の手記より翻訳して知った機能だが。
スティグマ研究所へは転移陣で一瞬だ。
…そもそも転移陣は領地の領主館の地下にも続いていて…、<スティグマ研究所>を経由してあちこちに点在する<転移陣>の解放と再登録を今急ピッチで進めている。
「…もう起きたし…このまま研究所に行こうかしら」
「左様ですか」
素っ気なく答えるイブに手を振って手早く寝間着の上から白衣を羽織った。
135㎝の背丈、水銀の長く真っ直ぐな綺麗な髪に…琥珀色の瞳を意思の光に宿して。
領主用の主寝室はかなり広く、ロードリアンを追い出してからは家具も寝具も一新した。
…王太子との婚約は何とか保留に止めた。
解消出来ないなら──その前に方舟を造り上げてとっととこの世界からとんずら──んんっ!…新天地を求めて星の海へ渡りましょう。
エドウィン王太子……本当に救いようのない人。
子供の頃は純真無垢で可愛らしい方だったのに…。
どういう訳か──貴族ならば大抵が王都にある王立学園に通う、13歳から16歳までの3年だけ通う。
学科は全部で3つ。
騎士学科、魔術師学科、一般教養学科のどれかを選考し、最近は才能ある平民も通えるように新たに商業学科と冒険者学科が新設された。
その分生徒数も倍増、王立学園は全寮制の為…“平民用”の寮も増築。
アルティナも後3年くらいで入学・入寮が決まっている。
…因みに1回目では
アルティナが魔術師学科、エドウィン王太子は一般教養学科…貴族は概ね魔力の多い配合を求めて時に平民でも妾や側室に迎え入れたりしている…その為、必然的に魔術師学科と騎士学科は貴族が多い。
次点で、一般教養学科。
…これは紳士&淑女を養成する授業もあって、貴族としてな当たり前の教養・知識・マナーを学ぶ学科で、実技には実際の夜会や『お茶会』を想定したものが開かれたり、エスコートの仕方、お茶会の場でのNGなワード、NGな会話、反対に「良い」とされる会話運び、突発的なトラブルにどう対処するか、とか…本当に貴族や王族には必要な知識を学ぶ学科である。
また“ちょっと”裕福になった平民の商家の娘や息子もまた貴族を嫁や婿に迎えようと、この学科で交流や知識を学ぼうとする余裕のある裕福な平民が希望する学科でもある。
騎士学科は言わずもがな、卒業後は王国騎士団に就職し、上からの命令で国内なら何処へでも赴く騎士の一員となる。
(この時に一応アンケート用紙で希望の騎士団、または地域を書けはするものの…全て必ず希望通りには行かない)
…大概は人員の足りない所──事故や怪我、任務中に殉職等で減った騎士の代わり──へと回される。
…まあ、功績かなんかを立てた時に褒章の一つで希望した騎士団に異動出来たりするが。
伯爵家以下の三男坊や四男、女しか産まれなかった侯爵家や辺境伯の長女も…己を鍛えるために希望することもある。
他にも純粋に国へと士官する平民もいる。
冒険者学科は冒険者を目指す貴族の三男坊、四男や次女、三女か平民の子女が多く在籍し、寮母は元Sランク冒険者の女性が勤めていて気さくな性格と美味い飯で評判で…男子寮の寮母はその女子寮の寮母の妹らしく、旦那は学園の守衛と。
夫婦揃って学園で働いている。
商業学科は商人のいろはを現役の商会主が講義を不定期で行い、日々のカリキュラムは現役の商会長補佐の商人達が持ち回りで執り行う。
主要国産品の年間の採れ高に比例する来年の作付け面積…なんかの計算や基本価格の設定の仕方、相場とはなにか、物流とはなにか…そう言った基本の事から実際に物を売るときの需要と供給、利益率はどのくらいにするか、とか。
そう言った即戦力になりそうなものまで幅広く学ぶ。
「簿記」や「計算」…「法律」なんかも学ぶ。
希望するのはやはり、継ぐ家や爵位のない貴族の子女、商家の娘、実家とは別の商家を興そうとする新興商人希望もこの学科を選ぶ。
起業から軌道に乗るまでのノウハウも学べるので…何気に希望者が多い。
…。
2回目の人生からはそれぞれ別々の学科に進んだ。
騎士、魔術師、商人、冒険者…それと「留学」。
最後の留学は帝国にしたが…いや、まさか他国の“ザマァ”に巻き込まれ事故で流れ矢が飛んで来るとは…や、あれは避け切れない。
弓を射ったのは帝国の“蒼穹の皇子”と呼ばれた当代きっての弓の名手、アダムス・ロナン・ヴァルフレイム皇太子の流れ矢……、ちょうど対象の直線上にいた為、彼方の公爵令嬢共々胸を貫通したまでだ…完全なる貰い事故である。
……あれ、わざとじゃないよね?
未だに謎である。
その為、この6度目の“やり直し”は帝国への「留学」は考えていない。
……。
……領地に引っ籠ろう。
別に貴族だから「学園」に通わなくてはいけない、なんて法律はない。
皆「なんとなく」や“義務”で行っているようなものだ。
…それに必要な技能はその都度自分で選んだ学科でものにしてきたし。
━━王都公爵邸地下に空洞の違和感を覚えたのは…今世の赤ん坊の頃。
戯れに探って見たら──ビンゴ。
赤ん坊のままだと動けないので魔法で前世で死ぬ直前の姿に変化して「その場所」を目指した。
…以後は0歳児にして、本の虫と化したアルティナは変化しては地下の隠された魔法陣から<スティグマ研究所>へと通っては読書をした。
?その時、寝室はもぬけの殻…って?
違うな、寝室には身体を置いて、精神体で地下の転移陣で研究所へ飛んでは読書。
研究所は幼いアルティナにとっては興味深い遊び場であった。
──何時しか決められた役を演じるなら魔導人形でも構わないだろう、と気付いてからは殆んどの煩わしいものは全てイブを造った時に「全て」押し付けた。
…父親との食事も、父の視察にすら同行するのは魔導人形。
本人は仮面を着けて魔導人形っぽく変装した状態で母の個人的な休憩に同席していた。
…人払いが為された場だと普通に仮面を外して母と沢山話をしたし、過去の記憶を悪夢として見て泣いた日には泣きながら抱き着いてくるアルティナをアリアスフィアは優しく抱き締め凍えた心を温めてもくれた。
アルティナは父に冷遇されていたが、母には溺愛されていた。
…だから、今世の「アルティナ」もまた…壊れずに済んでいるのだ。
……。
「…と、到着。」
四方何処を見ても──灰色。
普通に視ただけではただの何もない「小部屋」。
「…マテリアル所長が<研究所>への転移を希望。転移陣を解放せよ」
静かに部屋の中央まで進んでからそう口にすると━━
キィィン━━ッ
微かな耳鳴りのような、僅かな違和感の後──床一面に広がる魔法陣…蒼白い幾何学模様の陣は僅かに発光し、陣の上のアルティナを一瞬の内に…研究所へと移動させた。
「はい、到着。」
「…少し早いと思われますが?御主人様…。」
「ああ、目が覚めたのよ」
「左様ですか」
「ええ。…とは言え私もこの時間から製作作業をするつもりはないわ。……そうね、資料室で適当な本でも翻訳しているわ」
「左様ですか、ならインにホットミルクを淹れるように要請しますね」
身長183㎝はある紫色の長髪の青い瞳の美形が耳朶を触り、銀色のピアスを触る。
…この“ピアス”こそが、魔導人形同士の意志疎通を図る魔導人形が造られていた遥か昔──太古の魔道具だ。
魔導の粋を極めた一品──見た目は武骨なシルバーのピアス。
そうとしか見えない仕様はピアスの他にもネクタイピン型、イヤリング型、コサージュ型、指輪型…と様々あった事から人の業を思い知る。
人間の歴史はそんなに大差がないと──アルティナはこれら<研究所>の魔道具から思い知る。
こんなものを必要とするのは権力者━━それも国の頂点と言う名の──「王」とやら、とか。
“──尊き御身を護る為──…”とかなんとか。
反吐が。王族なんか糞っ喰らえだ!何度死んだことか…。冗談じゃない。早く<方舟>を造ってこの世界から逃げなくては──ッ!ハッ!?(゜ロ゜)!?
