恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

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救いようのないバカ

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風が冷たい。

ただひたすらに冷たかった。

けど、特に防寒対策はせず、屋上のベンチの上で座っていた。

「・・・寒い」

寒いなら室内に戻れよって話なのだが、今は俺の意思で来ているわけじゃない。

俺の感情の制御装置、お節介焼きの水無月に、ここに来るよう言われたからだ。

それにしても遅い。

昼休みになって、時間は既に20分は経っていた。

そのまま予鈴の鐘が鳴った。

結局、水無月は屋上には来なかった。

水無月がこんな事をするはずがなく、何かしら理由があったんだと思う。

一応、水無月には連絡を入れる事にした。

放課後になり、俺は1人仕度を整えて帰る。

結局、水無月からの返信はこなかった。

メッセージアプリも既読にすらなっていなかった。

少し。

少しだけ、嫌な気持ちになった。

いつも側にいた人間がいないのがモヤモヤして、裏切られた気がして。

こんな気持ちは、自分勝手だって分かってる。

「あれ? もしかして如月くんかい?」

そんな荒れた気分の時に、タイミングが最悪なのか絶妙なのか、声をかけて欲しくない人から声をかけられた。

「・・・どうも」

「はははっ! そんな警戒されると傷つくな~」

「何か用ですか?」

「用って訳じゃないんだけどさ。如月くんを見かけたからさ」

「そうですか、では俺はこれで」

「あ、ちょっと話して帰らないか? 今日は七とは帰らないから」

・・・俺は四月の代わりなのか。

別にここで一緒に帰る義理はなかったが、気がつくと俺は先輩の提案を受け入れていた。

野郎2人で揃って歩く姿は、周りからどう見られているのか。
大して話した事のない2人、さして仲の良いわけでもない。

四月という、切ろうとしても切れない縁の繋がりでしかない。

「最近はどうだい? 水無月さんとはうまくいってるのか?」

「・・・なんでそこで水無月が出てくるんですか?」

「え? 2人は付き合ってるんじゃないの?」

先輩がそんなことを言ってきた。

俺は水無月とは付き合っていない。

水無月は俺にとっての感情の制御装置だ。

でも、彼女自身がそれ以上の想いを抱いていることは分かっていた。

でも、俺はその気持ちに応えられないでいる。

「付き合ってないですよ。ただの友達です」

「そうなんだ。七が2人は付き合ってるって言ってたからさ」

「あいつ・・・」

犯人は相変わらずの四月バカだった。

余計なことを先輩に吹き込んでんじゃねーよ。

焦りと呆れが混じって変な感覚に陥る。

「七がね、如月くんには幸せになってもらいたいってずっと言ってたよ」

「・・・そうですか」

「七とキミとのあいだに何があったかは知らないし、深く詮索するつもりもないよ」

「・・・・・・」

「七と付き合って、たくさんの表情や発見があったよ。僕の側で七の成長が垣間見れて嬉しくて楽しいんだ」

先輩は嬉しそうに四月のことを話す。

ただの惚気話を聞かされてる俺は、心が苦しくなる。

今すぐにでも逃げ出してしまいたかった。

だが、先輩の次の言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

「でも、今でも七の中にはキミがいるんだろうな。その気持ちだけ、ずっと残ったままなんだなって」

四月の中に俺がいる。

あの夕焼けを一緒に見た日以降、四月とは会っていないし見かけていない。

最後のあの言葉は、今も俺を苦しめている。

でも、それは四月も同じだったってことだ。

「俺と四月はそんなんじゃないですよ」

ここで肯定してしまえば、きっと先輩を傷つける。

負け犬の俺に、2人の関係を壊す権利なんてない。

「別に気を遣わなくていいんだ。何があったかは知らないけど、察しはついてるから。けどね・・・」

先輩は足を止めた。

それに気がつき、俺も足を止めて先輩の方へ向く。

「七の事を好きな気持ちは、大切に思っている気持ちはキミには負けていないと思ってる。だから、七に振り向かせて見せるよ」

四月と付き合ってるのは、紛れもなく先輩だ。

なのに、彼氏であるその先輩に、そんな言葉を言わせてしまった原因が、自分にある事が許せなかった。

ほんと。

本当に先輩は良い人だった。

こんな状況になってまで、四月のことを思って前を向いている。

俺にはできないことだった。

「先輩も、大概バカなんですね」

「ああ。恋は盲目って言うだろ? でも、それはそれでありなんじゃないかなって思ってさ」


『恋は盲目』


決して良い意味で使われる言葉ではなかった。

でも、先輩はそれでもいいと言った。

「たった1度の人生だからさ。好きになった女性に魅了されて、愛おしいほどに好きになってもいいんじゃないかなって思ってね。七と結婚するのかは分からないし、七が最後の恋人なのかも分からない。でも、僕は今のこの一瞬に輝きたいって思ってる」

