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みんなの想い
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フラれた? 誰が? 四月が? 誰に? 先輩に?
疑問はいくらでも出てくるが、彼女の泣いてる姿が俺にソレを考えさせるのをやめていた。
俺の胸元で思いっきり泣く彼女を、俺はただ抱きしめるだけしかできなかった。
詳しい話は落ち着いてから聞こう。
今は彼女の思いのたけをぶちまけさせるのが優先だ。
そう思い、俺はひたすらに彼女の感情を受け止めた。
落ち着くまで、気がすむまでに。
・
さすがに外でずっと泣かれるのも周りの目があった為、今は家の中に入ってもらっていた。
しばらくすると、四月は落ち着いたのか泣き疲れたのかは分からないが、俺の隣ですやすやと寝息を立て始めた。
俺は四月の状態を横にして、クッションを枕代わりににしてブランケットを彼女にかけてあげた。
寝息を立てながらも、目元に溜まっていた涙たちを人差し指で優しく拭う。
そして1人、スマホを片手にベランダへと出る。
俺は慣れた手つきでスマホを操作して、とある人へと電話をかけた。
はたして、出てくれるかどうかは分からないが。
1回目のコール。さすがに出ないか。
2回目のコール。これまた反応はなかった。
3回目のコール。やはり反応はなかった。
『もしもし? どうしたんだいこんな時間に』
3回目のコールが鳴り終わり、4回目のコールがなろうとした瞬間に、先輩は出てくれた。
電話の向こう側の声音は、驚くほどに落ち着いていた。
「俺が電話した理由を察せない程、先輩もバカじゃないでしょうに」
『あはは! 僕を過大評価し過ぎかな』
『じゃあ、まったく見当が付かないとでも?』
『まあ、それはさすがに無理があるよね』
先輩は依然、態度も声音も変えずにそう答えた。
さてと、回りくどく話すのもめんどくさくて好きじゃない。
やるなら真っ正面から話を切り出した方がいいだろう。
それが先輩にとっても楽だと思った。
「どうして四月をフったんですか?」
『・・・今日はやけに積極的じゃないか』
「言い方が少し気持ち悪いです」
『あはは! 相変わらず君は俺に容赦ないね。でも、嫌いじゃないよ。フった理由はね、限界が見えたからなんだ』
「限界?」
『そう。七と付き合ってたけどね、それは付き合っているようで、付き合ってなかったんだよ』
先輩がそう淡々と語り始めたが、俺には先輩の言っている意味があまり理解できなかった。
付き合っているようで付き合っていない。
それは矛盾していた。
先輩と四月は、間違いなく付き合っていたはずだった。
でも、それを自ら否定したのは、どう言う意味が込められているのだろうか?
「それってどういう意味ですか?」
『文字通りだよ。物理的じゃなくて、感情的な意味だけどね』
「・・・そうですか」
『如月くんはどう思った?』
「え?」
『七がフられたと知って喜んだかい? それとも、僕に怒りが湧いたかい?』
先輩の質問の意図は分からなかった。
けど、少なくとも喜んではいなかった。
四月がかわいそうだとは思ったが、先輩に怒りが湧いたわけでもない。
特に何も感じなかった。
それが俺の答えだった。
「どちらもないですね」
『・・・そうか。最後くらい、悪者で終わりたかったんだけどね』
「・・・話を戻しますけど、それで限界って言うのはなんなんですか?」
『僕も頭が良い訳じゃないから、最善の言葉を選びながらなんて話はできない。場合によっては、キミを傷つけるかもしれない。それでも聞きたいかい?』
先輩の口調が一気に変わった。
真剣に話す声音を、俺を逃さぬように捕まえていた。
場合によっては俺が傷つく?