「…思わず暗黒面に堕ち掛けてたわ…はあ、最悪。悪夢と同じで今日は1日最悪かも」
…砕けた恋心。それは確かに幼い少女が夢見た砂上の「恋」であった。
少女…アルティナは確かに同じく幼い「王子様」に恋をしたんだ…もう一欠片も残っていなくても。
『…きれい…あなたがおうじさま…?』
━━うん。僕が王子様だ。
君が僕のお姫様…?
『…おひめさま…。』
━━そうだよ。僕と将来結婚するなら…君が僕の“お姫様だ”──。
『…おひめさま…。わたし、が…?』
王城の中庭…、噴水の前で……幼い頃の少女が…、愚かな一目惚れをした。“お伽噺”の中の「王子様」に。
あの時、少女は──…
──無邪気に笑ったんだ。
恋に浮かれたんだ。
──それが、間違いであった、と…もっと早くに気付ければ──…。
──どうして…エドウィン様…ッ!!
○月×日──
…エドウィン様からの手紙が途絶えて一週間が経った。
今日も学園でエドウィン様は私ではなく異母妹のミリアを女子寮よりエスコートして行った…とても目立つ。
なのに──エドウィン様も気にせずアドルフ様達と一緒に異母妹を囲んで登校していった…。
ミリアとエドウィン様は同じ一般教養学科…。
クラスは別の筈なのに……どうして?胸騒ぎがする。
○月×日──
…エドウィン様とミリアが温室で仲睦まじくキスをしていた。嘘。嘘だ。嘘だと言って…。
ふらふらしたまま噴水広場を歩く。
頬を何かが伝う…誰かに何かを言われたが……気にせず教室へと戻った。
○月×日──
…婚約、破棄……。
分からない、分からないわ。エドウィン様…お母様…ああ、こんな時お母様が生きて居れば──…ッ!!
…翌日私の斬首刑が王都の噴水広場で執り行うそうよ。
分からない、分からない、分かりたくない──ッ!!
エドウィン様…エドウィン様!!
好きだった…そりゃ、激しく燃え上がるほどの…温度ではなかったわ。
けど…けどね、“おうじさま”が私の初恋だった…なんで。ねぇ、おうじさま。私の…、おうじさま。私の、私のこの想いは──…あなたには不要なものだった…?
──私を殺したいほどに、そこの女の方が魅力的だと、言うの…?ねぇ。
─────────
───────
これ以降の記憶はない。…三流作家が書いた話より酷いお伽噺。
少女が受けた苦しみは、怨嗟は…未だに燻っている。
だけれど──私はなにもしない。
…だって、この世界──私が16歳になるのを待たずに滅ぶから。
「私」が何かをするのではないわ。
…「神様」から直接聞いたもの。
〝聖ネプチューン歴2016年1月1日──この世界、皹割れた卵は神の審判が下るだろう〟
〝大地は割れ、津波が国を、人を水底へと沈み、燃え盛る紅蓮の炎は木々を灰へと変えるだろう〟
〝見捨てた大地に、見捨てた国に、見捨てた人に…神の微笑みは二度と向けられる事はない──〟
…この<神託>が下りたのはアルティナが産まれたその日の午後三時であった。
──アルティナには神からの祝福が授けられている。
1回目は理由が分からなかった…だが。
【祝福:原点回帰】
…魔術師学科を選んだ時に学んだ魔術<鑑定>で知れたこと。
【祝福:原点回帰】──効果は死亡した時好きに過去へと飛び、人生のやり直しが出来る能力。
記憶も経験も所持品も所持金も持ち込んだ状態で。
アルティナは他にも【祝福】を持っていた。
【祝福:無限収納】、【祝福:機械神の寵愛】、【祝福:魔導の真髄】
【祝福:無限収納】は文字通りいくらでも入る異次元空間に物を出し入れできる。(生物以外)
入れた物は時間停止の魔法が掛けられ、状態を維持し続ける。
【祝福:機械神の寵愛】は魔導人形を造る時になんとなく手順が分かる、とか…造った魔導人形により感情を、魂を定着させられる製作補助が付く。
機械系の魔物が無条件でこの祝福を持つ物の支配下に入る。
支配下に置いた機械系魔物が倒した魔物の経験値はそのままそっくりこの祝福を持つ者に譲渡される。
ダンジョンの機械系トラップ自動無効化。
【祝福:魔導の真髄】
使用する魔術の効果極大アップ、
能力低下魔法の効果超絶アップ、
能力向上魔法の効果超絶アップ、
新たに魔法を創造する際のMP消費量極大ダウン、
極大魔術、極大魔法使用時のMP消費量超絶ダウン。
…どれも強力な【祝福】だ。
アリグレラでは【祝福】を持つ者は結構居たりする。
大概は【剣術】とか【体術】とか…【火魔術】や【癒し効果小アップ】とか。
持っている【祝福】によって将来を見詰める指針となる。
…まあ、アルティナの将来は【マテリアル女公爵】だが…。
魔術も剣術も極めた…商人は……個人資産が増えた。
冒険者がこの中では一番刺激に溢れていたな、とアルティナは思い返していた。
「…ふぅん。これ、恋愛小説ね……しかも不倫モノ。タイムリーだわ」
「…そう。ホットミルク出来たわ…飲む?」
黒色ワンピースに白のエプロン、メイドキャップ…桃色の髪にローズクォーツ色の瞳は大きく円ら。薄い桜色の唇に林檎のほっぺ、白磁の肌…。
豊満な胸に括れた腰、スラッとした手足は魔導人形と分かっていても男なら思わずと手を伸ばしたくなるくらいには魅力的な姿形だ。
整った顔立ちにセクシーボディー。
…だが。その口調や性格は残念である。が。
左側サイドテールの髪型がよく似合う。
ミルクの甘~い薫りが鼻腔を掠める。
蜂蜜を溶かしたホットミルクは身体の芯から温めてくれるようだ。
冷や汗で冷えた背中が温かくなる。
マグカップを持つ手も自然と温まってくる。
「…ふぅ。美味しいわ、イン」
「…ん。お粗末様?」
「いや、問われても。」
「?…そんな事よりその本、面白い?」
「…ええ、まあ……って。インは読んだこと無いの?」
「んー…、読書は趣味じゃない」
小首を傾げてアルティナの問いに平坦な声量、声音で
「…私は日当たりのいい四閑で昼寝するのが好き。いつまででも眠れる」
昼寝好きの魔導人形…。
「猫か」
「?ロイじゃない…珍しい。資料室に来ることなんて滅多にないじゃない、ロイ」
「…いや。なんかあいつから念話されて…護衛しろって」
赤髪に青紫色の切れ長の瞳、スラリとした手足、ほっそりとしながらも仕立ての良い黒衣の燕尾服、手袋まで黒で纏め僅かに白は中のブラウスくらいだろうか。
190㎝の高身長、ほどよく付いた筋肉がまた服の上からも僅かに窺える。
イブ同様に戦闘魔導人形、インは給仕魔導人形。あらゆる国、地域の紅茶、お茶、薬草茶、茶菓子等の知識が備わっている給仕する事に特化している。
無論、ベッドメイキングから掃除・洗濯・客人の案内(研究所に誰も招いた事はないが)なんかも普通にこなす。
…今ではこの<スティグマ研究所>の全施設の掃除を担当しているのは給仕魔導人形達だ。
持ち回りでローテーションを組んで飽きが来ないように順繰りでしているとか。
「イブが…あの子…過保護ね、ふふ。」
アルティナは脳内に無機質で無表情なぶすくれた影武者の顔を思い出していた。
「おぅ、不肖この俺──戦闘魔導人形、No.50、ロイが御主人様の御身を今暫くの間護らせて頂きますよ──お嬢様?」