先輩のその言葉が、俺の胸に突き刺さる。

そんな恋に盲目な先輩の姿を見て、言葉を聞いて俺は敵わないなと思ってしまった。

俺が抱いてる感情よりも、よっぽどまっすぐで純粋で愛のある言葉だった。

だからこそ、今までにないくらいに苦しくて、辛かった。

こんなに実力差を見せつけられたのにも関わらず、俺の中にはまだ四月がいた。

情けないんだよ、本当に情けない。

「・・・先輩はすごいですね。俺にはできないです」

「すごくないよ。ただ、盲目なだけさ」

「・・・俺、こっちなんで」

「そっか、じゃあお別れだね。いろいろ話せて良かったよ」

「・・・こちらこそ、ありがとうございました」


俺はそのまま先輩と別れた。









「このやり方で、本当に良かったと思ってるのかい?」

「・・・分かりません。ある意味、賭けでもあります」

「彼が途中で逃げ出さなかったのが不思議なくらいだよ。こんな事して、キミは大丈夫なのか?」

「それも分かりません。でも、このままじゃダメなんです。傷つくのがあたしだけなら、問題ないですから」

「自己犠牲も大概にした方が良いよ。いくら彼の為であっても、それはキミが傷ついていい理由にはならないよ」

「ありがとうございます。でも、あたしの事より、先輩は七をどう振り向かせるか考えた方がいいんじゃないですか?」

「・・・返す言葉もないよ」

「でも、嫌な役目をしてもらってすみません」

「ううん、気にしてないよ」

「では、行ってきます」

「うん。気をつけてね」

「はい」









家に帰ってすぐに俺は、乱暴にカバンを投げ捨てた。

頭をくしゃくしゃにかきながら、それでも落ち着かないこの気持ちをどうすればいいのか、分からなかった。

水無月に裏切られた気持ちと、どうあがいても先輩には敵わない現実と、捨てきれない四月への気持ち全てが、俺に重くのしかかってくる。

今、1番の苦しみは、せめてもの心の拠り所だった水無月を失った事だ。

メッセージを何度も送るが未だ尚、既読になっていない。

電話を何回もかけたが繋がらない。

ずっと側にいてくれると思っていた。

そう信じて疑わなかった。

でも、俺のしてきたことを振り返って見れば、愛想を尽かされても仕方のないことばかりだった。

水無月と四月のどちらかを選ぶことができなかったから、結局2人は俺の元から消えた。

そんな、情けなくてカッコ悪い被害妄想しか今は出てこない。

こんなの哀れ過ぎて涙すら出てこなかった。


「はははっ・・・」


乾いた笑いしか出てこない。

結局俺は何をしていたんだろうか。

2人を苦しめて、先輩にも迷惑をかけて、3人をめちゃくちゃにしてるだけじゃないか。

手に入れられない好きになった相手の幸せも、まともに願えなくて。

その彼氏である先輩を、不安にさせて、迷惑かけて。

隣にいて支えてくれた彼女の気持ちにも、応えられなくて。

「ほんと・・・なにやってるんだろな、俺って」

やり直すにはもう遅すぎた。

振り返って見れば、前を向くチャンスはたくさんあった。

けと、それはすべてを俺は棒に振ったのだ。

「・・・正真正銘のバカだな、俺って。ほんと、救いようのないバカなんだな・・・」

「そうだね。呆れるほどにバカだよ、あんたって」

その声を聞いてすぐさま後ろを振り向くと、そこには水無月がいた。

幻覚なのか幻聴なのかは分からない。

だが、俺の目には水無月がいるように思えた。

そして、彼女はゆっくりと俺に近づいてくきて、何度も、何回も味わった温もりを俺にくれた。

「そんなバカでも、あたしは好きだよ」

その温もりと言葉が、俺に幻覚でも幻聴でもない事を教えてくれた。
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