恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

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好き

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『先輩に告白されて、付き合う事になりました』


そのメッセージを見て、俺はすぐにこう返信した。


『おめでとう』


四月の恋路を応援していたから労いの言葉をかけるのは当然だったが、その言葉を返信してから以降はメッセージアプリを開いていない。

俺の返信に再度返信が来ているのか、はたまた水無月が何か言ってるのかは全く知らないかった。

だが、それでも自分が思っていたよりも気分は穏やかで落ち着いていた。

これで先輩と四月が付き合うことになり、もう俺には手を出す権利も資格もなくなった。

これからは四月と関わることもなくなるだろう。

ふとした時にはヒョコッと相談しに来るかもしれないな。

その時はちゃんと相談に乗ってやらないとな。

「・・・帰るか」

放課後になり、俺は特に理由もなく屋上に向かおうとしたが、その足を止め引き返す。

今日はまっすぐに帰ろう。

きっと、いつものお節介焼きが来るかもしれない。

今日くらいは頼らないでおきたかった。

自宅に着いてから、俺は着替えもしないでソファーに座りテレビを見始めた。

元々テレビなどは見るタイプではなかったが、とにかく静寂が恐かったのだ。

目の前には、有名な司会者がゲストをいじって笑いを誘う番組がやっていた。

純粋に面白かったが、笑う程ではなかった。

笑う程は面白くなかったのか、意図的に笑えなかったのかは分からない。

やっとの思いで腰を上げ、制服を丁寧に脱いでからシャワーを浴びに行く。

今日は普段より熱めのシャワーを浴びた。

1日の汚れと一緒に楽しかった思い出も辛い思い出も、何もかも全部洗い流せたらどんなに楽になるだろうか。









風呂から上がりスマホを確認すると、着信履歴が3件入っていた。

そのどれもが水無月からだった。

時間を見ると立て続けに3回連絡してきたらしい。

そして、出ないと思ってその後は連絡してきていないのだろう。

やはり水無月ならそうしてくると思った。

電話して、案外平気だって事くらいは伝えておこう。

それぐらいは許されるだろう。

俺はそのまま水無月へ連絡する事にした。

3コール目で水無月が出てくれた。

『もしもし、どうしたの?』

「どうしたのって、最初に電話かけてきたのは水無月の方だろ」

『それもそっか』

水無月はいつもと変わらない普段通りの声音だった。

その声音に少し安心していた。

『なんか、案外平気そうだね』

「・・・そうだな、自分でもびっくりするくらいにな」

『そっか』

すると、水無月の方から車が通り過ぎる音が聞こえてきた。

「今、外なのか?」

『うん、ちょっと買い物』

「そうか」

『うん、星が綺麗だよ』

「ちょっと待ってな」

俺はスマホを耳に当てながら、2階にあるベランダへと向かった。

確かに、水無月の言うように星が綺麗だった。

「確かに、綺麗だな」

『でしょ。こんな日に綺麗だなんて、ちょっと皮肉っぽいよね』

水無月のその言葉に、俺は少し胸が痛んだ。

でも、そんな思考はすぐに捨てる。

終わったものは終わったし、無いものは無いのだ。

いつまでも引きずっている場合じゃない。

「そーいや、何買いに行ってるんだ?」

俺は無理矢理に話題を変える為、水無月にそう質問した。

『カップ麺とジュースかな。もう買い終わってるけどね』

「こんな時間から?」

『うん。ちょっとパーティーしようと思ってさ』

「へぇー。まあ楽しめよ」

『うん』

そして、俺達の間に沈黙が続いた。

特に話す話題もないので、水無月との電話を切ろうとする。