仰々しく腰を折って手を差し出してきたロイにアルティナはからからと声をあげて笑った。
「ふ、ふふ…似合わない、わね…あははっ!!」
ロイに敬語は似合わない──と、アルティナは腹を抱えて笑った。
「…ああ、やっと笑ったな」
「…ん。御主人様、ずっと指先が震えていた。…緊張しているように見えた」
「…けどやっと笑った…もう大丈夫そうだ」
魔導人形2体は己の主に造り出された時から恩義を感じていた。
…微かには残っているのだ、“もう前の主も役割もないのだ”と。
ぽっかりと空いた核に御主人様が心を、思考する自由をくれた。
No.50━━ロイと、
No.19━━インもまた生み出してくれた主に感謝と忠誠を誓ったのだ。
役割は与えられたが、普段は自由にしてくれていい、と…王都公爵邸の邸の警護、アルティナの護衛、主の母の護衛…どれもローテーションを組んで交代交代で務め、尚且つ領主館にも戦闘魔導人形は詰めている──…人間に紛れて。
…だからこそ。主の感情の機微に敏感になる、過敏になる。
…人間は簡単に死ぬから。
太古の昔から人間の心の脆弱性は変わらない。
容易く悪にも善にも染まる──それ故に失くさないと。その「心」を主よりも誰よりも…「護る」のだと。
…アルティナが自殺したら、魔導人形では止められない。止める事は出来ない。
通算5回死んだこと…人間魔導人形は記憶結晶から知っていた…いや、イブから流された霊子伝達で知った記憶、過去。
「心」が痛むとは…「心」が死ぬとは──主の事だっただろうか、と。
作り物の心ではその“全て”を理解する事は出来ない。
…この身を構成するのは、魔物の骨、魔石、魔鉱石…織り成す魔術式の螺旋…。
金属と魔物の骨と魔鉱石で出来た無機質な鉄屑。
…限りなく人間に似せた『人形』。
核に使用している魔鉱石がミスリル以上でなければ定型文しか口に出来ない我等は──主の心を正確には捉えきれないのだろう…。
イブを含め151体の魔導人形…『後どれだけ性能更新すれば──貴女を護れるだろうか。』
「護る」と言う言葉は難しい。
身体だけ護ったって意味はない。
「心」を宿した魔導人形は…その事を知っていた。
高過ぎる頭脳が、主の「自殺を止めること」を…否定した。
…始まりは「イブ」だけだった。
2回目の「人生」から…アルティナが八方塞がりになると……簡単に「自殺」を選ぶ主を……「イブ」は見逃した。
…邸の全てを収納し、最後には邸すらも収納して…毒を呷ったイブは無機質な瞳で看取っていた。
誰かに殺されるぐらいなら──己の手で死を選ぶ、と。
またあの風変わりな“執行人”の尊顔は拝んでみたいけれど…、毎回嫌な役回りをさせることもない、と…アルティナは思ったのかも知れない。
全ての記憶を引き継いだイブがアルティナの「想い」をそう推測する…。
イブの指摘に微苦笑してアルティナは「…正解よ、イブ」とだけ口にした。
最初の一度目以外は…極力王太子や男爵令嬢は避けて勉学にのみ力を注いだのに──原点回帰をせざる負えない、とは…。
彼ら──“ミリアを囲む会”の面々の執着心は相当に粘着なものだ。
言わずもがなその筆頭たるエドウィン王太子、
騎士団長嫡男フィリップ・バートン、
宮廷魔導師長次男ミクシミリアン・カイゼル、
宰相令息アレグロ・フォン・アルゼイド公爵嫡男、
新進気鋭の商会、ロープス商会会頭三男、ラミアン・ロープス…この5名がミリアを囲んでいた。
面白い事にこの5人……他の浮気相手では別に囲んでも居なければ、特段の興味も湧いていないと言う事だ…。
ミリア・ピュレー男爵令嬢。
アルティナの異母妹であるこの女には世にも稀な──光属性の祝福があった。
同じく闇属性も稀に見られる将来魔術師になることを推奨される祝福…。
光属性は治癒と──魅了の魔術に特化していた。
?“光”なのに、闇っぽい…って?
──この世界、アリグレラでの神々の【祝福】は表面上の能力ではなく、所持者の心にも寄り添うものとして在る。
レベルがあって一定量の経験値でレベルアップ。
【ステータス】があって、HP0が即死──MPは0でも一晩眠れば翌朝には全回復している。
…どちらも最大値から8割も切ると意識が朦朧とし、意識が混濁する。魔力は9割を失うと気絶する。
体力は9割を失うと生命維持は著しく低下。
自力での歩行も意識を保つことも不可能となる…。
…光属性の【祝福】所持者は治癒魔法が得意で利用されないように、<魅了>魔術も同等に習得する…ようになる。
同じく闇属性は──影を操る魔術や魔法に特化しているし、呪いや毒なんかも魔法で生み出せる。
荷物を影に収納してアイテムボックスの代わりにする事もできる。
光属性の<魅了>に対抗するように、魅了の上位互換…<傀儡>で闇属性の魔術師は無意識に光属性の魔術師を操ろうとする。
…レベル差が圧倒的に開きがあればそこまでの本能的な警戒はしないのだが。
北の修道院へと入られたミリアは…レベル上げの機会等……たぶん、一生ないだろう。
北の修道院──人々の祈りの場でありながら、食用に適する魔物──オークやマグベアー、ミノタウロスの頭数が減ると……山の中復に設けた“祠”に修道院へと預けられた<貴族の娘>からそこへと送られる。…魔封じの腕輪を着けられた状態で。
…北の修道院──聖ノーザンブリア大聖堂は豊穣の女神、アリスティアを奉る女神教徒の巣窟だ。
元からの身内──修道女や修道士とは別に何か貴族社会で粗相をして送られてきた貴族子女の矯正
をも執り行う場としての一面もある。
…年若い貴族の娘ならその“祠”の<生け贄>となるか、年若い貴族の息子ならば──文字通りの生け贄として「食われる」。
…表向きには『日々を恙無く贖罪と祈りの日々に費やしている』事になり、生死は不明となる。
…それら魔物の“苗床”となったのか、食われたのかは──次の<巫女入山の儀>までは誰も訪れないので…分からないのだ──巫女以外は。
北の大聖堂は四方を氷山と絶海と絶対零度の気候、雪と山と氷しか目に入らない厳しい場所にある。
冬の時期は毎日春の時期の収穫で獲れた魔物肉と山菜、寒さに強い野菜を氷室へと保管し、冬越えに備える…のだが。
稀に、極稀にまったく獲物が獲れない時期もある。
…そういう時に<生け贄>を捧げ、頭数が増えるのを待ち、狩りに出掛けるのだ──周囲の住人は。
…北の修道院はそう言った貴族子女の最終流刑地でもある。
実質死刑である。
来る途中も怨みを持つ者らの依頼を引き受けたならず者や暗殺者が道中を尾行していたり、逃げ出そうとした瞬間に盗賊や山賊に捕まってズタボロにされて──後に奴隷商人の店に商品として並ぶ事になったり…。
どうしても<巫女>が集まらなかった場合は犯罪奴隷の女性から何人かを教会が買い上げて“祠”へと送る。
<生け贄>が定期的にある限りは、魔物は中腹以上下へは降りて来ない。
「…昔にもこの北の大聖堂はあったのね。
…その頃から今と変わらないまま<生け贄>を捧げていた…この男爵令嬢も愚かよね。“王子様”と言うブランドに惹かれたにしても……少しは考えないのかしら?
