獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
131 / 372
本編

慰霊碑

しおりを挟む
 復興中のリファラの王城跡地に、リリは複雑な思いを抱えてやって来ました。
 一度ボロボロに焼き崩され、その後に他国の様式にお城をリフォームされ、その後さらに沢山の人やモンスター達が押し寄せた結果、再起不能に崩れた王城跡地です。

 「見る影もない位にボロボロね」

 暗闇の中でもわかる位に崩れたお城を見てリリが言いました。
 悲哀の涙を流しながら、もうどうしようも取り返せない現実に空笑いしか作れません。ポッカリ空いた心を埋める様にネルビーにしがみ付いています。

 『リリっ、リリっ、あそこ!天辺の壊れた跡ってドラゴンの爪痕じゃないか!?』

 ネルビーも最初の巣が壊されて憤懣やる方ないと唸っていましたが、城の傷跡を見て今度は飛び上がらんばかりに興奮しました。

 「まあっ、本当!
 ……本当に色んな種族のモンスター達が手を差し伸べてくれたのね」

 ネルビーの鼻先に視線を移し光を当てれば、確かに城の外壁にはクッキリと太く長い大きな爪痕が残されていました。それも元婚約者の国章をあしらった場所にあり、思わず苦笑いになります。

 「それにしても随分と酷い有り様だ。リリも、他のみんなも良く無事でいてくれたんだよ」
 「本当にそうだね。亡くなった方達は残念だったけど……」
 「うん。だから三巳は争い事が嫌いなんだよ。失ったもの達は戻らないし、傷付いた心は永遠に胸に残り続ける」
 「そうだね。山は平和だからつい忘れがちになるけど、これが外の世界の現実なんだね」

 しんみりする気持ちを胸に、三巳達は城と街に長い黙祷を捧げました。
 三巳に至っては悲しい思いをした魂達の為に、神様仲間としてよしなにと、ちゃっかりお願いをしていました。

 (まあ、輪廻を司る神に知り合いはいないんだけど)

 「さて。それじゃあちゃちゃっと場所を作ろうか」

 黙祷を終えた三巳は、周囲を更に明るく照らして大きく尻尾を横に振りました。
 リリ達はそれに合わせて門跡地まで待避します。
 三巳はリリ達の安全を確認すると、その場で踊る様に尻尾を振り回します。
 すると足元に転がる瓦礫の山が、次々と浮いてクルクル踊り出しました。そしてそれが一箇所に集まり形を成していきます。

 「よし。こんなものかな。
 ロダー!あと宜しく」

 何となくモッコリと何かの形に見えた所で、三巳は耳と尻尾をピンと立ててロダを呼びました。

 「相変わらず前衛的だね」

 ロダは瓦礫の塊を見てクスクス楽しそうに笑います。
 リリも近付き見上げました。何を作るか知っていたリリは、けれどもそれが何かは良くわかりませんでした。

 『三匹の大豚か?』

 ネルビーが見えたままを素直に言いました。

 「うぐぅ。仕方ないんだよ。三巳は細かい作業は苦手なんだよ」
 「ふふふ、お絵描きはとっても上手なのにね」
 『でもたまに犬かウサギかわからない時あるぞ』
 「それが三巳の味だけどね。
 ええっと、それじゃあリリのご両親と、騎士他使用人達と、リファラの民と、モンスター達のモニュメントに加工するね」

 そう言ってロダは三巳の作った塊もとい、リファラの復興モニュメントを再加工していきました。リリとネルビーに細部まで確認を取りながらリリの為に一心不乱に心を込めて作りました。

 「これは……!」

 その出来栄えに、遠巻きに見守っていたハンナやリファラの民達が息を飲みます。
 リリは大きく見開いた目を涙で潤ませ、両手で口を塞ぐ事で感情が溢れ出るのを抑えました。そしてフラフラとモニュメントに近付くと、国王と王妃の形の足元にそっと触れて甘える様に額を付けました。

 「……お父様……お母様……みんな……」

 肩を震わせ嗚咽を噛み殺すリリに、集まった人々も貰い泣きです。各々に亡くなった大切な人の名を呼んだり、リリを案じて声を掛け慰めたりします。
 別れを惜しみながらも、モニュメント前の綺麗に広くなった場所に持って来た物を広げ始めました。
 切っ掛けは宴を開くと言ったリファラの民達に言ったリリの一言。

 「三巳に教えて貰ったのよ。墓前にオソナエモノをするとお空で見守ってくれてる人達も美味しく頂けるのですって」

 その言葉はリファラの民達の心に火を灯しました。
 亡くなった人達の為にもまだ出来る事があると。
 さらに遺影は写真がこの世界には無いらしく、遺物を用いようとしたリファラの民達に、三巳が銅像は傑物達だけのものじゃ無いと教えました。広島や長崎にある様なモニュメントもあると。
 それで出来たのがロダが完成させたモニュメントだったのです。
 悲しい出来事を忘れない様に。悲劇を繰り返さない様、後世に伝え残す為に。

 「お父様はチコの実が好きだったわ。
 お母様はリンゴ。騎士達と料理長は異国のお酒。メイドや侍女達は甘いお菓子」

 初めに、リリが用意した食べ物をモニュメントの前に備えます。
 黙祷を捧げて場を譲ると、次々と御供物が山を築いていきました。
 最後に三巳とロダがお香を上げて黙祷を捧げます。
 お香から出る煙は、集まった人達の思いを乗せて、何処までも何処までも高く天へと昇っていくのでした。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

みんなが嬉しい婚約破棄

あんど もあ
ファンタジー
王子の婚約破棄宣言を皆が待っていた!、というコメディ。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

幸福なる侯爵夫人のお話

重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。 初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。 最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。 あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。

処理中です...