恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

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六日と七

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先輩はあたしのことを理解してくれていた。

あたしの性格も分かっていた。

だから、あえて自分も苦しいと言ってくれたんだ。

こんなあたしなんかの為に、背中を押してくれるんだもん。

相当な変人だよね。

それでも、完全に前を向けないのは何故なのだろう。

それでも、この心のモヤモヤが晴れることはなかった。

いくら先輩があたしを救おうとしても、それでもあたしは救われなかった。

前に踏み出そうとしたけど、1歩進んですぐに止まってしまった。

七にもあんたにも偉そうなこと言っておいて、肝心な自分はコレだもん。

呆れちゃうよね、まったく・・・。

結局、あたしは先輩から貰った勇気を上手く使えないまま、こうしてズルズルと時間だけが経っていた。

七からの連絡も、あんたからの連絡も返せていない。

そもそも見てないから、どうしようもないけど。

そうやってズルズル引きずれば引きずる程に、自分の立場が危うくなること、本来ならば戻れる関係にも戻れなくなることは分かっていた。

それでも踏み出せないのは、自分の心がまだまだ弱い子供だから・・・。

あんたはあたしのことを大人だと言ってくれた。

俺はまだまだ子供だけど、水無月は俺と違って大人だなって。

今のあたしは、そんな風に思ってくれたあんたを幻滅させているんだろうな。

大人じゃなくて大人びてるだけ。

ちょっとした事で感情が荒だって、すぐに目の前が見えなくなるような、そんなめんどくさい子供。

皮肉にも、いつの日かあたしがあんたに言った言葉を思い出してしまう。

子供でいることを嫌ったあんたに子供でいいと諭しておいて、今は自分が子供でいる事に不快感を募らせている。

自分の発言には責任持とうよくらいに、自己嫌悪に陥っている。

思えばネガティブな思考、吐くのは溜息だけ。

花の女子高生のせっかくの青春時代に、あたしは何をしているんだろうとまたさらに落ち込み出す。

「・・・あたしって、ほんとめんどくさいやつ・・・」

あれほど好きだったいつの日か見た夕焼けも、今の私には眩しすぎて直視できない程に輝いていて、その輝きが羨まして・・・苦しくてウザったくて。

好きなものを好きでいられなくなるほどに精神が病んでいるのは自分でも自覚している。

けど、それを招いたのも自分なのだからどうしようもない。

見るに耐えない夕焼けを目の前にして、退くこともできずただただ時間だけが過ぎていく。

「六日~!」

すると、後ろから慣れ親しんだ声が聞こえてきた。

弾むようなこの声音はすぐに分かった。

だって、ずっと一緒にいた幼馴染だもん。

むしろ分からないはずがなかった。

「・・・七」

そう、振り向いたあたしの目の前にいたのはあたしの大切な幼馴染で親友の彼女だった。

でも、今は七とすらもまともに話ができる気がしない。

「そんな暗い顔してどうしたの? そんな表情だと幸せが逃げちゃうよ!」

七も先輩にフラれて、傷ついてるとは思っている。

それでも明るく振る舞うのはあたしの為・・・。

親友にまで気を遣わせて、本当にあたしは何をしてるんだろうね。

ますます自分が嫌になるよ・・・。

「いつまでも落ち込んでたってしょうがないよ! 六日も前を向かなきゃ! 如月くんに嫌われちゃうぞ!」

そう言って励ましてくれる七。

でも、そのセリフが、心使いが嬉しい反面、苛立ちを覚える。

フったのは確かに先輩の方だけど、七も七で決断をしきれなかったって落ち度はあるはずだ。

先輩が、どれほどまでに七を想っていたかは分からない。

先輩がどれほど苦しんでいたかなんて、あたし如きに計り知れるものでもない。

でも、先輩が七に抱いてる恋心は、一時の感情とかじゃなくて、間違いなく本物で、真剣なのは伝わっていた。

そう考えていると、次第にドス黒い感情が湧いてくる。

そもそも、七がちゃんと先輩の事を見ていれば、こんなに苦しむことはなかった。

七が先輩の事をちゃんと見ていれば、あんただって中途半端に想ったりしないで、すっぱり切り離せたはずだった。

七が先輩の事をちゃんと見ていれば、先輩が苦しむことはなかったはずだった。

今更たらればの話をしてもしょうがないことは、嫌になるくらい分かってる。

自分を棚に上げて七を悪者にして、他責にして責任をなすりつけようとしている。

自分でも最高にカッコ悪くてクズだと思うけど、それよりもドス黒い感情の方が今は上回ってしまっている。

七のその明るい声音が、その優しい笑顔が、自分だけもう吹っ切れたような澄ました表情が、その何もかもが許せなかった。


あんたさえいなければ

あんたさえいなければ

あんたさえいなければ

あんたさえいなければ

あんたさえいなければ

あんたさえいなければ


「・・・なんで、そんな簡単に割り切れるの?」

「え?」

「・・・なにも悪いって感じてないの?」

「え・・・?」

「七が・・・あんたが先輩を苦しめてたんだよ? 本気で言ってるの? 本当に・・・ほんっとうに――――」









「頭にくるよっ!」




バチィィィィィィィィィン!!!!!!