国が決めた婚姻を圧倒的に身分が低い己が割り込んだらどうなるのか、とか」
アルティナは冷め掛けたホットミルクの最後の一口を胃に納め今読んでいた物語の終わりに一人言ちた。
『可憐・男爵令嬢~出逢い編~』
『可憐・男爵令嬢~恋愛編~』
『可憐・男爵令嬢~断罪編~』
の全部で三部作、各300ページ、3万字ずつの大作…。
恋愛小説でありながら生々しい貴族の描写から…著者は貴族に連なる者だったのだと、窺える。
物語はこうだ──
王宮のパーティーに国中から貴族子女が集められ、舞踏会が開かれる所からスタートする。
その舞踏会は貴族の交流を元にして開かれているが──その実、王太子の婚約者、公爵令嬢の御披露目パーティーでもあった。
そのつもりでいたし、事実王太子は公爵令嬢のマリア嬢をエスコートしたし、揃いの装い、揃いの色彩で舞台中央でファーストダンスを踊っていた…そう。
男爵令嬢──ミルクが不躾にも躓いて王太子の上に圧し掛かる事態にならなければ。
…頻りに謝る男爵令嬢に……王太子はマリアにない、庇護欲を大いに刺激されて…気にすることはない、とミルクの頭を撫でて慰める──隣の公爵令嬢の顔色も気にせずに。
「分かる、分かるわ。マリア…あなたは悔しいのでしょう?それこそ産まれた瞬間から未来が決まっていた己と王太子…そこにぽっと出の身分卑しい男爵令嬢が王太子の笑顔も心も掠め盗ろうとしている──さぞ心中穏やかではなかったでしょうね」
…アルティナは「行動する」威力はなかった。
だが、作中の「公爵令嬢」は実際に男爵令嬢に執拗なまでのイジメと冷遇をした。
──…周りの声など聞こえないぐらいに。
公爵令嬢の最期の言葉…
“ねぇ、アルフ…私の事は好きではなかったの?”
は、ギロチンに掛けられる瞬間まで紡がれる事はなかった…公爵令嬢、マリアの本音だ。
……因みに、この物語では男爵令嬢のその後は描かれていない。
ミルクが王妃となったのか、否かも…。
アルティナもまた訊きたかったのかもしれない。一生もう『訊く』事など出来ない過去に…。
「……埒もない事ね。」
「御主人様、もう一杯要る?」
「ええ。お願い、イン」
「ん。」
無口な魔導人形の給仕に返事をし、空のカップにホットミルクをサーブする姿をボーッと眺める。
空調も照明も整ったこの施設は…母の腕の中以外ではアルティナの唯一の安らぎの場所だ。
──かつてのマテリアル所長はどんな人物だったのだろうか…。
ご先祖様の偉大なる遺産──<スティグマ研究所>。
ここの存在に気付かなければ、アルティナの人生は意味のないものだっただろう。
<神>との交信が出来たのも…この研究所にあった“祈祷室”で実際に邂逅を果たし、言葉を交わしてから…アルティナはこの世界からの脱出を目指す事にしたのだ。
………。
何故?
問いは無意味だった──だって。
死人に口無し──猿轡されている現段階に於いてはまったくの無意味でしょ──?
「この者…あー、えっと…エロウィ──じゃなかった、エドウィン・パルテノン・グレンガリア王太子の情婦──じゃない、愛人…でもない、えっ?これ…言うの?マジで?!…チッ、こんな仕事遣りたくねぇぞ。…文句を言うな?非番だったのに俺、急に呼ばれたんだぞ!?…あーもう面倒だ!つまり、浮気を咎められた王太子がキレての本日の斬首刑となりました…!!
──こほん。では執り行います」
…随分と喋る執行人だこと。
猿轡をされていても目はばっちりとその風変わりな“執行人”を捉えてた。
<恋>とは違う。
…単純な興味。
ざんばらな黒髪に無精髭の27、8歳前後の…その深緑の瞳が印象的であった…。
流された噂は悪意に塗れ、尾ひれに背鰭、爪に牙まで生やしてしまうほど酷いものであったが──
…こう見えても頑張って居たのだけれど。
「王妃教育」の他に「領地経営」の勉強も…。
今だって私には時が止まったように見えるけれど……時は着実にその時を刻む…。
───ザシュッ!!
ゴーン、ゴーン、ゴーン━━ッ
━━享年16歳。早すぎる死だ。
この後の王国の未来は分からない──ただ、彼女の長く愚かな恋心に別れを告げたのは確かだ。
「王国」が繁栄したのか、衰退したのか…はたまた内乱に発展したのか、件の浮気相手──男爵令嬢のミリア・ピュレーとは婚姻出来たのか否かも──既に来世の彼女、「アルティナ」にはどうでも良いことであった…。
…………。
「…んっ、はっ!……はあはあっ、っぁぁっ!!」
ガバッ!!
思わずと、飛び起きた…深夜2時過ぎ。
人々が寝静まり、ここ『マテリアル公爵家王都邸』にも夜の帳がとっくに降りている時間…。
「…最悪!!なんで…、なんでッ!殺された時の事を夢に視るのよ……!?」
「それは御主人様が過去を過去と思えていないから…ではないでしょうか?」
冷や汗をびっしりと背中に掻いた青銀の髪の美少女が引き攣った頬をそのままにベッド横に佇む同じ顔のパーツ、同じ背格好、同じ声質の──魔導人形。
──…彼女『イブ』は傍らの…ベッドに座ったままの美少女──アルティナは無表情のままに返す魔導人形に苦笑を浮かべた。
「…イブ……随分と辛辣ね…。」
「?私にそのような機能は御座いません。」
…このイブ──造った当初から無機質で無愛想な魔導人形であった。
彼女はアルティナが行きたくない、会いたくないと言った時や人に代わりを務める──為だけに造った魔導人形──…、機械と魔導的要素を組み合わせた技術の粋を集めた<機械仕掛けの魔導人形>である。
…他にも150体の魔導人形が稼働中だ。
…通算4回も「自殺」した身では説得力はないが──多少は「あの」王太子の意識改革をしようとした──秒で諦める事になるとは…思わなかったけれど。
「…記憶結晶も、私の記憶を核であるドラゴンの魔石に籠めてある癖に。
……何を言うの?」
記憶結晶…文字通り、空の魔石に記憶移植を行って作ったもの──この「イブ」にはアルティナの前世を含める通算5回分のアルティナの「人生」が…「記憶」が込められている。
…全て無意味。不必要。
偽りの愛情など要らない。
家族も、「婚約者」も──全て不要だ。
どうせ、偽りの愛情しかないのなら──魔導人形でも良いでしょ?
…私は「彼ら」を見限る。
…彼らも「私」を見ない。
──なら、構わないでしょう?
私を理解してくれたのは──今10歳の私の産みの母だけ。
後半年で──殺される。
継母となったあの毒婦──私の異母姉妹となる、ミリア・ピュレー男爵令嬢の実母。
名を──〝カミラ〟。
…因みに名の由来は地獄に咲くと言われる仇花─…そう、仇を討つ、とか…『恩を仇で返す』とかの語源となった地獄の底に咲くとされる真っ赤な彼岸花に似た花の。
この花は仇を討ちたい人の前に現れ、愛情を持って育てればその者に助力する。
反対に雑にすれば──仇を討ちたい人を誘引する。
普通の彼岸花と違ってこの花は…意思があり、人の言葉を理解する。
時折念話で『あの肥料は美味しくない』とか『ああ、この水は旨いな。もっと寄越せ!──ん?偉そう?そんなの当たり前だ!俺様、仇花様だからな!!』とか…自己主張してくる。非常に鬱陶し━━賑やかな花?だ。
……なぜ、そんな事を知っているのか…って?
母が━━その、…種を持っていたのよ。
今領地にも…勿論、この王都公爵邸の庭にも咲いているわ。
……え?地獄の花じゃなかった、…って?
………。
知らないわよ。本人?本花?に聞いてよ。
前に訊いたときは…『なんか風に呼ばれた気がしたんだ…フッ』とか花の癖に黄昏た事を言っていたが……たぶん、何も考えていないわ。“格好いいから言ってみた”感が強いから。
カミラなんて女性的な名前なのに大概の奴が男性的?雄しべ的?な性格だし、口調だし…念話で届く声は男性的な低いものばかりだ。
地獄の花…とされているカミラ━━今ではマテリアル公爵領を代表する三大花━━桜、椿、彼岸花━━となるほどに咲きに咲いた。
…カミラ・ピュレー男爵夫人━━お分かりだろうか?
