私が、望むのは…

アリス

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プロローグ:道明寺万理と言う女

花と歌の街と冒険者

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吹き渡る風はどこまでも澄んでいる。

鼻腔に花の─…、ひまわりの香りを感じて目を綻ばせる万理。

 「…まだ先なのにもう香ってくるのか」
 「ああ」

花と歌の街アユタヤ──はその名の通り街の至る所で色とりどりの花を見掛ける。
外壁は白くどこか“不思議の国のアリス”に出てくるようなお城のようなかわいらしい丸い赤い屋根に白い外壁のこじんまりとした家々が並ぶ。

道中特筆すべきテンプレート──盗賊の馬車襲撃とか──は起きず、件の花の街へ。
門番に通行料(銀貨3枚)を手渡し、身分証発行するべくオズロンに冒険者ギルドまで案内させる。

初めての街は花と歌…──吟遊詩人の歌声──と共に万理の五感を刺激した。
鼻に届く花の香り──は、区画毎に植えられている種類が違うらしく、冒険者ギルドもある「花の中央区」は全体的に活発なイメージの強い花…マリーゴールドやデイジー、胡蝶蘭等が植えられている。

ここには冒険者ギルドの他に武器屋、防具屋、装飾品店、魔法書屋、雑貨屋、宿屋なんかが建ち並ぶ。

冒険者ギルドの真向かいに宿屋『花の乱』がある。大奥か。や、大河ドラマかなにかの。
……。
 「…そのネーミングってどうなの?」
 「そうは言ってもこの街では最もギルドに近く尚且つお手頃な料金で朝晩の食事付き&風呂付きの宿はここくらいだぞ?部屋を取るのだろう?」
 「…うん、まあ…その前に登録してから、だな」
 「なら行くぞ」
 「ん」
グイッと手首を引っ張られるようにして、その2階建てのダークブラウンの木造建築──建物の中へと入った。

 「…おお~!」

ふわり、薫るのは木の香り…むさ苦しいイメージの多かった異世界初の冒険者ギルドの中は思ったよりもすっきりとしていた。

観音開きの扉を潜れば目の前に床も壁も天井も木目の広々とした内装、バーのカウンターのように外壁と同じダークブラウンのテーブルが横一列な受付窓口の手前に流されている。
それぞれの窓口には仕切り板が置かれ、隣を気にせず応対出来るようになっている。

 「登録はこっちだぞ、万理」
 「!…ああ」
とんがり耳のエルフに狼獣人や人間の青年が窓口に立っている。

…見ると左端にスキンヘッドの筋骨隆々とした筋肉ダルマ──じゃない、荒事担当と分かる職員の男が立っている。
目が合うとニカッと白い歯を見せてきた。
…うおっ、眩しい!!
新規の冒険者登録は右端──入り口から向かって真っ直ぐ進んだ所にある窓口へと案内された。

 「ニカ、こいつの冒険者登録を頼む。」
 「おや、オズロンじゃないか…分かった。お嬢さん、こちらに記入を…ああ、書けないなら代筆も可能だよ?」
 「…問題ない」
ショタ神ナクアの“言語理解”のスキル付与は言語に限らず文字にも対応している。
地球ではハングル文字+アラビア語を混ぜたような──この国の文字もまるでPCの焼き増しデータのようにすらすらと日本語のように書ける。

この世界も幾つかある人間種の国にはそれぞれ独自の言語と文字があって、それら「人間」の言語とエルフの言語、ドーワフの言語、獣人だとそもそも言語も文字ごちゃ混ぜで、広く知られている「大陸語」を標準語にして多種多様に種族毎、部族毎に言語の形が異なってくる──と、ナクアの魔法鞄にはあった。

 「…綺麗な文字を書くんだな…ああ、確かに。」
 「次はこのカードに血と魔力の登録だ…万理、この針で指先をちょっと傷つけてくれ」
 「分かった」
サクッとテンプレに使い古された“初登録の儀式”を行って──、

 「おお~!ギルドカードだ~~♪♪」

 「…冒険者にはランクが存在する。

初期はFランク…見習い冒険者だな。街の外への移動は現時点を持って不可だ。
街の中での依頼が主で依頼内容は溝浚いに迷子の捜索&保護、迷子の犬猫の捜索&保護、街の中でのお使い─…と報酬は少ないがこれは街の住人と新人冒険者の顔繋ぎの意味もある。なるべく受けてくれると助かる。

次にEランク──はやっと見習いを脱却した冒険者が就くランクだ。呼び方は新人冒険者、初級冒険者とあるが…見習いとは違って大きく違うのは移動の制限が解除になる。
依頼としては近隣の森での薬草採取やゴブリン5匹くらいの少数雑魚魔物モンスターの討伐、錬金術用の素材の確保や冒険者ギルドうちで出している新人冒険者用のサービス依頼クエスト──初級魔法の指南や武器の扱いの講座、簡単な剥ぎ取りや解体の実地講座が受けられる。
解体のスキルや魔法のスキルがなければここで受けて行くといいぞ?

冒険者は基本一つ上の依頼までしか受けられない。
因みに移動制限のある見習いは街の外へ出る依頼モノは受けられん。

…冒険者仕事は街の外以外もあるからな。見習いの仕事は街の住人への顔繋ぎと人脈だ。
面倒だが、怠らないように、な?