だが、今更引くわけにもいかなかった。
なら、俺はその話を聞く以外の選択肢はなかったのだ。
「・・・大丈夫です」
『・・・そうか。でも、答えは思った程、複雑じゃなくて単純なんだよ。七の中にキミが居続けたからなんだ』
「・・・・・・」
その先輩の言葉を聞いてら胸が急に苦しくなる。
知らなかった訳じゃない。
むしろ知っていた。
でも、お互いに気付くのが遅すぎたから、ないものとして扱っていた。
俺は前を向き始めた自覚はあったけど、四月はまだ引きずっている印象だった。
『キミには分かるかい? 付き合っても尚、振り向いてもらえない気持ちが』
先輩のその言葉が、ひどく重く重圧となりのしかかってくる。
『何度だって努力したさ。それでも追いつかないんだよ・・・。追いつけないんだよ・・・。ひまりのすぐ側に居たのは、僕じゃなかった』
普段の先輩からは、想像も付かないような叫びと嘆きと苦悩だった。
でも、そんな気持ちにさせたのは他でもない俺だったのだ。
何も言葉を返す事が出来ない。
何の励ましの言葉も言えない。
むしろ、言ってしまえば火に油だろう。
そんな取り留めのなく、急いで書き並べた言葉を弄した所で、先輩の気が晴れる訳じゃない。
『初めてだったよ。こんなに人を好きになるのが辛いと感じたのは。付き合う前から、薄々は感じてはいたさ。でも、付き合えば時間が解決してくれるんじゃないかって。でも・・・時間が経てば経つ程に、キミとの差が開くのを痛感したよ。ぶざまだろ・・・? 情けないだろ・・・? 付き合った相手1人ですら、振り向かせる事ができないなんてさ・・・』
俺はらただただ先輩の募る想いを聞いているだけしかできなかった。
全然ぶざまなんかじゃない。
情けなくもない。
先輩は自分が思うやれるだけの事は、してきたんだと思う。
ソレを俺が偉そうに語るのが、おこがましい事この上ない事だった。
俺が先輩になんで四月と別れたのかを尋ねる事自体が、ナンセンスな事だった。
自分の事が本当に嫌になる。
自分だけで抱えていた悩みに六日を巻き込んで、それだけでは足らずに先輩をも巻き込んで・・・。
人の人生をめちゃくちゃにして終わりとか、ふざけんなもいい所じゃねーか。
『もっと他にやりようはあったんじゃないかって、急ぎすぎだと思われるかもしれないけどね。今の僕が考えられる、これが最善だと思ったんだ。僕の為にも、七の為にも』
取り乱してすまないと、先輩は俺に謝ってきた。
きっと謝るべきは俺の方だったんだろうけど、それすら今の俺にはできなかった。
改めて聞かされた話を思い返しながら、過去を振り返ると思いたる節はいくらでも出てくる。
謝っても謝りきれない。
悔やんでも悔やみきれない。
先輩も同じ気持ちだろうが、俺の抱いてる感情とはもっと違う、そんな邪で汚くない綺麗な感情なのだろう。
『如月くん、キミには俺の分まで七を幸せにしてもらいたい』
しばらく続いた沈黙を破って、先輩が俺にそんな事を言ってきた。
当然意味も分からず、俺は呆気にとられていた。
「はい?」
『七の中にキミが居続けたのは事実だ。だからキミには、七の側に居てもらいたい。フった僕が、こんな事を君にお願いするのはおかしな話かもしれないけど』
「・・・なんで俺なんですか?」
『だから、七の中に——――』
「そうじゃないです」
『・・・・・・』
「・・・先輩は、俺を恨んでないんですか?」
そうだ、先輩は俺を恨んでるはずだ。
俺さえいなければ、今頃先輩は七と楽しく幸せに過ごしたはずだ。
先輩の思い描く理想の恋人同士として、仲を深めたはずだ。
俺さえ・・・いなければ・・・。
『僕はキミを恨んではいないよ。でも、憎んではいたかな。キミは憎らしい程に、七の事を理解していたからね。だから、同時に敵わないとも思ったんだよ。だからキミにこそ、七を頼みたいとそう思った』
先輩は俺をつき離す事はせず、何かを託すように俺に言ってきた。
先輩の想いや懐の広さを知った。
否、思い知らされた。
『惚れた女の幸せを願ったって、罰は当たらないだろう?』
最後に先輩はそうかっこよく言ってきた。
本当にかっこよく憧れた。
男の引き際として、最高で文句のつけようがない。
『それと、水無月さんの事もなんとかしてあげた方がいいよ』
先輩は間髪入れずにその言葉を口にする。
ここで六日の話が出てくるのは予想外だった。
あのデート以降、蘭とはまともに話はしていない。
別に後ろめたい気持ちがあったとかそういった訳ではなく、ただタイミングが合わないだけだと思っていた。
「六日の事・・・ですか?」
『うん。水無月さんも今回の件で負い目を感じていたからね。フォローはしたつもりだけど、そんなんではいそうですかって、彼女が割り切るとも思えないからさ』
今回の件で六日が負い目を感じている?
先輩と四月が別れたことにって事か?