この女、結婚しているのだ、ピュレー男爵と。
…アルティナの血縁上の父と…W不倫━━現代日本だと非難ごうごう、大バッシングの嵐だろう。
しかもアルティナとミリアの年の差…僅か半年。
━━お分かりだろうか?
入り婿の癖に妻が身重の時に他の女性と…寝所を伴にする、圧倒的(下半身の)だらしなさ。
しかも、婚姻後直ぐに他の女性…相手の女(カミラ)も親同士が決めた結婚、正直──ピュレー男爵が可哀想だ。(まあ、ピュレー男爵とカミラの間にも嫡子がいるので男爵家はその子が継ぐので問題ないが)
正直──「政略結婚」以外で結ばれる筈などなかった縁だ。
蛇鶻の如く嫌っているアルティナからすれば──〝血縁上の父〟としか元マテリアル公爵には思う所は何もない。
…アルティナ・マテリアル、10歳。
生きている母に真意を問い、父を男として愛しているのか、と訊いた。
『いいえ、ただ…離縁は外聞が悪いし…その、ロードリアン様の事は……今でも好きになれなかったわ…あなた(アルティナ)がお腹に居た時からはそれは顕著だったわ…でもね、私も貴族の娘。況してや入り婿を娶る必要があった我が公爵家は…野心のない……公爵家よりも下格の貴族家から婿を取った。
幸いにもアルゲイム伯爵家は家の派閥だし、当主は別に居るし…ロードリアン様は三男だから…角も立たないし…。』
…と、なんぞ言い訳がましく段々と小声になっていく母、アリアスフィアに当時5歳児のアルティナが本気で説教をしたのも──今ではひどく懐かしい。
あの男──ロードリアン某とやらは『浮気男』と謗りを受け、…元妻の殺人未遂の罪で10年は王城の地下牢から出られないだろうし、カミラ・ピュレー(元)男爵夫人は…アリアスフィアの殺人教唆、殺人依頼を裏組織に依頼していた証拠と共に打ち首にされた。
…そのカミラとロードリアンの娘、ミリアは……国一厳しいとされる北の修道院に預けられた。
対外的には母のアリアスフィア・マテリアルが女公爵となっているが…、実権は全て当時6歳の頃からアスティナが握っている。
母はお茶会を開いて宣伝と外交を請け負って、アルティナは開発・営業、運営に奔走している。
…王太子?あいつは……屑だ。泥棒猫を退けても──通算3:2回で別の格下貴族の娘と浮気をしたし…。
“2”はミリアで“3”がその他の女性。
王太子の本質は変わらない…なら、見限るのも──当然、でしょう?
間違っても公爵家から打診した事等ない──王家の、グレンガリア王が独断で決めた事。我が公爵家の後ろ楯欲しさに。
…いや、無理だから。
浮気男の屑王太子……そもそもが前提条件が間違っている。
アスティナは今や女公爵──対する王太子は今はまだ第一王子。
ただの「王子」と名の付いた子供に過ぎない。
…後6年までに<方舟>の製造を完成させなくては。
5回死んで6度目の──今度こそは生き延びなくては。
………。
「…そんな事もありましたかね?」
「いや、小首を傾げるとか…古代の技術って凄いものね」
「はい、…まあ、滅んだので大したことはあまりないのですがね。」
「古代の遺物が元創造主を酷評するもの?」
「…するもの、です。御主人様」
無愛想、無表情の魔導人形…イブはアルティナが成長する度に追加と刷新を繰り返した…霊子を動力に稼働する魔導人形。替え玉として、また…影武者として使用する為に戦闘魔導人形としても…保管されていた太古の記憶結晶を解析、そのまま流用した。
マテリアル王都公爵邸──その地下の地下の奥深くに──魔術式隠蔽魔術が施されていた<転移陣>…その先に太古の遺跡がそのままの形で残っていた。
紙媒体の図書エリア──「資料室」には多くの本が保管されていて…一つ一つ保護魔術が掛けられているのか…まるで昨日今日書店に並んだような真新しさの書籍が数多くあった。
無論、古代語の為…翻訳は未だ全ての本を済ませてはいない…、が。
背表紙だけで目的の『魔導人形の製造について』や『魔導人形の仕組み・序』や『魔導人形の仕組み・次』や『魔導人形の仕組み・完』に『方舟の製造に着手、その経緯、考察』(これは全部で1~30まであった。)
『超難易度魔術書Ⅰ』・『超難易度魔術書Ⅱ』・『超難易度魔術書Ⅲ』…それから『汎用性魔術1・2』や『召喚魔法』なんかもあった。
…これら大昔の遺産や遺物を━━超古代遺物と称し、人間の国の権力者━━取り分け王とか皇帝とか貴族とかと言った奴は。
…学者にとっては学術的な価値しか見出ださないが──、権力者にとっては古代の遺物は遺産となる。
魔導兵器の一つでも手に入れば──大幅な戦力の増強となる。
魔術書の一つでも見付かれば…それはそれで魔術師の強化となるのだ。
……その古代遺跡、<スティグマ研究所>は太古の頃からマテリアル公爵家の血にのみ反応するらしく、あの異母姉妹のミリアやらカミラ、ロードリアンは立ち入る事すら許されないようだ。
…防衛機構が働くし、そもそも<転移陣>すら無反応。と、所長室の手記より翻訳して知った機能だが。
スティグマ研究所へは転移陣で一瞬だ。
…そもそも転移陣は領地の領主館の地下にも続いていて…、<スティグマ研究所>を経由してあちこちに点在する<転移陣>の解放と再登録を今急ピッチで進めている。
「…もう起きたし…このまま研究所に行こうかしら」
「左様ですか」
素っ気なく答えるイブに手を振って手早く寝間着の上から白衣を羽織った。
135㎝の背丈、水銀の長く真っ直ぐな綺麗な髪に…琥珀色の瞳を意思の光に宿して。
領主用の主寝室はかなり広く、ロードリアンを追い出してからは家具も寝具も一新した。
…王太子との婚約は何とか保留に止めた。
解消出来ないなら──その前に方舟を造り上げてとっととこの世界からとんずら──んんっ!…新天地を求めて星の海へ渡りましょう。
エドウィン王太子……本当に救いようのない人。
子供の頃は純真無垢で可愛らしい方だったのに…。
どういう訳か──貴族ならば大抵が王都にある王立学園に通う、13歳から16歳までの3年だけ通う。
学科は全部で3つ。
騎士学科、魔術師学科、一般教養学科のどれかを選考し、最近は才能ある平民も通えるように新たに商業学科と冒険者学科が新設された。
その分生徒数も倍増、王立学園は全寮制の為…“平民用”の寮も増築。
アルティナも後3年くらいで入学・入寮が決まっている。
…因みに1回目では
アルティナが魔術師学科、エドウィン王太子は一般教養学科…貴族は概ね魔力の多い配合を求めて時に平民でも妾や側室に迎え入れたりしている…その為、必然的に魔術師学科と騎士学科は貴族が多い。
次点で、一般教養学科。
…これは紳士&淑女を養成する授業もあって、貴族としてな当たり前の教養・知識・マナーを学ぶ学科で、実技には実際の夜会や『お茶会』を想定したものが開かれたり、エスコートの仕方、お茶会の場でのNGなワード、NGな会話、反対に「良い」とされる会話運び、突発的なトラブルにどう対処するか、とか…本当に貴族や王族には必要な知識を学ぶ学科である。
また“ちょっと”裕福になった平民の商家の娘や息子もまた貴族を嫁や婿に迎えようと、この学科で交流や知識を学ぼうとする余裕のある裕福な平民が希望する学科でもある。
騎士学科は言わずもがな、卒業後は王国騎士団に就職し、上からの命令で国内なら何処へでも赴く騎士の一員となる。
(この時に一応アンケート用紙で希望の騎士団、または地域を書けはするものの…全て必ず希望通りには行かない)
…大概は人員の足りない所──事故や怪我、任務中に殉職等で減った騎士の代わり──へと回される。
…まあ、功績かなんかを立てた時に褒章の一つで希望した騎士団に異動出来たりするが。
伯爵家以下の三男坊や四男、女しか産まれなかった侯爵家や辺境伯の長女も…己を鍛えるために希望することもある。
他にも純粋に国へと士官する平民もいる。
冒険者学科は冒険者を目指す貴族の三男坊、四男や次女、三女か平民の子女が多く在籍し、寮母は元Sランク冒険者の女性が勤めていて気さくな性格と美味い飯で評判で…男子寮の寮母はその女子寮の寮母の妹らしく、旦那は学園の守衛と。
夫婦揃って学園で働いている。
商業学科は商人のいろはを現役の商会主が講義を不定期で行い、日々のカリキュラムは現役の商会長補佐の商人達が持ち回りで執り行う。
主要国産品の年間の採れ高に比例する来年の作付け面積…なんかの計算や基本価格の設定の仕方、相場とはなにか、物流とはなにか…そう言った基本の事から実際に物を売るときの需要と供給、利益率はどのくらいにするか、とか。
そう言った即戦力になりそうなものまで幅広く学ぶ。
「簿記」や「計算」…「法律」なんかも学ぶ。
希望するのはやはり、継ぐ家や爵位のない貴族の子女、商家の娘、実家とは別の商家を興そうとする新興商人希望もこの学科を選ぶ。
起業から軌道に乗るまでのノウハウも学べるので…何気に希望者が多い。
…。
2回目の人生からはそれぞれ別々の学科に進んだ。
騎士、魔術師、商人、冒険者…それと「留学」。
最後の留学は帝国にしたが…いや、まさか他国の“ザマァ”に巻き込まれ事故で流れ矢が飛んで来るとは…や、あれは避け切れない。
弓を射ったのは帝国の“蒼穹の皇子”と呼ばれた当代きっての弓の名手、アダムス・ロナン・ヴァルフレイム皇太子の流れ矢……、ちょうど対象の直線上にいた為、彼方の公爵令嬢共々胸を貫通したまでだ…完全なる貰い事故である。
……あれ、わざとじゃないよね?
