恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

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心の違和感

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風呂上がりにリビングでサイダーを飲んでいると、俺のスマホの着信音が鳴った。

連絡先はあまり交換しておらず、電話がかかってくる事はごく稀だった。

父親だろうと思い、テーブルの上に置いてあったスマホを取ったが、ディスプレイに表示されている名前は父親の名前ではなかった。

とりあえず俺は通話ボタンを押した。

『もしもし?』

『も、もしもし。こちらは、如月くんの携帯でよろしかったでしょうか・・・?』

『そうだけど。ってか俺だから』

『あ、如月くんか。こんばんは! 今、大丈夫?』

『特に構わないが、どうした?』

例の先輩とデートに誘ってそのついでに連絡先を聞いちゃおう作戦を考えていた時に、さらっと俺と四月も連絡先を交換した。

スタンプやコメントの量が、とりあえずこいつは多かった。

1回で返せやって心の中で何回もツっこんでしまった。

だが、通話は初めてだったから何かあったのだろうか?

声音的には特に何か問題があった様には思わなかったが。

『ちょっと練習しておこうと思って!』

『あ? 何の練習だよ?』

『決まってるじゃん! 五月先輩と電話した時のだよ!』

『練習しても無理だと思うけど・・・。まず入り方がアレだったし』

俺のスマホなんだから俺が出るだろうが。

それに硬いんだよ、いろいろと。

もっとラフな感じでいいと思うけど、今の四月には何を言っても無駄そうだったので俺はそれ以上は話さず、大人しく黙る事にした。

『・・・うるさいっ。変態』

『お前の罵倒のレパートリーはそれしかねーのかよ・・・』

しかも今の俺に変態要素なんて何もなかったろうが・・・。

バカの考えてる事は全く理解ができないな。

『それよりさ、何を話せばいいのかな?』

『だから少しは自分で考えろって』

『今夜は月が綺麗だね! っとか?』

『・・・そこから何か話繋げられるのか? それに今日は空一面曇りだからな』

『し、知ってたし! 今日も一段と雲が綺麗だよね!?』

『初めて聞いたぞ、そんな褒め方・・・』

『あ、そういえば六日も如月くんの連絡先知りたいって言ってたよ!』

『水無月が? 別に交換するのは構わないけど』

『そっか! じゃあ私が教えておくね! それでさ――――』

その後は四月がまた新しくお菓子作りをしたいから俺の家に行っていいかのお願いと、何の得もない雑談をした。

普段から通話などはするタイプではないが、やってみると意外と楽しいものだった。

最初こそグダグタだったものの、何だかんだ俺と四月はお互い自然に話題を出し、それに答えて、ちゃんと通話が出来ていた。

ほとんどは四月から話題を振ってきて、それに俺が答えるという形。

次から次へと話題が出てくるもんだから、全然退屈はしなかった。

そんな楽しく思える時間はあっという間に過ぎていった。

四月も段々と呂律が回らなくなってきている。

それに俺も何度か眠りかけてしまった。

そして翌朝の6時に俺は目が覚めた。

目覚ましが鳴るよりも前に起きる事が出来た。

そして耳元で聞こえるのは規則正しい呼吸音だった。

スマホのディスプレイを見ると、そこには四月のなまえが表示されていた。

結局俺と四月はそのまま寝落ちしてしまったらしい。

人生初の通話がまさかの寝落ち通話になるとは思いもしなかった。

「ましゅまろ~」

向こう側からそんな声が聞こえてきた。

きっと何かしら夢でも見ているのだろう。

俺は机で寝てしまっていたので、身体はバッキバキになっていた。

少し伸びをするだけで身体のあちこちから関節の鳴る音がした。

流石に女子の寝息をいつまでも聞いてるのも気が引けたので、俺は通話を切ることした。

「おやすみ」

「ふへへ~、如月く~ん」

気の抜けた感じで俺を呼ぶ声が聞こえた。

まさか四月のやつ起きていたのか?

そう思って耳を澄ましてみたが、聞こえてくるのは先程と同じ様に規則正しい呼吸音だった。

俺の名前をいうなんて、一体どんな夢を見てるんだろうか?