六日がこの件にどのようにして絡んでいたのかは分からない。
むしろ、俺の側にいて献身的に補助をしてくれていたはずだ。
そうなると先輩の味方だったはずだ。
現に2人で、何かしらを企んだりしているようなこともあった。
『彼女の事も頼んだよ。モテ男の如月くん』
「・・・・・・」
『あ、それと最後にこれだけは言っておくよ。もし、七を選ばなかったら、僕はキミをケーベツするよ』
「・・・六日の話を出しといてずいぶんですね」
『あはは! 僕は性格が悪いからね。ただのハッピーエンドになんかさせないよ』
六日は俺の事が好きだ。
その気持ちは、四月よりも前から明確に伝えられてきた。
俺が辛い時に1番に側にいてくれた六日。
優しく慰めてくれて、時にはしっかり怒ってくれた六日。
そんな、俺にとって大切な人が悩んで苦しんでいるなら、俺が助けないはずがない。
そして、先輩の思いや気持ちが込められ託された四月の事。
本来、俺が望んでいて、手が届かなくて諦めたこの恋心に、再び火が灯ろうとしている。
そんな気持ちを知っていたからこそ、先輩は俺にこう言ってきたのだろう。
傷つけられる側から傷つける側になれと。
どちらかを選び、どちらかを切り捨てろと。
直接言われた訳ではないが、そう感じとった。
「・・・難しいですね」
『キミが散々逃げ出してきた結果さ。今回は、踏ん張って足掻いて、藻搔いて悩むんだな!』
最後に先輩はそう言って電話を切った。
切られたスマホを持ちながら、俺は動けずにいた。
この後の展開をどうすればいいのだろうか。
俺はどちらを選べばいいのだろうか。
皮肉にも、選択肢があるって事に申し訳ない気持ちがあるが、これは避けては通れない道ではあった。
ずっと、一途に想ってくれて側にいてくれた六日を選ぶのか。
お互い遅すぎた故に、結ばれる事がなかった四月を選ぶのか。
『あたしを選ばなかったあんたを、あたしはきっと嫌いになるから』
『もし、七を選ばなかったら、僕は君をケーベツするよ』
六日の言葉と先輩の言葉が重なった。
まったく、性格悪い所は似てて、2人の方がお似合いなんじゃないかって思ってしまう。
すると、俺の背中に誰かが優しく触れてきた。
「寒いから・・・風邪ひくよ」
「・・・そうだな。外は冷えるね」
彼女のその言葉を聞いて、俺はベランダから室内へと戻る。
先程はそう言ったが、今は寒いとかそんな感覚は一切俺にはなかった。
目の前にいる、ピンク色の髪をした少女の小さな背中が、哀しげなその背中が、愛おしくてたまらなかった。
疑問はいくらでも出てくるが、彼女の泣いてる姿が俺にソレを考えさせるのをやめていた。
俺の胸元で思いっきり泣く彼女を、俺はただ抱きしめるだけしかできなかった。
詳しい話は落ち着いてから聞こう。
今は彼女の思いのたけをぶちまけさせるのが優先だ。
そう思い、俺はひたすらに彼女の感情を受け止めた。
落ち着くまで、気がすむまでに。
・
さすがに外でずっと泣かれるのも周りの目があった為、今は家の中に入ってもらっていた。
しばらくすると、四月は落ち着いたのか泣き疲れたのかは分からないが、俺の隣ですやすやと寝息を立て始めた。
俺は四月の状態を横にして、クッションを枕代わりににしてブランケットを彼女にかけてあげた。
寝息を立てながらも、目元に溜まっていた涙たちを人差し指で優しく拭う。
そして1人、スマホを片手にベランダへと出る。
俺は慣れた手つきでスマホを操作して、とある人へと電話をかけた。
はたして、出てくれるかどうかは分からないが。
1回目のコール。さすがに出ないか。
2回目のコール。これまた反応はなかった。
3回目のコール。やはり反応はなかった。
『もしもし? どうしたんだいこんな時間に』
3回目のコールが鳴り終わり、4回目のコールがなろうとした瞬間に、先輩は出てくれた。
電話の向こう側の声音は、驚くほどに落ち着いていた。
「俺が電話した理由を察せない程、先輩もバカじゃないでしょうに」
『あはは! 僕を過大評価し過ぎかな』
『じゃあ、まったく見当が付かないとでも?』
『まあ、それはさすがに無理があるよね』
先輩は依然、態度も声音も変えずにそう答えた。
さてと、回りくどく話すのもめんどくさくて好きじゃない。
やるなら真っ正面から話を切り出した方がいいだろう。
それが先輩にとっても楽だと思った。
「どうして四月をフったんですか?」
『・・・今日はやけに積極的じゃないか』
「言い方が少し気持ち悪いです」
『あはは! 相変わらず君は俺に容赦ないね。でも、嫌いじゃないよ。フった理由はね、限界が見えたからなんだ』
「限界?」
『そう。七と付き合ってたけどね、それは付き合っているようで、付き合ってなかったんだよ』
先輩がそう淡々と語り始めたが、俺には先輩の言っている意味があまり理解できなかった。
付き合っているようで付き合っていない。
それは矛盾していた。
先輩と四月は、間違いなく付き合っていたはずだった。
でも、それを自ら否定したのは、どう言う意味が込められているのだろうか?