未だに謎である。
その為、この6度目の“やり直し”は帝国への「留学」は考えていない。
……。
……領地に引っ籠ろう。
別に貴族だから「学園」に通わなくてはいけない、なんて法律はない。
皆「なんとなく」や“義務”で行っているようなものだ。
…それに必要な技能はその都度自分で選んだ学科でものにしてきたし。
━━王都公爵邸地下に空洞の違和感を覚えたのは…今世の赤ん坊の頃。
戯れに探って見たら──ビンゴ。
赤ん坊のままだと動けないので魔法で前世で死ぬ直前の姿に変化して「その場所」を目指した。
…以後は0歳児にして、本の虫と化したアルティナは変化しては地下の隠された魔法陣から<スティグマ研究所>へと通っては読書をした。
?その時、寝室はもぬけの殻…って?
違うな、寝室には身体を置いて、精神体で地下の転移陣で研究所へ飛んでは読書。
研究所は幼いアルティナにとっては興味深い遊び場であった。
──何時しか決められた役を演じるなら魔導人形でも構わないだろう、と気付いてからは殆んどの煩わしいものは全てイブを造った時に「全て」押し付けた。
…父親との食事も、父の視察にすら同行するのは魔導人形。
本人は仮面を着けて魔導人形っぽく変装した状態で母の個人的な休憩に同席していた。
…人払いが為された場だと普通に仮面を外して母と沢山話をしたし、過去の記憶を悪夢として見て泣いた日には泣きながら抱き着いてくるアルティナをアリアスフィアは優しく抱き締め凍えた心を温めてもくれた。
アルティナは父に冷遇されていたが、母には溺愛されていた。
…だから、今世の「アルティナ」もまた…壊れずに済んでいるのだ。
……。
「…と、到着。」
四方何処を見ても──灰色。
普通に視ただけではただの何もない「小部屋」。
「…マテリアル所長が<研究所>への転移を希望。転移陣を解放せよ」
静かに部屋の中央まで進んでからそう口にすると━━
キィィン━━ッ
微かな耳鳴りのような、僅かな違和感の後──床一面に広がる魔法陣…蒼白い幾何学模様の陣は僅かに発光し、陣の上のアルティナを一瞬の内に…研究所へと移動させた。
「はい、到着。」
「…少し早いと思われますが?御主人様…。」
「ああ、目が覚めたのよ」
「左様ですか」
「ええ。…とは言え私もこの時間から製作作業をするつもりはないわ。……そうね、資料室で適当な本でも翻訳しているわ」
「左様ですか、ならインにホットミルクを淹れるように要請しますね」
身長183㎝はある紫色の長髪の青い瞳の美形が耳朶を触り、銀色のピアスを触る。
…この“ピアス”こそが、魔導人形同士の意志疎通を図る魔導人形が造られていた遥か昔──太古の魔道具だ。
魔導の粋を極めた一品──見た目は武骨なシルバーのピアス。
そうとしか見えない仕様はピアスの他にもネクタイピン型、イヤリング型、コサージュ型、指輪型…と様々あった事から人の業を思い知る。
人間の歴史はそんなに大差がないと──アルティナはこれら<研究所>の魔道具から思い知る。
こんなものを必要とするのは権力者━━それも国の頂点と言う名の──「王」とやら、とか。
“──尊き御身を護る為──…”とかなんとか。
反吐が。王族なんか糞っ喰らえだ!何度死んだことか…。冗談じゃない。早く<方舟>を造ってこの世界から逃げなくては──ッ!ハッ!?(゜ロ゜)!?
「…思わず暗黒面に堕ち掛けてたわ…はあ、最悪。悪夢と同じで今日は1日最悪かも」
…砕けた恋心。それは確かに幼い少女が夢見た砂上の「恋」であった。
少女…アルティナは確かに同じく幼い「王子様」に恋をしたんだ…もう一欠片も残っていなくても。
『…きれい…あなたがおうじさま…?』
━━うん。僕が王子様だ。
君が僕のお姫様…?
『…おひめさま…。』
━━そうだよ。僕と将来結婚するなら…君が僕の“お姫様だ”──。
『…おひめさま…。わたし、が…?』
王城の中庭…、噴水の前で……幼い頃の少女が…、愚かな一目惚れをした。“お伽噺”の中の「王子様」に。
あの時、少女は──…
──無邪気に笑ったんだ。
恋に浮かれたんだ。
──それが、間違いであった、と…もっと早くに気付ければ──…。
──どうして…エドウィン様…ッ!!
○月×日──
…エドウィン様からの手紙が途絶えて一週間が経った。
今日も学園でエドウィン様は私ではなく異母妹のミリアを女子寮よりエスコートして行った…とても目立つ。
なのに──エドウィン様も気にせずアドルフ様達と一緒に異母妹を囲んで登校していった…。
ミリアとエドウィン様は同じ一般教養学科…。
クラスは別の筈なのに……どうして?胸騒ぎがする。
○月×日──
…エドウィン様とミリアが温室で仲睦まじくキスをしていた。嘘。嘘だ。嘘だと言って…。
ふらふらしたまま噴水広場を歩く。
頬を何かが伝う…誰かに何かを言われたが……気にせず教室へと戻った。
○月×日──
…婚約、破棄……。
分からない、分からないわ。エドウィン様…お母様…ああ、こんな時お母様が生きて居れば──…ッ!!
…翌日私の斬首刑が王都の噴水広場で執り行うそうよ。
分からない、分からない、分かりたくない──ッ!!
エドウィン様…エドウィン様!!
好きだった…そりゃ、激しく燃え上がるほどの…温度ではなかったわ。
けど…けどね、“おうじさま”が私の初恋だった…なんで。ねぇ、おうじさま。私の…、おうじさま。私の、私のこの想いは──…あなたには不要なものだった…?