きっとろくでもない夢なんだろうな。

俺はそう思いながら今度こそ、通話の終了ボタンを押した。









いつもの屋上で、俺は四月を待っていた。

重大な報告があるからと鼻息を荒くして昼休みに俺の教室にやってきたのだ。

とりあえず四月にとって良いことだというのは分かっている。

っとなると例の先輩がらみの事だろうな。

ここ最近、俺は自分でもおかしいと感じていた。

初めは面倒くさいと思っていた四月の恋愛相談だったが、段々とそれが楽しさに変わっていった事。

2人で考えた作戦がうまくいけば2人で喜んだ。

乗りかかった船だし、俺も四月の力になりたいと思ってはいた。

だが、最近はあいつの口から先輩の名前が出るたびに、何かこう・・・テンションが下がるような、おもしろくない感情が湧いてくるようになった。

一体どうしちゃったんだろうな、俺は。

空を見上げて問いかけてみるが、返事が返ってくる事はなかった。

すると、屋上のドアが勢いよく開かれる音がした。

「如月く~ん! やったよ! 私、やったよ!」

スマホを空に掲げながら猛スピードで俺の元へとやってくる四月。

あ、連絡先ゲットしたんだな。

「落ち着け、落ち着け。連絡先でも交換出来たのか?」

「ええ!? 笠原くんってエスパーなの!?」

「満面の笑みで重大発表があるって言って、スマホ掲げてたらそう思うだろ」

「そっかー。ほら、どう!? すごくない!?」

先輩と連絡先を交換したのが余程嬉しいみたいで、これでもかってくらいに俺に見せつけてくる四月。

俺と交換した時は、そんなにテンション上がってなかったのにな。

こうにも反応が違いすぎると、少し切なくなるな。

四月が無事に連絡先を交換できたということは、一緒に遊ぶ約束も取り付けたのだろうか?

その流れで誘って、連絡先を聞いた方が自然な流れだと言ったのは俺だった。

その事を、俺は四月に聞いてみることにした。

「連絡先と一緒に遊ぶ約束はしたのか?」

「もちろんだよ! ちゃんとアドバイス通りに、遊ぶ約束の話をして、そこから連絡先を聞いたんだよ!」

「ほう、上手くいって良かったじゃねーか」

「うん! 如月くんもありがとうね!」

そう言って満面の笑みで、俺にお礼を言ってくる四月。

確かに俺に向けられた笑顔だったが、それが俺に向けられた笑顔ではない様な気がして、なんだかモヤモヤしてしまった。

四月と先輩の関係は順調に進んでいる。

喜ばしいことじゃないか。

そのはずなのに、俺は何故かそれを面白くないと感じていた。

「俺は何もしていない、頑張ったのはお前だ」

そう言って、四月の頭を撫でてやった。

すると、とても気持ち良さそうに微笑む四月。

その微笑みをまだ見ていたくて、俺はしばらく四月の頭を撫でていた。

「・・・如月くん? 長いよ~。子供扱いしないでっ!」

すると、今度は頬を膨らませて、俺を睨みつけてくる四月。

敵意をむき出しって訳ではないが、少し拗ねている感じだった。

「悪い、ちょっとぼーっとしてたわ」

「もう、しっかりしててよね! それじゃあ今週末空いてる?」

「今週末か、空いてるぞ」

これはきっと、作戦会議のお誘いだろう。

2人で例の先輩に気に入られる為の、気を引く為の作戦を考える時間。

俺にとって楽しい時間でもあり、辛い時間でもあった。

だが、一度やると決めたのだから最後までやり通さないと男じゃない。

そんな、せめてものちっぽけなプライドだけが俺を突き動かしていた。

「遊園地行こう! 先輩と遊園地行くって話になってね、だから事前にいろいろ勉強しておきたいんだ!」

「おう、いいぞ」

「ん~? 如月くん体調悪い?」

不意に四月が俺に向かってそんな事を言ってきた。

別に体調はどこも悪くない。

どこかケガをしているわけでもないし、この前みたいに風邪を引いているわけでもない。

「悪くないけど、いきなりどうした?」

「なんか如月くんが普段とちょっと違うなーって思って。大丈夫ならいいんだけどさ。それでさ――――」

結局、あの後は何を話したんだっけかな?