「それってどういう意味ですか?」
『文字通りだよ。物理的じゃなくて、感情的な意味だけどね』
「・・・そうですか」
『如月くんはどう思った?』
「え?」
『七がフられたと知って喜んだかい? それとも、僕に怒りが湧いたかい?』
先輩の質問の意図は分からなかった。
けど、少なくとも喜んではいなかった。
四月がかわいそうだとは思ったが、先輩に怒りが湧いたわけでもない。
特に何も感じなかった。
それが俺の答えだった。
「どちらもないですね」
『・・・そうか。最後くらい、悪者で終わりたかったんだけどね』
「・・・話を戻しますけど、それで限界って言うのはなんなんですか?」
『僕も頭が良い訳じゃないから、最善の言葉を選びながらなんて話はできない。場合によっては、キミを傷つけるかもしれない。それでも聞きたいかい?』
先輩の口調が一気に変わった。
真剣に話す声音を、俺を逃さぬように捕まえていた。
場合によっては俺が傷つく?
だが、今更引くわけにもいかなかった。
なら、俺はその話を聞く以外の選択肢はなかったのだ。
「・・・大丈夫です」
『・・・そうか。でも、答えは思った程、複雑じゃなくて単純なんだよ。七の中にキミが居続けたからなんだ』
「・・・・・・」
その先輩の言葉を聞いてら胸が急に苦しくなる。
知らなかった訳じゃない。
むしろ知っていた。
でも、お互いに気付くのが遅すぎたから、ないものとして扱っていた。
俺は前を向き始めた自覚はあったけど、四月はまだ引きずっている印象だった。
『キミには分かるかい? 付き合っても尚、振り向いてもらえない気持ちが』
先輩のその言葉が、ひどく重く重圧となりのしかかってくる。
『何度だって努力したさ。それでも追いつかないんだよ・・・。追いつけないんだよ・・・。ひまりのすぐ側に居たのは、僕じゃなかった』
普段の先輩からは、想像も付かないような叫びと嘆きと苦悩だった。
でも、そんな気持ちにさせたのは他でもない俺だったのだ。
何も言葉を返す事が出来ない。
何の励ましの言葉も言えない。
むしろ、言ってしまえば火に油だろう。
そんな取り留めのなく、急いで書き並べた言葉を弄した所で、先輩の気が晴れる訳じゃない。
『初めてだったよ。こんなに人を好きになるのが辛いと感じたのは。付き合う前から、薄々は感じてはいたさ。でも、付き合えば時間が解決してくれるんじゃないかって。でも・・・時間が経てば経つ程に、キミとの差が開くのを痛感したよ。ぶざまだろ・・・? 情けないだろ・・・? 付き合った相手1人ですら、振り向かせる事ができないなんてさ・・・』
俺はらただただ先輩の募る想いを聞いているだけしかできなかった。
全然ぶざまなんかじゃない。
情けなくもない。
先輩は自分が思うやれるだけの事は、してきたんだと思う。
ソレを俺が偉そうに語るのが、おこがましい事この上ない事だった。
俺が先輩になんで四月と別れたのかを尋ねる事自体が、ナンセンスな事だった。
自分の事が本当に嫌になる。
自分だけで抱えていた悩みに六日を巻き込んで、それだけでは足らずに先輩をも巻き込んで・・・。
人の人生をめちゃくちゃにして終わりとか、ふざけんなもいい所じゃねーか。
『もっと他にやりようはあったんじゃないかって、急ぎすぎだと思われるかもしれないけどね。今の僕が考えられる、これが最善だと思ったんだ。僕の為にも、七の為にも』
取り乱してすまないと、先輩は俺に謝ってきた。
きっと謝るべきは俺の方だったんだろうけど、それすら今の俺にはできなかった。
改めて聞かされた話を思い返しながら、過去を振り返ると思いたる節はいくらでも出てくる。
謝っても謝りきれない。
悔やんでも悔やみきれない。
先輩も同じ気持ちだろうが、俺の抱いてる感情とはもっと違う、そんな邪で汚くない綺麗な感情なのだろう。
『如月くん、キミには俺の分まで七を幸せにしてもらいたい』
しばらく続いた沈黙を破って、先輩が俺にそんな事を言ってきた。
当然意味も分からず、俺は呆気にとられていた。
「はい?」
『七の中にキミが居続けたのは事実だ。だからキミには、七の側に居てもらいたい。フった僕が、こんな事を君にお願いするのはおかしな話かもしれないけど』