──私を殺したいほどに、そこの女の方が魅力的だと、言うの…?ねぇ。
─────────
───────
これ以降の記憶はない。…三流作家が書いた話より酷いお伽噺。
少女が受けた苦しみは、怨嗟は…未だに燻っている。
だけれど──私はなにもしない。
…だって、この世界──私が16歳になるのを待たずに滅ぶから。
「私」が何かをするのではないわ。
…「神様」から直接聞いたもの。
〝聖ネプチューン歴2016年1月1日──この世界、皹割れた卵は神の審判が下るだろう〟
〝大地は割れ、津波が国を、人を水底へと沈み、燃え盛る紅蓮の炎は木々を灰へと変えるだろう〟
〝見捨てた大地に、見捨てた国に、見捨てた人に…神の微笑みは二度と向けられる事はない──〟
…この<神託>が下りたのはアルティナが産まれたその日の午後三時であった。
──アルティナには神からの祝福が授けられている。
1回目は理由が分からなかった…だが。
【祝福:原点回帰】
…魔術師学科を選んだ時に学んだ魔術<鑑定>で知れたこと。
【祝福:原点回帰】──効果は死亡した時好きに過去へと飛び、人生のやり直しが出来る能力。
記憶も経験も所持品も所持金も持ち込んだ状態で。
アルティナは他にも【祝福】を持っていた。
【祝福:無限収納】、【祝福:機械神の寵愛】、【祝福:魔導の真髄】
【祝福:無限収納】は文字通りいくらでも入る異次元空間に物を出し入れできる。(生物以外)
入れた物は時間停止の魔法が掛けられ、状態を維持し続ける。
【祝福:機械神の寵愛】は魔導人形を造る時になんとなく手順が分かる、とか…造った魔導人形により感情を、魂を定着させられる製作補助が付く。
機械系の魔物が無条件でこの祝福を持つ物の支配下に入る。
支配下に置いた機械系魔物が倒した魔物の経験値はそのままそっくりこの祝福を持つ者に譲渡される。
ダンジョンの機械系トラップ自動無効化。
【祝福:魔導の真髄】
使用する魔術の効果極大アップ、
能力低下魔法の効果超絶アップ、
能力向上魔法の効果超絶アップ、
新たに魔法を創造する際のMP消費量極大ダウン、
極大魔術、極大魔法使用時のMP消費量超絶ダウン。
…どれも強力な【祝福】だ。
アリグレラでは【祝福】を持つ者は結構居たりする。
大概は【剣術】とか【体術】とか…【火魔術】や【癒し効果小アップ】とか。
持っている【祝福】によって将来を見詰める指針となる。
…まあ、アルティナの将来は【マテリアル女公爵】だが…。
魔術も剣術も極めた…商人は……個人資産が増えた。
冒険者がこの中では一番刺激に溢れていたな、とアルティナは思い返していた。
「…ふぅん。これ、恋愛小説ね……しかも不倫モノ。タイムリーだわ」
「…そう。ホットミルク出来たわ…飲む?」
黒色ワンピースに白のエプロン、メイドキャップ…桃色の髪にローズクォーツ色の瞳は大きく円ら。薄い桜色の唇に林檎のほっぺ、白磁の肌…。
豊満な胸に括れた腰、スラッとした手足は魔導人形と分かっていても男なら思わずと手を伸ばしたくなるくらいには魅力的な姿形だ。
整った顔立ちにセクシーボディー。
…だが。その口調や性格は残念である。が。
左側サイドテールの髪型がよく似合う。
ミルクの甘~い薫りが鼻腔を掠める。
蜂蜜を溶かしたホットミルクは身体の芯から温めてくれるようだ。
冷や汗で冷えた背中が温かくなる。
マグカップを持つ手も自然と温まってくる。
「…ふぅ。美味しいわ、イン」
「…ん。お粗末様?」
「いや、問われても。」
「?…そんな事よりその本、面白い?」
「…ええ、まあ……って。インは読んだこと無いの?」
「んー…、読書は趣味じゃない」
小首を傾げてアルティナの問いに平坦な声量、声音で
「…私は日当たりのいい四閑で昼寝するのが好き。いつまででも眠れる」
昼寝好きの魔導人形…。
「猫か」
「?ロイじゃない…珍しい。資料室に来ることなんて滅多にないじゃない、ロイ」
「…いや。なんかあいつから念話されて…護衛しろって」
赤髪に青紫色の切れ長の瞳、スラリとした手足、ほっそりとしながらも仕立ての良い黒衣の燕尾服、手袋まで黒で纏め僅かに白は中のブラウスくらいだろうか。
190㎝の高身長、ほどよく付いた筋肉がまた服の上からも僅かに窺える。
イブ同様に戦闘魔導人形、インは給仕魔導人形。あらゆる国、地域の紅茶、お茶、薬草茶、茶菓子等の知識が備わっている給仕する事に特化している。
無論、ベッドメイキングから掃除・洗濯・客人の案内(研究所に誰も招いた事はないが)なんかも普通にこなす。
…今ではこの<スティグマ研究所>の全施設の掃除を担当しているのは給仕魔導人形達だ。
持ち回りでローテーションを組んで飽きが来ないように順繰りでしているとか。
「イブが…あの子…過保護ね、ふふ。」
アルティナは脳内に無機質で無表情なぶすくれた影武者の顔を思い出していた。
「おぅ、不肖この俺──戦闘魔導人形、No.50、ロイが御主人様の御身を今暫くの間護らせて頂きますよ──お嬢様?」
仰々しく腰を折って手を差し出してきたロイにアルティナはからからと声をあげて笑った。
「ふ、ふふ…似合わない、わね…あははっ!!」
ロイに敬語は似合わない──と、アルティナは腹を抱えて笑った。
「…ああ、やっと笑ったな」
「…ん。御主人様、ずっと指先が震えていた。…緊張しているように見えた」
「…けどやっと笑った…もう大丈夫そうだ」
魔導人形2体は己の主に造り出された時から恩義を感じていた。
…微かには残っているのだ、“もう前の主も役割もないのだ”と。
ぽっかりと空いた核に御主人様が心を、思考する自由をくれた。
No.50━━ロイと、
No.19━━インもまた生み出してくれた主に感謝と忠誠を誓ったのだ。
役割は与えられたが、普段は自由にしてくれていい、と…王都公爵邸の邸の警護、アルティナの護衛、主の母の護衛…どれもローテーションを組んで交代交代で務め、尚且つ領主館にも戦闘魔導人形は詰めている──…人間に紛れて。
…だからこそ。主の感情の機微に敏感になる、過敏になる。
…人間は簡単に死ぬから。
太古の昔から人間の心の脆弱性は変わらない。
容易く悪にも善にも染まる──それ故に失くさないと。その「心」を主よりも誰よりも…「護る」のだと。
…アルティナが自殺したら、魔導人形では止められない。止める事は出来ない。
通算5回死んだこと…人間魔導人形は記憶結晶から知っていた…いや、イブから流された霊子伝達で知った記憶、過去。
「心」が痛むとは…「心」が死ぬとは──主の事だっただろうか、と。
作り物の心ではその“全て”を理解する事は出来ない。
…この身を構成するのは、魔物の骨、魔石、魔鉱石…織り成す魔術式の螺旋…。
金属と魔物の骨と魔鉱石で出来た無機質な鉄屑。
…限りなく人間に似せた『人形』。
核に使用している魔鉱石がミスリル以上でなければ定型文しか口に出来ない我等は──主の心を正確には捉えきれないのだろう…。
イブを含め151体の魔導人形…『後どれだけ性能更新すれば──貴女を護れるだろうか。』
「護る」と言う言葉は難しい。
身体だけ護ったって意味はない。
「心」を宿した魔導人形は…その事を知っていた。
高過ぎる頭脳が、主の「自殺を止めること」を…否定した。
…始まりは「イブ」だけだった。
2回目の「人生」から…アルティナが八方塞がりになると……簡単に「自殺」を選ぶ主を……「イブ」は見逃した。
…邸の全てを収納し、最後には邸すらも収納して…毒を呷ったイブは無機質な瞳で看取っていた。
誰かに殺されるぐらいなら──己の手で死を選ぶ、と。
またあの風変わりな“執行人”の尊顔は拝んでみたいけれど…、毎回嫌な役回りをさせることもない、と…アルティナは思ったのかも知れない。
全ての記憶を引き継いだイブがアルティナの「想い」をそう推測する…。
イブの指摘に微苦笑してアルティナは「…正解よ、イブ」とだけ口にした。
最初の一度目以外は…極力王太子や男爵令嬢は避けて勉学にのみ力を注いだのに──原点回帰をせざる負えない、とは…。
彼ら──“ミリアを囲む会”の面々の執着心は相当に粘着なものだ。
言わずもがなその筆頭たるエドウィン王太子、
騎士団長嫡男フィリップ・バートン、
宮廷魔導師長次男ミクシミリアン・カイゼル、
宰相令息アレグロ・フォン・アルゼイド公爵嫡男、
新進気鋭の商会、ロープス商会会頭三男、ラミアン・ロープス…この5名がミリアを囲んでいた。
面白い事にこの5人……他の浮気相手では別に囲んでも居なければ、特段の興味も湧いていないと言う事だ…。
ミリア・ピュレー男爵令嬢。
アルティナの異母妹であるこの女には世にも稀な──光属性の祝福があった。
同じく闇属性も稀に見られる将来魔術師になることを推奨される祝福…。
光属性は治癒と──魅了の魔術に特化していた。
?“光”なのに、闇っぽい…って?