俺が元気なのも伝えられたならこれでいいだろう。

「悪りぃ、もう切るわ」

『もう寝るの?』

「いや、まだ寝はしないけどさ」

『そっか、じゃまたね』

「おう、おやすみ」

案外すんなりと通話を終われた事に少し驚いていた。

まだ寝ないとは言ったものの、特にこれといってやる事はない。

いや、何もしたくない、何もする気が起きないと言った方が正しいのかもしれない。


ピンポーン

 
しばらくしてから、俺の家のインターホンが鳴る音がした。

こんな夜中に誰だろうと疑問に思いながらもドアを開けた。

そして、俺は言葉を失った。

「お疲れ様」

先程電話で話していた女の子、水無月の姿があった。

寒いのだろうか、マフラーを深くまでしているので表情は見ることができない。

「・・・水無月、なんでいきなり?」

「からかいに来てあげた」

そう言って水無月は先程買ったであろう、スーパーの袋に入ったカップ麺とジュースを見せて俺に言ってきた。

「性格悪いな」

「性格が良いだなんて言った事、1度もないよ」

「うるせー」

「あははっ。寒いから、中入ってもいいかな?」

俺はそのまま水無月を家の中へと招き入れた。

そして水無月の上着を受け取りイスにかけ、部屋の暖房の温度を少しばかり上げた。

「ミルクティーでいいか?」

「嫌」

「わがままかよ・・・」

「紅茶でいいよ」

「・・・あいよ」

お馴染みの電気ケトルに水を入れてスイッチを押す。

俺が用意している間は、水無月は何をするでもなく、ただ俺が気を紛らわす為に付けていたテレビを見ていた。

てっきり励ましにきたのかと思っていたが、そんな様子は全くなかった。

電気ケトルがお湯の沸いた事を知らせてくれたので、俺はカップ麺と紅茶を作った。

「水無月、出来たぞ」

「はーい」

水無月を呼び、待ち時間3分を終え挨拶をしてから、ようやく俺達はカップ麺を食べ始めた。

食べてる最中は水無月は何も言ってこなかった。

まあ、俺も何も話さなかったのだが。

「七、告白されたんだね」

「・・・らしいな」

不意に水無月がそんな分かりきった事を聞いてきた。

その言葉に俺も素っ気なく返す。

「すごく、嬉しかったんだろうね」

「・・・そりゃそうだろうな」

ずっと憧れてた好き先輩から告白されたんだ。

嬉しくないわけがない。

そんな事は言われなくなって分かってる。

「七に、幸せになってもらいたいね」

「・・・ああ」

意図的に俺を辛い気持ちにさせたいかのように、水無月が四月の話題を出してくる。

いくらなんでも性格が悪過ぎると感じた。

四月の報告に、不思議と気持ちは安定していたのに、水無月のせいで少しずつ心が荒れてきている。

今の水無月は俺にとっての制御装置の役割は果たしていなかった。

逆に、暴走させたいかの様な言動をしてくる。

「今日も一緒に帰ってるのかな」


やめてくれ・・・。


「付き合う前から一緒に帰ってるくらいだから、多分一緒だよね」


やめてくれ・・・。


俺は心の中でそう叫んでいた。

聞きたくないはずの水無月のその言葉が嫌になるくらいに耳に良く通って聞こえてくる。 

残酷な音色となって響き渡る。

「七はさ——――」

「いい加減にしろよ・・・」

気がつくと俺は水無月の言葉を遮って怒鳴っていた。

だが、水無月は顔色一つ変えず俺を見てくる。

その俺を見てくる瞳が嫌だった。

「・・・どうせ、俺は負け犬だよ」

「それは違うよ」

「・・・惨めな男だよ」

「それも違うよ」

「・・・情けない男だよ」

「うん、違う」

「だったらなんで・・・」

俺はそう言いかけて言葉を詰まらせる。

俺を惨めだとも、情けないとも、負け犬だとも思っていないならなんで・・・水無月は俺を苦しめるんだよ・・・。

水無月の考えが分からなかった。

水無月の思いが分からなかった。

俺の知っている水無月はこんなはずじゃなかった。

