恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

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デート 前編

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休日であるならば、普段は午前中はほぼほぼ睡眠に時間をあてている。

たが、そんな俺が早起きをしているということは、何かしらの予定があるということだった。


『今度さ、土日のどっちかでデートしよ』


前に、水無月が俺を誘ってきたデート案件が、今日だったのだ。

どうせ暇でしょとか余計なことを言われたが、それでも何だかんだこうやって行く準備をしているので、俺も大概甘いんだなと思った。

今回の待ち合わせは、最寄りの駅前だった。

家を出ようとした時に思い出す。

前回の時に、水無月が既に俺の家の前で待っていたことを。

今回も何だかんだ、外で待ってるんじゃないのか?

そんなことを思いながら、玄関のドアを開けた。

「おはよう」

「やっぱりいた。おはよう」

俺の予想通り、水無月は俺の家の前で待っていた。

外で待つくらいならチャイムくらい鳴らせよ。

そしたら中に入れるのにな。

「やっぱりいたってなに?」

「いや、前も居たから今回もそうかなって」

「予想してるなら家の中に入れてくれてもよくない?」

「お前の方こそインターホン鳴らせよ」

「六日」

「あ?」

水無月にそう言われて、この前のことを思い出す。

確か、六日って名前で呼べとかなんとかって話だった気がする。

なんか今更名前で呼ぶとか恥ずかしさがあるが、言わなきゃ言わないで不機嫌になると思い、俺は水無月の名前を六日で呼ぶ努力をしようと思った。

「前にも言ったでしょ? あたしには六日って名前が——――」

「六日」

「・・・」

俺がお望み下の名前で呼ぶと、水無月は顔を真っ赤に染めていた。

それを見られたくないのか、両手で自分の顔を覆っていた。

言った俺も恥ずかしかったが、明らかに水無月の方が恥ずかしさがあるようで、そのことに俺は多少安堵した。

「なんで六日の方がダメージ受けてんだよ・・・」

「・・・うっさい」

「とりあえず行くぞ。どこ行くかは知らないけど」

そう言って俺が歩き出すと、後に続いて水無月も歩き出す。

彼女の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩く。

これからどこへ向かうのだろうか?