──この世界、アリグレラでの神々の【祝福】は表面上の能力ではなく、所持者の心にも寄り添うものとして在る。
レベルがあって一定量の経験値でレベルアップ。
【ステータス】があって、HP0が即死──MPは0でも一晩眠れば翌朝には全回復している。
…どちらも最大値から8割も切ると意識が朦朧とし、意識が混濁する。魔力は9割を失うと気絶する。
体力は9割を失うと生命維持は著しく低下。
自力での歩行も意識を保つことも不可能となる…。
…光属性の【祝福】所持者は治癒魔法が得意で利用されないように、<魅了>魔術も同等に習得する…ようになる。
同じく闇属性は──影を操る魔術や魔法に特化しているし、呪いや毒なんかも魔法で生み出せる。
荷物を影に収納してアイテムボックスの代わりにする事もできる。
光属性の<魅了>に対抗するように、魅了の上位互換…<傀儡>で闇属性の魔術師は無意識に光属性の魔術師を操ろうとする。
…レベル差が圧倒的に開きがあればそこまでの本能的な警戒はしないのだが。
北の修道院へと入られたミリアは…レベル上げの機会等……たぶん、一生ないだろう。
北の修道院──人々の祈りの場でありながら、食用に適する魔物──オークやマグベアー、ミノタウロスの頭数が減ると……山の中復に設けた“祠”に修道院へと預けられた<貴族の娘>からそこへと送られる。…魔封じの腕輪を着けられた状態で。
…北の修道院──聖ノーザンブリア大聖堂は豊穣の女神、アリスティアを奉る女神教徒の巣窟だ。
元からの身内──修道女や修道士とは別に何か貴族社会で粗相をして送られてきた貴族子女の矯正
をも執り行う場としての一面もある。
…年若い貴族の娘ならその“祠”の<生け贄>となるか、年若い貴族の息子ならば──文字通りの生け贄として「食われる」。
…表向きには『日々を恙無く贖罪と祈りの日々に費やしている』事になり、生死は不明となる。
…それら魔物の“苗床”となったのか、食われたのかは──次の<巫女入山の儀>までは誰も訪れないので…分からないのだ──巫女以外は。
北の大聖堂は四方を氷山と絶海と絶対零度の気候、雪と山と氷しか目に入らない厳しい場所にある。
冬の時期は毎日春の時期の収穫で獲れた魔物肉と山菜、寒さに強い野菜を氷室へと保管し、冬越えに備える…のだが。
稀に、極稀にまったく獲物が獲れない時期もある。
…そういう時に<生け贄>を捧げ、頭数が増えるのを待ち、狩りに出掛けるのだ──周囲の住人は。
…北の修道院はそう言った貴族子女の最終流刑地でもある。
実質死刑である。
来る途中も怨みを持つ者らの依頼を引き受けたならず者や暗殺者が道中を尾行していたり、逃げ出そうとした瞬間に盗賊や山賊に捕まってズタボロにされて──後に奴隷商人の店に商品として並ぶ事になったり…。
どうしても<巫女>が集まらなかった場合は犯罪奴隷の女性から何人かを教会が買い上げて“祠”へと送る。
<生け贄>が定期的にある限りは、魔物は中腹以上下へは降りて来ない。
「…昔にもこの北の大聖堂はあったのね。
…その頃から今と変わらないまま<生け贄>を捧げていた…この男爵令嬢も愚かよね。“王子様”と言うブランドに惹かれたにしても……少しは考えないのかしら?
国が決めた婚姻を圧倒的に身分が低い己が割り込んだらどうなるのか、とか」
アルティナは冷め掛けたホットミルクの最後の一口を胃に納め今読んでいた物語の終わりに一人言ちた。
『可憐・男爵令嬢~出逢い編~』
『可憐・男爵令嬢~恋愛編~』
『可憐・男爵令嬢~断罪編~』
の全部で三部作、各300ページ、3万字ずつの大作…。
恋愛小説でありながら生々しい貴族の描写から…著者は貴族に連なる者だったのだと、窺える。
物語はこうだ──
王宮のパーティーに国中から貴族子女が集められ、舞踏会が開かれる所からスタートする。
その舞踏会は貴族の交流を元にして開かれているが──その実、王太子の婚約者、公爵令嬢の御披露目パーティーでもあった。
そのつもりでいたし、事実王太子は公爵令嬢のマリア嬢をエスコートしたし、揃いの装い、揃いの色彩で舞台中央でファーストダンスを踊っていた…そう。
男爵令嬢──ミルクが不躾にも躓いて王太子の上に圧し掛かる事態にならなければ。
…頻りに謝る男爵令嬢に……王太子はマリアにない、庇護欲を大いに刺激されて…気にすることはない、とミルクの頭を撫でて慰める──隣の公爵令嬢の顔色も気にせずに。
「分かる、分かるわ。マリア…あなたは悔しいのでしょう?それこそ産まれた瞬間から未来が決まっていた己と王太子…そこにぽっと出の身分卑しい男爵令嬢が王太子の笑顔も心も掠め盗ろうとしている──さぞ心中穏やかではなかったでしょうね」
…アルティナは「行動する」威力はなかった。
だが、作中の「公爵令嬢」は実際に男爵令嬢に執拗なまでのイジメと冷遇をした。
──…周りの声など聞こえないぐらいに。
公爵令嬢の最期の言葉…
“ねぇ、アルフ…私の事は好きではなかったの?”
は、ギロチンに掛けられる瞬間まで紡がれる事はなかった…公爵令嬢、マリアの本音だ。
……因みに、この物語では男爵令嬢のその後は描かれていない。
ミルクが王妃となったのか、否かも…。
アルティナもまた訊きたかったのかもしれない。一生もう『訊く』事など出来ない過去に…。
「……埒もない事ね。」
「御主人様、もう一杯要る?」
「ええ。お願い、イン」
「ん。」
無口な魔導人形の給仕に返事をし、空のカップにホットミルクをサーブする姿をボーッと眺める。
空調も照明も整ったこの施設は…母の腕の中以外ではアルティナの唯一の安らぎの場所だ。
──かつてのマテリアル所長はどんな人物だったのだろうか…。
ご先祖様の偉大なる遺産──<スティグマ研究所>。
ここの存在に気付かなければ、アルティナの人生は意味のないものだっただろう。
<神>との交信が出来たのも…この研究所にあった“祈祷室”で実際に邂逅を果たし、言葉を交わしてから…アルティナはこの世界からの脱出を目指す事にしたのだ。
………。
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