「・・・なんで俺なんですか?」
『だから、七の中に——――』
「そうじゃないです」
『・・・・・・』
「・・・先輩は、俺を恨んでないんですか?」
そうだ、先輩は俺を恨んでるはずだ。
俺さえいなければ、今頃先輩は七と楽しく幸せに過ごしたはずだ。
先輩の思い描く理想の恋人同士として、仲を深めたはずだ。
俺さえ・・・いなければ・・・。
『僕はキミを恨んではいないよ。でも、憎んではいたかな。キミは憎らしい程に、七の事を理解していたからね。だから、同時に敵わないとも思ったんだよ。だからキミにこそ、七を頼みたいとそう思った』
先輩は俺をつき離す事はせず、何かを託すように俺に言ってきた。
先輩の想いや懐の広さを知った。
否、思い知らされた。
『惚れた女の幸せを願ったって、罰は当たらないだろう?』
最後に先輩はそうかっこよく言ってきた。
本当にかっこよく憧れた。
男の引き際として、最高で文句のつけようがない。
『それと、水無月さんの事もなんとかしてあげた方がいいよ』
先輩は間髪入れずにその言葉を口にする。
ここで六日の話が出てくるのは予想外だった。
あのデート以降、蘭とはまともに話はしていない。
別に後ろめたい気持ちがあったとかそういった訳ではなく、ただタイミングが合わないだけだと思っていた。
「六日の事・・・ですか?」
『うん。水無月さんも今回の件で負い目を感じていたからね。フォローはしたつもりだけど、そんなんではいそうですかって、彼女が割り切るとも思えないからさ』
今回の件で六日が負い目を感じている?
先輩と四月が別れたことにって事か?
六日がこの件にどのようにして絡んでいたのかは分からない。
むしろ、俺の側にいて献身的に補助をしてくれていたはずだ。
そうなると先輩の味方だったはずだ。
現に2人で、何かしらを企んだりしているようなこともあった。
『彼女の事も頼んだよ。モテ男の如月くん』
「・・・・・・」
『あ、それと最後にこれだけは言っておくよ。もし、七を選ばなかったら、僕はキミをケーベツするよ』
「・・・六日の話を出しといてずいぶんですね」
『あはは! 僕は性格が悪いからね。ただのハッピーエンドになんかさせないよ』
六日は俺の事が好きだ。
その気持ちは、四月よりも前から明確に伝えられてきた。
俺が辛い時に1番に側にいてくれた六日。
優しく慰めてくれて、時にはしっかり怒ってくれた六日。
そんな、俺にとって大切な人が悩んで苦しんでいるなら、俺が助けないはずがない。
そして、先輩の思いや気持ちが込められ託された四月の事。
本来、俺が望んでいて、手が届かなくて諦めたこの恋心に、再び火が灯ろうとしている。
そんな気持ちを知っていたからこそ、先輩は俺にこう言ってきたのだろう。
傷つけられる側から傷つける側になれと。
どちらかを選び、どちらかを切り捨てろと。
直接言われた訳ではないが、そう感じとった。
「・・・難しいですね」
『キミが散々逃げ出してきた結果さ。今回は、踏ん張って足掻いて、藻搔いて悩むんだな!』
最後に先輩はそう言って電話を切った。
切られたスマホを持ちながら、俺は動けずにいた。
この後の展開をどうすればいいのだろうか。
俺はどちらを選べばいいのだろうか。
皮肉にも、選択肢があるって事に申し訳ない気持ちがあるが、これは避けては通れない道ではあった。
ずっと、一途に想ってくれて側にいてくれた六日を選ぶのか。
お互い遅すぎた故に、結ばれる事がなかった四月を選ぶのか。
『あたしを選ばなかったあんたを、あたしはきっと嫌いになるから』
『もし、七を選ばなかったら、僕は君をケーベツするよ』
六日の言葉と先輩の言葉が重なった。
まったく、性格悪い所は似てて、2人の方がお似合いなんじゃないかって思ってしまう。
すると、俺の背中に誰かが優しく触れてきた。
「寒いから・・・風邪ひくよ」
「・・・そうだな。外は冷えるね」
彼女のその言葉を聞いて、俺はベランダから室内へと戻る。
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