そんな少しの期待を背負って、2人で駅へと向かった。









「いや、なんで居るんですか・・・?」

「おはよう! 水無月さんに如月くん!」

本来待ち合わせ場所に指定されていた駅に着くと、そこには先輩と四月の姿があった。先輩の反応からしてこれは偶然じゃない。

そして隣にいる六日の様子を見ても、驚きは感じられない。

だが、四月を見ると驚きの表情を浮かべていた。

当然、俺も驚いていた。

そうなると、答えは明白だ。

先輩と六日の間で、今日のプランは計画されたものだろう。

2回目のWデートということだ。

だが、こんなドッキリみたいな雰囲気を出すことに、何の意味があるかは分からなかった。

「水無月さんからまたWデートしませんかって言われてさ。別に断る理由もないからいいかなってさ」

言い出しっぺは隣で涼しい顔してるこいつか・・・。

だが、ここまできて帰るわけにもいかないので、俺達はそのまま電車に乗って目的の場所まで向かっていった。

まあ、目的の場所がどこかなんてことは分からないので、ただ2人についていくだけだった。

休日のせいなのか、俺達が向かってる先が原因なのかは分からないが、電車の中は満員で詰め状態だった。

4人で一緒に乗ったはずの電車も今となっては周りに誰もいない為、はぐれてしまったようだ。

まあ、同じ電車内だしすぐ側にいる事は分かっているからいいのだが。

ドア側に追い込まれると、そこには見覚えのあるピンク色の髪をした女の子が苦しそうな表情を浮かべて立っていた。

「四月?」

「き、如月くん⁉︎」

四月は俺に気がついて、目をまん丸に見開いて驚いていた。

すると、電車が急に揺れて人の波が押し寄せてくる。

その被害を四月に与えない為に俺は壁に手をつき、力を強めて上原との間に空間を作る。

そのおかげか、四月の苦しそうな表情は和らいでいた。

代わりに俺がしんどいんだがな・・・。

「如月くんって今日のこと知ってた……?」

四月は、俯きながらそんな質問を俺にしてきた。

だが、もちろん俺はそんな話を聞いていなかった。

てっきり、六日と2人っきりで出かけるもんだと思っていたから、正直困惑していた。

「知らされてねーよ。全く、あの2人って何がしたいんだろうな」

愚痴ともとれる俺のその言葉を聞いて、四月はなぜか優しく微笑んでいた。

四月の笑った顔を見たのは、久しぶりな気がしてとても新鮮だった。

「ほ、本当だよね! 先輩も六日も意味わからないよね!」

「まったくだな。まあ、嫌かって聞かれると別にそうでもないからいいけどよ」

四月は、目の前でうんうんとヘドバン並みに頭を振っていた。

すると、ズボンのポケットに入っているスマホから音が聞こえた。

これは、メッセージアプリの通知がきた時に知らせてくれる音だった。

俺はズボンからスマホを取って、内容を確認しようとした。


『はぐれちゃってるから言っておくね。今から5つ目の◯◯駅で降りて』


送り主は六日からで、目的の場所へ向かう為の案内だった。

俺が六日への返信をしようとスマホの画面を見ながらフリック入力をしていく。

「如月くん、もしかしてこんな時にえっちな動画~?」

四月はイタズラな笑みを浮かべながら、俺を挑発してくる。

その表情を見るのも、久しぶりに感じた。

まだそんな表情もできるじゃねーかと心の中でツッコミを入れる。

やっぱり俺の理想の四月は、バカみたいにはしゃいでバカみたいに元気でバカみたいに笑う、そんなヤツだった

「ちげーから。六日から連絡きてたんだよ」

「・・・六日、からか」

四月は俺の反応を見て、また暗い表情をする。

すると、四月もおもむろにスマホを取りだす。

そして何やら画面を確認している。

「わ、私も先輩からラブコールきてるもん・・・!」

そう言って俺に画面を見せてきた四月。

そこには、先程六日が俺に送ってきた内容と似た文章が書かれていた。

「一応ソレはラブコールじゃないからな、メッセージだからな」

「違うもん!」

「違くねーから」

「うるさい! バカ! 変態! あとそれから・・・変態!」

四月の俺に対する罵倒のレパーリトーは相変わらずで、俺をすぐに前科持ちにしたがる性格は変わっていないようだったが、やはりどこか懐かしさを感じてつい頬が緩んでしまう。

目を瞑りながら罵倒をしてくるその顔も。

言った後に頬を膨らますその仕草も。

そしてまたそのあとに微笑む笑顔も。

それら全てに、癒しと安らぎと愛おしさを感じていた。

「だから俺は変態じゃないからな?」

「今ここで痴漢されました~! って叫んだらどうなるかな!?」

「それだけはゼッタイにやめろ! マジでシャレにならないからな・・・」

「あははは! 冗談だよ冗談! 七ちゃんジョーク!」

そう言いながら、両手で自分の頬をつついて笑顔を見せる四月。

その仕草と表情につい魅入ってしまう。

そんなこんなで気がつくと、もう次の駅で降りる事になる。

もう少しだけこの時間を過ごせたらなと心残りがあったが、そんな気持ちは忘れてしまわないと。

「次で降りるからな」

「・・・もうか。そうだね」

まだまだこれから長い一日が始まるというのに、序盤でこんなに湿っぽくなってしまうのはどうなのだろうか、とも思ったが、人の感情や精神なんてそう簡単にコントロールできるモノじゃない。

自分自身ですらコントロールできないソレを、他人の俺がコントロールする事なんてできっこない。

俺は六日とは違うから、そんな器用な事なんかできない。

そして無事に目的の駅へと着くと、一気に人が流れ始める。

この電車に乗ってた人が全員降りる勢いで流されていく。

すると四月は、俺の手首を握ってきた。

「・・・はぐれないようにだから他意はないよ。仕方なくだし。不本意だし。面目ないし」

「なんとなく理解したけど、なんで最後恥ずかしがってんだよ」

言葉選びのチョイスが毎回ズレてるのも、四月らしさの1つなんだったな。

そのまま俺と四月は、人混みをかき分けて駅の改札へと向かうと、そこには既に先輩と六日が待っていた。

「お疲れ様!すごい人混みだったね」

「・・・行きの電車でずいぶんと盛ってたんだね」

明るく爽やかに挨拶をする先輩とは対照的に、真っ黒のような視線を俺に向けてくる六日。

その理由は、四月が未だに俺の手首を握っていたからだった。

それに気がついた四月は、すぐに俺の手首から手を離した。

「ろ、六日、これは違くてね。はぐれない為のってことで、別にそんな深い意味はなくて・・・」

そして俯く四月を見て、少し不憫に感じてしまった。

四月の言ってることは間違ってはいない。

なので別に責められる必要はない。

「四月の言う通り、これははぐれない為の配慮だから仕方ないだろ。俺が四月にそう言ったんだ」

「・・・あっそ。別に気にしてないから。この変態」

「120%根に持ってるじゃねーか。お前も俺を前科持ちにしたいのかよ・・・」

「まあまあ、これから先も長いんだし、気を取り直して向かおうか」

先輩の音頭で、俺達4人は目的の場所へと向かって行った。

そうだ、これからまだまだ先が長いのだから、こんな序盤で嫌な雰囲気にはしたくないからな。

俺は雲ひとつない青空を見上げながら、そう思うのだった。
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