獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

ホウレンソウしよう

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 夜も老けた頃、リファラのコテージでは三巳とロウ村長がお煎餅を挟んで向かい合っています。

 「そうか。そんな事があったのだな。楽しそうで何よりだ」
 「うにゅふふふー♪南の国は良ー所なんだよ。でも手前にジャングルがあるからなー。行く時は事前に声掛けて欲しいんだよ」
 「うむ。肝に銘じよう」

 南の国にはロウ村長でも行けなかったらしく、目を輝かせて頷いています。今にもフラッと行きそうにソワソワしていますが根性で抑えています。

 「それでこっちは……」

 続いてロウ村長からの報告に三巳もお煎餅をポリポリしながら真剣に聞きました。ボリボリ食べると音が大きいので行儀良く静かに食べています。

 「にゃるほどなー。まー、よそーのとーりかー」

 3人とその領土や国と関わった三巳だからこそ大凡の想像は出来ていたのです。

 「ほいじゃウィンブルドン側から村に掛けての道も整備しなきゃだなー」
 「道を作ると篩の森に影響が出んか?」
 「んにゅー?どーかなー。やった事ないからなー。まー、駄目そーなら他の方法考えよー」
 「そうするとこちら側も検証を重ねる必要があるか……。
 よし、準備が整い次第村に戻るぞ」

 両膝をバン!と大きく叩いてロウ村長は自身に気合を入れました。
 三巳もそーだよなーと思いながらも話は終わったぽいので、お煎餅をボリボリ食べて神妙な顔で頷きました。

 そんな訳でリファラの民には再会の約束をして早々に帰山しました。三巳幹線に乗ってあっという間です。
 村の入り口には気配を察知した山の民達が出迎えてくれています。そして全員揃って無事に帰って来たので胸を撫で下ろそうとして、出来ませんでした。皆ロウ村長の背負っている物を見て口をポカンと開けています。

 「何だ。おかえりもなしか」

 皆が見ている物に気付いているロウ村長はニヤリと笑いながら釈然としない風に言いました。
 それにハッとして

 「「「おかえり!」」」

 と言いましたが、その目はちっともロウ村長の背負っている物から外れません。
 そこへ帰山の知らせを受けてやって来たリリとハンナが揃って目をパチクリさせました。

 「そんなに大きな黒板、背負って来たの?」

 そうです。ロウ村長の背中には教室で使うサイズの黒板がおんぶ紐に括られて背負われていたのです。
 その大きさもですが1人で森の中を運んで来たロウ村長に、ビックリすれば良いのか呆れれば良いのか迷う所です。

 「三巳の尻尾収納に入れて貰えば良いのに、ロウ村長ってばその方が面白いし驚かせられるだろって聞かないんだ」

 ロンが疲れ切った顔でゲッソリして言いました。
 ロンの奥さんが駆け寄り話を聞くと、鬱蒼と茂る森も何のそのと軽快な足取りで黒板を守りながら行くロウ村長にハラハラしどうしだったらしいです。というのもリファラの金銭感覚に慣れた所で黒板の値段の高さを知っていたからこそです。

 「何だ。傷一つ付けとらんぞ」

 フンスと自慢気に胸を逸らすロウ村長に空笑いが漏れます。

 「まあ~、ロウ村長だから~大丈夫~って思っていても~森は危険が付き物だから~」

 同じく疲れた笑みでミズキが言えば、ロザイヤも疲れた顔で頷きました。

 「障害物競走みたいで楽しかったんだよ!」

 しかし黒板の値段を知らない三巳はカラカラ笑って尻尾を振っています。

 「おかえり三巳」

 母獣と並んで近付いたクロは両手を広げてニコリとしています。楽しい顔で帰って来た愛娘が可愛くて仕方ないという顔をしています。
 三巳は直ぐに開いた懐に飛び込みました。

 「ただいま父ちゃん!」

 クロはぎゅーっと腰に巻き付く三巳の頭を抱き、優しく髪を撫ですかします。
 三巳は父親の匂いに安心感を覚えてグルグル喉を鳴らしました。

 「母ちゃんもただいま!」
 『息災で何より』

 クロの懐から顔を出した三巳の耳を舐めて母獣も優しい眼差しをしています。
 そして、クロはピシリと固まり、母獣は面白そうにクツクツと笑みを漏らしました。
 三巳はどうしたのだろうと2人の顔を見回して首を傾げます。

 「み、三巳……お、オスの匂……三巳ー!お嫁に行くのはまだ早いよ!」

 不思議そうな顔の三巳にワナワナさせたかと思えば三巳をギュムーッと抱き締め泣き出してしまいました。
 泣かれた三巳は更に訳がわからなくなりました。

 「三巳お嫁に行くのか!?」

 ビックリ仰天して尻尾の毛も耳の毛もブワワと膨らませます。

 『なんぞ違うのか。それたけ濃く匂いを纏わせておるのにのぅ』
 「匂い?」

 三巳は尻尾を鼻先に上げてクンクン匂いを確かめます。
 果たして匂ったのは……。

 (ラオ君の匂いが残ってる)

 体を洗っているのに尻尾の毛の中には未だ匂いが残っていました。
 その匂いに三巳はヘニャリと相合を崩すものだから、クロは威嚇が如くに毛を逆立てフレーメンな顔になってしまっています。
 年頃の娘を持つ山の民の父親達はクロに同情しました。後で酒盛りをしようと計画を立てています。
 そんな父親達を尻目に女の子達は色めき立っています。それはそうでしょう。恋バナが娯楽の山の民達の中にあって、未だかつて浮いた話の一つも無かった獣神から恋の予感がしているのですから。

 「おかえりなさい三巳」
 「リリ!ただいまー!」

 ニコニコしながら寄って来た女の子達の先頭を行くリリが三巳に優しく両手を伸ばしています。
 三巳は耳をピコピコ、尻尾を振り振りしながら両手を重ねようと手を伸ばして、しかしその手は空振りました。

 「にゅっ!?」

 ニコニコ笑顔が迫力のリリの、その両手は三巳の肩へと置かれています。山の民一か弱いリリの力なのに振り解ける気がしません。

 「旅の話をゆっくりじっくりいっぱい聞かせて欲しいな」
 「そうね。根掘り葉掘り花咲く限り掘り下げて聞きたいわね」
 「ここじゃ何だから公園行きましょうそうしましょう」

 同じ勢いの女の子達が三巳を前から横から後ろから引っ張り押してドナドナしていき、その後ろを大人の女の人達が同じくニコニコしながらついて行きました。
 さりげなく話を広げに行った人達もいる事から、この後公園は女子会の会場として男の入る隙が無くなりそうです。

 「にゅ―――――!?」

 いつもと違う女性陣の迫力に押され切った三巳は、困惑し切った悲鳴を上げて連れ去られてしまいました。
 残されたロウ村長とロンとロザイヤは一緒にいたのに気付けなかったと悔しく歯噛みしながらも、リファラの報告はしないといけないので会合を開くのでした。
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