──ああ、後蛇足になるが2階にある“図書室ライブラリー”で周辺の森や魔物の分布及び周辺迷宮の情報が軽く載っている。
持ち出しは不可だが、閲覧は無料タダだ。

Dランク──は、やっと“新人”を脱却した冒険者…冒険者ランクをピラミッドで表した時最も下の土台がこのランクになる。EとFランクの者はこのピラミッドの枠からは外れるな?…まあ、このランクくらいならやっと近隣の村や街までの護衛依頼を受けられる。討伐依頼もオークやトロントなら5匹までなら同時でソロ狩りできる筈だ。
…どちらも動きは鈍く、オークの肉は食用に適するし、トロントに生る実は甘酸っぱく美味しいリンゴだ。
広く出回っている普通のリンゴの樹から生るリンゴよりも若干味がよく採取はちと難しい…その為買い取り価格も普通のリンゴの樹から採れるリンゴよりも高くなる。──理由は分かるだろう?
戦闘が激化する、若しくは魔法の矢が“実”に当たるとぐちゃっとなったらそのままの回収になる為、だ。
このランクから森での長期滞在──野営討伐も認められる。
…とは言えソロなら難易度Dランクのフィールドや迷宮に限られる──が。
Dランクパーティー(6人前後)ならギリギリ難易度Cランクのフィールドか迷宮なら2週間を目処に長期滞在が認められる。

Cランクは中堅冒険者だな。ちょっと難しい依頼も受けられる。野営の期間も無制限になるが、依頼によっては期限を設けているものもあるのでな…期限は守るように

Bランク──Cランク冒険者同様中堅に分類する。長期遠征や、国境を跨ぐ護衛依頼も受けられる。

Aランク──上位ランク冒険者だな。
これくらいになると指名依頼や“専属”の話も出てくる。

Sランク──危険な魔物や難易度の高い依頼を優先的に受けられるぞ──と言うか受けて欲しい。…こほん。なんでもない──一代限りの男爵位を領主より賜る。…拠点にしている街の領主か、代理から授けられるので、な。持っておくと貴族が絡んでくる諸々の面倒事を避けられる。

SSランク──は貴族からだけでなく国から指名依頼が舞い込む事もあるが実入りはいい。…受ける受けないは自由だ──まあ、大規模な魔力暴走スタンピードとかで街が飲み込まれそうな時は強制参加だが。…緊急依頼を正当な理由がない限り3回以上断ると資格剥奪もあり得る──気を付けろよ?
 
SSSランク──もう幻と言えるほど過去400年に1度1人いたくらいだな。
…古代の街では大きな街に100名ほどが在籍していた──と古文書には記されている。…真意のほどは分からんが、な

定期的にギルドへと素材を流せば依頼を無理に受けても良くなる──まあ、迷宮に籠りっきりの変わり者も過去にはいた──
“らしい”と言うのは、400年前より遥かに前の超古代時代の記載はまだ出土していないから解析も回収も不明のままだ」

…何やらフラグを立てられた。
やだな、それ…を集めろ、と?
…いやだ、絶対。

 「…尚、各ランク依頼を10ずつ受けると上がる──まあ、Cランク以上に上がる場合は依頼10件+実技試験だが、な」
 「実技試験?」
 「ああ、DランクからCランク、AランクからBランク、AランクからSランク、SランクからSSランク、SSランクからSSSへとそれぞれ上がる際に一つ上の冒険者と一対一サシで戦って勝つか一撃入れる事が昇級の条件だ」
 「…SSSランクの冒険者って居るの?」
 「居るぞ──別大陸だが。」
 「ふぅん、そう」
万理は自分で聞いたにも関わらず素っ気ない返事を返した。
 「お前が聞いたから答えたんだろーが──まあいい。規約とかはこの冊子でも読んでくれ」
 「ああ」

手渡された4Pと短い冊子を受け取りパラパラと流し読みする。

薄水色の透明な名刺サイズのカード…これが「ギルドカード」。
とても薄くて軽い素材で出来たこれはクレジットカード+身分証+盗難防止の持ち運べる金庫、だとか。

 「依頼の確認もステータスを開けば載っている。
倒した人・魔物の数も載るし、結構優れものだ。

ギルドに金を預けておけば手数料の1割負担が無料タダになる。預けるか?」
 「何フォルでも良いのか?」
 「おう、いいぜ」
 「…なら、100000フォル預ける」
 「ほい」
ギルドカードを手渡して何やら四角い板の上に置いてカタカタとノートパソコン?のような物を操作している。

 「…確認はステータス画面を開いて“ギルド銀行バンク”をタップすればあいい」

言われたまま、メニューを開いて新たに追加されたコマンド、「銀行」をタップすれば…確かに日本のATMのような項目が現れた。
“お預入れ”・“引き出し”・“残高紹介”・“ローン”・“振り込み”…と幾つかの見慣れた項目が読み取れる。

残高紹介──100000folフォル

 「…便利なものだな」
 「そうだろ、そうだろう」
うんうんと頷くのは…なぜか、オズロン。
…いや、なにお前が得意気になってるの?バカだろう。
……。



 「…買い取りをお願いしたいのだが」
 「ああ、買い取りカウンターに並んでくれ。
…カウンターに並ばないほど量が多いとか大型魔物の素材は裏口に大きな倉庫がある…そこへ直接行ってくれ」
 「わかった素材を流す」

オズロンと連れ立ってギルド裏手へ。

 「じゃあ──」

そう言って今までに魔物を魔法鞄から取り出す振りをして──一気に取り出して行った。一角猪を15頭、一角兎を6匹、アルラウネ4体、オーク5頭、ハイオーク10頭、吸血蝙蝠ナイトメアを12匹、瞬殺蜂キラービー5匹だ。

魔瘴の森を出るまでの戦闘でそこまでを狩った万理。

 「!状態がいいな…これほとんどそのまま使えるぞ…!」
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