いつのまにか、屋上から四月の姿はなくなっていた。

何を話していたのか、いつ四月はここからいなくなったのかは分からない。

覚えてすらいなかった。

すると、今度はゆっくりと屋上の扉が開かれる音がした。

だが、俺は四月ではないと思った。

なら興味はない。

ドアの方は一切見ず、嫌になるくらい綺麗な晴天を俺はは見上げていた。

「確かに、何か元気なさげだね」

姿は見ずとも分かる。

その声の主は、四月の親友の水無月 六日だった。

「・・・何か用か?」

「別に用って程でもないけど、七があんたの事心配してたから」

「・・・四月が?」

「七って、普段あんなだけど、こういった変化には人一倍敏感だからさ。あまり心配させちゃダメだよ?」

「・・・善処する」

「・・・それで、何があったの?」

「なあ、この後時間あるか?」

「え? この後? 別に、予定はないけど」

「ちょっと付き合ってくれないか」

少し気分転換がしたかったので水無月を誘ってみた。

このまま一人で居たら間違いなく気分は下がる一方だと思ったからだ。

「さらっと告白?」

「恋人にしたい相手をこんなさらっと誘う程、俺は甲斐性なしじゃないからな・・・」

「分かってるよ、冗談。んで、どこ行くの?」

「特に決めてないけど、テキトーにフラつきたい」

「分かった。鞄取ってくる」

そう言っては屋上の出入り口に向かって小走りに走っていった。

ドアが閉まるのを確認したら、俺も荷物を取りに向かった。









「七から聞いた? 例の先輩と遊園地デートするんだって。あんたのお陰だね」

「俺は何もしてない。頑張ったのはあいつだ」

「そう? 七だけじゃ、多分上手くいってないと思うけど?」

「ああ見えて、やるときはやる奴だと思ってるからな」

「急にどうしたの? 随分と七のこと褒めるんだね」

「・・・別に、そんなんじゃねーよ」

「なんだか、らしくないね」

自分でも思っていたが、何か今日の俺はおかしい。

今日というか、ここ最近だな。

四月と絡むようになってからだ。

だが、自分でも何となく分かっていたが、俺はそれをあえて分からないと決めつけた。

何の原因なのかも分からないまま、苦しんだ方がマシだと思った。

この気持ちを認めてしまったら、意識してしまったら、俺はもう、四月とは対等な関係でいられなくなると思ったからだ。

こんな感情は嘘で、少しばかりの気の迷いだと。

「・・・少し風邪気味なんだよ。病人は労われ」

俺はそう言って嘘を吐く。

水無月に嘘を吐き、自分にも嘘を吐く。

なんとも惨めで、滑稽な事だろうか。

「病人なら大人しく帰りなよ」

ド正論を言われて、ぐうの音も出なかった。

ま、そんな事もこいつにはバレているのだろう。

言い訳するだけ、無駄なようだな。

「腹減った。なんか食べに行こうぜ?」

「いいけど、あんたの奢りね」

「奢るのかよ・・・ったく」

俺と水無月は、そのまま近くのファミレスへと向かった。

空気を読んでいるのか、普通に話題にならないのかは分からないが、水無月の口からは、四月や四月関連の事は一切出てこなかった。

話題は常に俺の事だった。

好きな食べ物、将来の夢、なんでこの高校を選んだのか、そんな感じに誰得なやり取りだった。

そんな不毛なやり取りでも、水無月は笑って聞いていた。

そんな笑顔を見ている間は、不思議と四月の事は忘れる事ができた。

落ちていた気分も、水無月と過ごした事によって結構紛らわす事ができた。

帰りは、水無月を家まで送る事にした。

水無月は大丈夫と言ったが、辺りはもう暗闇に包まれているし、水無月に付き合って欲しいと言ったのは俺だったから、せめて最後まで送り届けないといけないと思った。

そのままおやすみと挨拶を交わし、水無月が家の中へ入るのを見送ってから、俺も自分の家へと歩き出した。
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