厳しくとも俺の為を思って、俺の事を思いやってくれていた。

なのに、今の水無月には敵意しか感じられなかった。

「・・・あたしのこと、性格悪いって思った?」

「・・・ああ」

「ムカついた?」

「・・・ああ」

「嫌いになった?」

「・・・ああ」

「・・・そっか」

水無月の質問に俺は全て肯定で返した。

すると、対面していた水無月は席を立ち、俺の隣のイスに座りだした。

「ごめんね、性格悪くてムカつく奴で。あたしの事嫌いになっていいよ」

そして深呼吸をした後に、水無月は言葉を続けた。

「それでも、一にはちゃんと悲しんでほしかったから」

「悲しんで、ほしかった・・・?」

俺は水無月の言っている言葉の意味が分からなかった。

少しも、全くと言っていい程分からなかった。

「そう、一が平気そうだったから」

「・・・・・・」

「ちゃんと悲しまないとさ、いけないと思ったんだ」

俺は何も言葉を発さなかった。

その間も、水無月は言葉を続けた。

「一が七をずっと想ってたのは知ってる。隣でずっと見てきたから。苦しんで悲しくて辛い思いをしてたのも知ってる」

「そんな相手がさ、他の人と付き合うって知ってさ、平気でいられるわけないじゃん」

「だから・・・ちゃんと理解して現実を見てよ」

「残酷かもしれないけど、受け入れ難いかもしれないけど、ちゃんと悲しんで苦しんで、そこから新しく前を向いて欲しい」

俺は水無月の言葉をただ聞いているだけしかできなかった。

だが、その言葉を聞いて胸の奥の方がどんどん熱くなっていくのを感じた。

「正直、私は失恋した経験とかがないから、一の気持ちを丸々分かってあげられない。生意気な事言ってるのも分かってるし自覚してるよ。それに取り留めのない事しか言ってあげられない。でもね――――」






『あたしは側にいるから』





 
俺の瞳から熱く迸る物が勢いよく流れてくる。

水無月のその言葉が、厳しくも優しいその言葉が身に沁みるのを感じた。

結局、水無月は俺の事を思ってくれていた。

それなのに、俺は水無月を軽蔑してしまった。

その事が許せなくて、情けなくて不甲斐なかった。

「男の人って失恋は引きずるって言うじゃん? それは仕方ないと思うから、でもちゃんと自分の中で整理して、決着つけてよ」

そう言いながら水無月はあの時と同じ様に俺の頭に自分の手をおき、一定のリズムで横に動かしていく。

そのリズムが子守唄の様に温かく心地よかった。

「一がちゃんと向き合って、決着つけた時に、あたしが忘れさせてあげるから。溺れさせてあげるから」

その言葉を聞いて、俺は思わず水無月の方を見る。


水無月は、笑っていた。泣きながら笑っていた。


すると、水無月の腕が俺の首の後ろへと回される。

そして、顔の横に水無月の甘い髪の香りが鼻腔をくすぐる。

俺はその時、初めて水無月が抱きついてきたと分かった。

「・・・すまん、俺酷いこと言ったわ」

「謝らないで、あたしも同じだから。これでおあいこ」

「・・・くっついてて涙拭けないから・・・服、汚れてる」

「汚れた後に言わないでよ。でも、気にしないよ」

「・・・なあ、水無月」

「ん、何?」

「・・・どうして、ここまでしてくれるんだ?」

自分が嫌われる可能性もあったのに、自ら悪者になる覚悟で俺に言葉をぶつけてきた水無月。

なぜ水無月はそこまでするのか。

何度も問いかけた言葉。何度も返される言葉。

四月の為だった水無月が、俺の為と言ってくれた。

その言葉を、俺はもう一度聞きたかった。

そして、水無月ならきっと分かってくれる、言ってくれると思った。

「そんなの決まってるじゃん・・・」

水無月はまた軽い深呼吸をして、言葉を紡いだ。










『一の事が好きだからだよ』
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