憎たらしいくらいに鮮やかな夕焼け色を背にして鳴り響くのは、その景観に相応しくない無機質で乾いた音だった。

七のふざけた態度が許せなかった。

自分はこんなに苦しんでるのに、目の前で笑っている七が許せなかった。

手を出したらダメだと分かっていた。

でも、この衝動を抑えられるほど、あたしはできた人間じゃない。

ジンジンとした痛みが、静寂の中少しずつ押し寄せてくる。

「どうしてそんなにへらへらしてられるの?」

人の気持ちも知らないで、よくそんな態度ができるよね。

「罪悪感とか感じないわけ?」

先輩を苦しめて、一を苦しめて、それなのにあんたはなんでそんな澄ました表情ができるの?

「全部・・・全部あんたのせいだよ」

こうなったのは何もかもが全て七のせいだよ。

優柔不断なあんたが、この負の連鎖を招いたんだよ。

ふざけないでよ。

もっと責任感じて苦しんでよ・・・。

あたしが立ち直れるくらいに、あんたが取り乱してよ・・・。

「全部七のせい・・・何もかも、全部・・・」

一時の感情に身を任せて、言いたい放題やりたい放題やってしまった。

きっともう、あの頃の様には戻れない。

こうやってあたしは、自分で自分の居場所を無くしていく哀れな女。

ふふふっ、笑いたきゃ笑えばいいよ・・・。

もう、とことん落ちる所まで落ちたよ。

もうこれ以上落ちることはないけど、それ同時にもう前にも進めないだろう。

なんて哀れで愚かな自分なのだろうかて・・・。

自分の事を自分で呪いたくなるよ。

あたしが叩いてしまった頬が、段々とソレを示すように赤く染まっていく。

でも、それでも七は――――――






笑っていた






もう彼女を叩く気力は残っていない。

こんな事をされて、罵倒もされて尚笑っている彼女の思考がどうなっているのかなんて分からない。

もしかすると、とっくに七は壊れてしまっているのかもしれない。

「そうだよ、わたしが悪いんだよ。何もかも全部、私が壊したの」

すると、ようやく七が口を開いた。

だが、先程のおちゃらけた様子とは、違う雰囲気を漂わせていた。

「先輩を好きになったのに、恋愛相談してるうちに如月くんの事も好きになっちゃって、そんな中途半端な気持ちの時に先輩に告白されてOKして」

話しながら段々と七の表情が曇っていくのが分かる。

先程までの笑顔が嘘の様に、七の笑顔はボロボロと剥がれていく。

「そこで未練たらしく如月くんの事をズルズル引きずって、先輩と一緒にいる時も如月くんの話題出したりしちゃって、挙句の果てにはフられる始末だよ・・・」

笑顔から段々と曇っていく表情は、さらに変化を加え歪んでいく。

その表情は見ていることができないくらいに、痛ましいものだった。

「先輩のことを傷つけて、如月くんのことも傷つけて、六日のことも傷つけて、本当に私はバカだよ、アホだよ、クズだよ」

花が咲く様な笑顔が段々と曇り、その曇りは歪みを帯びて最終的には涙を流す。

そう、七は泣いていた。

「六日は私のせいだって言ったよね? 全部全部・・・何もかも全部私のせいだって」

語りではなく、もはや悲痛な叫びに近いその言葉に、あたしはなにも言うことができない。

ただひたすら、七の言葉を黙って聞いていることしかできなかった。

「そうだよ、その通りだよ。全部全部何もかも私がいけないの。私のせいなんだよ。だから・・・だから・・・」

大粒の涙を流しながら、表情をクシャクシャに歪めながら、七はあたしに言った・・・言ってくれた。

「六日は・・・何も悪くないんだよ」

その言葉を聞いて、あたしの胸の奥の方からも温かい何かを感じる。

あたしの視界も、何故か歪んでいくのが目に見えて分かる。

熱いなにかが、ほとばしるのを感じる。

「だから、もう自分を責めないでよ。責めるなら私もとことん責めてよ。だから、六日は自分の好きを求めていいんだよ・・・」

きっと、これが不器用な七なりに考えた、あたしを救う為の作戦だったのだろう。

自分が嫌われようが、あたしを救って背中を押してくれる。

その事を知って、先程までの自分にとてつもない罪悪感が芽生えてしまう。

「六日・・・ごめんね、苦しい思いさせて・・・。先輩もごめんなさい、ずっとずっと苦しめて・・・。如月くんもごめんね、ずっと迷わせて惑わせて・・・」

その場にしゃがみ込み、ひたすらに謝罪の言葉を口にする七にあたしは手を伸ばしたが、途中でその手は止まってしまう。

あたしの伸ばした右手は、先程七を叩いてしまった手だ。

暴力を振るってしまったあたしが、穢れてしまった右手で七を慰める資格なんてなかった。

2人してしゃがみ込みながら涙を流す。

誰の為に、どんな気持ちでどんな思いで泣いているかは分からない。

先輩に向けて、一に向けて、七に向けて、或いはあたしに向けてのその色々な思いは、ごちゃごちゃとしてわけの分からない感情となっていた。
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